午前6:30。
予定より早くバスは、霞ヶ関を経て、東京へ着いた。
俺達は目が覚め間もなく、バスを降り、東京の地に足をつける。
泉の方は殆ど眠れなかったみたいで、眠そうだし、喉も痛い様子だ。
電車に乗る前に、少し休憩することにした。
切符を買ってしまい、改札をくぐる。
きっと改札を通ってしまっても、東京駅なら中にコーヒーを飲めるところくらいあるだろうと。
案の定一件だけだが、中華料理なんだかカフェなんだか良くわからない「グリーンけやき」があった。
開店は7時。
あと10分ある。
何故か10分がとても長く感じた。
東京駅は朝のラッシュが始まりつつある。
久しぶりに見る、人混み。忙しそうな人の流れ。
そんなに急ぐなよ、って言ってやりたい。
RADIOHEADのTHE TOURISTという曲にも、そんな歌詞があった。
ゆっくり、行こうよ。
開店したばかりの店内に入り、モーニングコーヒーを二つ頼む。
煙草を燻らせながら、旅の話なんかを少しした。
旅の話もゆっくりしたかったから泉に「今日飲む?」と聞いたが、流石に疲れてるからと断られた。
普通に考えて、疲れて帰ってきたその日の夜に飲みたい、などと言うのは明らかにおかしい。(笑)
今日は帰って、曲の整理もしたいし、
河合塾のみんなに会いたいし、色々やらなければいけないことがある。
泉がコーヒーをこぼした。
手元が危うい、どうやらホントに結構疲れているようだ。
というか、俺の方が実は疲れているのだと思う。
あまり疲れている実感が湧かないのだが。
俺達は店を出ると、立川・高尾方面のホームへ。
7:50発の高尾行きに乗り込む。
このまま乗っていれば、家の最寄り駅へ着く。
自転車を車内の端に置くが、恐らくラッシュのこの時間帯では邪魔になること間違いなし。
許していただきたい、自転車で東京から帰ろうかとも思ったが、気分が乗らなかった。
電車は家に向かい、走り出した。
俺はやはり少し眠ってしまった。
見慣れた街並みを通り越して、母校付近の駅も通り過ぎていった。
ここまで来ると、帰ってきた実感が湧いてくる。
太陽が昇る、あの方向と逆の西側、もう遙か遠くなってしまった広島、俺の辿った西へ続く道。
泉の降りる駅が近づいてきた。
遂にこの泉の指輪を返す時がやってきた。
俺はこの指輪のおかげでもあったろう、怪我も、風邪も、全くなく無事に帰ってきた。
十分にお守りとして、心の支えとして、大きな役割を果たしてくれたこの指輪。
これを外すのは、ホントに21日ぶりである。
一時も外す事はなかった。だから少し傷も付いてしまった。
お互いの指輪が自分の手に戻る。
泉は指輪を渡した事に、俺が旅に出た当初、
「なんか帰る場所があるみたいでいいと思った」と言っていた。
無事帰ってきたらまた交換しよう、と。
久しく帰って来た俺の指輪。
いつもはめていた左手の中指に指輪がはまらない。
どうやら旅で指が太くなってしまったようだ。
そして、別れる時がやってきた。
いつものように、至って普通。
「じゃあな」
「じゃあね」
また、一人になった。
俺は自転車を気にかけながら、学生で溢れかえる車内で、自分の手を見つめていた。
今となってはあまり見慣れない自分の指輪。
3年間付き合ってきたこの指輪だが、たった21日間見なかっただけで、
全く新しい何か、自分の物ではないように見える。
少し光り方が鈍くなったようにも見える。
太陽も鈍く輝いている。
淀んだ空気に通されて、鈍く輝いている。
雲は何時の日も変わりなく、どこかへ向かい漂っている。
俺もそうありたくて、何となく漂った。
衝動的に家を出て、夢の中を走り続けて、どうにか現実へ抜け出た。
ような気がした。
よく考えると、今までずっとずっとそうだったような気もする。
生きてる間なんてずっと取れることのない違和感なのかもしれない。
駅につくと、一息おいて、階段を上り改札を通り抜ける。
自転車を乗れる状態に組み立てる。
さぁ家まで僅かな距離を。これが本当に、ラストランだ。
時刻は9:08。
マンションの一室。目の前。
我が家。
22日振りの我が家。
母は仕事にでていていない。
待っているのは、愛猫、3匹。
自転車を置き、俺はドアノブに手をかける。
みんな、
ただいま。