富山〜東京 自転車ツーリング
平成4年8月
かねてから行きたいな〜と思っていた、自転車(ロードレーサー)での富山から東京へのソ ロツーリングに、ヨシ、行ってやるぞ〜というわけで、八月の初めから地図など資料を集め て、計画を練り始めた。
地図を見ながら 「ウーム、富山〜東京(池袋)間 約四百kmかぁ〜.....」 毎年、センチュリ ーランで、百二十kmから百六十kmぐらいは走っている。 朝早く出れば陽が落ちるまでには 二百Kmぐらい何とかなるだろう。 休みも入れて十時間、二十Km/h平均で走れば、大丈 夫。 元気のある一日目に、標高1812mの安房峠を越えてしまえばあとは下りばかり。 二日 目はその勢いでペダルを踏みまくり、アッというまに東京だ。 「ヤッホーッ 完璧〜!」 と、ビールをゴクリ。
東京までの道路地図(二十五万分の一)五枚綴り、裏に大まかな都市や町の距離を書き込み、 自分が正しく確実に進んでいることを走行中にチェックできるようにした。 それから、替え タイヤは二本持っていくが、ここ二ヶ月間で三回もパンクしているし、その他メカトラなど のアクシデントに備えて、コース近くのサイクルショップも六軒記入した。それと車を持っ てる友達三人の電話番号も........
装備は体の負担を考えて最小限にする、雨具、コッヘル、スプーン、コンパクトストーブ、 ガスボンベ、Tシャツ二枚、パンツ一枚とアーミーナイフなど。 以上の物を、二つのウエス トバッグに入れる。シュラフカバーはDHバーにくくり付けた。そしてその上にビニールのマ ップケースに入れた地図の綴りを太めの輪ゴムで挟んでとめた。こうするとDHポジションで 走行中、とても見やすい。空気入れは左のシートステーにはめ込みビニールテープでとめ る。ボトルは二個。 出発前の携帯品の用意は、なぜかとっても楽しい。特に計画中のコース の地図を肴に飲む酒はとっても最高にウマイ。
八月十二日 曇り 午前九時 ちょっと寝坊した..... さて出るか。自転車にまたがりゆっくりこぎ 出す。車がとても少ない。 十km程走って、コンビニでおにぎりと野菜ジュースの朝食をと る。プラスティックボトル二本に スポーツドリンクを入れて、またふみ出す。まわりの人が オレを見ているようだが、 こんな軽装でまさか東京まで行くとはだれも思うまい ムフフフ フ.....
県境を越えて岐阜県 神岡へ、ここで名古屋まで続く国道41号線とバイバイ。 調子いいなぁ 〜、ラクラク、速い速い。足が良く回る。栃尾温泉、通過。 しかし、この後すぐにキツイ登 り、途端に右足がピクピク、ウッまずい。 右足をかばい左足で登る。ワッ ヤバイ、右足も ピクピク、大きな看板のクマが笑ってる。クマ牧場のバカヤロー。 両足ともつってしまっ た。 なんとかコケずに自転車から降りたが、どうしても自転車に乗れない。 クソ〜 地図見 て酒ばかり食らってないでしっかり練習しとくんだった。 しばらく休んで、なんとかごまか しながらゆっくり走る。
十二時、ようやく平湯に着く。最初は速かったのに、ガッカリ.... 喫茶店でカレーを食べてる と雨が降ってきた。雨具を付けて安房峠へ.... だんだん雨足が強くなってきた。台風が近づい ているのである。 気温が急下がってきたみたいだ。登りもだんだんキツくなる。耳がキーン となって唾を飲み込む。その途端に右足がビクビク、伸びて突っ張ったまま曲がらない、こ げない、ペダルから足が外れない、バッタリ...... ウ〜ッ 痛てぇよ〜 、ザーザー、ビチャビチ ャ、寒いよ〜、ブルブル ガタガタ なんとか自転車を支えに立ち上がった。 行かなくちゃ。 気ばかりせいてしまう。 ちょっと乗ってはまた降りて、ちょっと乗ってはまた降りて、ちっ とも進まない。 そしてまた足が...... しょうがない、自転車を押して登ろう。くやし〜
一句、 情け無や 両足ピクピク 峠道 濡れて静かな 登りのうねり
このツーリングのことをさんざん言いふらしてきたことを思い出し、誰にともなく言い訳を 考えながら自転車を押した。 ふと見ると、上の方から二台の自転車が水しぶきを上げて下っ てくる。オレはさっと自転車にまたがりペダルを踏み出す。そしてニッコリ笑って手を振 る。相手もニッコリ笑って手を上げる。後方に二台の自転車が消え去る。オレは自転車を降 りてまた歯をむき出す。見栄っ張りなオレである。 雨が顔に痛い、さらに激しく降ってき た。雨具を付けてはいるが汗で体はビショビショ 着ていなくても同じようなものだが、体温 が奪われないだけましだ。
