ちょうど一年前、ボルガタンガからボクまで歩こうとした大馬鹿野郎たちがいた。「トロトロ No.56」に報告されているように志半ばで挫折したものの、「マラカス男」発見や「嵐に向かって歯を磨く男」発見など得たものも少なくない。
 そしてまた、奴らが帰ってきた---ごまんえつ隊の逆襲第2回歩け歩けツアー…題して、

物 理 学 講 座

吾輩はリアカーである

Lectured by たぶち・こーいちろー

 

第1講:ごまんえつ隊の学習効果

 吾輩はリアカーである。名前はまだない。タマレ Polytech のコマキ先生が私の生みの親であるらしい。コマキ先生は日本人なので、私も純日本風の二輪のかっこうである。ガーナの四輪の奴らは原色でペイントされていてアフリカンだが、私は渋く、黒一色である。

 私は生まれて間もなく、首藤という男にもらわれた。彼は周囲から「隊長」と呼ばれているので偉い人らしい。と思っていたら、「ごまんえつ隊」という冒険プロジェクトの隊長だと知ってがっかりした。

 首藤さんは「ごまんえつ君」とも呼ばれていて、隊員総会で剃髪してみたり、自転車で任地からアクラに出てきたりと、その自己満足な奇行は皆の尊敬を集めているのだという。そして、隊長さんについていこうという変な人が集まって、変なことをするのが「ごまんえつ隊」だそうな。

 私は自分の出生を呪った。このごまんえつ隊の第2回歩け歩けツアーに参加するために生まれてきたのだから。第1回の時には、水から食糧から全部、リュックに背負って歩いて、酒が飲めないほどくたびれてしまったという。そこで私が生まれてきたのだ。「計画性のない」が枕詞だったごまんえつ隊にもリアカー並の脳みそはあったらしい。

 歩くコースにも、かなり学習効果が現れている。ワレワレ→ナブロンゴのローリーも通らないような道 70km を5日かけて歩くのだ。去年は「80km を3日間」と言っていたのだから今回は歩き通せるかもしれない。

 実をいうと、ワレワレ→ナブロンゴ案の前には、「タマレ→モレ・ナショナルパーク経由→ワ」というとんでもない構想があったことを告白しよう。でも、ライオンがいたら怖いねってことで、とりやめになったのである。それでも、ワレワレ→ナブロンゴでさえ村人に会えば「ライオンはいるか?」と尋ねていたのは微笑ましかった。

 

第2講:ごまんえつ隊絶滅危機論

 今回はフレッシュな風として、写真・物資購入・調理担当として尾崎さんが参加予定であった。「これでごまんえつ隊の灯は消えない」とごまんえつの隊長さんである。(ちなみにカメラマン尾崎さんが参加しようとも隊長さんは自分の重たいカメラを持ってきた。すなわち、篠山紀信が参加しようとも隊長さんは自分のカメラを持参するということである)

 しかし、集合場所(タマレ)に最初に現れたのは、今回不参加を表明していた田渕さんであった。なんでもイエジからカヌーでボルタ湖の単独縦断を試みたが、1日で挫折して、こっちに来たのだという。

 こうして、尾崎さん不参加、田渕さん参加となると、首藤隊長、高田副隊長、高須さん、倉持さんで、なんと!去年とまるっきりいっしょのメンバーではないか。今回はドミトリーに告知をして広く参加を募ったにもかかわらず、不動のメンバーということは、「ごまんえつ隊は3Kであるため新人がこない」ということだ。ごまんえつ隊が絶滅の危機に瀕していることが明らかになった今、あなたにできることは何か?

 

第3講:沸点降下物質の発見

 ナバリ村のはずれでテントを張ることにして、村の井戸で炊事用に水をもらった。この井戸はポンプではなくて、バケツでくみ上げる方法である。それはいいのだが、水が白く濁っている。ちょうど「カルピスの10倍うすめ」みたいな感じ。炊事担当の田渕さんはこれを使って飯を炊いたところ、芯の残った生煮えになってしまった。原因は何だ?水が少なかったか、火が弱かったか、いや、名コック(うそ)の田渕さんがそんな失敗をするはずがない。彼の理論(言いわけ)によると、「水を白く濁らしている物質は世界初の沸点降下物質であり、低温で水が沸騰してしまうため、米が生煮えになる」そうである。素晴らしい理論だ!

 しかし、どうしてごまんえつ隊は食事に恵まれないのだろうか。

 

第4講:隊長、音速を超える!

