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| 昨日のこと、今日のこと | | 作成日時: Dec 09, 2004, 10:33 PM |
すでに2ヶ月の間、彼は彼女に手紙を書いている。
近況、テレビで見た映画のこと、読んだ本のこと、街ですれ違う人々のこと、飼っている熱帯魚の健康状態、そして夜中に思うあれやこれや。
当然のことながら、返事などあるわけがない。
すこしはじゃれ合いたい想いで彼が云った言葉が、彼女を怒らせ、あっという間に怒りが憎しみに変わってしまった。
「隣に住んでるあのお婆さん、相変わらず朝早くから軒先で出勤する連中を一人一人、値踏みしているよ」
「熱帯魚が少し不機嫌なようだ、見た目は問題なさそうだけど、海水を代えた方が良さそうだ」
「灯油を買ってくるのも面倒なので、暫くぶりに炬燵を出したよ」
「ディケンズを久しぶりに読んでいる、当然「クリスマス・キャロル」、あれを読むと人間は本質はみな優しさの固まりだと思う」
いつも交わしていた会話と同じように、文字にしている。それが彼の謝罪であり、想い。どうしようもなく自分の感情を言葉にすることが出来なかった。単なる謝罪なら百万回でも云うことが出来る、しかし、そんな謝罪は本質ではない。お互いの縺れた感情を元に戻す呪文はこの世にはあり得ない。言葉は万能であるかのように装う、しかしそれは科学の世界だけの話。だから、文字によって彼女と話をすることが、今できる唯一の彼女とのつながり。何れ時間が記憶を薄れさせてくれるまでは。 |
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