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銀河鉄道総武線




 代々木駅三番線を発車した中央・総武緩行線下り電車は、一○パーミルの勾配を静かに登り始める。坂道があるのは緩行下り線が山手線の線路を陸橋でオーバークロスするためで、この立体交差のおかげで代々木、新宿両駅での乗り換えがスムーズになっている。交差する二つの路線の相互乗り換えを二つの駅で分担しているのである。
 緩行下り線のレールは新宿方のホーム途中から勾配が始まっており、隣に面する山手線内回りホームと五○センチ近い段差が生じている。わずか五百メートル先には七面十四線を擁するJR新宿駅のプラットホームたちが眩しく光り、中央線の特急列車や成田エクスプレスのヘッドライトが小さく見える。その上空には近年とみに賑やかになったデパートなどの商業ビル郡が建ち並び、色鮮やかなイルミネーションが天の川をかき消すほどに輝いている。
 地図で見ると代々木・新宿間の線路は南北に真っ直ぐの線路で結ばれているように見えるが、山手線や中央快速線などは、実は平仮名の「く」の字型に緩やかなカーブを描いていて、「く」の字の上側に新宿駅、下側に代々木駅のホームが位置している。これに加えて緩行下り線は「く」の字が折れ曲がっている辺りで山手線を東から西へ越えるため、その線形は複雑なS字カーブになる。
 「黄色い電車」で親しまれているカナリア色の電車は、夏の夜空に向かって加速する。私の目線はやがて新宿駅のホームを見おろす位置までやって来る。「く」の字の上側にある新宿駅のホームたちは揃って左手前から右奥に向かって並んでいる。その位置関係は絶妙で、前方にあると思っていたホームは進行方向とは関係のない右の奇妙な所にあるかに見える。力強いモーター音とともに築堤の上を進んで行くと電車はやがて山手線の二本の線路を跨ぐ陸橋にたどり着く。跨ぐ距離を少しでも短く済ませるためか、線路はガードの手前でわずかに左にカーブして、より垂直に近い形で山手線とクロスする。その瞬間、新宿駅のプラットホームたちはまるでそれが一体となって、水面に浮かぶボートのように時計回りにゆらりと回転する。ホームはさらに右に移動したかに見え、これから向かうはずのターミナルをこの角度から眺めることに人々はきっと不思議な感覚をおぼえるだろう。近づくに連れて特急列車の赤いテールライトがより鮮明に見えてくる。周囲を見渡せば、電車はビルの谷間をくぐり抜けるように空中を走っている。
 陸橋を通過すると、今度は右にゆっくり曲がり、七面のホームたちは反時計回りに戻り始める。新宿駅の最も西側に位置する十四番線を目指して、カナリア色の電車は右カーブを大きく回りながら坂道を下ってゆく。眼下に明るく輝くホームの中へ、二○○メートルの長い列車が吸い込まれていく様子は、何万光年もの彼方から宇宙を走り続けてきた銀河鉄道が、万感の思いを込めて終着駅にたどり着くシーンのようだ。先ほどまで車体の右側面を見せていた新宿駅の特急列車は、やがて左側面を見せる。恵比寿方面に向かう埼京線の電車が遥か右を走り抜け、反対にオレンジバーミリオンの中央線下り快速電車と、ステンレス車体の山手線外回り電車が右脇に二本の長い帯をなして近づいて、共に並んでターミナルに向かう。高い位置にいたカナリア色の銀河鉄道も他の電車と同じ高さに近づいて、三本の電車がそれぞれのモーター音を夜空に轟かせて走る。それは、まるで二本の電車が銀河鉄道の到着に花を添えるかのようだ。駅ビルに設置された「JR新宿駅」の巨大な看板が、銀河の旅人を暖かく迎え入れるように、青く眩しく光っている。
 十四本の線路が複雑に入り乱れながら一斉にホームに向かって延びて行く。銀河鉄道は線路を下るにしたがって徐々にスピードを上げ、坂を下りきるところでブレーキを掛ける。窓を覗くと山手線電車に揺られている乗客の顔が蛍光灯に照らされて、近づいたかと思うとまた離れる。甲州街道の陸橋をぐぐって、先頭車両からホームに滑り込んでゆく。やがて列車は徐々に速度を落とし、十四番線プラットホームの停止位置にゆっくりと停車する。一分余りの銀河鉄道の旅は、そうして僅かな胸の高鳴りを残し、静かに終わりの時を告げる。





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