『北海道新聞』社説 2007年10月11日
海上給油活動 憲法の原点に返る時だ
今国会最大の争点である海上給油活動継続問題をめぐり、衆院予算委員会で攻守ところを変えたような憲法論議が行われている。
政府・与党が野党党首の自衛隊派遣論に対し、「憲法違反につながる」とかみついているのだ。
火種を提供したのは民主党の小沢一郎代表だ。月刊誌の論文で、自分が政権を取ったらアフガニスタンで活動する国際治安支援部隊(ISAF)に自衛隊を参加させると明言した。
国連決議に基づく活動は日本の主権に基づく行為とは区別される。仮に武力行使を含んでも「国権の発動たる武力行使」を禁じる憲法九条には抵触しない。そう主張している。
海外での武力行使を認めるこの憲法解釈を私たちは到底容認できない。たとえ国連決議があっても、平和憲法の精神に照らせば自衛隊が海外で血を流すことは許されないはずだ。
政府も自衛隊が海外で武力を行使するのは憲法違反だとの立場をとっている。だからこそ、陸上自衛隊をイラクに派遣する際、当時の小泉純一郎首相は「自衛隊の行くところは非戦闘地域」と強弁したのだ。
石破茂防衛相も小沢論文を「武力行使を伴うISAFへの参加は認められない」と批判した。
ただ論文が給油活動が抱える問題の本質を突いている面は否定できない。
政府は、給油活動はテロ活動の抑止を目指す国際社会の取り組みに協力する国際貢献だと説明する。これに対し、実態は米軍への支援で集団的自衛権の行使に当たり、憲法に反しているというのが小沢氏の指摘だ。
福田康夫首相は予算委員会で、海上自衛隊は非戦闘地域に限って行動し、後方支援で武力行使をしないのだから憲法に違反しないと反論した。
政府はこの見解にのっとり、十一月一日で期限が切れる現行のテロ対策特別措置法に代わる新法案を来週にも国会に提出する予定でいる。
だが、後方支援が軍事活動の一環だというのはむしろ常識だ。
集団的自衛権行使の問題を含め、自衛隊の海外派遣と憲法との関係をめぐる政府の説明は、およそ説得力を持っているとは言えない。
一九九一年の湾岸戦争の際、日本は百三十億ドルもの巨費を拠出しながら国際社会から評価を得られなかった。
これがトラウマ(心的外傷)となり、政府は以後、国連平和維持活動(PKO)法を作り、特別措置法も成立させて自衛隊を海外に送り出してきた。
この間、強引な解釈改憲を重ねてきたことは否定できまい。新法案をめぐる国会論議が再び原理原則をないがしろにしたものになってはいけない。
あらためて憲法という原点に立ち返る−。それが小沢論文の問題提起だと受け止めることもできよう。
『北海道新聞』社説 2007年8月31日
集団的自衛権*説得力ない身内の議論
やはり、はじめに結論ありきだったようだ。
集団的自衛権の憲法解釈見直しを検討する政府の有識者会議が、安倍晋三首相が示した四つの類型について、ひと通りの議論を終えた。
《1》近くにいる米国艦船が攻撃された場合の応戦《2》米国に向けて発射されたミサイルの迎撃《3》他国の軍隊が攻撃されたときの駆けつけ警護《4》戦闘地域での後方支援の拡大ーである。
会議ではいずれについても、現行の憲法解釈を改めるなどして認めるべきだという意見が大勢だった。
メンバーは、集団的自衛権の行使や自衛隊の海外での武力行使を認めようという人ばかりだ。多様な観点から是非を論じる場とは思えない。
専門家による検討という看板を掲げて権威づけしても、これでは説得力はない。会議は十一月にも最終報告書をまとめる予定だというが、こんな会議の議論を、憲法解釈見直しのよりどころにされては困る。
ただ当面、政府の解釈見直しは棚上げせざるを得なくなっている。先の参院選で自民党が惨敗したうえ、連立を組む公明党も反対しているためだ。各種世論調査でも、見直し不要派が多数を占めている。
国民の声をないがしろにして、結論を急ぐ必要はない。
日本は国際法上、集団的自衛権を有しているが、憲法九条が許容する必要最小限度の自衛権の範囲を超えるため行使できない、というのが政府の一貫した立場だ。
ところが首相は、この憲法解釈はおかしいと考えている。念頭にあるのは日米同盟だ。
日米の軍事一体化が進めば進むほど、集団的自衛権の不行使原則は邪魔になる。米国も行使容認を求めて首相を後押ししている。
これまでの政府見解は、内閣法制局が理論的裏づけを担ってきた。政府・自民党内には、役人がとりまとめた見解に政治がしばられる必要はないといった主張もある。
だが政府見解には、国会でいく度となく議論を重ね、練り上げてきた歴史的経緯がある。国民的合意を得た見解だといっていい。その重みを無視することはできない。
インド洋やイラクへの自衛隊派遣も、米国と共同で導入を進めるミサイル防衛システムも、すでに集団的自衛権の行使につながりかねない危うさをはらんでいる。
陸上自衛隊のイラク派遣先遣隊長が、現地で駆けつけ警護を検討していた事実は、その懸念が決して非現実的なものではないことを示している。
自衛隊のきわどい活動を既成事実として積み上げ、憲法解釈を現実に合わせてねじ曲げる。それは無理、乱暴というものだ。
