「対テロ新法案」各社社説(毎日、朝日、日経)

『毎日新聞』社説 2007年10月18日

洋上給油活動 ご都合主義見える新法案、国際協力の本質的な論議を


 政府は海上自衛隊によるインド洋での給油・給水活動を継続するための新法案を閣議決定し、国会に提出した。現行テロ特措法の期限切れが11月1日に迫る中、従来通りの活動を是とするのか、非として他の支援策を模索するのか、大詰めの議論が始まる。

 提出された法案は、補給支援の対象をインド洋での海上阻止活動に従事している外国艦船に限定するとともに、法律の期限を1年とした。骨子の段階では2年だったが、公明党の要望を取り入れて政府が短縮に応じた。

 さらに新法案では、現行法にある「対応措置を開始した日から20日以内に国会の承認を求めなければならない」という「国会承認」条項が削除され、具体的な部隊規模や装備内容を盛り込んだ「実施計画」は、閣議決定だけで済ませられる構成になっている。

 現行法が抽象的な3種類の対応措置を列挙し、その中から具体的な基本方針を決めて国会の事後承認を求める手続きになっているのに対し、新法案は活動内容の大枠を法律に書き込んでいるから、法案の成立自体が国会承認になる、というのが政府の言い分だ。

 海自が参加している海上阻止活動は、米国が対テロ戦争と位置づけて有志連合と始めた「不朽の自由作戦」の一環だ。テロリストの移動や麻薬、武器などの運搬を阻止することを目的にしている。

 ◇テロ包囲網から離れるな

 開始から6年に及ぶ長期の活動が、麻薬を資金源にしようとするテロリストへの抑止力になっている面は否定できない。アフガニスタンではタリバンが勢いを取り戻し、全世界の麻薬の9割が生産されていると言われているからだ。

 また、01年の米同時多発テロを受けた国連安保理決議1368は、国連加盟国に対してテロの防止と抑止に向けた「一層の努力」を求めており、日本として国際的な対テロ包囲網の戦列から離れるべきではない。洋上給油活動も確かにその選択肢の一つだろう。

 ただし、こうした前提を踏まえても政府提出の新法案を無条件に受け入れるわけにはいかない。

 理由の一つは、国会承認条項の削除によって、文民統制の後退が懸念されるからだ。

 国連平和維持活動(PKO)協力法以来、自衛隊の海外派遣にかかわる法律は、衆参両院の承認を義務付けてきた。実力部隊の運用にあたっては、より慎重な手続きが必要という政界の合意に基づくものだ。しかも、新法案には具体的な部隊規模や装備に関する記述はないため、政府の言う「成立すれば承認と同じこと」という論理は厳密には成り立たない。

 もし国会承認条項を残したら、法案が成立しても、承認段階で参院の民主党に反対され、結局は活動の継続が不可能になってしまうというのが、政府の本音だろう。参院で否決された法案は衆院の3分の2の多数で成立させられるが、承認については「3分の2の再議決」規定がないためだ。

 現実の与野党勢力を意識してのこうしたご都合主義が、法体系をゆがめかねないことを、憂慮せざるを得ない。

 もう一つは、給油活動が過去、法の趣旨に沿って厳密に行われ、今後も行われるかどうか、必ずしも明確ではないためだ。

 米空母が海自から間接補給された燃料をイラク戦争に転用したのではないかとの疑惑が持ち上がり、政府は米側の資料をもとに懸命に否定した。しかし、政府はこれまで軍事情報であることを理由に客観的なデータの提出を拒んでいた。市民団体が入手したデータで追及を受けると、「過去の説明には誤りがあった」と訂正する体たらくだった。

 石破茂防衛相は可能な限りの情報開示を明言しているが、その足元で海自が補給艦の航海日誌を破棄していたことが判明するなど、防衛省が国民の疑念に答えられる態勢を整えたとは言えない状態だ。しかも、肝心の米国が軍事情報をどこまで正確に提供するのか保証の限りではない。

 ◇民主党も問われている

 一方で「もし給油活動から撤退したら日米同盟が崩壊する」といったたぐいの短絡的な見解は慎むべきだ。海上阻止活動には当初、16カ国が参加していたが、現在は日本を含む6カ国に減っている。継続の是非を日米同盟の観点から検討することも確かに重要だが、それがすべてではない。

 現行のテロ特措法は、03年に2年、05年と06年に1年ずつ計3回、延長されている。

 政府・与党は今回の期限切れに際しても、現行法の延長で乗り切ろうと考えていたが、7月末の参院選をへて「ねじれ国会」が出現したため、新法案の提出を余儀なくされた。その意味で、新法案は民主党対策でもある。

 ところが、民主党は与党の呼びかけた事前協議を拒否するとともに、衆参の予算委員会では給油の転用疑惑にしぼって政府を追及した。さらに同党の小沢一郎代表は党機関紙や月刊誌で、給油活動を「憲法違反」と主張し、テロとの戦いを米軍中心から国連中心に転換するために、アフガン本土での国際治安支援部隊(ISAF)への参加にまで言及した。

 重要な外交・安全保障政策をめぐって、衆参でそれぞれ多数を占める政党の見解が真っ向から食い違うのは、2大政党制を目指す政治の姿として健全とは言いがたい。しかし、与党と民主党の主張は大きくかけ離れたままだ。

 それならば、与野党はこの際、それぞれの信念に従って堂々とぶつかり合うしかない。問われているのは、日本がなすべき国際貢献のあり方であり、衆院解散・総選挙に向けた政略ではない。衆参のねじれが合意を困難にしていることをむしろ奇貨として、本質に立ち返った議論を期待したい。


