「対テロ新法案」各社社説(神戸、中日、沖縄タイムス、山陰中央新報、西日本)

『神戸新聞』社説 2007年10月18日

給油新法/国際貢献にふさわしい?


 テロ対策特措法は十一月一日に期限切れとなり、この法律に基づいて海上自衛隊がインド洋で展開する給油活動ができなくなる。そこで、きのう政府は新しい法案を閣議決定し、国会に提出した。

 現行の特措法に盛り込まれていた「遭難した戦闘参加者の捜索、救援」「被災民への食糧、衣料、医薬品の輸送」などの活動は除かれ、アフガニスタンからテロリストや武器、麻薬が国外移動するのを取り締まる海上阻止活動の参加艦船への給油、給水活動に限定する内容になっている。

 活動期間を一年とし、国会承認も削除された。

 海上阻止活動には米、英、仏、パキスタンなど八カ国が参加し、不審船への立ち入り検査や無線照会をしているが、自衛艦はこれまでも給油、給水だけに従事してきており、現行法と基本的には変わりがない。むしろ、国会承認をはぶいている点などは後退したといわざるを得ない。

 給油活動が最も国際貢献策にふさわしいというのなら、アフガニスタンの安定、再建にどう役立ってきたか、活動内容の詳細な開示を含めて検証する必要があると、わたしたちは繰り返し主張してきた。

 しかし、インド洋での活動には疑問がふくらむばかりだ。補給艦「ときわ」が米補給艦を通じて米空母「キティホーク」に間接給油した問題では、石破防衛相は給油を認めながらもイラク戦争への転用を否定している。給油量も実際の四倍近くだったことが判明した。また、補給艦「とわだ」の航海日誌が保存期間内にもかかわらず破棄されたことも明らかになった。

 目的外使用は論外だが、給油量を少なく公表したことや航海日誌破棄も情報操作を疑わざるを得ず、事務上のミスではすまない。こんなありさまで給油活動が必要だといっても、うなずきようがない。こうした疑問、疑惑に答えるのが先決だ。

 今の状態だと、たとえ新法で活動を継続しても油が転用されない保証はない。

 民主党の対応にも首を傾げる。給油活動に反対する以上、対案を示すべきだが、きょうの臨時役員会で対応を決めるという。党内の意見がまとまり切っていないのだろうか。

 民生支援というなら、その考え方と派遣要員の安全確保を含めた具体的な支援策を法案化し、民主党の主張を国民に問うべきだ。

 テロ防止に向けた日本の国際貢献はどうあるべきか。対案と論戦を通じて示してこそ、政権担当能力のある政党といえる。


『中日新聞』社説 2007年10月18日

給油新法 貢献を再考する契機に


 テロ対策特措法に代わる新たな法案が国会に提出された。早急な成立は難しく、インド洋で六年に及ぶ自衛隊の給油活動は中断を余儀なくされそうだ。しかるべき国際貢献を再考する契機となるか。

 閣議決定された新法案は、海上自衛隊がインド洋で行っている米軍などへの燃料補給の対象を、テロリストやその武器、麻薬の移動を取り締まる「海上阻止活動」に携わる艦船と限定する。

 現行のテロ対策特別措置法が十一月一日で失効する。その期限の延長に反対する野党が参院の多数を制していることを考慮して、これに代わる新法で野党の協力を促し、給油活動の継続を図ろうとするものだ。

 今国会のこれまでの論議で民主をはじめ野党は、海自の提供した燃料の「イラク作戦」流用疑惑を追及するなど攻勢を強めている。そこで新法案では、海上阻止活動の枠を超えてアフガニスタン本土などへの軍事作戦を直接支援する艦船は給油対象から除外する、と説明されている。

 新法案はまた、現行法にある国会承認の規定を削除した。怪しくなる文民統制を担保するため、法の期限は「一年」とした。参院で承認されないのを見越してのことだろう。

 近々始まる審議で、過去六年の実績の検証とともに、承認規定削除の是非が論点になるのは間違いない。情報開示の努力と併せて、国民の納得いく説明を政府に求めておく。

 海自の活動をめぐっては給油量の「報告ミス」や補給艦の航泊日誌の「誤破棄」といった、にわかに信じ難い問題点が浮上している。補給を受けた米艦がイラク作戦に従事したとの新たな疑いも指摘される。

 国民向けに政府は、洋上で給油する海自の高度な技能や灼熱(しゃくねつ)下の隊員の献身、そして各国の謝意ばかり伝えてきた。実際に何がなされてきたか、国民は知る権利がある。新法審議はよほど慎重であるべきだろう。

