NU SPECIAL INTERVIEW
『ドラミちゃん ミニドラSOS!!!』森脇真琴監督
楽しい未来を描きたかった
(NU33号 「F先生じゃないドラえもん」特集より)
もりわきまこと
北海道生まれ。シンエイ動画入社後『一球さん』で動画から演助になり、シンエイ版『ドラえもん』で草創期から'89年頃まで演出を担当。劇場版『怪物くん デーモンの剣』『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』では演助を担当。『ドラえもん』の演出のかたわら、'83年頃あにまる屋に移籍され、『ハイスクール鬼面組』『YAWARA!』など多数の作品の演出、『おるすばんエビちゅ』('99)では監督を担当されている。お気に入りは、『ドラえもん』のTVスペシャル『のび太の海底ハイキング』(絵コンテ・演出)、『さすがの猿飛』(数本演出を担当)だそう。現在も、あにまる屋にて様々な作品にて演出で参加されている。
■シンエイ版ドラえもん
NU シンエイ動画入社までの経緯をお聞かせください。
森脇 札幌の大学に行っていたんですが1年休学して、東京に来てぶらぶらしていたんです。アニメのアの字も知らなかったんですが、近所にあったシンエイ動画が、ちょうど人を募集していて入社しました。最初は動画でした。水島新司原作の『一球さん』をやっているときに、演出助手(演助)になったんです。動画から演助までは1年たっていなかったと思います。しばらくして『ドラえもん』が始まって、絵コンテや演出をやりだしました。
NU 初期の『ドラえもん』は、福富博さん、もとひら了さんと、森脇さんでメインだったと伺いました。
森脇 最初は誰か監督がいたと思うのですが、福富さんだったかな。福富さんが途中から『怪物くん』に移られたので、私ともとひらさんが演出をやるということだったと思います。
NU 『ドラえもん』の初期作品は演出担当しかわからないのですが、リストでは森脇さんが多数演出されています。当時ですと演出イコール絵コンテと考えてよいでしょうか?
森脇 いえ違います。こんなに頻繁には描けないので、多分他の人が描いた絵コンテを演出したんだと思います。『ドラえもん』で最初に絵コンテを描いたのは、確か「のび太のおよめさん」だったかなあ。印象深い作品はいくつかあるのですが、さすがに全ては覚えていないですね。最初の頃は、野性味があって、キャラクターも崩れていたりしましたけど、よく動いてましたよね。
NU F先生からの注文は?
森脇 そうですね、そのころ20歳くらいで、藤子先生と年代が違うせいか、私にとっては絵が今風じゃないと思うことがあって、あるとき熊の人形が出て、「原作に似なくていいから」と絵コンテに原作と違う熊を描いちゃったんですよ。そしたらちょっと怒っていたと後で聞きました。今にして思えばなんと恐れ多いことやったのだろうと思います(笑)。
そういえば単なる偶然かもしれませんが、「のび太のくせに」というセリフを最初に使ったのは私じゃないかとも思うんです。それを声優さんたちがその後アドリブで使い出して。『ミニドラSOS!!!』でも「スネ樹のくせに」というパロディをやっています。というのは、妹と中学高校のときに、「○○のくせにー」「真琴のくせにー」とかってやりあっていたのが、絵コンテに出たものなんです。だから、密かにあれは私が最初じゃないかと思っているのですが、ご存知ないでしょうか。
NU 興味深いですね。今はわからないのですが、後日調査してみます。
■びっくりオール百科
森脇 やりました。やりました。確か私が気に入っていたのが、ドラえもんが「いやあドラえもんて本当にいいですよね。」とやる映画解説者の水野晴郎さんのパロディです。パート2も私にやらないかって言われたんですが、そのとき特番の『のび太の海底ハイキング』をやりたかったので、パート2はもとひらさんがやられて、そこから淀川長治さんのパロディに変わったんです。そしたら、そっちの方が有名になってしまいました(笑)。確かにあのマユが動くとこ、面白かった!!
■ミニドラSOS!!!
