14日目(1/22) 津山〜鳥取〜岡山(鳥取、岡山)

酒で温まった体は良く動く。
俺は国道53号線を自転車で走っていた。
東津山手前のコンビニ(ポプラ)ミルクティーとチョコボールを買う。
さぁ朝までに山を越えるぞ、と気合いは十分だった。
酒気帯びでなきゃこの元気はでないだろう。
俺は東津山駅を素通りし、先へ続く淋しい国道へ入り込んでいった。

信号は殆ど全てが、黄色の点滅信号。
たまに灯りになるものは、その点滅が殆どで、街灯はかなりまばらにしかない。
広い道路。
交通量は少ない。
懐中電灯を取り出さなくても大丈夫だった。

東津山の次の駅、「高野」についた。
コンビニの明かりで地図を照らし、位置を確認する。
ここで、鳥取へ向かう線路と国道は二手に分かれる。
国道を走り続ければ、駅の一つも見あたらない山道へと突入する。
本当に後戻りができなくなる。
明日の鳥取は、山の寒さも半端ではないだろう。
ここから先の国道へ踏み出す事は、山の驚異に立ち向かうことに他ならない。
俺はそれでも、早く鳥取に着きたい。
という、単純な、衝動にも似た何かに突き動かされ、先へ進むことを決意した。




本格的に山道が始まり出していた。
俺は滝山(標高1000m)那岐山(標高1255m)、両山の麓にあたる奈義町に入ったところだった。
サンクスに入り、トイレを借りる。
俺はこの先もうコンビニがないであろうことを確信していた。
ここにあったのが奇跡くらいだ。
「奇跡」扱いされているこの田舎のコンビニ店員には悪いが、それだけもう山になってきている。
俺は意を決して、再び歩を進める。
明かりはもう殆ど、ない。
俺はカバンに入っていた懐中電灯を上着の胸ポケットに突っ込んだ。

俺のスピードは落ちない。
身体も温まっていて、むしろ暑くて汗が噴き出ている。
逆にこれは危険と感じていたが。
これだけ汗をかいてしまった後では休憩をおくことに依って、身体が急激に冷えてしまう。
現在の気温は0℃。(道の至る所に電光板で気温が標されていた)
ギターのケースが凍り付いている。霜を張って真っ白だ。
ところで俺は先ほどから、ある「走法」を見いだしていた。
歌を口ずさみながらペダルを踏んでいたら、偶然コレが凄いことに気づいた。
3,5,7拍子が良い。
俺は3拍子のリズムを刻みながら、ペダルを踏んでいた。
1(右を強く踏み込む)2・3。
1
(左を強く踏み込む)2・3。
1
(再び右)2・3・・
(これを繰り返す)
4拍子だと片方の足ばかりが疲れてしまい、うまくいかない。
山道にも通用する、なかなか良い走法だ。
俺は3拍子刻みで坦々と山を駆け上がっていた。


「行方」という場所までやってきた。
この「行方」という名前は大好きだ。
何か途方も無い力を感じるから、昔から好きだった。
現在位置が「行方」。何か、この旅にとてつもないものを感じる。
地図を見ると、この先に長めのトンネルがある。
漸く、距離的には半分くらいのところまでやってきた。

しかし、峠はここからなのだ。

どうやらそのトンネルが見えてきた。
明かりは点いている、ほっとした。
トンネルの中に入ると、急に暖かくなる。
ザーッという音が何も通らないのに、鳴っている。
車がトンネルに進入すると、突然音が膨張し、耳が痛いくらいに反響し、残響を残して消える。
俺が叫ぶと、神秘的なまでに声は響き渡った。
あらゆる角度に音が飛び散って、外への抜け道を探し彷徨い、遠ざかってゆく。
俺が歌うと、まるで何万人もの前で歌っているような、そんな巨大ホールを彷彿とさせた。
奇妙に声と声がぶつかり合って、不思議な空間を作りだしていく。
トンネルを抜けると、また寒かった。
ちょっとトンネルの世界が好きになった。
次にもう一つ待ちかまえるトンネルを俺は心待ちにした。


