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二つのストゥール

善人がなぜ、みんなに相手にされないのかがわかった。人を閉口させるのだ。

「好きなタイプって、どんな人」
「オフェーリア」
「女優? 知らないなぁ。何の映画に出てたの?」
「ハムレット」
「へえ、今度ビデオ借りてこよう」

 幼児性脂肪がそぎ落とされていないような、ふっくらとした身体つき。だが、肌は瑞々しく引き締まっている。まるでイルカのような艶だ。おれは、昨日の寝不足で何もかもが眩しく刺戟的に見えた。

 まるで一時間前に脱サラしたような不安そうな目つきで、店長が一分ごとに店の中を往来している。そろそろ昼近くだというのにウエイトレスが来ないらしい。多分、昨日、自分の妻にも使ったことの無いような甘い言葉で誘惑でもしたのだろう。そんなおびえた表情をしている。
 しかし、おれの勘は外れた。いかにも結婚生活に疲れているといった風情の女があわてて店に入ってきて、店長に頭を下げていた。
 隠居している親の昼飯を作っていたら、コンロの火が何かに引火したらしい。去年訪問販売で買ったという消火器を使って火は消したのだが、後始末が大変だったらしい。昼時の忙しい時間が終わったらすぐに帰って掃除をしなければならない。そんな話を肩で息をしながら店中に聞こえるような大声で話続けていた。店長もいい加減な相づちで話を終わらせようとしていた。

「わたし、消火器って使ったこと無い」
「普通は使わない」
「じゃあ今度、火つけてみよう」

 おれは飲んでいたコーヒーを彼女の顔に吹き出しそうになった。そのかわり、スーツにこぼしてしまう。彼女は少し微笑む。おれは彼女の顔を見ながらこぼれたコーヒーを拭っていた。

 




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