『北海道新聞』社説 2007年8月25日
駆けつけ警護*制服現場の危険な発想
元陸上自衛隊イラク先遣隊長の佐藤正久参院議員が派遣当時、憲法解釈で禁じられている「駆けつけ警護」を行うつもりだったことを明らかにした。
「(陸自の警護に当たっていたオランダ軍が攻撃されれば)情報収集の名目で現場に駆けつけ、あえて巻き込まれる。巻き込まれない限りは(武器使用が可能な)正当防衛、緊急避難の状況はつくり出せない」
佐藤氏は民放の報道番組でそう述べた。りつぜんとする発言だ。
自衛隊は憲法によって海外での武力行使が禁じられている。政府は、海外で活動中の自衛隊が、攻撃を受けた他国軍のもとに赴いて応戦する駆けつけ警護は、武力行使につながるとして認めていない。
国連平和維持活動(PKO)協力法やテロ対策特措法、イラク復興支援特措法でも、武器使用は「自己の管理下にある者」を守る正当防衛などの場合に限定している。
法を逸脱する駆けつけ警護を自衛官が現場で勝手に検討するなど、シビリアンコントロール(文民統制)の原則からいって決して許されないことだ。
佐藤氏に公開質問状を送った弁護士や学者らは、軍部の謀略によって鉄道が爆破され、日中戦争の発端となった柳条湖事件になぞらえて文民統制無視の姿勢を厳しく批判している。
これは杞憂(きゆう)ではあるまい。
佐藤氏は「普通に考えて手を差し伸べるべきだというときは行ったと思う。日本の法律で裁かれるのであれば喜んで裁かれてやろうと」とも述べた。
独り善がりの正義を掲げ、法の処断を恐れずにそれを実行しようと高ぶる姿には、二・二六事件などを引き起こした旧日本軍の青年将校を思わせる危うさがある。
佐藤氏は自衛隊を退職し、先の参院選で自民党から立候補して当選した。法を無視しても構わないというような考えを持っているのであれば、国会議員としての資質にも疑問が生じる。
集団的自衛権の行使について議論している政府の有識者会議では、駆けつけ警護を認めるべきだとする意見が大勢を占めている。
イラクで駆けつけ警護を行おうというのは、はたして佐藤氏個人の考えだったのか。政府や自衛隊の内部で了解があったのではないか。そんな疑念も膨らんでくる。
佐藤氏の発言は、自衛隊の派遣先は非戦闘地域だというイラク特措法の前提をも揺るがしかねない。
次の臨時国会ではテロ特措法の延長問題が大きな争点になる。
現場の自衛官は何を考えているのか、佐藤氏のような考えがいまも現場にあるのか。この際、徹底的に追及しなければならない。文民統制を機能させるとはそういうことだ。
『高知新聞』社説 2007年8月19日
【憲法論議】 頭を冷やして出直せ
安倍首相が加速させてきた、憲法改正に向けた動きにブレーキがかかりそうだ。
参院第一党になった民主党は、今後の憲法改正論議の場となる衆参両院の憲法審査会について、九月召集予定の臨時国会からの始動に反対する方針を固めた。
憲法審査会は、先の通常国会で成立した国民投票法に基づき、参院選直後の臨時国会で設置された。しかし、審議をスタートさせるには、審査会の委員数や改憲案に関する公聴会の在り方など、具体的な運営指針を定める規程案を衆参両院の本会議で議決する必要がある。
民主党は、この議決に反対する方針で、共産、社民両党は審査会そのものに反対だ。審査会は当面、「開店休業」状態になる。
国民投票法は改憲原案の提出、審査を二〇一〇年五月まで凍結している。審査会はそれまでの間、憲法に関する総合的な調査を行う。凍結解除後は審査会自らが改憲案を提出することもできるとされ、その位置付けは極めて重い。
改憲論議のスタートに待ったをかける野党に対し、自民党内にも先送りムードが強い。同党が参院選マニフェスト(政権公約)で示した「二〇一〇年の国会で憲法改正案の発議を目指す」日程は、大幅に遅れる可能性がある。
もっとも、そうなった第一の原因は、憲法改正に前のめりになって、あまりにも強引に事を進めた安倍首相の姿勢だろう。国民投票法自体、多くの論点を未消化にしたまま、与党の数の力で押し切った。そのツケが出ている。
首相は改憲を参院選の争点にすると言いながら、実際にはあまり触れず、議論も深まらないままだ。参院選前後の世論調査でも、国民は憲法改正を緊急性のあるテーマとは考えていないことがうかがえた。
憲法の最高法規としての重みを考えれば、これまでの経緯が異常な事態といえる。民意は、ここで一度頭を冷やし、正常な憲法論議に立ち返れと言っているようだ。
憲法論議でもう一つ見過ごせないのは、集団的自衛権をめぐる有識者会議だ。こちらは参院選後に開いた会議で、海外に派遣された自衛隊の武器使用権限を拡大すべきだとした。民意とは関係のない、「結論ありき」の立場で先走っている。
本筋の国会論議の状況を考えれば、首相は有識者会議もいったんストップすべきだ。
『山陰中央新報』社説 2007年8月18日
憲法論議の行方/姿勢を改めて練り直せ
改憲志向の安倍晋三首相の下、憲法施行六十年の節目を迎えて推進役を果たしてきた自民党が参院選で惨敗し、憲法論議はすっかり冷え込んでしまった。憲法改正手続きを定めた国民投票法成立で盛り上がりを見せたあの改憲派の熱気はどこへいったのか。
