THE MOON LOST
 

星野之宣氏作品アフタヌーン連載の「ムーン・ロスト」
「NOB@相模」こと不肖、西山は、現在、星野之宣氏がアフタヌーン誌にて連載中の近未来SF作品「ムーン・ロスト」に制作協力をしています。

掲載終了分に関して、問題の無い範囲で技術的な話題や作品中では語りきれない詳細、私が資料を漁って調べた関連事項等に関して、随時このページで公開して行きます。


<お詫び>

*** 2003年03月24日 更新 ***

「ムーン・ロスト」第7話掲載アフタヌーン5月号 3月25日(火曜)発売。

幾つか修正・追記をしました。


第1話(講談社アフタヌーン誌2002年11月号掲載) 
30P


アルテミス(ΑΡΤΕΜΙΣ(ギ) Artemis(英)):ギリシャ神話の「月の女神」〔2003年3月5日修正〕

月に設置された超高出力粒子加速器「ルナトロン」の設置されている基地の名前

もちろんまたの名は「ムーンベースΑ(α:アルファ)」である(joke(^^))

さて何故小惑星迎撃作戦に使用される粒子加速器の基地の名前が「アルテミス」なのか?
この命名実は星野之宣氏ならではのセンスの”賜物”なんです。

皆さんへの宿題です。是非文献やネットでお調べ下さい。

(注:ギリシャ文字の綴りを間違っていましたので訂正しました m(__)m)


ルナトロン(Luna tron(英)):月に設置された100TeVの超高出力を誇る粒子加速器〔2003年3月5日追記〕

現在実証試験が行われているレーザー粒子加速器を発展させたもの。

レーザー加速器は従来のシンクロトロン(synchrotron)等の電磁石を利用した電磁場を用いる粒子加速器より、極めて強い電磁場を形成出来るので、コンパクトで高出力な加速器として将来が期待され、現在先進各国で研究が進められている。

「レーザー粒子加速器」とは何ぞや?と言う方は此処のHP等を参照して下さい。

レーザー光も量子的に言えば「光子」ですからイコール「電磁波」です。つまり集中するとレーザーとプラズマの相互作用によって焦点に超高電磁場を形成出来るのです。
これは近い将来、よりコンパクトで高出力の粒子加速器の主流になるのではと期待されています。

後述しますが、所謂シンクロトロン等のような円形の加速器がその余りにも巨大な大きさの為、現在の方式ではこれ以上の高出力化が極めて困難な為、次世代の粒子加速器用の電磁場形成の有力候補です。


バンチ(bunch(英)):直訳「仲間,一団」〔物理学用語〕

今回使われている意味は、粒子加速器等の高エネルギー研究で使われる業界用語です。
シンクロトロン等の粒子加速器の中では常時100兆個くらいの陽子が飛び回っています。この陽子はばらばらに飛び回っているのではなく、凡そ100億個単位の群れで細いビーム状に一塊となっています。この一つの群れが「バンチ」です。


粒子加速器(衝突型加速器)(collider)〔物理学用語〕:〔2003年3月4日修正〕

現在サイクロトロンやシンクロトロン等の粒子加速器(衝突型加速器)(collider)は世界で幾つも運用されています。陽子や電子、果ては陽電子や反陽子(反物質)等を強力な電磁場で光速に極近い速度まで加速してぶつけ合い、高エネルギーの実験をする為の装置(施設)です。この様な実験施設によって新たな素粒子の検出や、ビッグバンに近い環境(宇宙の始まり)の再現等が出来ます。
2002年現在建造中の最も進んだ奴(高出力)が現在ヨーロッパのCERN(ヨーロッパ共同原子核研究所)で建設が進んでいる「LHC」です。その大きさ何と一周27キロメートル!
此処ではビッグバン直後(10マイナス10秒以下の時間)に形成されたと考えられている仮想の粒子「ヒッグス粒子」を検出しようとしています。このLHCの設計出力が大体7TeVです。

