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| 『ジェイルバード』 Kurt Vonnegut (1979)/ハヤカワ文庫 | | 作成日時: Sep 26, 2004, 09:58 PM |
そういえば、自分の手元に、ヴォネガットの著作が全部あるのだろうか?最後に買った本は『青ひげ』・・・。一番のお気に入りは? の問いには、『ジェイルバード』と答える。自分のその時々の気分や環境で変わるのだろうけれど。
ヴォネガットは常に作品中の登場人物に、トマス・モアの描いた世界の再現を試みさせては、当たり前のように挫折させる。ユートピアの定義が「どこにもない場所の意の造語」とはよく云ったものだ。資本主義のなかでの最高の権力者が、刑務所から出たばかりの元官僚であり、昔の恋人とユートピアを実現させるために一時の夢を見る。
とても悲しく、愉快で、挫折感を味わう・・しかし、なぜか心地よいお話。
主人公ウォルターは、出所後の僅かな時間に、死んだ妻以外の、愛した女達と再会し、許しを乞い、許される。もし、少しでも違った時間に街を歩いていたら、多分バーテンダーの仕事も得られず、ブルックリンブリッジから身投げをするはずだった男がだ。悲しい老人の独り言が、淡々と語られ、人と人をつなぐ単純な文体とプロットの積み重ね。ひねくり回した難解な言葉も、思想も必要とせず、ヴォネガットは、現代のもっとも必要とする物語を作った。(21世紀の今でこそ必要な物語だ)
アメリカの労働争議、第二次世界大戦、赤狩り、ウォーターゲート・・・。アメリカが力を無くしていた時代に、さらにヴォネガットはとどめを刺すがごとくこの小説を書いている。すでに金が思想までもがんじがらめにし、もはや堕落するしか無いだろう現代のイデオロギー。嘘でも、軽口でもいいから、理想の世界を誰か叫び続けてくれ。私小説みたいな話や、普通のセックスや異常なセックスだらけの話などもう沢山だ。
・・・・こんな時代に、「成就できなかったおとぎ話」も、いいと思うよ。 |
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