極彩色のシェークスピア

妻と二人、張藝謀(チャン・イーモウ)の新作「王妃の紋章」を観に行った。
張の“大作時代劇”は、
「HERO」('02)はまだしも「LOVERS」('04)が酷くつまらなかったので、
「王妃の紋章」もあまり期待をしてはいなかった。
しかし、これはいい意味で予想を裏切る、実に面白い映画だった。

一言で云えば、張藝謀がやりたかったのは「シェークスピア」なのだろう。
あるいはシェークスピアを翻案した黒澤明の「蜘蛛巣城」('57)か。
絢爛たる色彩が乱舞する歴史絵巻物という意味では、
むしろ「リア王」の翻案である黒澤晩年の作、
「乱」('85)あたりを強く意識していたかもしれない。
いずれにせよ、
王家のドロドロとした愛憎劇を思うさまスペクタクルとして描いてみたいという、
映像作家としての稚気にも似た執念がこの「王家の紋章」全編を貫いている。
妻はクライマックスで感情移入して(王妃・鞏俐にか、次男の王子にか…)泣いていたようだが、
ぼくは張藝謀がやりたいことをやっているのが面白くてたまらず、終始ニヤニヤしながら観ていた。

それにしても、夢に出てきそうな、あの色彩の氾濫!
中国映画界得意の物量作戦、マス・ゲーム的な演出もあわせ、
過剰に徹し切ってしまえばグロテスクな悪夢にも似た世界がスクリーンに現出する。
「HERO」も「LOVERS」も、この狂気の作品を生み出す糧になったのであればもって瞑すべしだ。
そして、この映画を心ゆくまで愉しみながらも、
つい政治的な裏目読みをしてしまうもう一人の自分がいる。
この「王妃の紋章」は、
実は張藝謀が自ら演出を担当する北京オリンピック開会式の血みどろの陰画(ネガ)ではないかと。

それにしても、それにしても。
かつて愛したはずの女性(鞏俐)に“金色サイボーグ”みたいなメイクを施し、
「蜘蛛巣城」の山田五十鈴も尻尾を巻いて逃げ出すおどろおどろしい演技をさせた張藝謀の意地悪さ…。
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帰国

午後のANA、虹橋(ホンチャオ)ー羽田便で日本に帰ってきた。
街中に響く建設工事の音と、
アクセルを吹かす音、きしむブレーキ音、
ひっきりなしのクラクション(上海の人たちの運転ぶりはとても乱暴である)…
喧騒の上海から帰ってくると東京がとても静かな町に思えて、正直云ってホッとした。
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外灘(ワイタン)を歩く

古い建築物が好きなぼくにとって、外灘(旧英米租界)は上海でも最も魅力的なエリアである。
カメラと一脚(機動力を大事にしたいぼくは原則として三脚は使わない)を手に黄昏の外灘をそぞろ歩く。
蘇州河を潜って北に向かう地下高速道路が工事中なのと、
建物に場違いなメーデーの紅い垂幕がかかっているので艶消しなのだが、それでもやっぱり魅力的な街だ。
外灘
外灘から黄浦江を挟んだ対岸には、新興ビジネス街の浦東(プトン)が見える。
浦東2005
これは3年前の4月、初めて上海を訪ねたときに撮った写真。
浦東2008
こちらが今回撮った写真だ。
画角は違うが、僅か3年のあいだに高層ビルの密度が段違いに増えていることがわかると思う。


上海はもともと長江(揚子江)の堆砂のうえにできた街である。
だから、高層ビルを建て過ぎたことで、最近は地盤沈下が深刻な問題になり始めているらしい。
激し過ぎる経済成長のさなかには自分の足下が見えなくなってしまう(かつての日本もそうだった)。
「砂上楼閣」とはまさにこのことで、
この街がどう“成熟”にソフト・ランディングできるのか、ちょっと心配になってくる。
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