三人の戦友たち 〜 触発の系譜 〜


その3.倉本聰脚本作品「前略おふくろ様パート2」

(null)  好評のうちに終了した前略おふくろ様は、芸術選奨文部大
臣賞、ゴルデンアロー賞に輝いた。後に倉本聰はこの作品の
成功の理由として、各キャストが劇中陰と陽を別々に担当す
るのではなく、それぞれの内部に陰と陽を秘めていた特異な
キャスティングであったこと。スタッフ・キャストが如何に
ドラマを面白くするかに狂わんばかり姿勢を貫いていたこと。
つまり創造の情熱に満ち溢れていたこと等をあげている。
21年間続くことになる「北の国から」以前で、この作品は、
最も燃えた作品であると断言している。



 パート2は、倉本聰の単独脚本によって、三十路が近づき、母のこと、くにの家族のこと、
恋愛のことに物憂い日々を続けるサブの様子が描かれている 。パート1から続く、母と妻の
間に挟まれて苦悶する半妻のペーソスも、三十路以上の男性を中心に、圧倒的な支持を受け
た。

 このドラマが放映される9ヶ月ほど前、1976年1月NHKで放送された橋田壽賀子の「となり
の芝生」は、通常6〜7%の銀河テレビ小説を20%以上に引き上げ大評判となった。山本陽
子と沢村貞子が演じた嫁姑の問題という古典的な題材をより直接的な台詞で超辛口のホーム
ドラマに仕上げたものであったが、結末はやはり予定調和的で落胆させたし、前田吟が演じ
た嫁姑に挟まれた夫を、男性側の視点から見た時、リアリティにかける面も多々あったこと
も事実だった。

 倉本聰はすでに「6羽のかもめ」において、そういう夫のペーソスを、男性側の視点から
リアルに描いて(演じたのは大滝秀治)いた。前略おふくろ様パート2では、大胆にも劇中
半妻が「となりの芝生は伸び放題」(超直接的アンチテーゼ)というテレビドラマに苦悶す
る姿を描き、やがて気づかぬうちにその続編ドラマに鳶役としてゲスト出演することになる
というオチまでつけた。

 実はパート2の後半において、萩原健一や桃井かおりらと倉本聰の間に、感情の行き違い
が生じていたらしい。(倉本聰テレビドラマ集3 6羽のかもめの巻末の座談会での発言)。役をよく見せようという俳優の特性と、役の欠点をリアルに書くことでキャラクターをよく
書こうとする脚本家倉本聰の特性の軋轢だったようである。後に修復され、番組終了直後、
一夜限りのオールナイトニッポンのパーソナリティを担当した萩原健一のもとに、北海道か
ら電話を入れて談笑している。さらにここからにもう一つ秘話が生まれ、る。倉本とは無関
係であるが、萩原健一は番組の途中で担当ディレクターと衝突し、生放送を途中で帰ってし
まうという、彼らしいハプニングをおこしてしまった。

 前略おふくろ様パート2は、パート1では果たさなかった「おふくろ様の死」という終局に
向かって進んでいった。倉本には過去に嫌な思い出があった。それまで何度かあった、自分
のドラマに出演している役者の死である。今回もまたそれが繰り返される予感が彼を支配し
ていた。それほど、おふくろ様を演じていた田中絹代の病状は思わしくない状況になってい
た。劇中のおふくろ様の死の知らせがサブのもとに届く22話のオンエアーの二日後、田中絹
代は亡くなった。23話。山形ロケの葬列のシーン。田中絹代は遺影の中でいつもの明るい微
笑で己の役を演じることとなった。詳細な内容はエッセイさらばテレビジョンの「追伸おふ
くろ様」、もしくは愚者の旅我がドラマ放浪記の中の「断章田中絹代」に書かれている。