ようやく峠が見えてきたので自転車に乗る。足はまだ危なっかしいのだが自転車に乗って峠 に着きたい。峠のおみやげ屋の軒下で雨宿り.... ひどい姿なので悪くて中まで入れない。タバ コを吸っていると反対側から次々とサイクリストが上がってくる。ロードレーサー、マウン テンバイク、ランドナーなどいろいろ、顔を合わすごとに声をかけ合い挨拶をかわす。 平湯 から半分近く押してきたと悟られないようにしよう。
さて、ここからは下りだ、行くぞ〜とばかりに雨の中を下って行く。 すると一分もしないう ちに車の大渋滞、登りと下りの車の間は自転車の通る隙間も無い。まさかこんな所で交通渋 滞に巻き込まれ、三十分以上も止まったり進んだりしようとは思わなかった。急な下りのノ ロノロ運転はとても辛い。止まり際に足をつこうとしたら後輪が跳ね上がり、トップチュー ブで何度か急所を打った。
中の湯、ようやく気持ちよく走れる。後方の上高地のほうへ少し未練を残し、足を回す。よ せばいいのに下りでよく回す。 七、八ヶ所の連続するトンネルをぬけ、奈川渡ダム。 腹が 減ったのでここの食堂でメシ。もう四時だ。うどんをすすりながら、エライ時間かかちゃっ たな〜今夜はどこで飯食って寝るかな〜などと考えた。 食堂のオバちゃんにドンブリ一杯の ホカホカご飯をラップと新聞紙で包んでもらい、それをウエストバッグに押し込み店を出 る。 車で来ているまわりの人々がオレをジロジロ見る。何だか自分とは違う人種に思えた。 雨は小降りになり、走っていても肩に力が入らなくていい。 国道158号を波田町で右折して 塩尻へ、足の心配は無いようだ。 塩尻峠にさしかかるとまた雨が強くなり、陽も落ちて暗く なって来た。 そして岡谷市に入り、もうどっかで休みたいな〜などと思いながらスピードを ゆるめてまわりをキョロキョロ.....公園の屋根のあるベンチ、小学校、バス停の小屋、幽霊の 出ない神社などないかな〜、お寺はやだな〜、風呂に入りたいな〜、銭湯はないかな〜、と 諏訪まで来てしまった。 コンビニでレトルトの牛丼のもと、缶ビール(500ml)三本、パン二 個買った。 ついでに店の女の子に聞くと、ここは温泉地であり銭湯は無いとのこと、ただ一 カ所だけ地元の人しか入れない湯があるらしい。とりあえず行ってみると確かにあった。中 に入ると数人が一斉に振り返り、温かい脱衣所の冷たい目、そしてここはヨソの人は入っち ゃダメとの一点張り。何だか腹が立ってきた。 でもまぁ、ずぶ濡れで顔中泥だらけの怪しい 人間を見れば、誰だって一緒に風呂に入りたいとは思わないだろう。
一句、無情の湯 疲れ汚れし この身[からだ] 一時安らぐ 入れぬ湯の香
また自転車をこぎ出す、薄暗い国道をゆっくりと、どうしようかな〜、雨はやみそうもない しな〜、腹減ったな〜、ビール飲みたいな〜と茅野市に入った。 気がつくと後輪がスローパ ンクだ。あ〜あとまわりを見渡す。こんな国道沿いの市街地でキャンプできるかな〜と目に 止まったのが某自動車ディーラーのショウルーム。自転車を引いて行って見ると、ショウル ームと整備工場の間が1.5mばかりあいていて段ボールが束ねてある。ひさしもあってあまり 雨も吹き込まないようだ。 ここに泊まろうと決めた。もうこの時は、ここ以上素晴らしい所 は無いように思えた。 濡れたウェアーを脱ぎ、体を拭いてTシャツとショーツに着替えた。 さて飯でも作ろうとウエストバッグからラップに包んだご飯を出し、レトルトの牛丼を出 し、コッヘルにボトルから水を注いでコンロにかけた。しばらくすると漂う甘い香り.... ヤヤ ッ 水ではない。しまった、スポーツドリンクだ。ガン、ガガーン...... しかたがない、とりあ えずレトルトは暖まる。味噌汁とコーヒーはあきらめよう。 お湯が沸く間にビールを飲む。 寒くてうまくない。 パンをかじりながらライトでまわりを照らす。タイヤが重ねてある。 雨の滴がピチャピチャ..... デンデン......デンデン....と何かをたたく音がする。 そのデンデンの 方を見ると.....なぁ〜んだ洗濯機か.... 蛇口がある。 ガバッと跳んでって蛇口をひねると、ジ ャバーッ と出た出た水が出た。うれし〜。 このような幸せはこういう旅をしないと味わえ ないものだ。 でも、たいていの人はそんな幸せには興味が無いようである。しばらくする と、こんなことで一喜一憂する自分が哀れになってきた。 インスタント味噌汁と牛丼を食っ た。味はよくわからなかったが、暖まった。 ビールをゴックン、タバコを吸って....フーッ..... 落ち着いた。 でもやっぱり寒いのでビールが進まない。不本意だが缶ビール二本、明日ここ へおいていこう。パンク修理を終えて コーヒーを飲みながら地図で現在位置を確認した。 ここまで175Kmか〜、後どれくらいあんのかな〜、雨は止まないし、膝はガクガクしてい る。明日はもっときついかな〜、朝は早めに出た方が楽かな〜 とにかく疲れたな〜 早く寝 よっと。 段ボールを敷いてシュラフカバーに頭まですっぽり入る。 雨垂れのハネが顔にか かる。ホームレスの人達ってこんなかな〜 ウトウト.... 突然、カン カン カン......けたたましい 鐘の音、そして赤い点滅。 すぐ裏が中央線の踏み切りだったのだ。午前二時まで一時間ごと にしっかり起こされた。起きるごとにビールをすすり、結局、ビール三本飲んじゃいまし た。