巨大な何かが目の前を立ち塞いでいた。
「何だ、あれ?」
そういえば、地図上に渦を巻いている道があった。
あれか?通れるのか?
その巨大な何かをくぐると、それは遠くを周回して、上の方で、俺の今くぐった何かに繋がっていた。
すぐ近くにあった自販機の前で小休憩をおく。
あーこれ結構なげーなぁ・・・・。
何かものすごい作りになっている。
またしても不思議な世界だった。
俺はコーヒーを飲むと、自転車に再びまたがり、急斜面になっているその「ループ橋」と呼ばれるものを周回し始めた。
トラックが遙か下の方に見える。
周回して俺を追い越し、先に続く闇へ消えていく。
半周すると、俺のさっきくぐったところが遙か下に見えた。
先はまだ続いている。

ループ橋を登り切ると、ホントに何も無かった。
灯りの下で再び小休憩をとる。
ギターケースは凍って、キラキラと光りを放っている。
俺の眼鏡も曇り放題だ。
「やってやる、やってやる」と意気込んで、メガネを拭き、また走り出した。


黒尾峠。
遂に難関がやってきた。
気温まだ0℃となっている。
電光版の気温計は0℃以下の測定はできないんじゃないか、と思いはじめた。
さっきから断然寒くなってる。
足の疲労もそろそろたまってきて、俺は自転車を押して歩き始めていた。
辛い、かなり辛い。
こんな足が痛くなったのは初めてだ。
「やってやる、やってやる」「俺はまだ行ける」と自分に暗示をかけて歩く。
まだ先は見えない。
あまりに深い闇と、その恐怖に押しつぶされそうになる。
山々が黒い影を背負って、俺の前に不気味な姿で立ち往生している。
わずかに明るい空と、黒ずんだその山々。
川のせせらぎすら、姿の見えない恐怖が荒げる声に聞こえる。
懐中電灯の光が弱まってきた。
こいつが消えてしまったら、どうすればよいのだろう。
闇がこれほど恐ろしく感じたのは初めてだ。
いつもは友達だと思っていた、闇。深い闇。
山々と一体化した闇は、もう俺の知る、淡い影を落とした闇ではなかった。
俺を殺そうとする「敵」となっていた。


あぁきっともうすぐで、トンネルに辿り着く。
峠を越えると「黒尾トンネル」がある。
あと少しのはず、もう少しだ・・・・・・・・。




黒尾トンネルが見えてきた。
やった、やった、俺は越えたぞ!
例えようのない喜びが俺を包んだ。
最後の力を振り絞ってペダルに力を込める。
もう殆ど足に力が入らない。
トンネルに辿り着くと、もうそこから下り坂が延々と続いていた。
俺はトンネルに入ると、只、叫んでいた。
きっと「誰か」に向かって、とても意味のあるであろう何かを叫んでいた。
トンネル中に響き渡る俺の声は、その意味を力を、反響させて、より増幅させて、
この奇妙な世界の中から、轟々と元の世界へ吹き出していた。
そして俺もトンネルから抜けだし、元の世界に戻ってきた。

「鳥取県 智頭町」の標識が見える。
遂に10県目、鳥取県へと突入した。


下り坂を颯爽と駆け下りる。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
寒い。
汗がめっちゃ冷えてる。
凍えてしまいそうだ。

あ、自販機。
ここはコーヒーでも飲んで温まらないとやばい。
ここはやはり、カフェレーチェですな。
うう、寒い。
それ、ポチっと・・・な。ガコン。
自販機から缶を取り出す。
やっぱこんな寒い日は、「冷たい」コーヒーに限る。
いやぁ、冷えててホント染み渡る。
あぁぁ・・・・・・・寒っ。

こういう寒い時には、寒いもので制すって訳だ。
まぁ何か?一種の「ガマン大会」気分とでもいうのか、
無性に限界にチャレンジしてみたくなる訳だ。
あれ、何かい?

