三人の戦友たち 〜 触発の系譜 〜


その2.倉本聰脚本作品「前略おふくろ様パート1」

(null) エッセイ、コメント等で何度か触れられて来たことではあ
るが、倉本聰がこのドラマを書いた動機、さらにドラマ企画
制作過程を以下にまとめてみた。

1.古い恋文

 実母の死後、倉本聰が彼女のトランクから発見したものは
実父から実母に宛てられた一通の封書であった。彼が受けた
ショックはかなりのものであったらしく、母にも青春があっ
たということ、それを夢にも思ったことがなかった自分。そ
ういう部分を描きたいという衝動に強烈にかられらしい。


    参考(理論社「愚者の旅わがドラマ放浪」その他)

2.老人問題をよりさりげなく               
            

 実母の死の直後書かれた北海道放送(HBC)制作東芝日曜劇場「りんりんと」において、
シリアスな書き方をしてしまったことを反省していた倉本が、テレビは娯楽であるべきで、
娯楽の中でこそ云いたいことをさり気なくを出すべきだと心情を変化させた。

   参考(「倉本聰テレビドラマ集2前略おふくろ様」の山口瞳氏との対談。その他)


       *「りんりんと」東芝日曜劇場(HBC制作)1974年9月8日放送
                演出)守分寿男 出演)田中絹代、渡瀬恒彦

(null)             実母が生前倉本聰に云った
         「私、本当に生きていいの?」を
           軸に書き上げられた現代版の
          姨捨山の話。子が親に捨てると
          いうより親から見捨てられた子
          を描こうとした作品である。

       老母力石さわは次男信に付き添われ、
       北海道の老人ホームへ入居する旅に向
       かう。ドラマの大部分は その旅の途中
       の東京〜苫小牧間のフェリーの船上で
       の親子の様子を描いたものである。

       健忘症が進行しているさわは、今回の旅を観光旅行と勘違いしているかの
       ようにはしゃぎ、死んだ夫との若き日の思い出を信に語る。信の心の中に
       このままホームへ送ることへの迷いが生じ始めるが....

       いろんな 意味で極めて重々しい作品であった。



3.役者「萩原健一」の魅力

 中部日本放送(CBC)制作東芝日曜劇場「祇園花見小路」やNHKの大河ドラマ「勝海舟」
に出演した、俳優ショーケンの天才性にすっかり魅入られていた倉本聰が、太陽にほえろ、
傷だらけの天使といったショーケン出演作品のプロデューサーであった清水欣也氏から、
ショーケン主演のホームドラマをという依頼(上記倉本聰テレビドラマ集2前略おふくろ
様の山口瞳氏との対談中で、倉本聰はショーケンからの依頼で書いたとコメントしている)
された。

 「前略おふくろ」というショーケンのシングルレコード(阿久悠氏の作詞)のタイトル
に「様」をつけて番組タイトルが決定した。

4.初期段階のドラマ設定

 このドラマの企画段階におけるシノプシス、登場人物のキャラクター設定等の一端をつか
める唯一の資料といえるものが存在する「井上堯之バンド『前略おふくろ様』オリジナルサ
ウンドトラックのアルバムジャケット内に収められていた番組の解説書(裏面は全曲楽譜)
である。おそらく番組企画書(倉本聰の記述のキャストの履歴の可能性あり)からの転載であろう。


 以下に紹介する。

***************************************

片島三郎(24) 萩原健一

通称さぶ。山形県出身。18の時故郷を離れ東京に来た。くにには中気の父と、健康で陽気
な母、そして五人の兄がいる。母想い。くにを出てから殆ど帰っていないさぶだが、しか
し手紙だけは小まめに出している。現在料亭「分田上」の三番板前。無口で大変照れ屋で
あり、地方特有のちょっとピントの外れたおしゃれ。都はるみとダウンタウンブギウギバ
ンドが好き。

村井秀次(40) 梅宮辰夫(当初予定されていた小林旭降板の噂あり)

