2004年04月13日 (火)

ローカル線のお供に iPod

今日、夜も更けてからローカル線に乗って都区内にやってきました。オフィスで明日の朝から作業をするためです。家が遠いから朝出向いて夜帰るなんていうのは時間の無駄なのでこういうスタイルなんです。

22:45 頃に電車に乗りました。上りですから隙隙です。究極の時差通勤。そこで iPod を取り出して気兼ねなくボリュームを上げて音楽を聴き始めました。


最初に聴いたのはドラマ「砂の器」に出てきたピアノ協奏曲「宿命」です。

あの哀愁漂うメロディが閑散とした車内から見える暗黒の風景と相まってもう気分は和賀英良です。妻と幼い娘を残して仕事場に向かっていることが果てしなく悲劇的に思えてきました。そう言えばここ数日ひげを剃っていませんでした。あてどもない逃避行をしているかのようです。

次は神の歌声との評判の Jessye Norman の Sacred Songs というアルバムから Amazing Grace とか Greensleeves とか Ave Maria Op.42 No.6 とかです。この CD は Enya とオペラ風の歌声との中間を狙って癒し系の CD と思って「宿命」と一緒に買ってきたものです。買ってきた直後はちょびっと聴いて狙いから外れたと思ってがっかりしていたのですが、今夜はじっくり聴きました。

目を瞑り聴き入っていると、Jessy Norman の歌声に引き込まれていきます。なんという表現力! 素晴らしい! 涙が出てきそうになりました。この CD は決して外れ何かじゃありません。むしろ大当たりです。

そう思いながらふと「この外れから大当たりへの評価の違いは何故なんだろう」と疑問に思ったのです。確かに外れと思ったときも Jessy Norman のうまさは即座にわかりました。そしてそれを認めた上で狙いから見て外れと思ったのです。そのときは夕食前、妻子が周りでがやがやしている中 PowerBook でリッピングをしながら聴いていたのです。主な違いは

  1. 音質が違った。
    PowerBook にくっついてるスピーカーですから良い音等とは縁がありませんでした。もちろん iPod からイヤフォンで聴くのもたかが知れていますが、断然違います。
    普段聴いているものが器楽曲で割とバッハのようなものが多いのですが、例えばバッハならば、僕にとっては、演奏の音色よりも音の構成に面白みがあるわけです。ですから携帯電話の着メロであっても意外と楽しめたりするのですが、歌曲はそうはいきませんよね。
  2. 聴く環境が違った。
    あまり落ち着いて聴いていませんでした。ゆったりと鑑賞するという状況ではなかったのです。しかし今回は読む本も持ち合わせていませんでしたし、携帯電話もバッテリー残量が少なくとてもゲームをして遊べるような状況でもありませんでした。iPod から流れてくる音楽に集中できたのでした。
  3. 気分が違った。
    直前の「宿命」のおかげで感傷的な気分になっていました。そしてそれを楽しんでいました。一方で最初に聴いたときは、狙いにマッチしていたかどうか聴いてやろうという感じでした。つまり作品に気分がシンクロするような姿勢ではなかったのです。
どれも大切な要因だったと思います。特に 2,3 は歌曲に限らず重要な要因でしょう。なにしろクラシック系のプロの作品は、積み重ねられた歴史の中で培われたものをぶつけてくるわけですから、表層的に聴いてその真価を受け止められるものではないのでしょうね。

Enya とオペラ風の中間を狙った元々の動機はこうです。Enya はグレゴリウス聖歌を思わせるような調和の取れた広がりのある響きと抑揚が少なくさらりとしたメロディラインで、心理的圧力の少ないパフォーマンスをしています。一方でクラシック系の歌声の美しさはそりゃもう聞き惚れるものです。この二つの長所を合わせ持ったものがあればどんなに素晴らしいだろう、そう考えたのでした。

ひょっとしてこの狙いがそもそも間違いだったのかもしれません。少なくとも Jessy Norman のこの CD に関しては間違いでした。音楽にはその音楽にふさわしい受け手の準備というものが必要な場合があるのです。そしてその準備ができているときに聴いてこそ、その音楽が持つ真価を味わえるのではないでしょうか。

音楽を携帯できる今、テレビや映画だけでなく街を歩けば音楽が溢れている今、この受け手の準備という送り手との共同作業が希薄になっているような気がします。iPod はこれを助長するものであるかのようですが、忙しい現代人にとって、ポッカリと空いた時間を一瞬にしてこの共同作業に割り当てられるという長所も持っているとも思うのです。iPod など携帯プレーヤーをお持ちの方は、歩きながら、車を運転しながらという使い方だけではなく、ふと空いた時間をゆったりとした気分で作品と向き合う時間にする道具として是非活用してみてください。きっと今までにない感動が味わえると思います。

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