酷く殺伐とした雰囲気の富士市にて迷子になったまま、旅も3日目の1月11日となってしまった。
この時俺の所持金は80円であった。
ファミレスで夜を明かそうとしても金がない。
コンビニのATMをずっと探していたのだが、田舎なだけあってか設置店が驚くほどない。
仕方がなくミニストップでコーヒーを飲みながら考えていた。
なんとなく場所の把握はできたので出発することにした。
魔光炉だらけの工場地帯は抜けたがどうにも寂しい。
自転車を走らせる俺は独り言を呟きながら考える。
俺は何でこんな独り言を言いながら走っている?
何か不思議だった。
こんな事は普段考えないのだが。
俺は誰かに話しかけているようだった。
いつも誰かがいるような気がして、そいつに話しかけるように独り言を言っていた。
生まれてこのかた、いつもそうだった気がする。
「まだ夢の中にいる気がする。」
これは今回俺が旅に出た理由だ。
毎日、そう、最近はずっと夢の中みたいで、生きてる実感が湧かなくて、
張りつめていた何かが、一気にはじけ飛んだ。
まだ、夢の中にいる気分だった。
まだ、取れない、違和感。
「俺って、何がしたいんだろうな?」
俺がそこにいた。
無表情で自転車をこいでいる。
「なんか言ってみろよ。」
俺は答えない。
無表情。
わかった。
何かがわかった。
何かが見えた。
もう一人いる自分の横顔が、その時、ハッキリと見えた。
嘘じゃない。
俺は見えた。
感情は浮遊していた。
俺のカラダから。横に逸れて。
「やっぱりいたな、お前。」
コイツは無表情。
「疲れてんな、もっと早く走れよ。」
コイツは無表情。
「お前何考えてんだ?たまに言うこと無視する時あるよな。」
ちょっと笑った。
「お前が旅に行きたかったんだよなきっと。」
また笑った。
「不思議だな生まれてからずっと一緒にいたのに、今やっと気づいたよ。」
俺の方を見た。
「何だよ、何か言いたそうだな。」
笑った。
「お前はずっと俺に動かされてきたんだもんなあ。」
真っ直ぐ前を見つめた。
「今お前、俺と同じ何か持ってるよな。解るよ。」
無表情。
「星が綺麗だな。」
無表情。
「この旅にもやっぱ終着点はあるんだよな。」
「この旅にも俺らの人生にも、やっぱ終着点ってあってなんか待ってんだよ。」
「仮に得た物でも失った物があっても何も無かったとしても、それが全部、
やっぱり結果で一つの終わりなんだよな。怖え。」
見えなくなった。
もう一人の俺は消えた。
不思議な出来事だったが、当たり前の事だった。
また、旅の途中で現れるだろう。
そんな気がした。
終着点には現れる、きっと。
清水市に着いた。
まだ午前4時。
清水駅前は白木屋くらいしか開いてない。
酔っぱらった若者達が帰っていく。
俺は、商店街で地図を確認し、先を急いだ。
テレビ朝日系列の静岡のテレビ局が見え、俺は静岡の中心部へ近づいていた。
疲れがドっと襲ってきた。
風呂に入りたいと思った。
肩の疲労が半端じゃない。パンパンに張っている。
公衆電話のタウンページで銭湯を探す。
結構あるもんだ。
この、「スーパー銭湯」とかいうやつに入りたかったが、ちょっと遠い。
探し回ったあげく、「桜湯」が一番距離的にも近く、開店も午後2時と一番早い。
朝はもうやってきていた。
俺は駅前の小さなマックへ向かった。
電源確保。
Macを起動した途端、眠気がピークに達した。
やむなく寝ることにした。
母親にメールを送ってから、軽く眠りについた。
起きてから、銭湯に入るのだからこの際洗濯もしておこうと思った。
コインランドリーを探し当て、コンビニでアタックを購入。
洗濯といっても今着てる服、靴下くらいしかない。
替えのシャツはあるが、他は予備の靴下3足と、防寒用のナイロンジャケット、あと下着2枚くらいしか着る物は持って来てない。
旅行ではないのだから、荷物は最小限、今着てるものは、清潔感がデッドラインに達するまでは着る。
洗濯もなるべく最小限にしたいところだが、靴下だけはどうしても替えたくなってしまう。
洗濯中は爆睡した。
起きてみると、アタックが無かった。
くそっ。パクられた。
アタック一つでも悔しい。
「桜湯」に入る。
銭湯など8年ぶりくらいなのでちょっと緊張してみる。
先客はお年寄りばかりだ。
番台のおばちゃんに340円払い、重いリュックとギターを下ろす。
荷物がでかすぎてロッカーに入りきらなかった。
「二つ使ってもいいわよ。」
俺の後ろで番台のおばちゃんが言った。
ありがたく二つ占領させてもらう。
昔は人前で裸になるなんぞ恥ずかしかったもんだが、今は堂々としたもんである、俺も。
勘違いされるといけないから言っておくが、「気持ち」が、である。
別に堂々としたもんは持ってない(苦)。
これほど風呂ってもんに癒された事はない。
おじいちゃんの横でどっかりと湯船に浸かった。
勢いのあるジャグジーで肩をほぐす。
この旅で風呂好きになってしまいそうだ。
肩の痛みは一向に取れない。
風呂から上がった俺は勿論、コーヒー牛乳である。
一気に飲み干す様は、他の誰から見てもさぞかし気持ちの良い光景だろう。
これこそ銭湯の醍醐味。
頭を乾かし、扇風機にしがみつく。
日本でなきゃ味わえないな、と思った。
まだまだ日本も捨てたもんじゃない。
旅に向けて一層意欲が湧きだした。
「大きな荷物持って、何処か行くの?」
番台のおばちゃんが言った。
「ええ、まあ。行く先はあんまり決めてないんですけどね。」
「じゃあ旅行じゃないのね。いいわねぇ、旅なんて。学生さん?」
「いえ、フリーターですね。無職ってやつですよ。バイトはしてますけど。」
俺は笑いながら答えた。
おばちゃんがギターを指さした。
「あれギターね。」
「はい。」
「ゆっくりしてきなさい。」
「ありがとうございます。」
俺はとても気分が良くなった。
浜松を目指す。
俺は掛川を越え、マックでまた一休みし、浜松へと向かった。
距離はあったが銭湯でだいぶ回復した俺には物言わさなかった。
浜松へ到着した俺は、タイヤ館の下に寝床を決めた。
PCを開いた俺は、曲を聴いた。
くるりの「ワンダーフォーゲル」を。(注2)
俺はこの旅が始まって、初めて泣いた。
この歌詞の辛さとかいろんなもんが解った。
ビールが美味かった。
(注2)くるりの「ワンダーフォーゲル」
→くるりの3rdアルバム「Team Rock」に収録されている。素敵なPOPソング。