 仮に審議が順調に進むにしても、現行法の失効で海自撤収は避け難くなろう。アフガンの治安悪化をよそにテロとの戦いから離脱すれば日本は国際社会で孤立する、と政府は繰り返してきた。本当にそうか。同時に、六年の活動がテロの脅威除去に効果があったかも見極める機会になるなら、悲観することもあるまい。

 民主党の代表小沢一郎氏は、米国の報復戦争支援の自衛隊派遣が違憲だとして、アフガンの国際治安支援部隊への参加を唱える一方、現状では民生支援の必要性を説く。

 国際平和へ憲法の求める役割を論議し直す環境が整いつつある。与野党に冷静で真摯(しんし)な論戦を期待する。


『沖縄タイムス』社説 2007年10月18日

[対テロ新法案]国際貢献の在り方論じよ


 政府はインド洋上での海上自衛隊の給油活動を継続させる「新テロ対策特別措置法案」を閣議決定し、国会に提出した。

 現行のテロ特措法が十一月一日に期限切れを迎えるための措置だが、給油活動については国民にも賛否がある。

 本当に必要なのかどうか。国際貢献はどうあるべきかも含めて、国会で徹底的に議論してもらいたい。

 活動地域をペルシャ湾を含むインド洋などの「非戦闘地域」にした新法案は、海上自衛隊の活動内容を「給油・給水」に限定している。

 だが、気になることも一つある。文民統制(シビリアンコントロール)とも関連する「国会承認条項」を削除したことだ。政府は「法の成立自体が国会承認の代わりになる」と説明するが、到底納得できるものではない。

 自衛隊を海外に派遣する以上、その活動状況を国会は把握する責務があるはずだ。いざというときに政治によるコントロールが効かなくなれば、それこそ道を誤りかねないからだ。

 参院での与野党逆転で承認が得られない事態を避けようとしたようだが、姑息な手法を取ればそれこそ国民の信頼を損ねる。

 現行法は二〇〇一年九月十一日の米中枢同時テロを受けて二年間の時限立法として制定された。同法はこれまで三回延長され、活動期間は約六年にも及んでいる。

 にもかかわらず、活動情報が十分に開示されてきたとは言い難い。

 この問題ではまた、米補給艦への燃料供給量が大幅に訂正されたり、イラク戦争にも利用されたのではないかという疑惑も持ち上がっている。

 海自の給油艦が、四年間保存するという内部規則に違反して航海日誌を五カ月分廃棄したことも判明している。これでは「証拠隠し」と言われても仕方がない。

 政府は新法案を審議する前にこれらの疑問に答える責任があり、情報をきちんと開示し国民の疑惑を晴らすことが求められよう。

 民主党の小沢一郎代表は政権を取った場合、国連決議に基づいてアフガニスタンで活動する国際治安支援部隊(ISAF)への参加を打ち出しているが、党内には異論もある。

 そのまま対案として出せるのか疑問だが、政府・与党案に反対するだけでは国民も納得すまい。

 米国に追随した貢献ではなく、日本が主体となった国際貢献策はないのかどうか。憲法との整合性を含めた案を国会に提示し、国民を巻き込んだ重厚な論議にしていくべきだ。


『山陰中央新報』2007年10月18日

対テロ新法案/国際貢献で建設的議論を


 政府はインド洋での海上自衛隊による給油活動を継続するため、十一月一日で期限が切れるテロ対策特別措置法に代わる新たな法案を閣議決定し、国会に提出した。民主党も政府の新法案に対抗する対案を検討中とされるが、ぜひ実現してもらいたい。

 新法案と民主党対案のどちらが望ましいか、国民に分かりやすい形で日本の国際貢献の在り方が議論されることを期待する。非難の応酬や、揚げ足取りに終始してはならない。

 新法案は、海自の活動を海上阻止活動に当たる米軍などへの給油と給水に限定。派遣期間は、文民統制(シビリアンコントロール)を重視する公明党の主張を入れて一年にした。

 法案には具体的な活動内容が盛られており、その成立がすなわち国会承認になるとの理由で、国会の事後承認規定は削除された。

 しかし政府、与党の本音が与野党逆転の参院で承認されない事態を回避することにあるのは、明らかだ。

 周辺事態法やイラク復興支援特別措置法など国際緊急援助隊の派遣を除き、自衛隊の海外派遣に関する個別法には国会承認が盛り込まれており、あえて外したことに対する批判は免れまい。