国民投票法に「設置」が盛り込まれた衆参両院の憲法審査会は、参院選で躍進した民主党の反対によって臨時国会で始動できなかった。民主党は秋の次期臨時国会でも引き続き反対する方針。このため憲法改正論議の舞台となる憲法審査会の発足はしばらく宙に浮く公算が大きい。
首相が強い意欲を示す集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の変更についても、連立政権のパートナーである公明党が明確に反対する意思表示をしている。首相にとっては、どうにもこうにもならない状況だが、こうなった理由ははっきりしている。
首相自らが選挙の争点にしたいと表明し、「三年後の国会で憲法改正発議を目指す」と自民党公約の冒頭に掲げて臨んだ参院選の敗北は、憲法への対応を含む政府、与党の政治運営、政策の優先付けに対して民意が「ノー」を突きつけたといえるからだ。
参院選の結果を受け、民主党や公明党が慎重姿勢に転じたのも、こうした民意を考えれば当然のこと。首相もこの結果を謙虚に受け止め、前のめりで進めてきた改憲路線を反省すべきだろう。
「前のめり」の好例が国民投票法の成立過程だった。
改憲の発議に必要な衆参三分の二以上の合意形成を目指して、自民、公明、民主の与野党三党の実務者が慎重に法律の内容を検討した。あと一歩で合意できるところに来たにもかかわらず、参院選をにらんだ首相の強硬姿勢と、それに対抗する民主党の小沢一郎代表の思惑もあって、与党修正案が衆院憲法調査特別委員会で強行採決され、合意形成は幻に終わった。
直後に民主党の枝野幸男憲法調査会長が「安倍氏が首相である限り、与党と憲法論議しない」と発言したのは記憶に新しい。こうして成立した国民投票法は、厳密に言うと投票権者年齢さえ現時点では確定していない「生煮え」の内容。とても評価できない。
集団的自衛権の憲法解釈変更についても、首相の私的懇談会が秋に「米国を狙ったミサイル迎撃」などを容認する結論をまとめる方向だが、公明党の反対に加え、実現するには法整備が必要なため、参院の与野党逆転が大きな壁になるのは避けられそうにない。
現在はまだ始動のめどが立たないが、衆参両院の憲法審査会は三年間、改憲原案の提出・審議はできないと定められている。三年後にすぐそれをやらなくてはならないということではなく、その意味では時間的余裕はある。
そうなら、国民投票法をもう一度練り直すことを考えてもいいのではないか。集団的自衛権に関しても、本来は政府解釈の変更で切り抜けるような問題ではなく、堂々と憲法九条の改正案を提示して国民の判断を仰ぐのが筋だろう。
首相、自民党は「二〇一〇年中の改憲発議」という目標をまず下ろし、これまでの姿勢を改めて出直す決断が求められている。
『南日本新聞』社説 2007年8月18日
[憲法改正] 論議を急ぐ必要はない
安倍晋三首相が最大の政治目標に位置づける憲法改正論議が停滞する見通しとなった。参院で第一党に躍進した民主党が9月召集予定の臨時国会で、改憲論議の舞台となる「憲法審査会」の実質審議入りに反対する方針を固めたためだ。
自民党は参院選で2010年の改憲案発議を目指すと政権公約に掲げた。大敗の主因は年金や格差、「政治とカネ」の問題だったとしても、改憲に強い意欲を見せる安倍首相の姿勢にも、厳しい判断が示されたと言える。安倍首相はこうした民意を謙虚に受け止めるべきだ。
参院選の結果を踏まえ、民主党は「論議の先送りが民意」と判断した。憲法改正手続きを定めた国民投票法の成立を受けて、衆参両院に設置された審査会の委員数や運営指針を定めた与党側の規程案の議決に応じない構えだ。ここはじっくり与野党が腰を据えて協議すればいい。民意に従い論議を急ぐ必要はない。
参院選の全候補者アンケートで当選者を抽出した分析結果によると、九条改正に反対する議員は55.7%に上った。民主党に限れば、九条を含む改憲を容認する人は19.3%にとどまっている。安倍首相が目指す九条を含む改憲が、緊急の課題でないことは明らかだ。
改憲の発議には衆参両院の総議員の3分の2以上の賛成が必要になる。国民投票法をめぐる協議では「自民、公明、民主」3党が3分の2以上の合意形成を目指したが、参院選をにらんだ自民、民主の思惑から合意直前で崩壊した。自民党は強行採決に踏み切り、改憲路線をひた走る姿勢が強く印象づけられた。
しかし、成立した国民投票法は中身を十分詰め切れず、「未完の法律」とも指摘された。投票権者年齢さえ、現時点では確定していない。改憲論議はひとまず置いて、国民投票法をもう1度練り直すことも必要ではないだろうか。
憲法の解釈変更による集団的自衛権行使を検討する政府の有識者会議は今秋、「米国を狙ったミサイル迎撃」などを容認する最終報告書をまとめる予定だ。しかし、憲法の解釈変更を急げば、野党からの抵抗が強まるのは必至だ。連立政権を組む公明党も明確に反対の意思表示をしている。国民の反発も予想される。
集団的自衛権に関しては、解釈変更で済ませるのではなく、堂々と憲法九条の改正案を示して国民の判断を仰ぐべきだろう。安倍首相にはこれまでの政治運営の手法を見直すことが求められる。
