寿司と「剣菱」

午前中のANAで釧路から帰ってきて、
午後は年明けの取材の約束を取りつけたり、伝票を処理したり。
これで、ぼくの今年の仕事はおしまいである。

うちの会社では、最近、
出張旅費や必要経費をいったん自分で立て替えて支払い、
事後に伝票を切って請求するシステムになった。
すぐに出してくれるならまだしも、実際には金が戻ってくるまで10〜20日もかかる。
出張が多いぼくなど、40万円ほど自腹を切ったままで年を越すことになった。
…はっきり云って、これはたまりません。
そのうち、サラ金に行って取材費用を調達するハメになるんじゃないか。

仕事を終えて床屋に行く(髪を短く切り、染めてもらう)。
先日数えてみたら、今年は133日ものあいだ出張に出ていた。
忙しい一年で、「ようやく仕事が終わった」と思ったとたんに疲れを感じた。
一年の最後だから贅沢をしようと、下北沢の「小笹寿司」に行った。

ぼくはこの店にもう20年以上、先代の親方の時代から通っている。
20年も通うと、自分の食べ方のルールが固まってくる。
まず酒を人肌でお銚子2本、刺身やアナゴのきじ焼きを肴にちびちび飲る。
ビールは魚の味を変えるので飲まない。
握ってもらうのはコハダから始めて、次はアジ。
最後はやっぱりコハダで締める、など…。
今夜もいつものやり方で飲み、いまさらながら「この酒はいいなあ…」と思う。
この店の酒は「剣菱」である。昔から変わらない。
酒好きのぼくは、普段は地酒の純米を好むのだが、この店では「剣菱」がいい。
ぬるく燗をつけた「剣菱」は、決して出しゃばらず、魚の味を引き立てるのである。
酒の個性が強過ぎると、せっかくの魚と喧嘩してしまう気がする。
主役はあくまで魚である。
その点、「剣菱」はほどのよさが絶妙で、
この店に似あう酒はやっぱりこれしかない、という気がしてくる。
一年の仕事を終えたという解放感も手伝って、
なぜ「剣菱」を使い続けるのか、主の西川さんに訊いてみた。
西川さんは、先代の親方・岡田周蔵さんのこだわりだったという。

「酒屋さんが『もっと旨い酒がありますよ』と奨めても、
 おやじさんは『俺はこれでいいんだ』といっていましたね」

如何にも頑固そうだった岡田さんの顔を懐かしく思い出しながら、飲んだ…
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中標津「松乃井」の蕎麦

きのうは後輩の番組の試写を見るため東京に帰ってきて、
きょうはまた北海道にとんぼ返り。
一日一便のANAに乗って根室中標津空港へ。
昼食は中標津の町の蕎麦屋でとった。

北海道は蕎麦の旨いところである。
(たぶん日本一の生産地でもあるはずだ。)
釧路の「玉川庵」、平取の「藤蕎麦」…旨い蕎麦屋は枚挙に暇がない。
そのなかで、中標津の蕎麦屋「松乃井」は、
久しぶりに「大当たり〜!」と鐘を鳴らしたくなる蕎麦屋だった。
蕎麦
香りがよく、麺は腰の強さと喉ごしの良さをあわせ持つ。
カツオの利いたつゆも旨い。
夫婦二人でやっているちいさな店で、
聞けば、今年の6月に開店したばかりだという。

東京も蕎麦の旨い土地柄で、
ぼくが住む荻窪界隈にもガイドブックなどで知られた「名店」が多い。
しかし、どうもそういうところは「敷居が高い」。
わんこそばに毛が生えたくらいの量で、一枚千円ちかく取られたりする。
蕎麦は本来大衆的な食べ物だと思っているぼくには、そこが気に食わない。

その点、「松乃井」の蕎麦は値段も良心的である。
もりそばが600円、大もりで800円。
あまり美味しかったので、大もりにもりをもう一枚追加して、
ぼくはとてもシアワセな気分になれた。
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コーディ・マクファディンの「戦慄」

コーディ・マクファディンの「戦慄」を読み終えた。
「傷痕」でデビューしたマクファディンの、これが第二作だという。
これがまた…面白い!
最近、ぼくは海外ミステリには当たりがいい、というか“連戦連勝”である。

ジェイムズ・カルロス・ブレイクや
カール・ハイアセンの面白さが「ミドル級」のスピード感だとするなら、
コーディ・マクファディンの場合は、疑いもなく「ヘビー級」だ。
一撃必殺のKOパンチを次々に繰り出してくるド迫力。
過去に連続殺人魔によって夫と娘を目の前で殺され、
心と体に手酷い“傷”を負ったヒロイン(FBIの敏腕捜査官)が、
またしても、
人間のもつ底知れない闇の深淵を覗き込まなければならない事件に遭遇する。
上下二巻の長い本(ヴィレッジブックス)だが、あれよあれよの一気読みだ。
怖くて、そして面白い。

厳密にいうなら設定に「?」というところもあって、
真犯人が自ら姿を現したと見せて実は…という大詰めはいささか企み過ぎ。
過去の元警官殺しが、
その手口の残忍さにも関わらず、充分究明されていないらしいのも疑問だ。
さらに、ラスト、被害者の少女はなぜ…って、まぁいいや(笑)。
些細な欠点はあるとはいえ、これほど面白い小説はそうあるものではない。
「傷痕」も読まなくっちゃ…。
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釧路の時間はゆっくりと流れる

いつも出張で留守ばかりしているので、
連休くらいは家族で一緒に過ごそうと妻と息子を釧路に呼んだ。
(ぼくは昨日のうちに滝川から釧路まで入っていた。)

朝の飛行機で飛んできた二人を「MOO」で迎えて、
昼食は我が家の近所の「千歳寿司」。
高校生の息子は、
道東ではいまが旬のバフンウニを食べて満足そうである。
(甘みが濃厚で…確かにとても美味しかった。)
食後は三人で和商市場まで歩き(片道30分ほどかかる)、
イカや柳葉魚、氷下魚の一夜干し、ハタハタのいずしなどを買い込む。

千代の浦
(釧路・千代の浦の夕日)

夜は薪ストーブを囲んで、自宅にいながら「炉端」気分。
BGMには、
「気分的には演歌」という息子のリクエストで「美空ひばり全集」をかけた(笑)。

食事が終わって、風呂に入り、
テレビを見たり、本を読んだり、(息子は)勉強をしたりで、時間を過ごす。
東京では、食事が終わるとすぐに個室にこもってしまう息子も、
ここには「個室がない」ので、居間にいるしかない。

親子三人、互いに顔の見える距離感のなかで過ごす冬の夜。
我が家のまわりは、夜になると人通りもなく、
車が通ることもほとんどないので、とても静かである。
窓を開けると、夜の底がしんと静まり返っている。
薪ストーブは心が安らぐような暖かさを与えてくれ、
時おり薪をくべるリズムとともに、時間はゆっくりと流れていく。
東京のマンションにいるときよりも、確かに時計の進み方が遅い気がする。
妻が「なんだか落ち着くね」といった。
上海生まれで自称「都会人」の彼女に、
田舎のよさがわかってもらえたのだとしたら、嬉しい。
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