NU 立ち上げの経緯についてを。
森脇 一番最初、シノプシスを作る前に西新宿のF先生の事務所で会議をしました。会議室に先生が入ってくると、起立!みたいな感じで、とても緊張しました(笑)。色んなアイデアを出して、F先生がいやそれはとか、それは面白いねとか。そんな感じで方向付けをしていきました。私はドラミちゃんがとても優等生すぎると思ったので、例えばお酒でなくて、ジュースか何か飲むと性格がガラッと変わるというのはどうでしょうかと言ったのですが、F先生はいやそれは違うとおっしゃられて。確かにそういう設定を持ち込んだらキャラクターのイメージが壊れちゃうでしょうね。結局ドラミちゃんは、ゴキブリが嫌いというところで、人間味が出るシーンを入れました。海底牧場というのはF先生のアイデアで、本かテレビからだったと思います。
NU 細かいところまでF先生が見られたんですか?
森脇 対面では最初の会議だけですね。あとは、第一稿、第二稿ってシナリオ書いていって、意見を聞いたりしながら作っていったと思います。
■未来世界の描写
NU 未来の描写はとてもわくわくしました。
森脇 当時としては面白かったですよね。あのころ私自身が未来にとても凝っていたんです。今もそうなのかもしれませんが、当時は環境問題などで、『ブレードランナー』のような荒廃した未来だとなんとなく説得力があって、夢のある未来というのは、作ったとしてもお客がまず受け入れないんじゃないかという空気だったんです。その辺り、少し後に公開された『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は過去へ行ったりしてあえて表現していませんでしたね。あまり未来世界を楽しめませんでした。もっと未来の道具などで、楽しく作りたかったのかもしれないんだけど、本当にそれができない時代でしたね。
昔、朝起きたらベルトに載って、歯を磨いてくれて、ボタンで食べ物全部出てきてという明るい未来を描いたアメリカのアニメが大好きだったんです。当時はそういう夢のような未来というのをみんなも楽しんでいたと思うんです。だから明るい未来もあってといいなって。
ですから、もちろん子供たちの関係とか楽しさとか、ぶつかり合いなどがドラマの核としてあるのですが、背景に見える未来世界も自分の中ではかなり大きかったです。
NU いじめられっ子のヤサシ、スネ樹、ミニドラを出すというのは森脇さんのアイデアですか?
森脇 私が参加したときにはもう子供たち3人の力関係とか、ミニドラを出すことは決まっていた思います。
NU 未来ののび太たちももっと見たいと思うぐらい、すごく性格や設定がよくできていると思います。
森脇 そうですよね。でも時間がないんですよ。のび太たちの方ももっと描きたかったんだけど、時間がなくて。
NU 時間があればどの辺まで描きたかったんでしょうか?
森脇 導入でもう15分くらいは未来都市の姿を描きたかったです。サッカーのシーンなども絡ませながら、朝起きて学校に行くとか、そういうシーンも欲しかったな。冒頭は音楽も良かったと思うし。もっとやりたかったです。
NU 音楽については、何か注文を出されたんでしょうか?
森脇 SEはそのころゲームをやり始めていて、確か丸い音を付けて欲しいと言った記憶があります。音楽と主題歌はよくわからないから、お任せだったと思います。
NU 完成した映画についてF先生は何かおっしゃってましたか?
森脇 それは聞いてないんですが、ちょうど『ドラえもん』の映画は10周年だったんです。誰かが『ドラえもん』の世界も、まだまだ掘り尽くされてないものがあるという印象を持ったよと言ってくれました。
NU この作品は毎年映画公開の前日に行われるドラえもんのオールナイトでも何回かかけられてますし、ファンの間でも人気があります。
森脇 それは知りませんでした。作品って作り手の後悔というのはありますよね、いろいろそれがあっても、なんとなく愛着があってすごく無邪気な作品になっているなあって思えて、自分ではとても気に入っている作品です。
NU この世界観で作り続けず、別の世界でシリーズを作られていこうという話はなかったのですか?
森脇 ほんとに設定がよくできているから、私としてももっと見たい思ったので、もったいないですよね。
NU もし、続編の話があったら、監督されてみたいですか?