『宮崎日日新聞』社説 2007年8月18日
憲法論議 改憲路線そんなに急がずとも
憲法改正志向の安倍晋三首相の下でその推進役を果たしてきた自民党が参院選で惨敗し、憲法論議はすっかり冷え込んできた。
先の通常国会では憲法改正の手続きを定めた国民投票法が成立し、改憲派は盛り上がりをみせたが、参院選の結果を受けて民主党や公明党が慎重姿勢に転じた。
そもそも国民投票法の成立過程には与党の強引な国会運営が目立ち、十分な審議を尽くさず、広く国民の合意を得たものではなかった。
首相は選挙で示された民意も謙虚に受け止め、強引、時に前のめりで進めてきた改憲路線を反省すべきだ。
■憲法審査会は先送り■
国民投票法で設置が盛り込まれている衆参両院の憲法審査会は、参院選で大躍進した民主党の反対で参院選後の臨時国会での始動ができなかった。
さらに民主党は次期臨時国会でも始動に反対する構え。党内には審査会の実質的な始動を1年程度先送りすべきだとの意見もある。
また、選挙で惨敗した与党もまずは態勢の立て直しが急務となり、審査会始動については先送りムードが濃厚で、憲法改正に向けた日程の遅れは避けられそうにない情勢だ。
首相が強い意欲を示す集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の変更についても、連立政権のパートナーである公明党が反対の意思を示している。
政権発足後、強気の姿勢で独自のカラーを打ち出した首相だが、今はお手上げの状態だ。ただ、こうなった理由ははっきりしている。
首相自らが憲法問題を早い時期から参院選の争点にしたいと表明、自民党の公約の冒頭に「3年後の国会で憲法改正発議を目指す」と掲げて臨んだものの、「ほかに優先して取り組むべき課題ではない」との民意がはっきりと突きつけられたからだ。
■国民投票法練り直せ■
もともと憲法改正問題は、改憲の発議に必要な衆参3分の2以上の合意形成を目指して、自民、公明、民主の与野党3党が法律の内容を慎重に検討していた。ところが、あと一歩のところで首相が参院選をにらみ強行姿勢に転じたため、合意には至らなかった。
結果、与野党が完全に対立したまま成立したのが国民投票法だ。そして同法は、投票権者の年齢が確定していないなど内容的には不十分な状態でとても評価できるものではない。
衆参両院の憲法審査会は3年間、改憲原案の提出・審議はできないと定められている。その審査会は現時点で始動のめどは立っていない。
このことは改憲審議を3年後すぐにやらなくてはならないということではなく、時間はたっぷりある。そうであれば、急いで成立させた国民投票法そのものをもう一度じっくり練り直すことも考えていいのではないか。
集団的自衛権の憲法解釈変更についても、首相の私的懇談会が行使を一部容認する方向で検討を進めているが、参院の与野党逆転が大きな壁になることは間違いない。
まして集団的自衛権の問題は、そのときの政府の解釈変更で済まされるものではない。
首相には3年後の改憲発議にこだわらず、これまでの姿勢を改めて出直す決断がほしい。今後、じっくり憲法九条改正の是非を論議した上で国民の判断を仰ぐべきだ。
『北海道新聞』社説 2007年7月27日
参院選*改憲*これでは信を問えない
改憲をめぐる論議が盛り上がりを欠いたまま、参院選の投開票日を迎えようとしている。
安倍晋三首相は年頭記者会見で改憲を参院選の争点にすると明言した。国民投票法の成立直後には「国家ビジョンにかかわる憲法論議を避けることは不誠実と考える」とまで指摘した。
ところが、公示前後から首相の口は重くなった。改憲のねらいや道筋を説明するどころか、「国民的な議論は深まっていない」とさえ語り始めた。
当初の意気込みは何だったのかと問わずにはいられない。議論の深まりに欠けると認めるのなら、国会を混乱させてまで国民投票法の成立を急ぐ必要などなかったのではないか。
年金や格差、政治とカネの問題が争点化するなかで、憲法問題は票につながらないと判断したのだろう。
改憲を公言し、自民党の選挙公約に「二○一○年での発議を目指す」と掲げている以上、ご都合主義と言われても仕方あるまい。
首相は改憲の内容を問われると「すでに全容を示している」と答える。
自民党が○五年にまとめた新憲法草案は、最大の論点である九条二項の戦力不保持と交戦権の否認を削除し、自衛軍の保持を明記した。海外での武力行使にも道を開いている。
戦後の平和と繁栄を支えてきた現憲法を根本から変える内容だ。
国民の多くが九条改憲に否定的であるにもかかわらず、論議を深めようとの姿勢が首相からは感じとれない。
民主党も公明党もこれ幸いとばかり改憲への言及に消極的だ。民主党は党内論議が煮詰まっておらず公明党は九条改憲に反対だ。護憲を掲げる共産、社民両党との落差は際だっている。
これでは、この選挙で改憲問題を論じたとは到底言えない。まして国民の信を問うたことにはならない。
それだけではない。
選挙後の臨時国会では衆参両院に憲法審査会が設けられる。国民投票法が施行となる一○年にも改憲の発議ができるようになる。今回選ばれる議員たちがそれを担う可能性が高い。