 新法案の審議に当たって政府がまず行うべきは、これまで指摘されてきた疑惑を晴らすことだろう。日本の給油が目的外のイラク戦争に転用されたのではないかなど給油活動の核心にかかわる疑惑が一掃されたとは、とても言い難いのが実情で、今後の審議で解明することが必要だ。

 米補給艦を通じて日本の給油を受けた空母キティホークや、海自が直接給油した米イージス艦がイラク戦争に参加したのではないかなどの指摘があったほか、海自の給油艦が内部規則に違反して航海日誌を五カ月分も破棄していたことも新たに判明し「証拠隠し」の疑いも浮上している。

 民主党などが主張するように、海自の給油活動やアフガンでの多国籍軍の活動内容などの詳細が明らかにされないままでは、十分な論議はできない。あくまで政府が公開を渋る場合には、国政調査権による記録の提出要求も一考に値しよう。

 一方、米軍のアフガンでの作戦行動(不朽の自由作戦)への協力は集団的自衛権にあたり違憲だが、国連決議に権威付けられたISAFなどへの参加は、たとえ武力行使を伴うものであっても憲法に抵触しないとする小沢氏の主張には同調できない。日本の主権が国連決議によって超越されてしまうかのような理屈は、あまりに現実離れしている。

 小沢氏の主張は「給油活動は違憲だが、アフガニスタン本土で活動する国際治安支援部隊(ISAF)には参加できる」との内容だが、これまで再三、与党側からやり玉に挙げられてきた。給油活動よりはるかに危険性が高いISAFへの参加に懸念を抱く向きは少なくないのである。

 新法案の審議は、海自の給油活動中断を挟んで行われることになる。与党が衆院再議決という強硬手段を用いてでも今国会成立を目指すのかどうか。内外から注目される中で、十分な論議を望む。


『西日本新聞』2007年10月18日

「文民統制」が揺らぐ恐れ 給油新法案


 政府はインド洋での海上自衛隊による給油活動を継続するための新法案を閣議決定し、国会に提出した。11月1日に失効するテロ対策特別措置法に代わり、給油活動の新たな根拠法となるものだ。

 政府・与党は「テロとの戦い」を続ける多国籍軍艦船への補給支援は「日本の国際的責務」と強調するが、給油活動の実態には不透明な部分が多すぎる。

 「国際的責務」を大義に新法成立を急ぐ以前に、これまで6年間の給油活動を総括することが重要だ。それをあいまいにして前に進めば、短期間にチェック機能が不十分なまま成立させたテロ特措法の轍(てつ)を踏むことになる。

 新法案は自衛隊の活動を給油・給水に限定し、給油対象をテロ対策の海上阻止活動への参加艦船に限るとしている。

 自衛隊の活動内容を透明化しようということだろうが、これまでのテロ特措法に基づく活動内容と大差はない。あいまいさは依然つきまとう。

 給油活動を継続するというのなら、新法に求められるのは、米軍艦船などに補給した燃料が何に使われているのか、国際テロ組織の海上阻止活動に限定されているのかを、どうチェックするかだ。

 給油活動をめぐっては、すでに米軍の対イラク攻撃に転用された疑いが指摘されている。政府は否定するが、転用されていないことを証明する明確な根拠は示していない。疑惑は残ったままだ。

 燃料の大半が海上阻止活動でなく、アフガニスタン本土の空爆などの作戦行動に使われた可能性も指摘されている。

 事実だとすればテロ特措法を逸脱した違法行為である。活動内容を真剣に把握しようとしてこなかった政府に問題があるが、特措法自体のチェック機能の不十分さがそれを許してきた。

 その意味で、新法案からテロ特措法にあった国会承認条項が外されたのは見過ごせない問題だ。さらにチェック機能を弱めることになりかねない。

 政府・与党は新法案の成立自体が事実上、国会承認になると主張する。しかし、軍事力を持った自衛隊を動かすのに国会の承認を求めるのは文民統制(シビリアンコントロール)の要だ。政治が軍事に優先する民主主義の根幹でもある。

 政府・与党は派遣期間を1年に短縮したことで文民統制は担保されるとも主張するが、これに伴って国会への活動状況報告も削除された。

 これでは、海上自衛隊の給油活動の実態がさらに見えにくくなる。引き続き給油活動をするというのなら、最低限、国会承認と首相や防衛相による定期的な活動状況報告を義務づけるべきだ。

 給油活動継続に賛否いずれの立場に立つにせよ、文民統制の原則を堅持する視点に立った国会論議を求めたい。

改憲国民投票法案情報センター