 ここでは、そこには掲載されていない別の逸話を紹介したい。それは「ペップ出版倉本聰テレビドラマ集2前略おふくろ様」の巻頭に掲載された「追悼田中絹代さん 葬列」という
文の中に書かれている。田中絹代の葬儀において、群がっていた報道カメラマンたちは、会
葬スターたちを撮り尽くし、もう殆どが消え去っていたその中を、おそらく雨の中で何時間
も待たされていた無言の人々が、両側に並んだスターたちの姿には目もくれず、只正面の田
中絹代の遺影にへと黙々と波のように進んでいったという。人々は一様に背が低く、中には
地方から駆けつけてきたのか、ボストンバックを下げた人。昼休みに職場を抜け出てきたら
しい、事務服姿の老若の女性たちもいたらしい。長い群衆の列が漸く途絶え、関係者がホッ
と息をついた。その時、もうもうと煙を上げている焼香台の白布の上に、キラキラ光る丸い
ものが、転々と無数に、お賽銭のごとく、そっと置かれていたらしい。その一種異様な光景
に関係者はしばらく呆然と立ちすくんでいたという。「無声映画からテレビの時代まで、賞
賛批判羨望嫉妬、あらゆる波にもまれて生きてきた一人の女優への、これこそ庶民からの勲
章のようだ」と感じた倉本聰は、その光景を想い出すたび今でも胸が熱くなるという。

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パート2作品データ

制作会社:渡辺企画、NTV
放送期間:1976/10/15 〜 1977/4/1
放送時間:金曜日 21:00〜21:55
放送回数:24回
演出:吉野  洋(3)(5)(6)(8)(10)(11)(12)(13)(14)(15)(16)(19)(20)(22)、
   高井 牧人(1)(2)(4)(7)(9)(17)(18)(21)(23)(24)

プロデューサー:工藤 英博、清水 欣也、武井 英彦 平島 定夫
チーフ・プロデューサー:梅谷  茂
企画:倉本  聰
原案:倉本  聰
脚本:倉本  聰

キャスト

萩原 健一、八千草 薫、梅宮 辰夫、桃井かおり、田中 絹代、風吹ジュン、
汐路  章、志賀  勝、坂口 良子、木之内みどり、生井 健夫、下元  勉
寺田  農、小松 政夫、小原 秀明、大滝 秀治、岸田今日子、小鹿  番
石井 富子、小野 武彦、北林 谷栄、丘 みつ子、高沢 順子、緋多 景子
今井 和子、藤田 淑子、新井 春美、清水まゆみ、牧 よし子、加藤  嘉、
室田日出男、川谷 拓三、大口 広司、高月  忠、岡嶋 艶子、森田 京子、
河原 裕昌、三浦 洋一、田中えりか、長谷川 弘、木田三千雄、大原 麗子、
岸田今日子、関根  勤、山内  明、安藤  昇、大木  実、岩尾 正隆、
小原 秀明、金井  大、河原崎健三、戸浦 六宏、渡瀬 恒彦、中村 亜子
下之坊正道、中村 たつ、小沢 弘治、垂水 悟郎、樋浦  勉、鶴間 エリ
殿山 泰司、北島 和男、北浦 昭義、加藤 和夫、中村美代子、山田 芳一
岩城 滉一、泉 よし子、
 

挿入歌:萩原 健一(前略おふくろ)
音楽:井上 堯之、速水 清司
技術:原田 伸夫
カメラ:矢野 恒道、福原 啓祐、畑中 義男、田口勝大
音声:田口征四郎、掛川陽三郎、笹田明彦
調整:清水久雄
VTR:平井宏明、飯野 隆司
照明:関  真久、勝田 文雄、中村 好男、中村 利直
音響効果・小川 彦一
セットデザイン:田原 英二
美術:篠崎 安雄、武田  寛、岡村 芳雄、金子 雅男、藤田 元文、平岡 栄治
板前指導:清水高廣
衣裳:櫻井 輝行
メイキャップ:谷山 一美、池上 美代子
タイトル:丸山 能明
タイトル画:滝田ゆう
写真:岡 天寿
スチール:押山 晃一、西田輝彦
広報:河村 良子