各候補者はどんな憲法観を持ち、改憲にどういう立場で臨むのか。分かりやすく丁寧に語ってほしい。
それなくしては国の最高法規を変える問題を委ねるわけにはいかない。
法が施行されるまでの三年間は憲法審査会で改憲案の審議はできないが、与党は改憲案の骨子や要綱案を作ることは可能と見ている。改憲の流れが一気に早まることになりかねない。
こうした動きに歯止めをかけることができるのか。この選挙の結果が大きく影響してこよう。じっくりと考えた上で一票の権利を行使したい。
『朝日新聞』社説 2007年7月25日
「憲法問題」—白紙委任しないために
今年初め、憲法改正を参院選の争点に掲げたのは安倍首相だった。ところが、選挙戦に入ってからの首相の街頭演説を聞くと「国民投票法が成立した。新しい憲法を書こうじゃありませんか」などと、極めておざなりだ。
自民党のマニフェストは、3年後に改憲案を国会で発議することを目指すとし、そのための国民運動を展開するとあるだけだ。憲法9条を改正し、自衛軍を持つのが自民党の改憲草案の根幹だが、そんな中身は一切触れられていない。
首相の意気込みはいったいどこへ消えたのだろうか。憲法改正は、首相が掲げてきた「戦後レジームからの脱却」の中核の主張だったはずだ。
代わりに、社会保険庁の改組や国家公務員の天下り規制が「戦後レジームからの脱却」と位置づけられているのは驚くばかりだ。年金問題などで応戦に追われる事情はあるにせよ、当惑する有権者は多いだろう。
民主党はこの選挙で憲法にはあまり触れない戦術だが、共産、社民などは護憲を前面に立てて、支持を訴えている。奇妙なことに、仕掛けた側の自民党が論争を避け、後ずさりしている印象なのだ。
だが、論争が低調だからと言って、今度の選挙の結果が憲法問題の行方に大きく影響することは変わりない。
参院議員の任期は6年だ。自民党の言う通り3年後の改憲発議があるとすれば、今度選ばれる議員はその賛否にかかわることになる。自民党の候補者は、改憲の中身や態度を語る責任がある。白紙委任するわけにはいかない。
もう一つ、憲法9条の根幹にかかわる集団的自衛権の解釈の問題が、首相の私的な有識者懇談会で議論されているのを忘れてはならない。
同盟国への攻撃を自国への攻撃と見なして阻止する集団的自衛権は、憲法9条で認める必要最小限の自衛の範囲を超える。だから行使できない。それがこれまでの政府の憲法解釈だ。
そこを米軍と自衛隊がより緊密に協力できるように、解釈を改めたいというのが、首相の意を受けた懇談会の方向だ。政府がその線で踏み出せば、憲法9条の歯止めが失われることに等しい。
それほど重要な争点なのに、自民党マニフェストは「集団的自衛権の問題を含め、憲法との関係を整理し、安全保障の法的基盤の再構築を行う」とするだけで、結論をぼやかしている。
首相も「懇談会で議論を深めている最中だから」と最終的な方向づけは避けているが、それでも解釈変更の必要性は唱えている。
自民党が勝てば、首相は懇談会の報告に沿って、集団的自衛権の行使容認に踏み込むに違いない。改憲への動きにも拍車がかかるだろう。逆に自民敗北ならば、ブレーキをかけざるを得まい。
現在の論戦では目立たないが、こうした論点を見落としてはならない。
『神戸新聞』社説 2007年7月25日
憲法/目立たないままでは困る
国の基本を記した憲法は、国政選挙で論戦を交わすのにふさわしいテーマといえる。とりわけ、こんどの参院選では争点としての重みが違っていたはずだ。
政権の発足以来、安倍首相が憲法改正を政治日程にのせると繰り返し述べてきたこと。さらに、改正の手続きを定めた国民投票法が先の国会で成立し、問題は新たな段階に入ったことが背景にあった。
ところが、年金や雇用、景気などに隠れ、憲法論議は熱を帯びないまま選挙戦も終盤を迎えている。候補者によって濃淡はあるが、総じて目立っていない。
すでに新憲法草案をまとめた自民党は、二〇一〇年に改正発議を目指すとマニフェスト(政権公約)に記した。首相も憲法の争点化に意欲を見せていたが、詳しく触れる場面は少ない。年金などへの対応を優先したにせよ、肩透かしの感は否めない。
公明党も三年後をめどに「加憲案」をまとめるとした。ただ、共通公約の連立与党重点政策では「幅広い国民的な議論を深めていく」などと、トーンダウンする。
一方、国民投票法案をめぐって与党と協議した時期もある民主党も、マニフェストの最後に「国民の自由闊達(じゆうかったつ)な憲法論議を」との項目を盛り込んだだけである。
与党と最大野党がこれでは、「護憲」を掲げた共産党、社民党などが九条の堅持を訴えても、かみ合わないだろう。
国民投票法によれば、成立後三年間は改憲原案の提出などはできないが、次の国会で両院に憲法審査会が設置され、実質的な論議が始まる可能性がある。そうなると、この参院選で選ばれる議員は任期中、憲法に正面から向き合うことになる。
現実的な課題になってきた改憲の行方を、今回の一票が左右するかもしれない。それだけに、各党は憲法についてもっと見解を示し、議論を戦わせてもらいたい。
