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| 杏飴 そして大嘘つき (十一) | | 作成日時: Jan 25, 2005, 11:04 PM |
十一 微妙な不安
わたしたちのバンドは、毎週練習をやっていた。麻紀とのデートはそんなに多くはなかった。今思えば、情けなくなるほどにガキっぽく赤面してしまうが、彼女と交換日記をしはじめる。わたしは、ロックを聴きまくり、本を読みあさった。時々、読んだ本の一節を真似したり。ジッドの『狭き門』、主人公がアリサに書く手紙を真似もした。ヘッセ詩集から、いくつかのフレーズを書き留めたり、当然、レノン&マッカートニーにはお世話になった。それに対する麻紀の返答は、とても生活的だった。今日の出来事、その時の思いや自分の考えを、喋り言葉のように書いていた。
ある日、鶯谷へボーリングをしに行った帰り、ロッテリアでシェイクをすすりながらわたしは自分の将来の夢を話していた。バンドを続けたい、サザンオールスターズのように有名になりたいこと。多分それはほんの少しの努力で、実現するに違いないと思いこむほどにわたしは子供であり、夢想病者だった。
「今度のヤマハのキーウエスト受けてみるかも」
「ふうん」
「最近、ピアノの娘が曲書いたりしてるからさ、作詞することあるんだ」
麻紀はフライドポテトを食べている。
「もっといいギターがほしくて、アリアプロのやつは、安いんだけどプロも使ってるし」
彼女はあのメニューにあるアップルパイを食べてみようと言った。
陽の沈んだ道を二人並んで帰る途中、わたしは彼女の頬にキスしようとした。彼女は恥ずかしがった。
「人みてるでしょ」
わたしは親に怒られた子供のように頷き従順になった。
「好きだよ」
そうわたしが言うと彼女は「そう」と言って少し微笑んだ。それから彼女の家の前まで何も話さずに歩き、「バイバイ」と言って別れた。
帰り道、彼女が書いたはずであろう、日記を受け取るのを忘れていることに気付いた。
(「十二 解散1」 につづく) |
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