時計回りと反時計回りの陽子がそれぞれ7TeVですので衝突時は14TeVもの高エネルギーになります。

LHCは2004年頃完成の予定で、総予算は二六億スイスフラン(約二千億円!)にものぼります。

日本の大手家電メーカーの年間研究費総額に匹敵する予算がつぎ込まれていると言えば、その期待の程がおわかりになると思います。


「ヒッグス粒子」はゲージ理論において量子の質量を定める仮想の粒子です。

このLHCが完成するまではアメリカのテバトロン(アメリカフェルミ研:出力1TeV:陽子と反陽子をぶつける)が最大の出力の粒子加速器です。此れでも陽子を光速の99.99999パーセント以上の速度まで加速させられます。

光速=約、秒速30万キロ(時速10億8千万キロ)ですスペースシャトルなどの最大速度が秒速8キロ程度ですので、如何に凄い速度かお分かりだろうと思います。

ご存知のように光速に近づくほど質量が急激に増大しますので、此処から更に速度を光速に向けて小数点下1桁増やすのには10倍位の出力が必要になるのです。


ナノ・ブラックホール(nano blackhole):〔2003年3月4日修正〕

此処数年新しく提唱されている宇宙論と量子論を結びつけるモデルとして「膜宇宙論」がクローズアップされています。この「膜宇宙論」で、10〜100TeV位の出力の粒子加速器を用いて、超微細なブラックホールが形成される可能性が指摘されています。

今回は1バンチの陽子10兆個、10兆(10の13乗))個の素粒子と言うと、ちょっと見るととんでもない物凄い量に思えますが、陽子一つの質量は1.6726485x10(ー24乗)グラムですので、
   1.6726485x10(ー24乗)〔g〕 x 10(13乗) =  1.67 x 10(−11乗)〔g〕
ナノ・ブラックホール1個の質量は僅か0.0167〔ng(ナノグラム)〕に過ぎません。

さて此処で、もう一つ

光速に近い粒子の衝突によるブラックホール生成に関する技術的な計算補足です。

100TeVまで加速されたほぼ光速の陽子についての計算です。

相対論に基づくと、光速に近い速度まで加速された質量(今回は陽子)の速度による質量の増加は下記の(1)式となります
   M=m/√(1−(v^2)/(c^2))・・・・(1)式   (^2は2乗)
10兆個(100分の1.67〔ナノグラム〕)1バンチです。
   1バンチ1.67*10(^-11)〔グラム〕

粒子加速器でエネルギーKで陽子を加速すると、かの有名なE=mc^2から、
   K=E−E。=mc^2−m。c^2=(γ−1)m。c^2・・・(2)式
此の(2)式をγについての解に変形すると
   γ=K/(m。c^2)+1
今回の条件は
   K=100TeV=1.60219*10(^ー19)〔ジュール〕*10^14=1.60219(^ー5)〔ジュール〕
   m。(陽子の静止質量)=1.6726*10(^ー24)〔グラム〕
   C〔光速)=2.9979*10^8〔メートル毎秒〕

これらの条件を代入してγを解くと
   γ≒106.5(倍)となります。
つまり100TeVまで加速された陽子の『見かけの質量』は静止状態の質量の106.5倍になるのです。
すると前提条件の別の項1バンチ=10兆個の陽子=0.0167〔ナノグラム〕が約106.5倍になるので、
1バンチが丁度「約1.78ナノグラム」になります。此れを二つ正面からぶつけて反応を起こすと、丁度上手い事に
1個で数ナノグラムのブラックホール『ナノ・ブラックホール』が誕生します。

注:反応時のロスは殆ど見ていません。実質ほぼ無視ですね。ナノブラックホールの生成&膜宇宙理論によるミリ以下のサイズでの極端に大きな重力定数と言う事で、特異な集中反応が起こると”勝手に仮定”しています。

ナノグラムオーダーの質量のブラックホールなので、星野之宣氏がナノサイズのブラックホール「ナノ・ブラックホール」と命名されました。此れも良い命名ですね(^^)

