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東急・営団・東武
3社直通運転記念号に乗る





 中央林間駅のホームは異様な空気に包まれていた。われわれの仲間である鉄道おたくたちが「記念列車」の到着を待ちながらびっしりと行列をつくっていて、ほかの乗客たちを圧倒する雰囲気である。駅の放送が記念列車は10時15分ごろ到着すると伝えている。
 2003年3月29日朝、私はモリタくんに誘われて東急田園都市線中央林間駅に来た。十日前の19日、営団半蔵門線の水天宮前駅・押上駅間が開業した。田園都市線、半蔵門線と東武伊勢崎線は一つにつながり、ダイヤ改正で中央林間から南栗橋まで直通電車が走り出した。そしてきょう、直通運転を記念した臨時列車が中央林間から東武日光・鬼怒川温泉まで運転されることになり、始発駅となる中央林間へと赴いたのである。
 地下にあるホームに記念列車が回送されてきた。行列のおたくたちは皆、前に乗り出してカメラを構える。電車はステンレスに茶色い帯の東武30000系10両編成。何ということはない普通の通勤電車である。途中、南栗橋駅で分割して前4両が鬼怒川温泉行き、後6両が東武日光行きとなる。私たちは前から2両目の鬼怒川温泉行きに乗車した。行列のうしろの方に並んだので、ドアが開いた後の席取り競争に負けてしまった。途中駅で空席ができなければ私たちは終点までおよそ四時間、立ち続けることになる。終点、鬼怒川温泉には14時21分着の予定。車内はけっこう混んでいる。


 記念列車はわれわれおたくたちの興奮を満載して10時17分、中央林間を出発した。まもなく地上に出て新しい住宅地の中を切り通しで走り抜けてゆく。電車はこの後、半蔵門線内を除いて急行(快速)運転で走る。最初の停車駅、長津田に着いた。座席指定などはなく、電車には建前上誰でも乗れることになっている。買い物に出かける風のおねえさんやおばさんたちもぽつぽつ載せて、陽光の下、田園都市線を走り抜ける。東京では一昨日の27日、桜の開花宣言があった。途中の道ばたや駅のホームでは、カメラを構えるおたく仲間がたくさんいる。たまプラーザの駅は特に大勢いた。鷺沼、溝の口あたりからは渋谷などに出かける乗客がだいぶ多くなって、おたくたちの騒ぎもようやく落ち着いて来る。車内はかなりの混雑で、さながら朝のラッシュ時間帯のようだ。多摩川を神奈川県から東京都へと渡り、二子玉川を過ぎて旧新玉川線の地下線区間に入った。
 三軒茶屋に停車して、渋谷に着いた。買い物客らが降りて少しすく。それでも乗車率は100%(座席とつり革が全部埋まっている状態)を優に超えている。ここから半蔵門線に入る。といっても二子玉川から同じようなトンネルなので駅看板などのデザインが変わる程度である。10時53分に発車して各駅に停まる。表参道でこの電車にはむしろ場違いなおしゃれなおねえさんが降りたりする。永田町を過ぎると混雑はややおさまって来る。車内もいくぶん和やかな雰囲気になった。


 水天宮前に着く。ここから先が3月19日に開通した新線区間である。実際走り出してみるとどうということのないトンネルである。清澄白河(きよすみしらかわ)は都営大江戸線の乗換駅。シールド工法の断面がそのまま残り、ホーム向かいの壁が筒状に湾曲している。住吉は都営新宿線の乗換駅で上下線がまさしく上下に縦に並んでいる構造、渋谷方面行きのホームは車内からは見えない。次は総武線との乗換駅錦糸町。新線区間は建設費を抑えるため駅数を減らしているので、駅と駅の間隔が長い、とモリタくんが解説してくれた。中央林間を発車して一時間が過ぎ、押上に着いた。降りる人も多く、車内はだいぶすいた。改めて座席にすわっている面々をながめるとやはり異様な光景である。客層が濃い。
 押上を11時24分に発車、ここから東武伊勢崎線に入る。急勾配で坂を登り、曳舟からまたぽつぽつと鉄道おたくたちが乗って来る。10分ほど走って北千住に到着。ここで約26分停車、トイレ休憩である。蛍光黄色のウィンドブレーカーを着た東武のイベント係員数人が大声でトイレの場所を案内する。おたくたちはそんなことはおかまいなしの様子で、先頭車のヘッドマークを撮影しようとホーム前方に集中する。ウグイス色の制服を着た営団地下鉄の駅員たちは「こんなに集まるとはねェ」と言い合っている。撮影後ホーム前方の人垣から四つん這いに抜け出してくる輩までいた。この騒ぎ、尋常ではない。
 トイレに行くことにした。ホーム階下へ降りると喫茶店や本屋がある。トイレを済ませた後、喫茶店でサンドイッチを一つずつ買って来る。席に座れないので車内で二人で立って食べた。一応、腹は満たされた。
 12時1分、列車は再び発車した。北千住を出ると春日部までノンストップである。埼玉県に入る。車内の人たちも少しずつ腹ごしらえをしているようで、この客層の中でやや特殊な部類に入る斜め前の家族連れもおにぎりやから揚げを食べている。前の青年もいちごの匂いをぷんぷんさせていちごサンドを食べる。そうこうするうちに新越谷を通過して高架複々線区間が終わり、地上を複線で走る。春日部に着く。しばらく停車して12時23分発。もう二時間も乗ってるが、まだ全行程の半分である。