憲法は今年で施行六十年を迎えた。戦後日本の平和や繁栄の基礎になってきたことは明らかだが、「時代にそぐわなくなっている」との声も高まっている。
護憲か、改憲か。見直すとすれば、どこをどう見直すのか。あらためて各党の立場を知る格好の機会なのに、選挙期間中、踏み込んだ考えが示されないようでは、有権者は判断のしようがない。とくに、首相には、自らの見解を具体的に示してもらわないと困る。
投票日が迫っているが、まだ時間はある。暮らしに直結する課題とともに、国の根幹にかかわる憲法について、もっと語るべきだ。
『西日本新聞』社説 2007年7月22日
将来見据えた論議が必要 集団的自衛権
「日本丸」の船長を昨年引き継いだ安倍晋三首相は、船名を「美しい国 日本丸」に変えたいと言い、かじを大胆に「右」方向に切ってきた。
1年足らずの間に、防衛庁は「省」に昇格した。自衛隊の海外活動は「本来任務」となり、イラク派遣は2年延長された。米軍との一体化も加速している。
船長の次の目的地は集団的自衛権だ。
集団的自衛権は、同盟国などが武力攻撃を受けたとき、自国が直接攻撃されていなくても、他国への攻撃を実力で阻止する権利だ。国際法では認められている。日本の歴代政権は「権利は有するが、行使は憲法上認められない」との立場をとってきた。それは、自衛隊が他国の軍隊と一線を画し、「専守防衛」を堅持する歯止めとなってきた。
安倍首相は、この憲法解釈の見直しに向けた有識者懇談会を設置した。
米国に向かうミサイルを日本が撃ち落とせるか。自衛隊と行動を共にする同盟国の部隊が攻撃を受けたら、一緒に反撃できるか。こうした具体的なケースを検討し、今秋報告書をまとめる。
首相は報告を踏まえ、自ら判断をすると言う。だが、これは日本の将来にかかわる極めて重大な問題だ。国民的な論議を経ないで決めてよいことではない。まして懇談会のメンバーは首相と考え方の近い人が大半だ。初めから結論ありきの“お墨付き”を根拠に、憲法解釈変更に踏み込むというのでは、危うい。
首相は集団的自衛権についての考えをきちんと説明した上で国民の判断を仰ぐべきだ。参院選は絶好の機会である。
自民党は政権公約で「憲法との関係を整理し、安全保障の法的基盤の再構築を行う」としている。ルールを変えたいという意図は伝わるが、具体的にどうするのかはさっぱり分からない。
「戦後レジーム(体制)からの脱却」を目指す首相はこれまで「いまの憲法の下でも、集団的自衛権の行使は可能」という考えを示してきた。だが、肝心の参院選に向けた党首討論などでは、自らの見解を表明しようとしない。
自民党と連立政権を組む公明党は、集団的自衛権の行使を認めない立場である。憲法解釈見直しが選挙の争点になれば、公明党との選挙協力に支障が出るという判断なのかもしれない。
対する民主党なども、年金問題などの追及には熱心だが、集団的自衛権を積極的に選挙の争点にしようとしていない。
しかし、党利党略や選挙戦術で棚上げにしていい問題ではない。選挙が終わってから、後出しじゃんけんのように集団的自衛権の行使容認を打ち出すのは、国民を欺く行為と言わざるを得ない。
北朝鮮の核開発や中国の軍備拡大に備え、日米同盟の強化が必要というのが政府与党の言い分だ。そのために集団的自衛権の行使が必要というのであれば、小手先の憲法解釈見直しではなく、憲法改正で国民に是非を問えばよい。
今回の選挙は年金をはじめ、政治とカネ、格差、教育といった身近な問題に関心が集中している。暮らしの足元に亀裂が入り、船底に水漏れしている現状には早急に手を打たなければならない。
同時に、安全に海を渡るためには、船の針路にしっかりと目を凝らしておかなければならない。かじを誤って危険な大渦にのみ込まれることがないよう、将来を見据えた論議も必要だ。
『北海道新聞』社説 2007年7月22日
参院選*安保・自衛隊*米国一辺倒でいいのか
戦争放棄、専守防衛、非核三原則。どれも日本の平和主義を体現した、世界に誇るべき理念である。
ところが一九九○年代以降、様相が大きく変わってきた。
国連平和維持活動(PKO)への参加を皮切りに、自衛隊の海外での活動は広がる一方だ。ついには「戦地」であるイラクの土を踏むまでになった。
世界規模の米軍再編のなかで、米軍と自衛隊の一体化も進む。
日本のそんな安全保障政策をありていにいえば、対米追従だ。
安倍晋三政権はこの流れをさらに加速させようとしている。日本の平和主義のおおもとを揺さぶっているといってもいい。
今回の参院選で国民は、それを是とするか非とするかの選択を迫られている。年金問題にかすみがちだが、きわめて重要な争点の一つとみるべきだ。
判断の材料はいろいろある。
首相は、世界最大の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)との連携強化を打ち出し、オーストラリアとの間では軍事同盟色を強める安保共同宣言に署名した。
イラクやインド洋では現在も自衛隊が活動を続け、国内ではミサイル防衛システムの配備が進む。