この様なモノの本質を鋭く捕らえている「名」は不思議と語感も良い物です。


第2話(講談社アフタヌーン誌2002年12月号掲載) 
24P


ブラックホール(Black Hole):〔2003年3月4日修正〕

SFでは余りにも有名な存在であるが、実際には未だ判らない事だらけの天体。

彼の有名な数学者ラプラスによって予言された光さえも脱出出来ない重い天体が、後の20世紀、相対性理論などに基づいてそのよう他天体が実際に存在するのではないか考えられ、後にこの仮想の高重力天体がジョン・ホイーラによって「ブラックホール」と命名されたとする説が有力。

ブラックホールとは光さえも脱出出来ないほどに大きな重力を持った高圧縮(密度)天体。

ブラックホールの中心からの距離で光さえもその中に入ったら脱出出来なくなる距離が

「シュバルツシルト半径」

色々な物質のシュバルツシルト半径
原子  10(^-26) [kg] 10(^-51) [cm]
人間  100 [kg] 10(^-23) [cm]
地球  10(^25) [kg] 1 [cm]
太陽  10(^30) [kg] 1 [km]

つまり上記の物質や星が現在の密度からシュバルツシルト半径以下に圧縮されれば、

「ブラックホールのまがい物」が出来るかもしれない。

ブラックホールとは言い換えればシュバルツシルト半径如何にまで縮まった特異点とも言えるのだ。

興味深い事だが実はブラックホールには「重さ」はあるが測定出来る「大きさ」と言うモノが無い。何故かと言うとシュバルツシルト半径の内側からは重力以外は何も出てこないからである。これが所謂ブラックホールには「毛がない」性質である。

通常ブラックホールは重さでそのスケールを表すのはこの為である。


蒸発するブラックホール:〔2003年3月4日修正〕

何でも吸い込んでしまう物の代名詞のようなブラックホールだが、食うだけ食って重くなるだけではない。

ホーキング等の努力によって、多くの科学者の理論的予想では、

真空で極めて短時間の間、対生成される正物質と反物質の片方を食ったブラックホールは、

自らの質量をエネルギーに変え蒸発して行くのだ。


作中のルナトロンから放出されたナノ・ブラックホールが発光していたのは、上記の「蒸発」と「放出」のエネルギーの一部が「電磁波=光子」として観測される為です。

これは現在の理論モデルでも予想されている事ですので「とんでもハップン」なアイディアではありません。


真空の対生成・対消滅の時間10(^-44) [sec]:〔2003年3月4日大幅修正〕

これは現在の量子論で極短い時間ですがエネルギーの借金が許容されるとされる時間です。

我々の宇宙は、真空と言う「無」から極めて短い時間ですが正物質と反物質を対生成し、対消滅するまでエネルギーの「借金」を許容すると考えられています。これは我々の宇宙では極めて頻繁に起こっている現象と考えられています。

しかし無数に起こっていても、極めて短時間、小規模で起きているので、そのままでは人間が観察する事は極めて難しい現象です。

しかし、先に記述した「蒸発するブラックホール」で触れた現象の「放射」は、この真空の対生成・対消滅反応の内、ブラックホールの近くで起きた対生成によって生まれた片方の粒子をブラックホールが食らってしまう結果、残った粒子が「放射」され、人間が容易に観測出来る現象になる事です。

またと「蒸発」は、ブラックホール自身の電荷と反対電荷を持った正または反物質を食らったブラックホールも、対消滅反応を起こし同量の質量をエネルギーとして発散して「蒸発」して行きます。


ブラックホールの「寿命」:〔2003年3月4日修正〕

現在の理論モデルでの予想では、上記の様な「蒸発」によってブラックホールは質量に応じた「寿命」を持っていると推測されています。

ブラックホールの「寿命」γ〜10(^66)*Ms(^3) [year]
Ms=太陽の質量2*10(^33) [g]
放射によるブラックホールの質量の減少は、最初の質量をMoとすると
M(t)=(Mo(^3)-3KT)(^1/3)
K=1.40*10(^91) [g^3/sec.] cgs単位
質量が”0”になる臨界時間 Tcrit=Mo(^3)/(3K)