まさか俺が間違ってボタンを押した、とか思っちゃったりしてないよね。

全く・・・そんな馬鹿な事が黒尾峠を越えたこの俺にある訳が
あるんですよね。
勢い余って押しちゃいました、
「冷たい」
はあ。

こんな山ん中で「冷たい」の販売してんじゃねーよ!自販機のくせに!
自販機はホットオンリーで結構だ。(逆ギレ)


冷たいカフェを飲んで出発すること約一時間。
時間はもう朝4:10になっていた。
そろそろ智頭駅に着くと思うのだが。
国道53号線はまだまだ続きそうである。
とりあえず一休みしたいので、智頭の町に入りたい。
突然智頭駅に続いてそうな道が現れたので、国道を逸れる。
いかにも「町」といった感じの道を走っていく。

少し大きめの道路に出た。
灯りの下で俺は地図を開いてみる。
お、あれが智頭駅だな。
遠くの方にそれらしい建物が見える。

すると。
地図の上に何か落ちてきた。

ん?
俺は真っ暗な空を見上げる。
町の街灯で少しオレンジがかった、白いものが俺に降り注ぐ。


雪だ!


俺は口に出して言っていた。
感動に浸ってしまった。
オレンジの灯りに照らされた雪は、映画なんかでよくありそうな、そんな
物悲しい静寂で包まれた町を演出し、もう一つの世界を創り上げていた。
しかし、雪が降ってしまってはこれ以上の自転車による移動は危険だと判断し、
俺は智頭からの始発で鳥取へ向かうことにした。
町を見渡したのだが、コンビニが一つもない。
あっても閉まっている。
何者もがこの町では眠りについていた。
俺はまだ閉まっている智頭駅の扉の前に寝袋を敷き、
今度こそは暖かいコーヒーを買い、それを飲みながら寝ずにただ雪を眺め、無心でいた。

中から突然、駅長さんが現れた。
扉を開けてくれたので、ひとまず駅の中に入った。
自動券売機は一つしかない。
中もかなり小さい。
ベンチが二つ並んでいた。
俺はベンチに再び寝袋を引き、中に入って、座った状態で時計を見つめながら始発の6:22鳥取行きを待った。
駅長さんは折り畳み自転車を拒む様子はなかった。

6:00。
奥さんに車で駅まで送ってもらい仕事へ行く人が多い。
俺は寝袋を片づけ、自転車を折り畳み、切符を買い駅構内に入った。
鳥取行きはもう来ていた。
二両しかない電車の中には僅かに数人座っている人がいた。
暫くすると、学生達が次々と乗り込んでくる。
電車はバスのようなエンジン音をたてて発車した。

次第に夜が明けてきた。
学生達の話は弾んでいる。
俺は目をつぶって聞いていた。
程なくして7:14、電車は鳥取へ着いた。
学生と、仕事へ行く人が多い。
俺は少し降りるのに、人が多くて手間取った。
すいません、と声をかけながらホームへと自転車を担いで降り立つ。
外は晴れていた。
遠くの方に鈍い色の雲が広がっていた。
天気予報を見ると、昼頃からまた雪が降るようだった。
俺は改札を出ると、駅の中にあるマックに入った。
マックは智頭駅と同じくらいの広さで、この時間タバコを吸って良いのかもわからず、
コーンスープだけをすすりながら、俺は軽い眠りについた。
眠っている間、学生達の声が止むことはなかった。

