塗料のレオロジー

上田 隆宣


  1. はじめに
  2. 塗料の製造から塗布まで
  3. 塗料工業で利用されているレオロジー評価機器
  4. 塗料でのレオロジー研究
  5. まとめ

1.はじめに

 塗料に関するレオロジー的な取扱としては次の様な3つのステージがある、

・塗料液のレオロジー      (分散系溶液のレオロジー)
・塗布から成膜過程のレオロジー (硬化反応、熱などの状態変化過程のレオロジー)
・塗膜のレオロジー       (高分子フィルムのレオロジー)


2.塗料の製造から塗布まで

 塗料はワニスと呼ばれる高分子樹脂、溶剤、顔料、添加剤を予備混合する過程をへて、ボールミルやサンドグラインダーミル等の分散機で分散を行い、溶解タンクにて高分子樹脂、硬化剤等を加えて撹拌溶解を行い、濾過をして塗料となる。粉体塗料に於いても溶解過程が無いだけで、同様に混合、分散過程をへて塗料となる。

 塗布方法には大きく分けて、刷毛塗り、噴霧塗装、電着塗装、ロールコーター塗装、がある。

 刷毛塗りは建築物の塗装に利用され、刷毛塗りの刷毛さばきが良くたれにくい塗料が要求され、粘性挙動としては高せん断速度で粘度が低く、低せん断速度で粘度が高い、構造粘性の場合が多い。

 噴霧塗装は、霧化方法によってエアースプレー塗装、エアレス塗装、静電塗装に分けられる。エアレス塗装は塗料に高圧をかけてノズルから噴霧させる方法であり、塗出量が多く船舶や橋梁の塗装に利用され、塗料の粘性挙動は刷毛塗り同様に構造粘性の場合が多い。エアースプレー塗装と静電塗装(エアースプレーに静電気をかけ事により、霧化と被塗物への塗料の付着の促進をする)は自動車や産業機械の上塗りの塗装に利用される。これらの塗料では、外観が最優先される場合が多いために塗布した後のレベリング過程が重視される。粘性挙動は、刷毛塗りやエアレス塗装に比べ低粘度で使わ れ、ほぼニュートン流動となっている。

 電着塗装は自動車の下塗りや部品、ロッカー等の塗装に利用される方法で塗料は低粘度のエマルジョン塗料であり電気泳動により塗布を行う。電着塗料は塗着する融着し、不溶化して高粘度になるため、焼付け乾燥炉の中でのレベリングが重視される。粘性挙動としては粘度の温度変化の制御が重要である。

 ロールコーター塗装は金属ロールの塗装に利用される方法で大量に連続的に薄膜塗布するのに適している。最近ではプレコート塗料の発展により、塗布した後に成形がされ洗濯機やビデオ等の家電製品に利用されている。塗料性能としてはエアースプレー塗装や静電塗装と同様に外観が重視される場合が多い。粘性挙動としては、ほぼニュートン流動である。

 以上、塗料の製造過程から塗布までの概略を述べた。塗料では塗布過程と成膜過程での粘性及び粘弾性の制御がレオロジー的には、最も重要である。


3.塗料工業で利用されているレオロジー評価機器

 レオロジー評価機器に関して、生産や塗装の管理用の機器から研究用の機器まで塗料業界で利用されている評価機器を解説する。

・ストマー粘度計

 パドル型粘度計とも呼ばれる。一定の条件でパドル(かい)で塗料をかき回すときの撹拌抵抗を測定する装置である。測定結果は一定の回転数を得るために必要な荷重にある喚算係数をかけてKrebs単位(通常、KU値と呼ぶ)に変換する。KU値は、比較的ゆっくりした液体撹拌の抵抗値を測定している値である。
 解析的な取扱は困難であり、レオロジー的には疑問の多い測定であるが、エアレス塗装など比較的高粘度の塗装での粘度調整用、また貯蔵安定性などの粘度変化の測定器として、塗料技術者の感覚でとらえている粘度と良く対応している為に、現在でもよく使われている。

・FORDカップ粘度計

 単孔オリフィス粘度計の中で、最もよく使われている粘度計である。
 No.4 FORDカップが最も一般的であり、自動車用の上塗り、中塗り等の静電霧化塗装機を利用する場合の粘度調整用に使われる。また、ロールコーター塗装での粘度調整用にも使われる。
 オリフィス近傍の流動は複雑であり、解析的な取扱は困難であるが、スプレー粘度の温度依存性や濃度依存性など実用範囲での精度、再現性は充分である。
 E型粘度計の様な解析的扱いが可能な測定装置との比較からNo.4 FORDカップで測定する場合のせん断速度の範囲は、50〜100 sec-1であり、せん断速度としては中程度、撹拌や混合操作に対応するせん断速度範囲の測定である。

