レオロジーは1929年にビンガムによって公にされた、その定義は”物質の流動と変形を扱う科学”です。・おさわりの学問中国語では流変学と訳されているそうですが非常に的を得た言葉となっています、さすがは漢字の国ですね。
ビンガムさんがレオロジーを研究する動機となったのは塗料の流動に関する研究です、そうです、塗料はビンガム流動であるというあのビンガムさんです。
従って、レオロジーの生みの親は塗料でありますから、塗料業界のレオロジストとしてはもっとがんばって行きたいですね。
レオロジーは流体力学と材料力学の学際分野の学問で、やっている事は粘弾性に関する研究がほとんどです。
粘弾性の研究とは、液体ではべとべと、ねばねば、さらさら、しゃぶしゃぶというような性質、固体では硬い、柔らかい、もろい、腰がある、跳ねるなどの性質について、その性質をどのように科学的に表現するか、何故このような性質がでてくるのかを考える学問なのです。
さて、ねばねば、さらさら、硬い、柔らかいなどの性質を我々が感じるのはどうやって感じているのでしょう。目でみた感じでもある程度わかりますが実際には手にとってさわってみるのが一番です、さわるといってもじっとさわるだけでは駄目ですね、力をくわえてその反応を確かめてみますね。・レオロジーがなぜ必要か?レオロジーとはまさにこのさわるという行動そのものなのです。すなわち、物に変形を加える時にどの位の力がいるか、どの位変形したかという性質を調べているのです。
人間の手はさわる事でこれらの性質をすべて確かめられ、結果を言葉としてねばねば、さらさら、硬い、柔らかい、時には○△×のあいまいな評価をします。これを数値やグラフとして定量的にとらえようとしているのがレオロジーです。
これらの性質は温度や加える力の速さによっても変化します、例えば、プラスチックを曲げたいと思った時、ドライヤーで暖めてやると小さな力で短時間に曲げる事ができます、また、長い時間重りを乗せておけば曲がってしまう事など皆さんが日常経験している事でしょう。この様な性質は温度時間喚算則とよばれる性質で、暖めるとより短時間に同じ力で同じ変形をさせる事ができるという、レオロジーでは重要な法則です。 変形と力と温度または時間との関係を調べることがレオロジーの目的です。人間の手は圧力と温度を感じる事ができます、また非常に高精度に動かす事が出来ます、その意味ではレオロジーの測定装置そのものです。
だから、レオロジーはおさわりの学問なのです。
舌もまたレオロジーの優秀なセンサーであり、毎日の食事でみなさんはレオロジー測定を行なって、肉が硬いとか柔らかいとか、そばに腰があると、食品にたいして重要なレオロジー的性質を研究している事になります、まさに人類皆レオロジストなのです。
おさわりの学問が何故必要なのでしょうか、まずはいままで述べてきたように触った感触を定量化するという事です、つぎにはなぜそのような性質が発現するするかというメカニズムを考える事です、そして最終的な目標はこの様な性質を付与するためにはどうするべきかという設計そのものなのです。・高分子の構造を覗く数値として表現する事は、標準化を行なったり、自動化をしてゆくときに、個人差をなくしたり、より精度良く制御するためには重要な事はよくおわかりの通りです。 定量化の中には経験的な現象を数値化するだけの場合と、メカニズムを考えてゆくための精密な測定があります。
塗料産業で使用されるストーマー粘度計は経験を数値化している代表例で、塗料液を混ぜるときにどの位の力がいるかと言うことを数値化したものです。従って、メカニズムを推測に利用するにはデータが不足しています、メカニズムの推定をする為には様々な条件で精密に測定し、データをとってゆく事が必要です。
ここが大変難しいところで、たかだか粘度を測定するのに高価な装置を買って、多くの時間をさいて何になるんだと言うのが、当社に限らず一般的な意見で、企業でのレオロジストがぶつかる大きな壁といえるものです。
例えば、塗料がたれると言う現象を研究する場合、粘度が高ければたれないというのは誰が考えても当り前であり、たれるかどうかは塗ってみればわかると言うことになります。
