右側に気をつけろ


 

ジャン・リュック・ゴダールの80年代の隠れた傑作。ゴダール映画というと難解というイメージがありますが、なるほど、これもそう(笑)。例によってセリフがセリフになっていない、様々な文学や映画などからの引用で構成されているので、一見するとまったくわけがわからない。しかし、右側に気をつけろは映画自体の雰囲気がゴダール映画としてはかなりポップな感じなので、取っつきやすいところがあります。内容自体は難解でも、テーマと構成は実にシンプルです。要は、フィーリングが合うかどうか、でしょう。

映画は、ゴダール自身が演じる「公爵殿下(あるいは白痴)」と呼ばれる映画監督が、完成した映画のフィルムを映画館まで届ける旅を軸に、フランスを代表するパンク・ロックバンド、リタ・ミツコのレコーディング風景のドキュメンタリーと、ジャック・ヴィルレ演じる「男(あいつ)」のナンセンスな旅を絡めつつ、往年のジャック・タチ映画へのオマージュとして、ドタバタコメディー風にまとめたもの(タイトルは、タチの「左側に気をつけろ」という短編のパクリ)。

創作すること(生まれ出ること)はそれ自体も大変だが、作られたあと(この世に生まれたのち)もまた大変であり、一貫してアイデンティティを保ち続けることがいかに難しいことか、そういったことがテーマの映画といえるでしょう。登場する3つのグループの人物の旅を通じて反復される「地上に一つの場を」というフレーズが、そのことを象徴的に表現するキーワードになっています。そしてこのフレーズこそ、この映画の副題であり、真のタイトルです。

映像は恐ろしいほどに美しく(カロリーヌ・シャンプティエ撮影)、またサウンド設計(フランソワ・ミュジーが担当)がめちゃくちゃ計算されていて、きちんとした音響設備のある映画館で見ると、背中がぞくぞくするほどの感動を味わえます。冒頭、美しい田園風景の空撮を切り裂くように鳴る電話のベルなど、まさに自分のおなかの中から響いてくるように感じられたものです。

ゴダールの映画としてはめずらしく、音楽にクラッシクをほとんど使っておらず、基本的には劇中のリタ・ミツコのレコーディング・サウンドをコラージュ的に使用しており、それが映像と絶妙のマッチングをみせ、とてもテンポの良い映画に仕上がっています。

サウンドの洪水、映像も限りなく美しい。これは是非見て頂きたい、お気に入りの一本です。

#ゴダール映画のDVDリリースが相次いでいるにもかかわらず、この映画と同時期に完成した「リア王」の2本に関しては、なぜかいまだにDVD化されていません。右側に気をつけろのLDはありますが、大変レアなものです。ビデオは確かレンタル可能なはずです。