・B型粘度計とTI値

 B型粘度計は共軸二重円筒型で内筒回転型の粘度計である。解析的に取り扱える装置ではあるが、内筒が余りに小さい場合には系全体でのせん断速度のばらつきが大きくなり、極端な構造粘性を持つ試料ではせん断速度がかからない領域ができる場合があり、測定には注意が必要である。
 TI値(チクソトロピックインデクス)またはTF値(チクソコトピックファクター)は塗料業界でよく利用されている構造粘性をしめす指数である。

TI=ηN1 (回転数N1での粘度)/ηN2 (回転数N2での粘度)

        ここで、N2>N1 である。

       

 通常、B型粘度計での測定では、6rpmで測定した粘度を60rpmで測定した粘度で割った値である。TI値が1に近いほどニュートン流動になり、TI値が大きくなるほど構造粘性があり、たれにくい塗料である。後に述べるE型粘度計では、6と60rpmが無い為に5と50rpmが使われる。

・E型粘度計とCASSON式

 E型粘度計はコーンプレート型の回転粘度計である。試料が数mlと少量でよい、せん断が試料全体に均一にかかる、温度制御が容易であるという利点がある事から、B型に変わって広く使用されている。
 解析的な取扱として、CASSON式によるデータ整理が広く使われている。

√S = a√D + b  CASSON式

ここで、S:せん断応力 D:せん断速度 a,b :定数

 塗料は、CASSON式にあてはまる場合が多く、かなり広い範囲で利用されている。傾きaの二乗を残留粘度η∞、切片bの二乗を降伏値S0 として塗料の特数値としている。

・高せん断速度領域の粘度測定装置

 塗布過程において、刷毛塗りで103〜104sec−1、スプレーやロールコーターでは10^4〜10^6sec−1と高せん断の現象であるため、高せん断領域での粘度測定は塗布過程での研究の為広く行われている。前述の残留粘度でもかなりの範囲での適用は可能であるが、直接測定する方法として、高速回転型の回転粘度計、キャピラリー粘度計がある。

・低せん断速度領域の粘度測定装置

 たれ、レベリング等の現象は10^−1〜10^−3sec−1と非常に低いせん断領域での現象である。この領域での現象は、通常、降伏値で現象を把握できる事が多いが、分散系が複雑になってくると外挿値である降伏値では現象を把握でき無い場合がある。
 この様な場合、直接低せん断領域を測定する必要がある。低せん断領域の測定は低回転まで安定に駆動し、応力の検出器が高性能なレオメーターを用いて測定するのが一般的であるが、簡便な測定法としてE型粘度計のバネの緩和を利用した、発条緩和法による LSV(Low Shear Viscometer)4)などが利用され、複雑な分散系となったハイソリッド塗料や水性塗料等のたれやレベリング等の把握に役だっている。


4.塗料でのレオロジー研究

 せん断速度に関してはかなり広い範囲での測定が必要である。一般の分散系と同様に分散系としての特徴は低せん断領域に表れる。塗料は分散系ではあるが、

(1)通常良く分散されている事が塗料としての必要条件となるために極端な粘性挙動を示すような場合は珍しい。

(2)分散媒となる高分子樹脂は溶剤に溶解し易く、塗り易い低粘度である事が要求されるため、分子量が低く、ポリマーというよりオリゴマーの領域の樹脂を使用する場合が多い。

(3)分散体である顔料の濃度があまり高くない。

などの特徴がある。

・塗布過程のレオロジー

 刷毛塗り、スプレー塗布、ロール塗布のいずれにおいても高せん断速度下での粘度測定がよくおこ なわれている。

 高せん断速度下での粘度測定は、通常、回転粘度計を用いる。回転粘度計による測定では定常流測定ではなく、等速昇降法による測定が一般的である
 チクソトロピックループは感覚的には解り易いが、解析的な取扱が非常に難しい為に、塗料ではかなりの厚膜で塗布をする建築用、橋梁用、船舶用などの増粘付与添加剤で構造粘性を持たせた塗料を対象にで測定されている例が多い6)。

 自動車用、金属ロール用などの比較的ニュートン流動に近い塗料では、通常、E型粘度計のような中せん断速度領域での測定からCASSON式を用いてせん断速度無限大での粘度である残留粘度を求めて評価している。

 最近の研究では、動的な粘弾性測定を用いて温度時間喚算則に従ってマスターカーブを得る方法によって高周波領域の弾性率、粘性率とロールコーター塗布の様な高せん断下での現象解明をしている。
周波数とせん断速度はCOX−MERZ則により等価なものとして扱える。この関係は、分散系では適切ではないが、分散が比較的よい塗料ではほぼ適用できている。