従って、粘度を測定して、たれるかどうかを測定すればすべてわかると言うことで実験が始まりますが、実際には粘度をどの様に測定するかが大変な問題となります、実験の時間が無ければなるべく簡単な測定器を使ってしまい、データが足らないまま実験が終わってしまいます。この場合、ある種の枠の中では傾向を見いだす事ができますが、すべてに通用する様な結果にはなりません、従って、同じ様な実験を何度も繰り返す事になります。しかし、塗ってみればわかるのだからいいじゃないかという事でレオロジー測定すらされない場合がでてきます。
レオロジー測定は難しくて時間がかかるというのは事実であり、役にたつのかどうかは難しく、困った時の神頼みのように、困った時のレオロジーというような利用のしかたが現状であり、レオロジストは占師みたいなものになってしまいます。占師はたくさんいると混乱しますから、どうしても研究者が少なくなってしまいます。少なければ、実験が少なくデータ不足でまた占師になり、にわとりが先かたまごが先かという論議になってしまいます。
そんな中で、最近はレオロジーがもてているという話があります。なぜでしょう、石油化学の発展段階では次から次へと新しい夢のような材料の開発がされてきました。しかし、もうそろそろ技術的に新しい材料というよりも新しい加工技術が重要となってきたためだと思われます。材料の性質に関する研究が進み、性質を組み合わせる必要がでてきて、そのためには性質とメカニズム、構造を明確にして、それを作り出すために材料の質だけでなくどんな形がいいか、どのように加工すればよいかという事が問題となってきたからだと思われます。
物の性質といっても、化学的な性質と物理的な性質があり、レオロジーは物理的な性質に関係しています。化学的な性質は、分析機器の進歩によりかなり明確になった物のその性質の発現メカニズムに関しては物理的な側面が大きく、そのようなわけで、レオロジーがもてているのでしょう。
複雑な性質の組合せやより高度な加工を行なってゆくためには、レオロジーというおさわりの学問はますます必要になるとおもいます。ただし、占師ではないレオロジストが必要なのです。
ピアノ線より強いケプラー繊維というものがあります、ケプラー繊維の登場により、高分子配向により繊維の引っ張り強度が増すことがわかり、配向させるための加工技術に関してレオロジーが応用されているます。・レオロジーからの開発高分子はスパゲッティのように長い麺がからまりあったような構造となっています。1本1本の麺の味や臭いは化学的な性質でありいわば分析化学の領域であり、麺がからまりあった状態は物理的な性質でありレオロジーの領域になります。
スープスパゲッティのように、麺がほとんど絡まり会わない場合、フォークで麺を取り出すにはあまり力がいらない、すなわち粘度が低い状態です。スパゲッティナポリタンのような場合は、幾分か絡み合いが大きくなりフォークで麺を取り出すには力が必要です、すなわち粘度が高い状態です。ゆでたスパゲッティの麺を水を切ってほっておくと麺同士がくっついてしまい1本の麺を取り出すことは出来ません、すなわちゲル化しているような状態です。
この様にレオロジーは力学的な刺激を与えて、反応をみる事から高分子のからみあいの状態を知る事ができる。この様に高分子の内部での状態を知る事が出来れば、適当な粘度に調整し、引っ張る条件を適切にすれば高分子をある方向に配向させる事が可能になります。
著名なレオロジストである村上先生の入門書の中に次の様な一節があります。・材料開発からの脱皮「石油化学と結びついて華やかにデビューした戦後の花形、高分子科学と、当時まったくお呼びでなかったレオロジー。 将来の理想的な材料科学の発展は、長らくお呼びでなかったレオロジストが、材料設計、合成化学の担当者を奴隷のように酷使する時に始まる。」
まことに、レオロジーを研究する物にとってはたのもしいばかりの名言です。
このように、材料科学と言っても高分子関連の開発にはレオロジーは大変重要な基礎技術となっています。
さらに、塗料や化粧品などの分散系とよばれる、粒子を溶液に混ぜた物のレオロジーの研究も盛んになりますますこれらの材料開発においても重要な基礎技術になってきています。