9:30。
起きると、店内は静かになっていた。
外へ出ると、ホントに雪が降るのかと思うくらい晴れていた。
駅前の周辺案内図を見て砂丘のある方向を確認して俺はその方向に走りだした。
少し行ったところにローソンがあった。
晴れているとはいえ寒さが半端ではない。
俺はカップラーメンでも食べようと思ってローソンに入った。
ミソラーメンとチョコチップスナックを買った。
お湯を早速入れようと思ったのだが、何処を見渡してもポットが・・・・ない。
「すいませーん、あのーお湯ってないんですか?」
店員は当たり前のような顔をして言った。
「ありません。」
おいおいマジかよ、友人が「鳥取は何もない」と言っていたが、お湯までないのか!!!
つーかこの町にはポットというものがないのか?!!
(言い過ぎ)
俺は信じられない気持ち一杯でローソンを出た。
他にコンビニはないものかと走っていると、
いかにも個人経営なコンビニがあった。
ちょっと恥ずかしいし、申し訳ない気持ち一杯で俺はそのコンビニに入った。
「すいません・・・・お湯って借りられますか?」
品だし中の店員さんは、
「あ・・・・え、はい。大丈夫ですけど。」
と、ドギマギする。
「ちょっとさっき行ったコンビニでお湯かしてもらえなくて・・・・お湯だけなんですけど。」
(微妙な顔で)あ、あぁ・・・はい、そこにあるんでどうぞ。」
俺はレジの後ろにあったポットでお湯を入れた。
「どうも、ありがとうございました。(恥)」
コンビニの前でミソラーメンを食べると、俺は再び砂丘へ向けて自転車を走らせた。
確かに「何もない」。
「何もない」
というのは、実用的な店がないという意味でだ。
確かに図書館とか市役所とか、廃れた文房具屋をはじめ店もあるのだが、どれも実用的ではない。
つーか、俺のような旅人に実用的でないだけなんだが。
少し駅から離れ、国道に近づくと弁当屋やらファミレスらしきものも見えた。
再び砂丘の方へ向かうと、また何もなくなってしまった。

「鳥取大砂丘」の看板が見えた。
ちょうどその手前に大きめのスーパーがあった。
スーパーに隣接して綺麗なコインランドリーもあった。
さらに地方銀行のATMもあった。
洗濯もしてしまいたかったし、スーパーで買いたいものもあったので寄る事にする。
スーパーの前にはおじいちゃん、おばあちゃんが数人立っていた。
もう少しで開店のようなので俺もスーパーの前で待つことにした。
スーパーというよりは、更にスーパーな感じがした。
結構何でも揃っていた。
俺は、張るホッカイロ10個入りと、90Lのゴミ袋(業務用)を購入した。
ゴミ袋は電車に乗る際に自転車を入れる袋にする為に買った。
これでJR西日本も何も言えまい。
スーパーを出るとコインランドリーに向かった。
・・・・が洗剤が無かった。
買っておけば良かったと思ったのも束の間、このコインランドリー、何かおかしい事に気が付いた。
普通のコインランドリーではなく、「業者向けなコインランドリー」なのだ。
洗濯機も乾燥機もやたらビッグ。
勿論、その分料金も高めだ。
俺は断念した。
この際、寝袋を洗うのもアリかと思ったのだが、そんな事に余計な金を使うのも惜しく思われた。
このコインランドリーにあるメリットといえば、

寝れる事だ。

そして寝た。暖かい。



12:30。
昼だ。そろそろ行くとしよう。
チョコチップスナックをかじりながら外へ出る。
寒いなぁ。
と思ったらが降っていた。
タイミングばっちりだ。
砂丘に夢を膨らませ、「鳥取大砂丘」の看板に向かった。
看板には、砂丘まで2kmと標されていた。
少し上り坂が続くと、「砂丘トンネル」が見えた。
これを抜けると砂丘があるはずだ。

砂丘が開けた。
曇り続けているものの雪は止んでいた。
俺は砂丘の駐車場へ向かった。
トイレへ行った後、自転車を停めて、いざ砂丘内へとくりだした。

砂、砂、砂。
入り口から続く、砂の坂を越えると、一面砂の世界が広がっていた。
そして程なくして雪が降り始めたのだ。
雪は砂丘を程良く湿らせ、潮風に乗せて力強く吹雪いていた。
これが見たかった。
来て良かった。