森脇 やってみたいですね。ファンの方から出版社やシンエイ動画さんに是非プッシュしてくださいね(笑)。
■ユーモアの時代
NU アニメコミックスのあとがきの最後で言われている、宝物というのはなんでしょうか? ネタばらしになるかもしれませんが。
森脇 出版社の方にもちゃんと言った方がいいんじゃないですかって言われたんですが、確か「ユーモア」だったと思います。コンラート・ローレンツという動物学者が書いていたのですが、人間は進化はしているのだろうかって。いままでは憎しみとか争いごとを解決するのは「理性」だって信じられていたんですが、二回の世界大戦とか20世紀は戦争の世紀だったわけですよね。もう「理性」は信じられなくなって、代わってこれからは「ユーモア」が問題を解決していくんじゃないかって。テレビのバラエティとか漫才をみながら、実際そうだなって思ったんです。嫌なことが起こると、「理性」だと押さえつけるだけですが、「ユーモア」の場合は笑い飛ばしたりして、闘争心を発散させるんです。
私は、作品に社会的なテーマとかは込めないタイプなので、『ミニドラSOS!!!』にはそういったテーマは込めていませんが、ただ楽しむといいますか、「何かを楽しいと思う」こと自体が大スゴいことなんだと思って作りました・
NU 本日は貴重なお話本当にありがとうございました。(2001年10月14日 某所にて えすけいぷ・てふてふ)
-◎楽しんで作った未来世界◎-
NU 設定はどのように作られていったのでしょうか。
森脇 普通、実写などですと設定専門の方がいるんですが、この作品ではこんなのはどうですか? じゃあこうしようかって美術監督と相談しながら作って行きました。
<オープニング>
●冒頭の積み木ロボット
森脇 冒頭の窓の上を動く積み木ロボットの、カタカタカタっという音がすごく気に入ってるんです。
●コンピューターになるランドセル
森脇 未来なら当然コンピューターになっていても可笑しくないと思って。あんまりコンピューターらしく表現できなかったんですけどね(笑)。
●風船がついて飛ぶ教室
森脇 子供のときに読んだケストナーの「飛ぶ教室」という児童文学を思い出して、教室、飛ばしたいなあって思ったんです。ビルの上にバッタの羽みたいな緑色で半透明で網のようなものがヒラヒラーというイメージがあって、それでなんとなく風船みたいな感じにしたんですが、そういう感じはなかなか描けなかったです。秒数もなくて。
●冒頭のサッカーシーン
森脇 未来だと当然国際化も進んでるはずだと思って白人や黒人の子も入れました。学校のクラスとかのシーンがあったら、そういう子を散りばめたりしたいなど、思いは一杯あったんですが、これも時間がありませんでした。
●サッカーを応援する女の子
森脇 服を透過光にしたんですけど、あれはスタッフに唐突じゃないかなあって言われました(笑)。
<ノビスケの家>
森脇 服を光らせたりとか、透明なアクリル素材を建築に使いたいとか、そういうことをすごく考えました。
●部屋の設定
森脇 部屋の設定もスタッフみんなでいろいろ考えました。水槽を一階とつなげたり、二階のフロアが一階から見えたりとか。最近こういうのも出てきましたよね。
●居間の水槽
森脇 これは透過光の水槽の中を赤い魚が泳いでいるというものだったんですけど、透過光がきれいに出て最初はすごくうまくいったんです。ところが、ドラミちゃんの尻尾が塗っていなくて、撮り直しになったんです。セル時代の透過光というのは、なかなか毎回同じようには撮影できなくて、このカットはリテイク前の方がきれいでした。悲しいですよね。デジタル時代はそこだけ取り直せばいいんだけど、当時はそうはいかなかったんです。
●透過光のジュース
森脇 ジュースには、透過光を三色くらい使いました。どちらかというと遊びですよね。科学が発達して人間の世界がよくなるというより、もっと色んな遊べることが増えるという感じですね。
<スネ樹の家>
●スネ樹のライトフォーク?