塗料は典型的な材料開発を行なっている産業です、塗料を1kgいくらという値段でお客さんに売ります。町のペンキ屋さんで売る塗料はこれで良いのですが、自動車会社などでは塗って、塗膜になり、それがどれ位の性質を持つかということまでもサービスとして含まれています。この様な事情は、当社に樹脂や顔料を納入している多くのメーカーも同じである。・技術翻訳家レオロジスト花王さんが化粧品やフロッピィーディスクを製造販売している様に、自社で材料を作るだけでなく、一歩進んで加工技術を積極的に取り入れることで新たな分野へ事業を展開している会社も多くなっています。
当社においては、材料開発の産業から脱皮として、施工までを考慮する方向は幾らかありますが、自動車産業など大手需要家に対してはあまり変化が見られません。 しかし、自動車産業を考えた場合、徹底的な合理化をした場合、塗装行程は請負制にして1台いくらで塗りましょうという事は充分に考えられることです。
レオロジー、おおきな範囲でとらえれば物性、はここにあげたようなどちらかと言えば加工技術で必要な場合が多いのです。従って、現在のような材料開発だけを行なっている場合、サービスの手助け的な技術としてとらえられ、あまり重要な技術として取り上げられない場合がほとんどです、それゆえに、手間をかけずに相談できる占師レオロジストのみになってしまうのです。
しかし、今後様々な方向での材料開発事業を行なったり、少し踏み込んで加工技術を含めた事業展開をしてゆくためにはレオロジーは必要不可欠な基礎技術だと思います。 だからいま、占師でない、商品開発の中心的な役目をするレオロジストを養成する必要があるのです。
レオロジストは物理的な現象のメカニズムを推定してゆく事から、ライン担当が実際に困っている問題を聞き、いったい何が問題のボトルネックとなっているかを考えます。・五感への挑戦そして、様々な物性値を参考にして材料開発か加工技術かなど問題を基礎技術のどの分野で解決すべきかを判断してゆきます。
その意味では、レオロジストは基礎研究と応用開発技術との間で技術の翻訳する役目ができるのです。
また、営業分野でユーザーの要求を的確に自社の技術に伝えてゆくためには、技術翻訳家としてのレオロジストは大変役だっていくものと思います。
技術翻訳家はレオロジストに限りませんが、レオロジーという学問の性格からして、すべての技術者が専門家でなくともレオロジーの臭いがかげるぐらいになることは重要であります。
溶液の物理的性質を決める数値として、粘度と表面張力があります。・おわりに粘度や表面張力はまさに、おさわりの学問レオロジーで検討されています。しかし、最近の要求として力を加えず測定したいという要求があるます、この場合おさわりが使えないので、みるだけでなんとかする必要があります。画像処理の技術が進み、みる事から粘度を測定したり、表面張力を測定したりする技術の開発がだんだん出来るようになってきています。
このようにレオロジー、大きく考えれば物性、は人間の五感に対する挑戦です、従って、目標は人間の感じ、五感そのものなのです。だからそんなに難しく考えず、気楽に取り組んでほしいと思います。
人間の感じが最も優秀で、その感じを定量化してゆくことがレオロジーなのですから。
数年前に樹脂部門の責任者が会社をおやめになるまえに私の所にこられてレオロジーの測定をしたいと言われた。その人の話では、昔樹脂を合成している時に、樹脂合成をどこでやめるかを判断するために手にとって樹脂を引っ張ったり、たたいたりしてさわってみて、「ボディがでる」という感じで評価をしていた、あれはきっとレオロジーだと思うので測定してみたいと言われて、1週間ほど測定をしました。測定の結果、「ボディ」はまさに粘弾性で説明ができました。・参考文献経験で行なっている事は本当に正確であり、学問とか難しい技術は必要がないように思えますが、技術を高め、普及してゆくためには多少面倒でも科学的な根拠を持つことは重要だと思います。
技術翻訳家レオロジストとしてレオロジーの臭いを感じ、少しでも興味を持って、皆さんの中でレオロジーが珍しいもので無くなる事を願い、話を終わりにします。
「やさしいレオロジー」 村上 謙吉