さぶが初めて本当に惚れた男である。彼の存在は、たとえばさぶにとって、「女など、も
うどうだっていい」と思わせる程のある種の大きな感動であった。料亭「分田上」の板前
頭であり、女将ぎんの最も信頼を置く男である。彼の包丁は東京でも数少い名人芸といわ
れ、それを愛してこの家を訪れるお客の数も少なくない。殊に、政界の黒幕といわれる坂
口五平は、彼を子供のように可愛がっている。
秀次は昔、浅草近郊のやくざだった。人を殺し、十年の刑務所暮しをしたことがある。今
でも昔の仲間たちは、何かと彼に近づいてくるが、彼は彼らを避けもしない代りに、決し
て深くつけ入らせない。
さぶを可愛がり「分田上」を愛し、そして崩壊Lて行く江戸に殉じて、彼は悲劇的な死を
遂げる。彼こそはこのシり−ズの中で、光らねばならない無口な星である。

うみ 岡野海(22) 桃井かおり

さぶの母方の又妹。両親は仙台で中学の教師している。19の齢に家出して、いわば親せき
の恥部と云われた。さぶはこの娘と少年時代殆んどニ、三度しか逢っていない。なのに突
然海は現われた。極めて馴々しく、極めて可愛く、そしてさぶが思わず逃げ腰になるよう
な奔放さで、海はさぶの部屋に腰を据えてしまった。そして....彼女は時に母の如く、時に
姉の如く、徹底的にさぶをリードする。その為にさぶはある時は家出までしてしまうので
ある。海は本当はさぶに惚れている。いや、途中から惚れると云った方が正確だろう。そ
してさぶに気のないことを知り、時には自堕落な暮しへと落込んでみせたフリをする。し
かしそれとて所詮フリである。あふれるさぶの愛情の対象を、徹底的に海は嫉妬する。男
の秀次に対してすらである。だが結局は最後までふられ通す、安っぽく、やさしい妹役で
ある。

木口かすみ(21)  坂口良子

深川南一番組組頭木口銀次(当76才)が、55才にして作った娘である。為に銀次の盲愛を
受けているが、本人はその父の過保護から逃れたく、料亭「合田上」の仲居として働いて
いる。さぷと愛し合ったことが彼女の父の逼鱗に視れ、彼女は「分田上」をやめさせられ
る。海のこと、その他の女の事など、様々な困難をのりこえて、彼女はさぷと一緒になる
が、その途中では自殺まではかろうとするナイーブでひたむきな面がある。高校までで学
校はやめたけれども、ちょっとした三流文学少女で、三島由紀夫や丸山健二を読めといっ
てさぶに押しつけるので、漢字のあんまり読めないさぷには、これが恐怖の的である。

浅田ぎん(65)  北林谷栄

江戸時代から伝わる料亭「分田上」の女将である。夫に早く死に別れ、殆んど一人でこの
店をこれまで切り盛りして来た。昔一時期芸者に出ていた時代もあり、政財界は勿論文人
墨客にもファンが多い。今でも毎晩きちんと整装して、座敷から座敷へと顔を出す女丈夫
だが、「滅入りのぎん」と異名をとる位、どこの座敷でも経営難をぼやき宴席を滅入らす
名人である。手当り次第に神仏を信拝し、迷信、まじないのたぐいを遵守する。深川木場
の移転に伴い、「分田上」崩壊に立会うわけであるが、彼女こそある意味で、一つの江戸
情緒そのものであろう。若かりし頃、木口銀次に水揚げされたという噂がある。

浅田ミツ子(27) 丘みつ子

浅田ぎんの一人娘。結婚しているが夫は養子である。しかも今や殆んど蒸発してしまって
いる。ぎんと共にこの家を切り盛りしているが、この若い不遇な人妻は、さぶにとっての
一つの夢である。だが、ミツ子は秀次に惚れているらしい。己れの立場をしっかり弁えて、
かたくなにそ知らぬ顔をする秀次と、それを判ってじっと耐えているミツ子の姿、さぶに
とって悲しい感動である。

片島益代(65) 田中絹代

さぶの母。中気の夫を抱え、さぶの5人の兄の誰にも世話にならず、陽気に毎日を暮して
いる。彼女は昔夫と駆落ちした。童女のようなこのおふくろは、さぶにとっては理想の
女である。