もし1万トンのミニブラックホールが作れた場合、その寿命〈臨界時間)Tc1
  Tc1=10(^30)/(3*1.40*10(^91))=0.02381 [sec]
10万トンの場合
  Tc2=10(^33)/(3*1.40*10(^91))=23.81 [sec]
100万トンの場合
  Tc3=10(^36)/(3*1.40*10(^91))=23810 [sec] ≒ 6.6 [hour]
1億トンのミニブラックホールの場合 Tc2
  Tc4=10(^42)/(3*1.40*10(^91))=2.381*10(^10) [sec] ≒ 755 [year]


この様に「小さいブラックホール」は”現在”の理論ではまだまだ不可解な正体不明なモノです。

第2話で生成されたナノ・ブラックホールが発光しながら打ち出されて小惑星の迎撃に使用されていますが、

現在の標準モデルでは、ナノグラムサイズのブラックホールが存在するとしても、上記の計算でも類推される通り、ほんの一瞬の寿命しか持っていないと考えられています。

しかし、この物語では此処で下記の様な”勝手な仮定”をしています。

仮定:小さなブラックホールはブレーンに挟まれた、閉じた高次元の中に大きな重力を発生しているので現在の標準モデルで推測されるより遥かに長い寿命を持つ場合がある。

後述しますが、重力関係の研究は未だ始まったばかりの分野です。SFの基本アイテムとも言える重力制御ですが、実は重力波は直接観測する事も未だ成功していません。量子的な重力の性質や振舞い等は殆ど何も判っていません。これだけ満遍なくその力が観測されるのに最も不思議な基本的な”力”なのです。


小惑星の軌道変化:〔2003年3月4日修正〕

さて問題の小惑星の軌道の変化についてです。

小惑星の質量はブラックホールの蒸発&吸い込んだ質量のエネルギーの発散によって軽くなっても、

所謂「慣性の法則」に従うと物語の中で出てくるような軌道の変化は起こらないと言う指摘があります。

此の時太陽との重力の関係だけを見ると

地球軌道まで小惑星が到達した時太陽と小惑星との間に働く万有引力Fst1=G*Ms*Mt/(Re^2)
      Fst1=5.928*10^14 [N]

此の時フロストの予想では小惑星は無数のナノブラックホールで質量を大幅に減らしています。
もし1/2に減るとする。
此の時の地球と小惑星との間に働く万有引力Fet2=G*Me*0.5Mt/(Set^2)
      Fet2=9.228*10^13 [N]
此の時太陽と小惑星との間に働く万有引力Fst2=G*Ms*0.5Mt/((Re-ds)^2)
        ds:小惑星がまだ地球軌道まで3時間あるので少し手前なので、ds<<Reなのでds十分に小さいので無視出来る。
      Fst2=2.964*10^14 [N]

つまりこの段階まで地球に接近しますと件の小惑星は地球に引かれる力の方が太陽からの引力より大きい事に成ります。また、迎撃作成が進んでいる間にも地球は太陽の周りを秒速約30キロメートルの猛烈なスピードで公転しながら動いています。

つまり小惑星の質量の減少によって太陽対小惑星と地球対小惑星の重力の力関係が変化する為、

小惑星は地球衝突軌道から逸れるのです。

では「慣性の法則」は何処へ消えたのか?

実は所謂「慣性の法則」は重力・空間の曲がりをあえて無視した観測の場合に成立しています。

重力は無限遠に作用して空間を曲げています。その結果重力の発生源に向かって全ての物質・エネルギーは軌道を曲げる事になります。これが所謂「自由落下」状態です。宇宙に存在するあらゆる物質は重力をお互いに及ぼして自由落下をしているので、真っ直ぐ進むモノは無いのです。

普通の天体はエネルギーを殆ど放出しないので、自ら軌道を変化させる事はありません。重力は距離の二乗に反比例して減衰作用しますから、各天体はより重い天体の作用を主に受け、その重力の距離に因る変化によって複雑な自由落下運動を行っているのです。今回の小惑星と地球と月もお互いに自由落下しています。