『朝日新聞』社説 2007年10月18日

給油新法—こう疑惑が相次いでは


 インド洋での海上自衛隊の給油活動を続けるため、政府は新たに補給支援特措法案をまとめ、国会に提出した。

 現行のテロ特措法は来月1日に期限切れとなる。参院を握る民主党の反対は強く、とても期限までに延長は通るまい。そう見切っての新法案だ。補給活動の中断はやむをえないということだろう。

 現行法はさまざまな支援メニューを列挙し、そのうち実際に行う活動を基本計画で定め、活動が始まった後に国会の承認を求める仕組みだった。新法案では活動の中身を直接書き込み、その代わりに国会承認規定を外した。給油活動の実際はほとんど変わらないという。

 政府は、今国会での成立を目指すとしているが、その見通しは立っていない。

 継続に首をかしげる国民は少なくない。朝日新聞の世論調査では、給油継続に「反対」が44%で「賛成」の39%を上回った。給油はテロを防ぐ国際社会の一致した行動の一つだという政府の説明にも「納得できない」が48%だ。

 無理もない。米軍に給油した油がイラク作戦に転用されたのではないかという問題で、政府の説明は説得力に欠き、疑惑は晴れていない。

 しかもここに来て、インド洋で活動していた補給艦「とわだ」の航泊日誌が、03年7月から11月までの5カ月分、破棄されていたことが分かった。一定期間の文書保存を定めた内規に反していた。

 政府は「誤って破棄した」と説明するが、自衛隊というのはそれほど規律が守られない組織なのか。都合の悪いデータを隠したのかと疑われても仕方ない。

 政府・与党内には、参院での否決を見越して、衆院で3分の2の多数で再可決すべきだとの強硬論もある。

 だが、一院の意思だけで自衛隊を海外に出す前例をつくるのは危険だ。まして、ぼろぼろと疑惑が出てくるこのていたらくでは、とても国民が納得しまい。

 私たちは、アフガニスタンの治安回復、復興を軌道に乗せるのに日本も役割を果たすべきだと考える。給油はその一つの方法かもしれない。だが、政府の情報開示の不十分さや転用疑惑の現状をみると、その是非を議論できる状況にはほど遠いと言わざるを得ない。

 ここで問題の全体像を思い出しておこう。9・11テロ直後のアフガン攻撃には国際社会の広い支持があった。テロ特措法に基づく給油活動は、日本としての支援の一環だった。これを違憲とする小沢民主党代表の考えは納得しがたい。

 だが、その後の米国のイラク攻撃で国際社会の共同歩調は崩れた。日本の給油支援も、転用疑惑に見られるようにアフガンとイラクの線引きが極めてあいまいになり、国民も疑問を抱かざるをえない状況になってしまった。

 日本が支援し、参加すべき活動の対象は何なのか。イラクで活動する航空自衛隊の早期撤収を含め、大きな枠組みのなかで与野党は議論すべきだ。


『日本経済新聞』社説 2007年10月18日

民主党も対テロ法案示し合意を探れ


 海上自衛隊によるインド洋での給油活動を継続するための新法案をめぐって国会で与野党間の本格的な議論が始まる。参院で多数を占め、政府提出案件にいわば拒否権に近い力を持つ民主党が中身のある対案を示し、合意形成に向けた建設的議論を期待したい。反対のための反対は責任ある政党の姿勢ではない。

 新法案は「テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法案」と呼ばれる。政府・与党は野党側に骨子を示し、協議を求めていたが、ようやく法案の国会提出となった。私たちは給油活動の継続が必要と考えるが、給油先の国名や量、イラク作戦への転用の有無などの情報公開が前提となるのは当然である。

 民主党の対案は、小沢一郎代表が考えるアフガニスタンの国際治安支援部隊(ISAF)の民生部門での活動への参加が中心となるようだ。自衛隊が参加するのなら民主党が反対していたイラクでの陸上自衛隊の人道・復興支援活動の姿に近い。国連安保理決議を根拠とする点も共通する。文民の派遣が前提ならば参加者には相当な身の危険がある。

 小沢氏は10日の記者会見で「党の方針に従って行動しなければ党人ではない。どうしてもいやなら離党する以外にない」と述べた。一方、前原誠司副代表は9月1日のテレビ番組で「(給油)活動は続けるべきだと思う」と語り、13日には「党内でもテロとの戦いに日本も加わることが必要だという人間が相当いる。私が分かる範囲でも40—50人規模はいる」と述べた。

 前原氏は前代表であり、当時「次の内閣」の防衛庁長官だった長島昭久氏は9月19日の自身のブログに「インド洋上での補給活動が多国籍艦隊による海上警察行動を通じてテロリストの流入を抑止し、アフガニスタンの治安安定化に寄与していると考えている」と書いた。外相だった浅尾慶一郎氏は小沢体制下で防衛相を務めている。

 来るべき衆院解散・総選挙に備えて党内の結束を重視する姿勢は政党人として当然だろう。その結果、政策を曲げる結果になれば、政治家としての信頼性にかかわる。少なからざる数の民主党議員が直面しているジレンマである。

 意見をまとめるうえで重要なのは世論の動向だろう。最近の世論調査では給油継続に賛成する意見が反対を上回る傾向がある。小沢氏が提案するISAF参加に関しては、賛成が2割なのに対し、反対は6割という結果となった調査もある。

改憲国民投票法案情報センター