 焼付硬化型(熱硬化型)では塗布された後に室温で、セッティングされた後に乾燥炉に入り乾燥、硬化反応が起こり成膜し、塗膜となる。常温乾燥型の代表である、建築用のエマルジョン塗料では、水の揮発によりエマルジョン粒子の融着がおこり成膜する。

 いずれの場合に於いても、塗布直後の硬化反応や融着などの急激な粘度上昇が起こる前の段階でタレやたるみという、不具合点が問題になる。
 タレやたるみの限界膜厚は、1工程で塗布可能な膜厚となるために塗料の塗布工程に大きく影響する。タレは次式2)に示す様に降伏値が充分大きければタレは発生しない。

x=S0/ρ*g

ここで、 x:膜厚 g:重力加速度 ρ:密度 S0:降伏値

       

 降伏値の測定は先に述べたように、CASSON式の外挿値として求めるのが一般的である。しかし、有機超微粒子などの構造粘性としては弱い、すなわちより低せん断領域で構造粘性効果のある材料の場合は、直接低せん断領域を先に述べたLSV等で測定する事で塗料の設計情報を得ることができる。

・焼付硬化過程のレオロジー

 焼付硬化過程は、液体から固体への相変化の過渡状態の粘弾性変化であり、溶剤揮発によって起こる濃度変化、架橋反応、熱履歴、せん断履歴等が複雑な粘弾性変化をもたらし、ピンホール、熱時のタレ、レベリング等の現象とかかわっている。
 実際に塗料から塗膜に変化する過渡状態のレオロジー変化を直接測定することは困難である。さらに、ハイソリッド塗料、焼付け型水性塗料、機能性塗料等では、ポリマーブレンド、ポリマーアロイ、不均一分散系と塗料樹脂系も複雑なものとなりレオロジー測定を困難にしている。

 ピンホールは、残留揮発溶剤及び反応生成物または塗装中に巻き込んだ空気が半硬化した塗膜に針の穴の様な欠陥を発生させる。従って、極端に厚塗りした場合、セッティングが短時間で強制乾燥を行った場合、硬化反応が極端に速い場合に起こる。塗料配合的には低沸点溶剤を使用した場合に起こりやすく、溶剤の設計及び熱時の粘度を下げて流動性をよくするRC剤(レオロジーコントロール剤)と呼ばれる添加剤で調整を行っている。
 熱時のタレ(二次ダレとも言われる)は乾燥硬化過程において、熱による粘度降下が架橋反応による粘度上昇より大きいために発生する。従って、乾燥炉の昇温が極端に速い場合に起こり、塗料配合的には硬化反応の立ち上がりが遅い場合やRC剤を多量に使用した場合に起こる。
 レベリング性もタレ性と同様に、セッティング中に決定される場合と焼き付け時の熱リフローにより決定される場合がある。次式は、平坦にレベリングするまでの時間についてのオーチャードの式である。

t=0.036λ^4 log((Zt/Z0)*(η/σ*X^3)

ここで t:時間  λ:波の波長 Zt:時間tの振幅 Z0:初期の波の振幅 η:粘度 σ:表面張力 X:膜厚 

     レベリングに関しては、粘度が低く、表面張力が大きければレベリングが良好である事を示している。また、塗装要因としては、いかに平坦に塗り上げるかがレベリングの良否を決めることになる。


5.まとめ

 塗料は分散系レオロジーの研究対象として代表格のように言われている。確かに、レオロジーの名付け親であるビンガムが最初に研究対象としたのは塗料であったといわれている。
 しかし、現実には、顔料分散面では分散系レオロジーの性質を押え込む事が目標であり、均一系として扱える位まで顔料分散の技術が進んできた。
 また、塗料用の樹脂はもともと比較的低分子で、分子量分布の広いオリゴマーであったものが、ハイソリッド塗料では更に低分子下している。
 従って、高分子ポリマーに固体粒子を分散した系で起こる様な現象は起こり難く、固体を粉砕し界面活性剤で分散している、たとえば石炭スラリー系の低濃度分散品に近い挙動となってきている。
 元来、塗料はその目的である美観性のために、分散媒、分散体とも不均一であるものを、分散技術によって、如何に見かけが均一とするかを追求してきた。
 レオロジー面でも見かけはニュートニアンに近く、線形的である。しかし、社会のニーズとより高機能を付与して行くためには不均一を積極的に利用することが重要である。その意味では、塗料の分散系レオロジーとしての積極的な利用はこれからの課題である。


(参考文献)

・T.C.PATTON,「塗料の流動と顔料分散」

・上田隆宣,化工協会第20回秋季大会要旨集、p320 ,1987.10

・上田隆宣,FT−RM法関連,第35回、第36回レオロジー討論会講演要旨集

・上田隆宣、他,Proceedings of the ACS Division of PMSE,p659-663,vol55,1986.9etc.