一句、我疲れ 床に入るや ウトウトと 気が付きゃ飲んでる 口の卑しさ
やっぱり、朝寝坊..... パンとコーヒーで朝食をすませ、結局、出たのが八時過ぎ。 相変わら ず雨が降っている。足はなんとかイケそうだが、自転車をまたぐ時、上げた足が普段の十倍 重かった。そして国道20号をゆっくり踏み出す。 韮崎市を過ぎ、甲府市へ。ブドウ園が見 える頃にはようやく雨があがった。 コンビニで飲み物を補給する。雨具を脱ぎ、ウエストバ ッグに押し込み、タバコを一服。なんか余裕が出てきたな〜 空を見ると曇ってはいるが雨は もう降りそうにない。今度は暑くなるといけないので陽がささないことを祈る身勝手なオレ である。
しばらく軽快に下っていたが、勝沼からのだらだらした登りが結構 足にくる。 新笹子トン ネルまでの辛抱だ。あ〜辛い、休もうかな〜 ふっと前を見るとサイクリストが一人、喘ぎな がら登っている。休めなくなってしまった。そこは見栄っ張りのオレ、相手の実力を量り、 追いつき、追い越し、そして抜き去る。もちろん並んだときには表情に笑みを浮かべ、軽く ゲキを飛ばす。 ここまでやるとトンネルに入って下りになるまで死んでも抜かれる訳にはい かない。
トンネルを抜け、大月を過ぎ、相模湖へ...追い越していく車の中に東京のナンバーが多くな ってきた。この辺りから何だか信じられないぐらい調子良く足が回るようになった。それに なぜか気分もウキウキ、知らず知らずのうちにディープパープルのハイウェイスターを口ず さんでいた。スーパーマンにでもなったような気分だ。 これはもしかしてランナーズハイと か言うやつで頭からエンドルフィンとかいうモノが分泌されたのでは....などと 頭はしっかり ノーテンパーである。
大垂水峠はダンシングで登り切り、下りでは遅い車の後でくすぶっているバイク3台を車ご と外からブチ抜いてやった。オレってカッコイイと思った瞬間、DHバーに付けていた大切な 地図が飛ばされてしまった。急ブレーキをかけて自転車を降りてレーサーシューズでカチャ カチャ拾いに戻る始末。なぜか道の両脇に人がいっぱいいて、恥ずかしくて顔が赤くなっ た。
一句、我先に 他人[ひと]を押しのけ 下る坂 驕る心に 下る天罰
山を下りるとそこからいきなり八王子の町並。フ〜ン ここから東京かな〜って感じがした。 車もとても多いが、相変わらず調子良く快調にとばす。並走する車がびっくりしながらこち らを見ている。スピードメーターを見ると50Km/h出ている。 どうだいと口の端がちょっと 得意げに歪む。その時は気が付かなかったけど緩い下り坂だったようだ。
国立、府中を過ぎ、調布へ入ると車はさらに増え、道は狭いし信号がやたらと多い。 車がオ レを大きく回って追い越し、赤信号になるたびにオレが左脇から前に出る。 それを数回繰り 返すうちに、車は皆、止まる時に車体を左側ギリギリに寄せて自転車を前に出さないという 作戦に出た。悔しいがドライバーの気持ちも良くわかる。 歩道に上がってゆっくり走る。し かし、この歩道もとても狭い。街路樹が植わっている所では人と自転車が交せない。買い物 自転車の後をノロノロ走る。 下高井戸からようやく道も広くなってまた車道へ出るが車が多 いので神経を使う。
そして西新宿から左へ折れて池袋へ..... 午後4時、やっと着いた。 富山から東京までのいろい ろな景色、それぞれの土地の匂い、空気の変わりようなど、車や電車じゃ解らない。 なん か、こう当たり前だけど、ふ〜ん ちゃんと道がつながってるんだな〜と思った。
風呂に入って着替えてから、弟に電話した。そして酒を飲みに行こうと誘う。 体はだるいし 膝はガクガク、でも元気。 池袋の駅の階段をなんとかクリアーし、待ち合わせの原宿へ向か う。 さぁ〜て、酒飲んで自慢してやろう。どうだ、すげ〜だろうってネ。
一句、昂ぶりを 押さえて下る 階段に 膝が笑って 我も吹き出す
おしまい
文中、何度か読む句はすべてデタラメです。ご容赦ください。