幻想的な世界に俺は呆然と立ちつくす。
それからゆっくりと歩を進めていくと、
雲の切れ間から太陽が見え隠れし、そこから溢れ出す光りが砂丘を一閃した。
それが幾つかに増し、光が点々と群を成し、背後の山々に向けて大行進を始めた。
太陽は王だった。
光達の指揮を執り、海と雲と山、そして雪までをも意のままにしていた。
それを俺に、余すことなく見せつけていた。
雲が割れ、太陽がその顔を見せる。
空と調和した青い風雪を俺に浴びせ、その音をも波と交えて俺を飲み込んでいく。
もはや王の世界に迷い込んでしまった俺は、
この足を一歩前に出すことすら容易なことに感じなくなっていた。
現実の止まってしまった世界で、一歩一歩の重さを感じ、幻想に踏み込んでいく。
風の足跡を乱しこの世界の頂に立ちすくむ。
全てが王を崇拝し、その輝きに色と深みと意味とを添えていた。
光のその一太刀一太刀の軌跡が痛いほど目に突き刺さる。
現実にいた頃がバカバカしくなった。
俺は太陽にうんざりした。
今なら「太陽のせい」にして人をも殺してしまう人の気持ちが解りそうだ。

肌を内側から通り抜ける風が、雪が心地よい。
心身共に大きな風穴が開いてしまったようだ。
空と雲と海との描いたその光景は、
時間が高速の中でその身を引き裂かれたようで、恐ろしかった。
また、 もう死んでしまったかのようで美しかった。
それを雪が暈かして、もう、例えようもなく美しかった。

俺は集合写真用の長椅子に立ち、その独りの姿を写真に収めた。
実は砂丘で少し迷ってしまったのだが、その事については話すまい。
砂丘を去ると、俺は何かを得たかのように、
重りを捨て去ったかのように、心軽く自転車を走らせていた。

何をすることもなく、鳥取駅前に着いた。
時間に未だ少し余裕がある。
乗ろうとしてる電車は16:28発の智頭行きだ、そこから二回乗り換えて再び岡山へ行く。
まだ15:30。
しかし、行きの例がある。
念には念を持って、余裕たっぷりに行かなくてはならない。
俺は駅の中に入った。
先ず岡山までの切符を、みどりの窓口で購入。
自転車を先ほど買ったゴミ袋に入れビニールテープで留める。
少し腹も減っているのでマックでチーズバーガーとハンバーガーを買い、持ち帰りにした。

ここまでやっておけば安心、と喫煙所へ行ってタバコを吸いながら時間が来るのを待った。

16:10。
さてそろそろ行こう。
もう電車も着いてる頃だろう。
またしても学生が多い。
改札を通り、自転車を持って階段を上がる。
智頭行きのホームへ上がるエスカレーターに乗った。
すると、後ろにいた女子高生3人組に通りすがり、
「一人?!ヒューヒュー!!」(注9)と意味のわからない事を言われた。
俺はとりあえず、苦笑いをくれてやった。
全くこっちの学生は元気があるもんだ、東京の学生は暗いイメージがあるというのも分かる。
ホームへ上がりベンチに座ると、ハンバーガーとチーズバーガーを食べた。
その際、鳩が俺の回りをウロウロしていたので、パンの切れ端を下に落としてみた。
鳩は直ぐさま食らいついた。
すると数羽、鳩が集まってきた。
俺はハンバーガーのパンをつまんでちぎり、次々と下に落とす。
鳩は終いにはベンチの上まで乗ってきた。
向こう側のホームの学生達が、俺を見て微笑んでいた。
確かに傍目から見たら、この光景(旅人、鳩にエサをやる)は微笑ましいのかもしれない。
俺のハンバーガーが無くなっても鳩達は俺の側をウロウロしていた。

電車がやってきた。
相変わらず二両編成だ。
俺は電車に荷物を置き、ホームの喫煙所に行き一服した。
コーラを買い、再び電車に乗り込む。
車内は学生で一杯だ、俺はあっという間に学生で取り囲まれた。
旅を始めて思ったのだが、ホントに人は、
俺に聞こえる声の大きさで俺の話をしている。
小さい声で喋っているつもりなのだろうが、俺にはマル聞こえである。
単に俺が地獄耳なだけなのだが。
考えることが途切れるとどうしても周囲に気を張り巡らせてしまう。
集中してるだけに風景も良く目につくし、人の会話にもかなり聞き入ってる。
そうやって人の会話を聞いてきたもんだから、各地の方言を結構理解していた。
そして自分も何故か、ナマってしまう。
俺は頻繁に言葉が「伝染る」。
今では関東人の割には、結構関西弁が喋れる(つーか結構喋ってる)
それに、さらに今まで旅してきた地方の方言が微妙に混ざり、もはや何弁でもない。
自分固有のものになってしまっている、つまり「糸菌弁」である。
なんて、考えてみたりした。

