『東京新聞』社説 2007年11月3日
党首再会談 あきれる唐突な連立話
福田首相が小沢民主党代表との再会談で連立協議を打診した。衆参の意思がねじれる状況の打開へ究極のカードを切った格好だが、国民は蚊帳の外だ。こんな「密室談合」はもうやめた方がいい。
再会談では、インド洋での給油活動の再開へ、福田康夫首相が新たなテロ対策特別措置法案の成立へ協力を要請した。民主党代表の小沢一郎氏は自衛隊派遣が憲法違反であるとの持論を展開して拒否した、とされる。そして、首相が「考えをまとめたい」として、休憩を挟んだ末に出した答えが、民主との大連立の申し入れだった。
これに先立つ二日午前、参院本会議で民主党提出の年金保険料流用禁止法案が、野党の賛成多数で可決、衆院に送付されている。参院で第一党の民主党はこれを「政権交代への歴史的な第一歩」と胸を張った。
だが、衆院では圧倒多数を占める与党が反対の方針で成立は難しい。この逆もしかり。衆院で与党が法案を通過させても、参院で否決されてしまう状況は同じだ。
自民と民主両党が互いに突っ張り続ければ、衆院で再可決という手があるとはいえ、法案処理の成果を挙げるのは難しい。それでは国政は停滞しかねない。そんな現実を前にして首相が重大決意を固めたのは、わからないではない。
首相は小沢氏との二人だけの会談終了後に「政策を実現するための新体制をつくる必要がある」と語っている。直面する新特措法問題の扱いがその糸口になると考えてのことだったに違いない。
しかし「政局安定のため」とはいっても、先の参院選で激しく争った民主をいきなりパートナーに迎えるのは、あまりに唐突ではないか。
連立与党の公明党は首相の意向を尊重するとしているが、本当にそれでいいのか。首相の“変身”にもっと怒ってしかるべきだったろう。
首相と小沢氏二人のやりとりは事実上の密室で進められた。自民、民主両党の幹部も二人に対応を白紙委任するしかなく、会談の詳細さえ実はわからないままできた。
その結果、疑心暗鬼は政界ばかりでなく、国民の間にも広がった。首相の提案を協議する、と持ち帰った小沢氏に民主党内で「それでは翼賛政治だ」と異論が噴出し、申し入れを拒否することになったのはごく当然のことだろう。
ねじれ国会に期待されるのは緊張感ある与野党の論戦だ。怪しげな大連立話で、それがおざなりになるとしたら国民には由々しき事態というしかない。密室談合は打ち切って公開の場での健全な勝負を促したい。
『愛媛新聞』社説 2007年11月3日
「大連立」打診 有権者の思いに背く提案だ
福田康夫首相と民主党の小沢一郎代表による党首会談が行われ、福田首相が連立政権樹立に向けた協議を提案した。党首会談は十月三十日に続く二度目だが、驚く内容だ。
民主党は会談後の役員会で提案の拒否を決めた。
民主党は参院で第一党だ。しかし、有権者は自民党と連立を組むことを期待しているわけではなかろう。自民党への対抗勢力としての活動を望んで議席を与えたと考えるべきだ。
何より衆参両院の第一党と第二党が連立政権をつくる「大連立」になれば、議会のチェック機能が働かなくなる。これではまるで戦前の「大政翼賛会」に等しい。有権者の思いにも逆行する。民主党の提案拒否は当然だろう。
前回の会談では、インド洋での給油活動を再開するための新テロ対策特措法の取り扱いを中心に話し合い、互いの持論を主張し合って平行線に終わったとされていた。
具体的な会談の中身が伝わらなかったこともあって、自民党と民主党が連立する「大連立」や衆院解散・総選挙の憶測も流れていた。その憶測が半ば当たっていたことになる。
会談は福田首相が小沢代表に呼びかけて実現した。衆院と参院で与野党が逆転する「ねじれ国会」の事態打開を目指した福田首相にすれば、「大連立」は窮余の一策としての呼びかけだったといえよう。
今回の会談では国際的な平和活動のために自衛隊海外派遣を随時可能にする「恒久法」もテーマになったもようだ。
小沢代表は恒久法の必要性を強調し、民主党の主張を取り入れて検討するなら対テロ新法の成立に協力する考えを示したという。