 最大の難関、ホワイトボルタ川は数日前の雨で水量も多く、流れも速い。「歩いて渡れるだろう」と言われていた吾輩はびびってしまったが、村人のカヌーに縦に乗せられて渡ることができた。

 2日目の晩は、そこで村人が焼いていた大トカゲを賞味し、溶けたファンミルクを1人5個も食べた。あとは歩くだけだ。

 申し遅れたが吾輩は、全ての荷物を積まれて、1人に引かれて、1人に押されるという2人制で進んでいる。5人ではとても背負えない荷物を積んで、1人20分位歩いてしまえるのだから、吾輩の偉大さがわかろうというものだ。

 こういうシステムで歩いていたから、みんなだいたい同じ歩調だった。「去年みたいに、すっげー先に行っちゃった隊長に、『休憩だー!!』って叫ばなくていいね」と誰かが笑って言う。

 コロゴでケンケーの朝食をすませて、隊長さんが引く番である。ところが、これが速い、速い。後押ししていた田渕さんもついて行けずに脱落してしまった。それでも速さが落ちることなく吾輩は隊長に引かれていく。他の4人ははるか後ろを歩いている。歩く人より荷物を引っぱる方が速いのだ。時速7kmは出ていた。

 後ろの人たちが何か叫んでいるようだ。止まってほしいんだろう。そりゃそうだ。水は全部吾輩に積んであるんだから。でも、何を叫んでいるのか聞こえない。

 えっ!そうだ、

隊長は音速を超えてしまった!!

1.た、隊長、速すぎる…
2.待ってくれよ〜
3.あ〜ぁ、行っちゃった
4.もう見えない。

 

第5講:金属疲労

 道がカーブしてしまったので、後ろの4人は見えなくなってしまった。すると、道は岩のごつごつしたガタガタになった。こわいよぉ。音速より速くこんな道を走られてはかなわない。隊長さんの足は耐えられても、吾輩の足はコンコルドほど頑丈にできていないのだ。

 遂に右の車軸のナットがとれて、車軸が外れてしまった。ほっ、やっと止まった。

 ここで常人なら、修理のために後の4人を待つはずだ。

 しかし、隊長は、通りがかった人に手伝ってもらって車軸をはめると、すぐに出発してしまうのだ!

 でもこのままだと車軸は留まってないから、またはずれる。隊長さんが愛用のナイフで木を削り(本領発揮だ!)車軸留めを作っているところで、後の4人が追いついた。

 石とロープとコンビーフを開ける金具を使って、車軸は復旧した。

 

第6講:隊長、光速を超える!!

 倉持さんが吾輩を引くときには、バーを高く上げて、それによっかかるようにして歩く。彼は背が低いから、後ろから見ると、子どもが無理矢理働かされているようでおかしい。でも、こうすると、ほとんど力がいらなくて楽なのだという。

 それが証拠に、引き終わってみると、彼の腕時計は数十分遅れていたのだ。つまり、彼は光速の99%で走っていたことになるのだ!アインシュタインの相対性理論によると、光速に近い速さで動いている人は止まっている人よりも時間の進みが遅い。倉持さんはこれを世界で初めて実証した。

 お昼にはナブロンゴに着けるとわかっているにもかかわらず、隊長さんのスピードは落ちるどころか速くなっていった。

 もう、かれこれ1時間隊長さんは走り続けている。もちろん他の隊員はずっと後ろで見えない。吾輩もいいかげん休みたい。

 そこへ、自転車に乗った若者が追いかけてきた。
「おまえのブラザーが止まって待てと言っている。」
なんと、後ろの4人は通りがかった若者に伝言を託してよこしたのだ。吾輩は、隊長さんが「せからしい!」と一喝して走り続けるのを恐れた。しかしながら光速走行も1時間が限度とみえて休むことになったのでした。そこで隊長さん一言。

「このぐらいの速さの方が足の調子がいい」

参りました。隊長さんの走りにあやかって、吾輩の名前は爆走くんに決定いたしました。

 ナブロンゴ・セカンダリー(高須さんち)への最終ランナーは、やっぱり隊長さんです。吾輩はみんなと一緒にバンザイでもして校門をくぐりたかったんだけど、隊長さんは独り爆走していくではないですか、やっぱり。全員着いたときには、すっかりくつろいでいる隊長さんなのでした。(おわり)

 

ガーナ協力隊機関誌「トロトロ」61号(1992年5月)掲載

 

タマレ Polytech

Northern Region 州都タマレにある職業訓練校。
純日本風
ガーナには、日本にあるような二輪のリアカーは存在しない。人力で荷物を運ぶときはもっぱら頭の上に載せる。
ドミトリー
首都アクラにある隊員宿泊所。
ファンミルク
ガーナ国産のアイスクリーム。トレードマークが扇の形をしていることからそう呼ばれている。
ケンケー
トウモロコシの粉を発酵させてソフトボール大の団子にしたガーナ料理。唐辛子のソースをつけて食べる。日本人の口には合わないが、1年もすればこれをおいしいと思うようになるから不思議。
せからしい
隊長さんは熊本県出身である。
セカンダリー
Secondary school は日本の中学と高校に相当する。義務教育ではない。


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