とりわけいま真剣に考えなければならないのは、政府が憲法に照らして行使を禁じている集団的自衛権の問題だ。この歯止めがなくなれば海外での武力行使に道を開き、専守防衛の旗を降ろすことにもなりかねない。
首相は、自分の考えに近い人ばかり集めた有識者会議で、その憲法解釈見直し作業を進めている。結論は秋に出る予定だというが、公平、中立な議論はとうてい期待できない。
こうした動きの背景にあるのは、日本に軍事的負担の肩代わりや共同行動を求める米国の要請だ。それに首相はいとも簡単に応えようとしている。
一方で、広島、長崎への原爆投下を正当化する米国の声には反論もできない。米軍再編にしても、ほとんど米国のいうがままではないか。
日米安保体制は戦後体制の最たるものだろう。その強化を進めながら「戦後体制からの脱却」をうたう。国民にはなんとも分かりにくい話だ。
公明党は九条改憲や集団的自衛権の行使に反対している。自民党の政策とどう整合性をとるのか。連立を組む以上はきちんと説明する必要がある。
野党はこぞって、自衛隊のイラクからの撤退を公約に掲げている。しかし、集団的自衛権については民主党の態度があいまいだ。
安保政策の方向は国の進路を決定づける。だからこそ、与野党には徹底的な議論を求めたい。
『河北新報』社説 2007年7月21日
’07参院選を問う 憲法/各党は争点明確化に努めよ
憲法問題が参院選の鮮明な争点になっているかというと、そうとは言えない。公示直前から気になっていたが、自民党も民主党も憲法改正をめぐる各党間論争に後ろ向きに見える。
年金問題などの風圧が強い自民党は「憲法は票にならない」と、自主憲法制定の党是や「憲法を参院選の争点に」とした安倍晋三首相の約束をどこかにしまい込んでしまった観がある。
民主党の小沢一郎代表も公示前日の党首討論会で「参院選で憲法問題を掲げる必要性を私は認識していない」と述べ、憲法論戦に冷水をかけてしまった。
こうした憲法問題の争点外しは二つの点で納得がいかない。
参院選で「年金」に関心が集中しているのは確かだが、有権者は暮らしの問題だけでなく、「政治とカネ」や安全保障・平和の問題を含めて「国の針路をどう取ったらいいのか」「国の形をどうつくるのか」といったトータルな問いかけをしようとしているのではないのか。
憲法は大事な問いかけの一つのはず。それを欠くことは有権者に目隠しをするのに等しい。これが納得できない一つだ。
二つ目は、先の国会で成立した国民投票法(憲法改正手続き法)に関係する。安倍内閣は衆参両院のそれぞれ3分の2の同意が要る改憲発議を2010年に目指すので、この参院選は任期中に初の発議にかかわる参院議員を選ぶ選挙になるのだ。
国民の憲法観は10年以降の国民投票時にいきなり問われるのではない。それは、この参院選を皮切りに国民投票まで行われる何回かの国政選挙を通して3分の2の合意勢力または反合意勢力を選ぶ過程で問われる。
これだけ国民投票と深くかかわる今回の選挙で憲法を語らないわけにはいかないだろう。
新憲法草案をたたき台とした「改憲」の自民、不足点や改正点を補い改める「論憲」の民主、環境権などを重視する「加憲」の公明、争点化に積極的な「護憲」の共産、社民、自主憲法の国民新…。有権者は各党の立場と主張を比較したいのだ。
その上で、自民、民主の両党にあらためて注文がある。
安倍政権は衆参両院の3分の2の改憲発議勢力が不可欠な将来の明文改憲とは別に、首相の肝いりでつくった政府の有識者会議「安全保障の法的基礎に関する懇談会」で日米同盟強化に向けた集団的自衛権行使の容認を柱とする解釈改憲の道をこの秋までに開こうとしている。
少なからぬ世論は解釈改憲路線が暴走しないか危うさを感じている。安倍首相はこれを否定するなら、明文改憲と解釈改憲の関係を整理して示すべきだ。
民主党の小沢代表は「憲法改正は国民の合意がなければできない」と繰り返し強調する。しかし、これは当たり前のことだ。
国民投票法成立後にとりわけ政党に求められる役割は、党としての明確な憲法観と方針を持ち、国民的な合意を形成するための先頭に立つことだろう。
「国民的合意」という言葉は決して党内意見を調整するための隠れみのではないのだから。
『信濃毎日新聞』社説 2007年7月22日
07参院選 憲法を素通りするのか
自民、民主の二大政党がそろって「争点隠し」に励んでいるかのようである。年金記録の後ろに隠れ、憲法問題の影がまことに薄い。
「新しい時代にふさわしい憲法をつくるという意思を今こそ明確にしなければならない」。安倍晋三首相は今年の年頭記者会見でこう述べていた。そして「当然、参院選でも訴える」と、憲法改正を争点にする考えも示した。
そんな発言を忘れたかのように、首相は選挙戦で憲法問題に触れようとしない。年金問題一本やりだ。政府は年金記録ミスを救済するための第三者委員会を大慌てでつくり、与党を支える。
民主党も五十歩百歩だ。「参院選で憲法問題を掲げる緊急の必要性を認識していない」。小沢一郎代表は日本記者クラブ主催の11日の党首討論会で言い切った。
二大政党が足並みそろえて避けて通るのでは、選挙で憲法論議が深まるはずがない。