森脇 たぶんあんなのは実用的ではないと思うのですが、そういう技術ができればおもちゃとしても売り出しそうな気がするじゃないですか。あんまり役にはたたないんだけど、持っていると、お、スゴイとか。
●スネ樹の家
森脇 いつもはガラスなんだけど、ヤサシがコンコンってノックするとカーテンのように開くようになっているんです。
●スネ夫の睡眠カプセル
森脇 スネ夫が寝ていた睡眠カプセルは3時間寝ればいいんです。こんなのあったらいいなあって。『ブレインストーム』というSF映画で、睡眠カプセルの中で寝ると熟睡できて、3時間くらいで回復できるというのがあって。そこからいただきました。
<未来の町>
森脇 本当に短いカットでも、奥の方に座っている人の服装とか髪型なんかも一生懸命考えてるんです。後で見て、あんまり効果ないじゃん、カットが短すぎるよ〜というのもあったんですが、もっと細部を描きたかったんです。私、監督をやらなくてもいいから、設定だけやっていたい瞬間もありましたね。建物とか。
●木造高層建築
森脇 すごく近代的なものがありつつ、となりに古い町並みがあって、というイメージだったので、木造の高層建築というのを作りたかったんです。でも、あんまりスタッフの方が賛成してくれなくて、見た感じ効果ないよーって言われました…。
●アクリルの塀
森脇 アクリル素材っていいんじゃないかなあって思ったんです。
●園児たちとノビスケ
森脇 このシーンは楽しいシーンだと、評判が良かったです。
●ノビスケたちのギャグシーン
森脇 もちろん最初はシナリオありきなんですが、絵コンテを描いていくうちにどんどん膨らんでしまいました。
●ドラ焼きを買うカード
森脇 未来なら子供もカードを日常的に使うんじゃないかと。また、ミニドラがかわいいんですよね。小さなどこでもドアとか、小さなミニ雷雲とか、ミニドラのセコイ道具もいいですよねー。
●人工の川
森脇 人工の川が作ってあって、岩に似せた作り物の岩があって、全部作り物なんですって言ったら、「いやな世界だねえ」って言われて(笑)。やっぱり自然なままが好きな人は好きなんですね。ただ遊びって捉えて、ほんとに自然そっくりに見える岩の間にちょっとチョコレートのお菓子でできた岩も置いておくとかね。そんなのいいんじゃないかなって。
<海底牧場>
NU 20年先の科学はどうなっているかは念頭に置かずに考えられたのでしょうか。
森脇 はい。やはりこどもは20年先に、科学力はここまでとかなんて思わないじゃないですか。子供の生活に関係のあるところ、例えばナイフやフォークはどうなっているかななどセコイところで考えました。
●海底牧場
森脇 ここは、いろいろな処理で頑張りました。背景さんもすごく描き込んでくださったんです。
●ソーラーヨット
森脇 亀型ソーラーヨットは作監だった高倉佳彦さんがデザインしてくださいました。
ソーラーパネルは、当時日本の折り紙技術が人工衛星などのソーラーパネルに使われたというのが話題になっていたのをヒントにして、七夕の蛇腹に開くかざりのイメージでやったんです。
●ソーラーヨットの内部
森脇 船内もエネルギーの量が目で見ただけでわかるようにしたり、コントロールパネルを楽器にしたり、一生懸命考えました。
●ビー玉発信器
森脇 このビー玉は、すごいんです。あの頃CGが使えなかったから、木上益治さんというアニメーターの方が全部手書きで透明感などを表現してくださって。セルに正確な円を起こすのはすごく大変なんです。
<おまけ>
●冒頭に出てくるゴンスケ
森脇 これは私のアイデアではなく、最初からシナリオにありました。
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●はみだし情報●
●森脇さんのドラえもんの参加作品は、前出の大畑さんの「ドラちゃんのおへや」のホームページまたは当会スタッフ加藤周司発行の「アニメ・ドラえもん放映リスト」(本のお問い合わせはkatosyu@par.odn.ne.jpまで)をご覧ください。
●はみだし情報●森脇さんが監督された「おるすばんエビちゅ」(伊藤理佐原作・ガイナックス制作)のホームページ。森脇監督の制作日誌もあります。「スタッフのみんなと笑い転げながら作ったんです。言っていけないことがそこではなくなって、聖域なきアフレコだったんです」ととても楽しんで作れたそうです。
おるすばんエビちゅ http://www.futabasha.co.jp/ebichu/anime_f.html