もっとマクロに見れば、太陽系も銀河中心に対して毎秒200キロ〜300キロの猛烈なスピードで動いています。更には我々の銀河も他の銀河に対してお互いに引きあいながら群れを形成して動いている事が観測されています。


第3話(講談社アフタヌーン誌2003年1月号掲載) 
24P


月を食う「ナノ・ブラックホール」:〔2003年3月4日〕

ナノ・ブラックホールの群れは小惑星を食った後にフロスト博士も予想だにしなかった重力作用=軌道変化を起こし、月と引かれあった小惑星の残がいとブラックホールの群れは月に衝突、月をも食い始めて遂には崩壊させてしまいます。

今現在の理論では、3つ以上の質量=重力の相互作用の厳密解を求める式は存在しません。ですから質点としての重力計算しか出来ないので、大きさを持った物(通常の物質)の重力の作用は近似解で求められています。

天体の運動や銀河の構成・運動なども、各種の望遠鏡等を用いた観測によって得られた速度や近似式によってその運動が説明されています。

しかし、このお話のように、極めて多数の特異点が、天体スケールでは殆ど近接して存在するような事は未だ観測されていません。その結果がどの様な事が起こるのかも不明です。

またナノ・ブラックホールの様な小さな特異点がどの様に振る舞うかも未だ判ってはいません。


ブラックホールの新たな側面:〔2003年3月7日〕

此処10年ほどの間に新型X線天文衛星等の新しい観測機器投入によりブラックホールの新しい性質が確認されつつあります。

先に触れたようにブラックホールは何でも飲み込む一方で、「蒸発」をしてエネルギーを放出する事がホーキングやペンローズの研究で予想されています。

更にブラックホールの強大な重力に捕らえられた物質は「降着円盤」と言うリングを形成していることが判ってきました。

この降着円盤の質量が落下するにつれ、落下による位置エネルギーの一部は、何らかの方法で他のエネルギーに変換され「放射」されると予想されています。

天文学上の観測で「クエーサー」と呼ばれる銀河系に匹敵するような質量を持った極めて巨大で遠方の天体が存在します。

このクエーサーの中心は極めて大きなブラックホールではないかと推測されています。

クエーサーは、場合によっては光速の数十パーセントにも達し、数光年もの長さを持った極めて高速で巨大な「宇宙ジェット」噴出しています。つまり膨大なエネルギーを噴出しているのです。

NASDAスペース百科クェーサー

アストロアーツ超巨大ブラックホールは宇宙のごく初期から存在していた

「クエーサー」が放出している極めて高エネルギーの放射は、先に触れたブラックホールにめがけて落下する降着円盤の質量の位置エネルギーの一部を極めて効率良く熱やその他のエネルギーに変換して噴出している結果ではないかと推測されています。

例えば現在の核分裂反応原子炉などでは、その質量の0.1%以下しかエネルギーに変換されていません。太陽等の恒星や将来開発されるだろう核融合反応の原子炉でもその十倍程度の効率が限界です。

しかしクエーサーなどのブラックホールに因る巨大重力に因るエネルギー変換の効率はその百倍以上、なんと最大数十パーセントの効率を持っているのではないかと推測されています。

今回のお話では、この猛烈なエネルギーの放射がナノ・ブラックホールでも起きており、その高エネルギーの噴射が未知の作用を起こして、ナノ・ブラックホールが自己増殖してしまったと「仮定」しました。

つまりルナトロンから打ち込まれた数十万個に及ぶナノ・ブラックホールの群れは、小惑星の質量を削ってエネルギーに転換し、放射すると同時に、そのエネルギー放射の大半が宇宙ジェットのようになって相互作用し、まるでルナトロンの様な粒子加速器によって人工的に引き起こされる、極めて高エネルギーの環境を自ら形成し相互作用しあうと仮定しました。

その結果ナノ・ブラックホールが「自己増殖」をして短時間で加速度的に増えてしまったのです。

そして更に未知の作用が起こり重力が強く放射され、月と強く引きあって、月に衝突、月を食らいながら内部で更に自己増殖反応を繰り返し、遂には月そのものを崩壊させてしまいます。