 沿線は次第に家が減り、田んぼが増えて来る。東武動物公園を通過する。ガタンとポイントを渡り、ここから日光線に入る。列車はこの先の南栗橋で鬼怒川温泉行きと東武日光行きとに分割されるので、車掌から乗り間違えないよう繰り返し放送がある。客のほとんどは、誰もがルートを知り尽くした鉄道おたくだと思いながら聞いている。12時37分、南栗橋に着いた。駅周辺には新しい住宅がところどころで集まっている。通常ダイヤでは中央林間発の列車はこの南栗橋まで98.5kmの運転で、ここから先の直通運転はこの臨時列車だけの特別サービスである。
 10両編成の列車のうち、前4両鬼怒川温泉行きは12時40分に一足先に発車、後6両は東武日光行きで12時46分の発車となる。紺のウィンドブレーカーを着た営団の係員が『前4両 鬼怒川温泉行き』と書いたプラカードを掲げてホームに立つ。私たちが乗る鬼怒川温泉行きは3分ほど停車して再び発車した。畑が増えた。東北本線(宇都宮線)を越えて栗橋通過。空はくもってきたが電車は田んぼの中を快走する。水の豊かな利根川を渡った。渡良瀬遊水池・谷中湖の堤防を右に見てしばらく走り、板倉東洋大前に停まる。この駅の手前の駅、柳生までは埼玉県。次の駅、藤岡からは栃木県。この付近、県境が入り組んでいて、この駅一駅だけが群馬県である。特急スペーシアの通過を待って12時56分発。
 渡良瀬川を渡る。左側に山並みが見えてくる。ぶどう棚が見える。「このへんはぶどうを作ってるんだって」とモリタくんが言う。なぜか車内が煙臭くなって来る。山が次第に近づいて、13時7分、新大平下に着く。
 ここで再びトイレ休憩。7分停車する。北千住と同様、蛍光黄色の係員がトイレの案内をするが、鉄道おたくたちはトイレどころではない。13時10分に着く後続の東武日光行きと並ぶシーンを撮影するため再びホーム前方に集まる。ホームや車内を右往左往する人が多くて、とても騒々しい。いつの間にか車内が混雑している。
 私たちが乗る鬼怒川温泉行きは13時15分に発車(東武日光行きはその後13時18分発)。JR両毛線と接続する栃木、次の新栃木と連続して停車して、再び民家や畑、田んぼが並ぶ平野を走って新鹿沼着。周りの景色は次第に山がちになってくる。向こうの山には白い梅が咲いている。北鹿沼を通過するころ、左前方に日光の山々が見えてきた。頭には雪を頂いている。雑木林の中を走り抜け、いくつかの小駅、そして沿線唯一の短いトンネルを通過して下今市に到着。


 ここから単線の鬼怒川線になる。ゆっくりと急カーブを右へ曲がって橋を渡ると、民家の軒先を抜けるようにして大谷向(だいやむこう)に着く。ちょっと変わった駅名である。鬼怒川線内は各駅に停まって行く。大桑(おおくわ)、新高徳(しんたかとく)と停車し、山間の集落を抜けながらゆっくりと走る。鬼怒川の渓谷が左に見える。ガタンガタンと音を立てて電車は走る。小佐越(こさごえ)に停まる。ミニチュアの建造物で有名な東武ワールドスクエアの最寄り駅らしい。スペーシアがホームの反対側を通過してゆく。あと一駅。
 谷にはさまれた狭い平地に家が増えてくる。まもなく終点との車掌の案内がある。車内がざわついて来た。そうして14時21分、ようやく終点、鬼怒川温泉に着いた。ホームに降り立つと辺りは鉄道おたくたちでごった返していた。翌日の新聞よると鬼怒川温泉と東武日光両駅で千四百人もの乗客が下車したという。モリタくんも私も圧倒された。改札を降りて記念品をもらう。駅の外ではプレゼント抽選会もあった。東武・営団・東急の係員たちもここまで乗ってきていた。本当に3社合同企画であることがわかる。
 今回の記念列車の一番特殊なところは、臨時に組まれたダイヤでも、走行区間でもなく、客層なのではないかと考えてみる。4時間4分、187.9kmの行程。空席など出るはずがない。さすがに腰が痛くなった。







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