年金問題の火消しに精いっぱいで憲法どころではない、というのが自民党の正直なところだろう。民主党は党内に改憲賛成、反対両方を抱え、党としてはっきりした方針を打ち出しにくい事情がある。
憲法改正が議論されなければ、それはそれで結構だ。こんなふうに考える人がいるかもしれない。
施行から60年。憲法は平和で豊かな暮らしのために、しっかり働いてきた。今も働いている。われわれ国民としては、時代に合わせて憲法を使いこなし、条文に新たな息を吹き込むことを考えればいい…。
<舞台は整っている>
ところが、憲法をめぐる状況に目をやると、そんな悠長なことは言っていられないことが分かる。
改正の手続きを定める国民投票法が先の国会で成立した。改憲案の発議が可能になる2010年5月をにらみ、次の国会には衆参両院に憲法審査会が設置される。参院選が終われば改憲論議はいや応なく進むと考えねばならない。
そもそも、安倍内閣そのものが「憲法を頂点とする戦後レジーム(体制)の見直し」を掲げて発足した政権である。この選挙をどうにか乗り切れば、2年前の「郵政選挙」で手にした「数の力」を頼みとして、改憲論議を加速させるのは目に見えている。
反対に与党が数を減らし、護憲政党が伸びれば、憲法問題は別の展開をたどるだろう。
今度選ばれる議員は、6年の任期の間に改憲論議に具体的にかかわる可能性が高い。憲法論議の今後を左右する選挙になる。選択眼をしっかり働かせたい。
<各党の違い大きく>
ここで、憲法改正問題に対する主要政党の政策、姿勢を、おさらいしておきたい。
改憲姿勢をいちばんはっきりさせているのが自民党だ。参院選公約の1番目に「新憲法制定の推進」を明記。「2010年の国会において改憲案の発議をめざし国民投票による承認を得るべく、国民運動を展開する」と打ち出した。
国民投票法は、改憲案の投票は「関連する事項ごとに区分して行う」よう定めている。この仕組みだと、自民党が自分の改憲案を丸ごと国民投票にかけるのは不可能だ。新憲法草案のうち、どの部分を国民投票にかけようとするのか、自民党ははっきりさせる必要がある。
公明党は「加憲」を掲げ、自民党の改憲路線とは一線を画す。基本政策のずれをどうするのか、連立を組む自公両党にはより踏み込んだ説明が求められる。
野党の民主党は、2年前に党としてまとめた憲法提言を基に「国民と自由闊達(かったつ)に論議する」−との立場だ。憲法を変えるのか変えないのか、九条についてどう考えるのか、はっきりしない。
衆参両院の憲法審査会で改憲論議が始まろうというこの時点で、こんなあいまいな姿勢しか取れないのでは、民主党は政権担当の覚悟を疑われても仕方ない。
<関心は低くない>
共産、社民の両党は、「憲法改正」や「九条改憲」に反対する姿勢を鮮明に打ち出している。
国民新党は前文、九条の精神を守りつつ「自主憲法」制定を目指す姿勢を掲げる。新党日本は「国際救援隊」を創設し、九条三項に規定すると主張する。
重視する政策は何ですか−。有権者にこう問い掛ければ、普通はどの選挙でも、暮らしにかかわる分野が上位を占める。信濃毎日新聞が先日行った県内世論調査でも、トップは「年金」、2番目は「介護・高齢者福祉」となっている。
その次、3番目に挙がったのは「憲法改正」だった。2つ以内の複数回答で、17・8%が「重視する」と答えている。「医師不足」や「教育」よりも多かった。
憲法改正に県内有権者が寄せる関心は決して低くない。そう受け止めるべきだろう。九条を変えるのか変えないのか、踏み込んだ論戦を各党に認める。
同じ党の候補者でも、憲法についての考えは違うことも多い。憲法問題は政界再編につながる可能性もはらむ。候補者一人一人の主張に注意深く耳を傾けることも大事になる。
『中国新聞』社説 2007年7月22日
’07参院選 憲法 白紙で委任はできない '07/7/22
憲法改正の手続きを定めた国民投票法が先の国会で成立した。施行される二〇一〇年五月以降は、改憲案の提出や審査が解禁となる。この参院選で選ばれる議員は、改憲を本格的に議論する可能性のある初めての顔ぶれである。にもかかわらず選挙戦で憲法の議論が深まらないのが気になる。
きのうの多くの新聞に、自民党と民主党の意見広告が載った。年金や公務員制度、農業などの訴えが並んだが、いずれも憲法には触れていなかった。
「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げる安倍晋三首相は、早くから改憲を参院選の争点にすると表明していた。自民党は公約のトップに「新憲法制定の推進」を据えた。目指す国の姿があいまいなだけに、どんな主張をするのかと興味もあった。
それが公示後は、年金や政治資金の問題で逆風にさらされ、防戦一方のようだ。憲法論議に関しては肩透かしの感は否めない。
連立与党として公明党は、憲法に環境権などを加えた「加憲」を打ち出す。「論憲」の民主党は党内に改憲と護憲の主張が混在し、明確な方向は示していない。ただ一時は三党で投票法の修正協議を進めていた経緯も無視できない。
一方で護憲派の声は大きい。共産党は「九条を守れ、の一点で多数を結集しよう」、社民党は「平和と民主主義を壊し、憲法