*** 補足 ***

現実の世界では日本の核分裂反応の高速増殖炉「もんじゅ」や同等のフランスの高速増殖実験炉も、色々と問題が多くて封印されています。

封印の原因は、今だ制御方法が確立されていない事と同時に、増殖反応によって生成される主な核分裂物質が「プルトニウム」と言う反滅期が長く、極めて毒性が高く、且つ核兵器に転用しやすい物質であるためです。


「月」の力:〔2003年3月4日〕

古来人々は人間と月が不可分の存在である事を弁えていました。

月の満ち欠けの周期の朔望月(29.53059日)だけを基本周期として日を数える”太陰暦”が世界の広い地域で長い期間、ほんの数世紀前まで広く用いられていました。

本編でエウロパ捕獲計画のスポンサーとして名乗りを上げるイスラム圏諸国では現在でもこの太陰暦が用いられています。

こうしたイスラム諸国の国旗には殆ど三日月がシンボルとして描かれていますし、三日月の印は彼らの国では医療業務に携わる物のシンボルでも有ります。

地球の生命にとって「月」の存在はかけがえのない物だと言うことが色々な分野の科学研究によって判ってきつつあります。

地球に何故これほど豊かな生命圏が誕生したのか?その大きな因子として、母惑星である地球の約1/100にも達する質量を持った衛星「月」がその重力によって、海や大陸に影響を与えている事、そしてその影響による短いサイクルでの環境の変化が海から陸へと生命を導いた大きな要因であると指摘する学者も多くなりました。

月が輝く夜空は我々の心を言い様も無い暖かい感情を抱かせます。

私の様な無粋者でも夜空に輝く三日月等を眺めるとホット一息つく事が出来ます。

人工の明かりをもつ前は、夜空に輝く月の光が仄かに照らす事で、視覚を主な情報源とする我々人類などの生物の祖が夜も行動する事が出来たのです。

もし月の夜明かりが無ければ、動物の視覚は色彩豊かな可視光線だけではなく、蛇などのように赤外線なども見る事が出来るように進化したかもしれません。

普段はひっそりと輝いている月は、うっかりするとその重要さに気がつかない存在ですが、長い年月の間、地球の生命圏に大きな影響を及ぼしている存在です。


第4話(講談社アフタヌーン誌2003年2月号掲載)
24P


月の喪失「The Moon Lost」:〔2003年3月4日〕

もし本当に月を失ってしまったならば、どうなってしまうでしょう?

夜間、満月〜三日月の照度はその他全ての天体の明るさの合計より、月一つの方が遥かに明るく地球を照らしているのです。我々が夜に目が見えるのは正に月の御陰なのです。

月の夜明かりに基づいて行動・反応していた動植物には、この喪失は劇的な環境の変化となります。

有るべき物を失ってしまった我々人間も真っ暗な夜を迎えるたびに、押し潰される様な大きな不安が付き纏う事になるかもしれません。

海の潮の満ち引きが無くなれば、最も豊かな生命圏である干潟や大陸棚の生物に大きな影響が出るでしょう。

月に起因するとされる生物の生態反応・現象は徐々に蝕まれるように影響を被るでしょう。

多くの地表は道路や都市によって寸断され、新たな生息適応地へと移動しようとする動物達を妨げてしまいます。

動物が移動出来ないと、彼らに種子等を運んでもらう筈の植物や微生物も新たな適応地への移動が出来ません。

天文学的には、地球と月とは連星として動いています。

地球は太陽の周りを綺麗に円を描いて公転しているのではありません。月の重力によって地球は微弱ですが無視出来ない揺らぎをしながら、綺麗な円の公転軌道を中心線としたある振幅の振動をしながら月と共にフラフラと公転しているのです。