智頭、津山で乗り換えをし、20時を少し過ぎた頃、岡山に到着した。
その足で吉野屋へ向かう。
吉野屋で牛丼並を食っていると、193の都市(B.)から電話がきた。
都市にはインドで知り合った香川の大学生の友達二人がいた。
このサイトも見てくれているらしい。
旅へ出る時に俺は高野に、「香川行ったら、例の二人に会ってくるよ」と言った。
俺が明日には香川に着くことを知っていた高野は、そのことで電話してきた。
「明日何時頃、高松に着く?」
今から出ても児島(瀬戸大橋最寄り駅)に着いた頃には終電は行ってしまっている。
とりあえず児島まで行っておいて始発で瀬戸大橋を渡ろうと思っていた。(注10)
「多分、坂出(四国側の瀬戸大橋最寄り駅)に始発で行くから、高松には14時くらいかな・・・」
俺はあくまで自転車で移動したかったので、
児島からそのまま電車で高松まで行くのではなく、
坂出で降りて、高松までは自転車で行こうとしてたからだ。
しかし、どうやらその香川の二人は夜はバイトがあるらしいので、
俺はなるべく早く着いた方がいいとか。
「電車で高松まで行っちまえよ!」
んー、確かに高松まで行っても、どうせそこから愛媛の方に出るつもりなので、
同じ道を往復することになる。(高松は瀬戸大橋の南東にあります)
それを考えると、まぁ電車で行ってしまってもいいかもしれない。
二度同じ道を走るのも嫌だしなぁ・・・・。
俺は高野に言った。
「わかった。じゃあ明日12時に高松駅前で!二人に伝えといてくれ!」
「おう、12時だな。じゃ伝えとくわ。会ったら二人に宜しくな。」
「じゃあな。」

電話を切った。
再び牛丼を食い出す。

俺は、二人を以前に高野から見せてもらった写真でしかみたことがない。
従って、話したことも全くないし、そんなに顔も覚えてない。
名前もそういえば・・・・知らない。
聞いたことはあるはずなのだが・・・・。
向こうには、高野が俺の服装や特徴を教えてくれているはずだから大丈夫なんだけど。
それにこのサイトを見てくれているのだから俺の顔も分かるはずだ。
高野は、「二人とも酒好きだから、糸菌とは合うと思うんだけどなぁ」と言っていた。
もはや俺はそんな第6感的なモノに頼るしかなかった・・・・。
「酒好きを感知する力」

吉野屋を出ると、一昨日も言った銭湯へと向かった。
砂丘の砂嵐で頭も体も酷く砂だらけになっている。
今日で本州とも暫くお別れだ、風呂で鳥取の疲れを落としていく。
銭湯を出ると、一昨日見つけていた24時間のコインランドリーに向かう。
たまった洗濯物を洗濯機に放り込む、そして着ている物も放り込み、綺麗な服に着替える。
待っている間、日記を書き、ランドリー内に置いてあった雑誌を読んでいた。

もうすぐ日付が変わる。
とても長い、辛い、美しい一日だった。
鳥取に行って良かった。
電車の中で寝ていたので眠くはない。
さぁこれから、洗濯物が乾いたら、始発が来るまでに児島へ行こうと思う。


(注9)ヒューヒュー
→主にカップル等を冷やかすのに用いる言葉。現在、日本でこの言葉は死語となっている。
(注10)始発で瀬戸大橋を渡ろうと・・・
→瀬戸大橋は歩行者及び自転車は通行できない。電車か車でしか渡れない。