表 不育症・習慣流産の原因と治療法


診療の概説
 不育症とは,流産や死産,早期新生児死亡を繰り返して健児が得られない病態ないし疾患群である.習慣流産は,連続した3回以上の自然流産既往があり,連続2回の場合は,反復流産と呼ぶ.健児がない場合は原発性で,健児を得た後に自然流産を繰り返した場合は,続発性と呼ぶ.実際に外来に訪れる患者のうち,半数は反復流産である. 
 健児を得ることができないかもしれないという不安を取り除くために,精査・治療開始前に以下の①〜④の初期カウンセリングが行うことが最も重要である.不育症の一般疫学,検査内容,費用,大まかな治療内容についても説明をくわえる.
 ①一般女性において,顕性妊娠の10〜15%は自然流産にいたる.うち,60%が胎児側因子,つまり流産に至ることが避けられない(致死的な)受精卵の染色体異常がその原因である.受精卵の染色体異常は加齢とともに増加する.流産を2回繰り返す(反復流産になる)カップルの頻度は1〜2%と計算できる.習慣流産カップルの頻度は約1%とされる.
 ②病院に受診せず何ら検査治療をしなくとも,2回流産を繰り返した人は60%の率で,3回流産を繰り返した人は,45%の率(4回流産では40%)で,次回妊娠時には健児を得ることができる.しかし,各々40%,55%は再び流産する.
 ③もし精査を行った場合,反復流産の40%に,習慣流産では50%に流産原因と関連するかもしれない異常が見つかる.治療によって,偶発的に起こる染色体異常受精卵の流産を除いた場合,反復流産では80%の率で,習慣流産の75%が健児を得ることができる.
 ④見つかる異常(原因)としては,内分泌代謝異常,子宮異常,凝固異常,抗リン脂質抗体症候群,均衡型染色体転座保因などがある.約半数が不明であるが,免疫学的異常,ストレス,生活習慣などが習慣流産の原因と関連すると考えられている.受精卵染色体異常を偶然に繰り返した可能性もある.

治療方針
 習慣流産原因は多岐にわたる.いわゆる原因とされる疾患別の治療方針を表1に示す.精査の結果,見つかった異常が,流産を繰り返した原因とは必ずしも断定できないケースが多い.原因と結果関係の強弱に分けて,治療の必然性を個別に判断する.また,EBMが確立されていない治療法も数多いため,具体的な治療内容について患者とよく相談し,同意を取ってから実施する.
 原因が複数存在するケースもめずらしくはない.嗜好品などの生活習慣および精神神経学的要因が加重して発症する可能性もある.このため,反復・習慣流産に対しては,上記カウンセリングに加えて,テンダーケア効果やプラセボ効果を期待した治療方針も重要と考える.
 既往妊娠歴が診断基準となっているため,反復・習慣流産患者は,比較的年齢が高い.したがって,加齢にともない卵巣・黄体機能異常を併発し,不妊に至るケースも増える.ホルモン療法併用や体外受精が必要になったり,手術を避けて早期保存的治療を希望する患者も多い.加齢によって受精卵染色体異常の確率も増加する.万一,治療後妊娠が再度流産に至った場合には,その治療が無効だったのかを判定するために,また,その後の治療方針を決定するためにも,絨毛染色体核型分析が必要である.

対処の実際
 カウンセリングを行い,同意が得られたら精査を行う.問診,特に流産時期,家族歴が重要である.同一時期で妊娠初期流産なら染色体転座保因や卵巣・黄体機能不全などが,中期死産なら抗リン脂質抗体症候群や頚管無力症などが疑われる.家族歴では,血栓塞栓症や遺伝性疾患に注意する.
 内診,頚腟超音波断層法で子宮奇形や異常をスクリーニングし,嘴管法でHSGを行う.感染症検査(腟細菌培養,頚管クラミジアDNA),夫婦血液染色体検査,ホルモン検査(FT4, TSH, PRL, LH, FSH, 黄体期中期P4, E2, 内膜日付診,BBT),血液検査(CBC, 血液型,不規則抗体,血糖),凝固系検査(APTT, PT, fibrinogen, ATIII, PS, PC, FXII, d-dimer),免疫系検査(ANA, 補体価,IgG, IgM, IgA, LAとaCLないし aCLβ2GPI;ANA陽性時はaDNA, SSA),他に我々は,NK細胞活性とCD56+細胞比率,カフェイン摂取量調査を行っている.

治療の実際
 手術療法,排卵誘発,高プロラクチン血症,感染症,内分泌代謝異常や自己免疫疾患に対する内科的治療については,他著書にゆだねる.原因不明例ではEBMが確立した治療法がないため,同意を得て治療を行う.プラセボ・テンダーケア効果も重要と考える.
1)黄体ホルモン補充療法
 デユファストン10〜30mg内服/日,ルテウム40〜50mg筋注/日,およびHCG3000〜5000 U筋注/3日を高温相2〜3日目から開始し,妊娠7〜8週まで継続する.
 上記療法によって血中プロゲステロン値が十分上昇しない場合には,除放性基剤を用いたプロゲステロン腟座薬を作成し,200〜800mg腟内/日を投与する施設もある.
2)抗血栓凝固療法
①抗血栓療法(低用量アスピリン)
 着床前ないし妊娠反応陽性時から,バッファリン81/バイアスピリンを1錠内服/日,同意を得て妊娠32〜34週まで継続する.
②抗凝固療法(未分画ヘパリン/低分子ヘパリン)
 妊娠反応陽性時から,カプロシン7000〜15000 U 分2X皮下注ないし点滴静注/日,APTTが2倍を超えないようにする.
 抗リン脂質抗体症候群(LA, aCL, ないしaCLβ2GPI陽性)では静脈血栓のほか,動脈にも血栓を起こすためアスピリン療法の併用が必要である.血栓,IUFD,IUGR既往がある場合とない場合(習慣初期流産や膠原病合併妊娠)とでは,治療方針が異なる(表2).ATIII欠損症では,ATIII製剤とヘパリン療法,プロテインS/C欠損症では,ヘパリンないしアスピリン療法が基本となる.低分子ヘパリンを用いてもよい.
3)夫リンパ球免疫
 パートナーに感染症スクリーニング(HIV, HCV, HBV, HTLV-1, 梅毒)を実施し,陰性であることを確認する.輸血同意書を取得する.ヘパリン加末梢血100mlを採取し,GVHD予防のため,X線照射(20 Gy)を行う.比重遠心分離法でリンパ球(5〜10×107個)を分離し,PBS洗浄後に生理食塩水に浮遊させ,患者皮下に接種する.1ヶ月間隔で,2回実施する.妊娠が成立した時に再度接種を行う施設もある.自己免疫異常がある女性には実施しない.
4)免疫グロブリン大量療法
 難治性習慣流産に対して同意を得て行う.妊娠反応陽性時(妊娠4週〜5週)からintact型グロブリン(グロベニンーI,べノグロブリンーIH)20gを点滴静注(3時間以上かけて)/日,5日間連続投与する.
 
ここがポイント
 初期カウンセリングが極めて重要である.まず不安を取り除く.プラセボ・テンダーケア効果を期待した治療も重要である.再度流産に至った場合は絨毛染色体検査を実施すべきであり,患者にもたらすメリットは大きい.私は,染色体正常胎児の自然流産を1回のみ経験した女性に対しても,精査・治療を勧めている.