福田首相は総裁選前のインタビューで恒久法の必要性に言及していた。小沢代表も国際貢献や平和の確保、維持のための基本法制定を従来から主張している。
しかし、自衛隊の海外派遣は派遣先で武器使用を迫られ、憲法九条に抵触する可能性が指摘されている。集団的自衛権の問題もある。慎重な検討が求められる問題だ。
政治に舞台裏での交渉が必要なのは分かる。しかし、二人だけの会談を何回もするのはどうか。「密室談合」との批判が出てくるのも当然だ。
民主党はオープンな政党を掲げてきたはずだ。小沢代表も国会審議以外での与党との協議は認めないとの趣旨の発言を繰り返していた。
予定していた党首討論を延期してまで密室で会談する必要があったのか。給油活動をめぐって世論は二分している。小沢代表が主張する国際治安支援部隊(ISAF)参加についての議論も聞きたかった。
そもそも小沢代表は次期衆院選で民主党政権の樹立を目指していたはずだ。なぜ連立の提案をその場で拒否しなかったのか、説明責任がある。
両氏は党首討論など公開の場で主張をぶつけ合ってほしい。
『秋田魁新聞』社説 2007年11月4日
連立政権打診 国民不在の「密室劇」だ
あまりにも唐突すぎる。福田康夫首相(自民党総裁)が民主党の小沢一郎代表との党首会談で、連立政権樹立に向けた協議開始を打診したことには、あぜんとするばかりだ。
いま国民が政治に求めているのは、各党が基本政策を明確にし、その上で、与野党協議を経ても妥協点を見いだせないとするならば、それを争点に衆院を解散し総選挙で国民の信を問うことである。
今回の連立政権協議の提案は、こうしたプロセスを度外視したものであり、国民不在のそしりを免れない。以前ならいざ知らず、こんな「密室劇」はもはや通用しない。
福田首相が思い切った行動に出たのは、「ねじれ国会」で行き詰まる局面を何とか打開したいとの焦りから出たものだろう。首相に就任してから約1カ月の臨時国会では1つの法案も成立していない。テロ対策特別措置法が失効したことで海上自衛隊のインド洋での給油活動は中断に追い込まれ、新法案成立のめども立っていない。
小沢代表にしても、野党第1党として反対姿勢だけで突っ走るわけにはいくまい。自民党議員を取り込もうとする思惑も見え隠れする。
難局打開を目指して両党のトップが協議すること自体に異論はない。問題は、その中身である。
福田首相が持ち出したのは、第1党と第2党による「大連立構想」にほかならない。仮に政策ごとの連立だとしても、戦前の大政翼賛会につながる危険性は否定できない。
つまり個別の法案・政策は通るだろうが、そこには国会として重要なチェック機能がなければ相互けん制もない。1つの方向に無批判に走ってしまう恐れがあるのだ。
民主党が連立協議の提案を拒否したことは、これまで「政権交代可能な2大政党の実現」を訴えてきたことを考えれば、極めて当然である。
ただし、小沢代表の求心力低下は避けられまい。連立提案を席上拒否するならまだしも、「首相から民主党の主張に大きな理解をいただいた」と前向きな態度をみせながら党に持ち帰ったことは理解に苦しむ。党内から「やはり政権にいたいだけなのか」との声が出るのも無理はない。
福田首相にしても、今後は公明党が距離を置く可能性があるだけに、政権運営に厳しさが増すことは間違いない。
結局のところ、双方のどちらに大きな傷が付いたかはにわかに判断できないが、国民が冷めた目で政治をみるようになるマイナス面が頭をもたげる懸念は強まった。
福田首相は今後、強気の政権運営に打って出る可能性がある。客観的にみて、連立提案が拒否されることは織り込み済みとしか思えず、これまでの「話し合い路線」から転換するための環境づくりとも考えられる。
政局は政界再編絡みで緊迫化することだろう。しかし政権に固執するあまり、党利党略に走るようだと政治不信が生まれるだけだ。所信表明で「国民の目線」を強調した福田首相の真価がこれから問われる。