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杏飴 そして大嘘つき (十二)

十二 解散1

岩田が休み時間に話したことを理解するのにわたしはどれだけの時間を費やしただろう。
「佐々木がさ、ミナコのこと好きだって言ってた、で、おまえにそのこと彼女に言って欲しいんだってさ」
よくわからない嫌な気持ちがわたしの身体中に走る。「オレには言えない」この結論は、一晩中寝ずに考えた結論だった。理由は? まったく分からない、当時のわたしは自分の感じることを言葉として理解するにはまだ未熟な脳細胞でしかなかったのだろう。それでも、その結論は正しいと信じることが出来た。言わない方がいいに決まっている、ただその思いを信じた。その後のバンドの練習はとんでもなく気分の乗らないものだった。わたしはほとんど口をきかず機嫌が悪かった。
あとでミナコは「どうしたの?」と尋ねた。わたしは彼女をぼおっとした表情でみた。彼女はわたしの表情から、初めて何も読み取れなかったのかしつこく「ねえ、どうしんたの?」と聞く。
「みんなチューニングにぜんぜん気を遣っていない、自分のボリュームも勝手気ままでサウンドを気にしていない、こんなんじゃダメだ」
ミナコは不思議な表情をする。
「そんなに酷くないよ、結構感じなのに」
わたしは急にこの女を泣かしてやりたくなった。
「おまえの耳がおかしいんだよ」
わたしはそう言って、自分のギターをケースにしまい出て行った。彼女は怒って、黙っていた。振り返るといまにも泣く出しそうな表情をしていたのを見ることができた。佐々木は少し不安そうな表情をしていた、わたしは精一杯の友情のつもりで「それじゃ」と。無理矢理にこりとして言った。

(「十三 解散2」 につづく)

 




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