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ある『ウルトラQ』ファンの夢
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昭和四十×年、突如東京に出現したエネルギー生物バルンガは、あらゆる動力、エネルギーを吸収し、現代文明を危機に陥れていた。 (『ウルトラQ』第十一話『バルンガ』より)
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バルンガの日
「あ、ハ―ド、デ―ズ、ナイトッ、とくらぁ」 ひょろ長い影がのんびりとペダルをこぎながら、地面を滑っていく。油染みたつなぎ服姿の須田勘一は、鼻歌を歌いながら路地から路地へと自転車を走らせていった。
いつもなら、両脇に並ぶ木造の家々からテレビの音が聞こえ、換気扇が夕飯の香りを吐き出している時分だった。だが今は、豆腐屋のラッパの音だけが、やけに澄んだ音色で、もの寂しく聞こえてくるだけ。
「あれ、勘ちゃん。家帰んないのかい?」
見れば顔見知りのおかみさんが、玄関先に七輪を出し、煮物をしている。
「うん、ちょっとね」
勘一は軽く会釈を返した。
道幅一杯を使って縄跳びをしている女の子たちが勘一のくるのを見て、遊びを中断する。
「ごめんよっと」 勘一は縄を踏み越え、自転車をこぎ進めた。縄跳びを再開した子供たちの声が、背後に遠ざかっていく。
路地を抜け、川べりに出ると、土手の小道を自転車で一気に駆け登る。
勘一はほっと一息つき、額に薄く浮き出た汗をぬぐった。
夕日が眩しい。川の流れの音がやけに大きく聞こえた。
間もなく日が暮れる。川向こうの工場はしんと静まり、煙突も煙を吐くのをやめている。その黒々としたシルエットの上を、カラスたちが鳴きながら飛んでいくところだ。
そのまま目を遥か西の方に転じると、空に浮かぶ巨大な怪物が夕日に照り映えていた。 バルンガと命名されたその化け物は、大空を退場しようとする太陽に向かって、自らの優位を誇示するかのように、遥か都心部の上に居座り続けている。
勘一は思わず身震いした。夕日で強調された、バルンガの体表面の陰影がぶよぶよと間断なく蠢く様は、不気味さとともに、一種異様な美しさをも感じさせる。
釣竿を持った三人連れの子供たちが、はしゃぎながらそばを走り過ぎていく。
勘一は再び自転車をこぎ始めた。川風に吹かれながら土手の上をいくと、やがて雑草の生い茂る空き地が眼下に見えてくる。
土手を下り、空地の横の道へ自転車を勢いよく飛び込ませると、未舗装の路面から激しい振動が伝わってくる。惰力の衰えた自転車を、勘一は立ちこぎで進めていった。