月を失うと、この揺らぎも無くなってしまいます。これが如何なる作用を及ぼすかは想像も出来ません。

連星として無視出来ない質量の欠損により、地球は太陽を巡る軌道や速度、更には自転速度にも変化が出ます。

つまり一日の長さや暦も変わってしまいます。更に細かく観測すれば、重力による地球の周りの空間の歪みも、僅かですが精密に観測出来る程変化します。

つまりその空間における”光の速度”もホンの僅かですが観測可能な値で変化してしまいます・・・「時」さえも変化してしまうのです。


ポールシフト(pole shift)自転軸(地軸)の移動:〔2003年3月5日〕

本編では月を失った地球は急激なポールシフトを起こしました。

月がある為に地球の地軸は火星などの他の「比較的軽い惑星」に比べて比較的安定している。その為地球の環境の変動は緩やかなので、生命がこれほど多様で豊かだと言う学説があります。

月が僅か数ヶ月の間に細かく砕けて広く拡散してしまった場合にはより複雑な重力の変化が起こります、その結果地球は予想もつかない運動を起こすでしょう。この影響は全地球規模での大規模な環境変動として現れます。

ここで注意して頂きたいのですが、現在の地軸の両端、南極と北極が寒冷な気候であるのは、地軸の傾きが比較的浅い為(公転面に対して約66.5度)両極はほぼ半年間殆ど日光の照射がないのことと共に、太陽の光の照射方向に対し両極の地面が極めて浅い角度(23.5度)をしている為に単位面積辺りの日光の照射量が極めて少ない事に由来します。

極点が寒いのはこのホンの些細な偶然(?)に因るものなのです。

通常でもポールシフトは起きていますが、どうやら多くは地軸の傾きごと変化する様に動く様です。今の南極は過去の南極と同じ地点のままと言う事ですね。

これは地球が自転の遠心力によって赤道の方向に僅かですが膨らみ楕円形に成っている為とも言われています。この扁平と月と地軸の安定のプロセスはまだハッキリとは判ってはいません。

もし地軸が太陽に対して傾きを変え、自転軸の傾きが因り大きな角度をとった場合、つまり極点が現在の赤道に近くなる様な状態になった場合は、太陽に面した方の極点が極めて熱い気候と成ってしまいます。

今回のポールシフトでは新北極となったアメリカ合衆国は寒冷になっていますから、上記の様な運動ではなく、公転軌道に対する自転軸の傾きはそれほど変化せず66.5度をほぼ維持している様です。むしろ従来は殆ど起きていなかった、地軸に対して地球が転がるような回転をした為に従来の北極点の位置にアメリカの方が移って来たと考えられます。

ムーンロストの世界は、まさに「予想もつかない事態」を迎えているわけです。


エウロパ(エウローペ)(Europa(英)ΕΥΡΟΠΕ(ギ)):〔2003年3月5日〕

木星の第2衛星、赤道半径:1533[km]、質量:4.7475*10(^22) [kg]

月の赤道半径:1738[km]、質量:7.348*10(^22) [kg]

エウロパは太陽系内にて観測されている限りでは、大きさと質量が月に最も近い衛星である。


クロワッサン(croissant(仏))(補足記事):〔2003年3月5日〕

今ではバターをタップリ使って折り畳んだ、サクッとした生地の仏蘭西風のクロワッサンが主流ですが、当初は普通のパン生地、またはバターロールの生地でつくられていたそうです。

クロワッサンは発酵と加熱によるガスの生成、バターの油脂の作用で、軽くふっくらとした独特の風味がある私の大好きなパンです。

でも食べ過ぎると・・・・太る(^^;

元々のウィーン式の三日月パンも、ギプフェルやクレセント・ロールの形で現在もつくられています。

作中ではこのクロワッサンの起源について「18世紀に進入したオスマン・トルコ軍・・・」とありますが・・・・私の調べではスレイマン1世統治下のオスマン・トルコ軍によるウィーン包囲攻撃は西暦1529年「16世紀」です。

でも私の持っている別の資料ではクロワッサンは「17世紀末」のウィーン攻撃を撃退した際のパン職人達の協力を祝して三日月形のパンが造られたとあります。

さて「クロワッサン」の真実は何処?(^^)


第5話(講談社アフタヌーン誌2003年3月号掲載)
24P