 照れ屋で臆病で、人見知りで、そして金には縁がなく、しかし、彼なりの夢と純粋さで
恋もし、ときには闘う若者さぶ。このドラマは、深川の木場に近い料亭で板前として働く
若者さぷ(萩原健一)の青春遍歴を、さぶがはじめて惚れた板前頭秀次(梅宮辰夫)への
尊敬と傾倒、老組頭と−人娘かすみ(坂口良子)との恋、そして、深川木場の移幸云計画
に伴い、江戸時代から続いてきた料亭もつぷれてしまうという、いわゆる江戸の崩壊など
を盛り込んで描かれてゆく。
 主演は、「傷だらけの天使」以来半年ぶりのテレビ出演の萩原健一、ほかに、梅宮辰夫、
田中絹代、北林谷栄、桃井かおり、丘みつ子、坂口良子、加藤嘉、小松政夫、桜井センリ、
室田日出夫、川谷拓三ら異色な顔ぶれ。

*****************************************

 以上の企画ではじまったこのドラマ。前項の『その1「それぞれの秋」で述べた通り、
倉本聰が山田太一が用いたナレーションに大いに刺激され、桃井かおりに触発され、俳優
萩原健一の天才性に魅せられ、陽と陰を巧みに演じ分ける芸達者な役者達に支えられ、東
映ピラニア軍団も加わり、ドラマ「前略おふくろ様」は制作されはじめたのだった。脚本
家自体が大ファンである山口百恵主演の大映ドラマ「赤い疑惑」という強力な裏番組が存
在したのにもかかわらず、倉本ドラマとしては異例の平均視聴率17%をたたき出し、評価
も高く、翌年からの続編の制作が決定した。それにともない、企画当初に予定されていた、
益代や秀次の死、さぶとかすみの結婚等の設定は変更された。

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パート1作品データ

制作会社:渡辺企画、NTV
放送期間:1975/10/17 〜 1976/4/9
放送時間:金曜日 21:00〜21:55
放送回数:26回
演出:田中 知己(1)(5)(6)(10)(13)、吉野  洋(2)(3)(4)(7)(8)(9)(12)(14)(17)(18)(20)(22)(24)(26)
高井 牧人(11)(15)(16)(19)(21)(23)(25)
プロデューサー:工藤 英博、清水 欣也、平島 定夫
チーフ・プロデューサー:梅谷  茂
企画:倉本  聰
原案:倉本  聰
脚本:倉本  聰(1)(2)(3)(4)(6)(7)(8)(11)(12)(14)(15)(16)(17)(18)(21)(23)(24)(25)(26)
市川 森一(5)(10)、高階 有吉(9)(20)、金子 成人(13)(17)(19)(20)(22)


キャスト

萩原 健一、坂口 良子、梅宮 辰夫、丘 みつ子、小松 政夫、田中 絹代、
川谷 拓三、室田日出男、北林 谷栄、石井 富子、桃井かおり、桜井センリ、
加藤  嘉、名古屋 章、小松 方正、下元  勉、生井 健夫、寺田  農、
姫 ゆり子、大滝 秀治、火野 正平、丘 さとみ、大口 広司、沢村 貞子、
小原 秀明、小鹿  番、瀬川菊之丞、岡嶋 艶子、岡野 三穂、北島 和男、
杵淵 正美、紀 比呂子、高橋 長英、芹  明香、木の実ナナ、高月  忠、
夏海千佳子、沼田  爆、堀  雄二、山吹まゆみ、赤座美代子、浅野進治郎、
三条 泰子、新田 昌玄、来栖あんな、森塚  敏、倉石  功、草野 大悟、
柳生  博、東野 孝彦、三遊亭小円馬、内藤安彦、河野みちお


挿入歌:萩原 健一(前略おふくろ)
音楽:井上 堯之、速水 清司
技術:中江川 博
カメラ:矢野 恒道、福原 啓祐、畑中 義男、田口勝大
音声:田口征四郎、掛川陽三郎、笹田明彦
調整:清水久雄
VTR:平井宏明、飯野 隆司
照明:関  真久、勝田 文雄、中村 好男、中村 利直
音響効果・小川 彦一
セットデザイン:田原 英二
美術:篠崎 安雄、武田  寛、岡村 芳雄、金子 雅男、藤田 元文、平岡 栄治
板前指導:清水高廣
衣裳:櫻井 輝行
メイキャップ:谷山 一美、池上 美代子
タイトル:丸山 能明
タイトル画:滝田ゆう
写真:岡 天寿
スチール:押山 晃一、西田輝彦
広報:河村 良子