この項では、小児の難治てんかんの手術(外科治療について)解説します。
小児の難治てんかんの特徴は、レノックスガストウ症候群などで代表されるように、全般発作が主体で、広範囲な脳波異常をともないやすいことです.
同時に、発作を放置すると、大脳機能の発達に障害をもたらすという、成人には見られない重要な側面があります.
薬物療法で発作が止まらない時は、単に発作を緩和するだけでなく、てんかんによる大脳に対する悪影響を除去する意味でも手術の可能性をさぐる必要があります.
しかし、すべての場合で、大脳機能が回復するわけではありません.
小児の難治てんかんで、精神運動発達に遅れが見られる場合、次の二つの因子が関連していることを考えなければなりません.

これに対して、てんかん発作が減少しても全く反応が改善しない場合や、生下時から発育が見られない場合は、大脳機能そのものがてんかん発作とは関係なく障害されている可能性が高く、外科的治療でてんかん波が消失しても、大脳機能は改善しないと考えざるを得ません.

従って、小児の重症のてんかんを手術すれば、すべての方で大脳機能が改善するわけではありません.
脳のもともとの障害とてんかんによる悪影響との割合が、手術による大脳機能の改善を決定する重要なファクターになります.
小児の大脳機能には、このように二つの因子が関連しており、てんかんの因子が大脳機能の障害に強く関係している時に限って、手術の効果が期待できることを認識する必要があります.
小児の難治てんかんにもいろいろな種類がありますので、それに対応する手術法も幾つかあります.
その中で最も代表的な手術法は脳梁離断術です.
小児の大脳半球は強いてんかん波を反対側の半球に容易に伝達する性質があります.
そのために、転倒発作や、全身強直発作などの重篤な全般発作を生じやすい特徴があります.
この時にてんかん波が伝わる通路となるのが脳梁です.
脳梁は脳室の天井を走っている左右大脳半球を結ぶ大きな神経線維の束です.

この繊維束を中央で切断すると、下図のような独特の形になります. 前方の屈曲した部分が“脳梁膝”、続いて“体部”、くびれた部分が“脳梁狭”、一番後方のアリのお尻のようにふくれた部分が“脳梁膨大”と呼ばれます.

脳梁はこのように非常に太い神経線維ですが、てんかん発作がある場合は、てんかん波の格好の通り道となり、左右のてんかん波が共鳴する現象が起きてきます.
このような左右が共鳴したてんかん波を左右同期性てんかん波と呼び、大脳機能に対して非常に悪い影響を与えます.
小児の大脳機能が発達していくには、外からのいろんな刺激が重要な役割を果たします.
外からの刺激に応じていろんな神経回路が形成されていきます.
ところが、左右同期性異常波はこの刺激を遮断する雑音のような作用をするために、大脳に十分な刺激が届かず、精神運動機能の遅滞や後退現象が発生します.

この異常波で生じる発作の中で最も典型的なのが転倒発作です.
転倒は突然起こり、生傷が絶えないような状態となります.
転倒発作を反復する子供さんも大変ですが、四六時中目が離せないお母さんの気苦労も大変なものです.
このいまわしい転倒発作にきわめて有効な手術があります.
それが脳梁離断術と呼ばれる手術で、約90%の患者さんで転倒発作を消失させることができます.
しかも、多くの場合で、大脳機能の改善が見られ、言葉数が増えたり、歩行が安定したり、多動性が軽減するなどの効果が見られます.
このような大きな神経線維束を切断して、後遺症は出ないのかと心配されるかもしれません.
しかし、私たちの200例以上の脳梁離断術の経験や外国の論文でも、小児の場合は脳梁を全部切断しても、大脳機能が改善することはあっても、悪化することが無いことが示されています.
従って、小児の全般てんかんの場合、脳梁離断術が外科的治療の第一歩になる割合が非常に高いといえます.

脳梁離断術の効果として、

しかし、このように焦点が広範囲に及んでいても、片側または両側の前頭葉の範囲に収まっている場合は、外科的に対処が可能です.
勿論、この範囲を切除することは不可能ですが、MST(軟膜下皮質多切術)という方法を用いると、大脳機能を温存したままで焦点を沈静化することが可能になります.
この追加手術により、転倒発作だけでなく、それ以外の残存している発作も軽減することが可能になります.
さらに、てんかん波が減少することにより、さらに大脳機能が改善することも期待できます.
前頭葉は大脳機能を統合する司令塔みたいな役割を果たしていますので、ここのてんかん波が少しでも減少することは大脳機能の改善のためにはきわめて重要です.
また、前頭葉にてんかん焦点が残存すると、転倒発作は消失しても、ねじれの発作や全身けいれんが残ることが多く、これらの発作を軽くするためにも追加手術は重要です.
しかし、すべての例で、脳梁離断術後の追加手術が可能になるわけではありません.
焦点の範囲が余りに広い場合は、追加の手術は困難です.
われわれが通常、追加手術を行っているのは、片側または両側の前頭葉、あるいは片側の前頭葉と側頭葉くらいの範囲までで、両側の広範囲に焦点が及んでいるケースは追加手術は不可能です.
脳梁離断術後、大体6ヶ月くらい経過を見て、発作型や脳波の変化を十分に検討して、追加手術が可能か否かを決定します.
片側の前頭葉に広範囲に焦点が存在する場合は、下図のような手術法を用います.

すなわち、切除しても後遺症が出現しない底面は、脳組織に断面を入れ、他の部位から遮断します.
血管はそのままに残しておきますので、遮断された組織はそのまま血が通った状態で残りますが、そこから発生するてんかん波はどこにも伝わらなくなり、切除したのと同じ効果が得られます.
表面の新皮質と呼ばれる部分はMSTにより対処します.
このようにして、前頭葉の広範囲の焦点でも、安全に外科的に処理することができます.
前頭葉の両側に焦点が及んでいる場合は、半年くらいの勧角をあけて、2回に分けて手術を行います.
脳梁離断術とそれに対する追加手術は、小児に対する最も代表的な手術法です. それ以外にも、小児施行する手術法としては

側頭葉てんかんの発作型は、ぼうっと一点を見つめ、動作が停止し、口をぺちゃぺちゃさせたり、手をもぞもぞしたりなどの、独特な自動症が見られます.
また、発作以外に性格変化が見られることも少なくありません.
非常に攻撃性が強くなり、母親に暴力をふるったり、友達関係が保てなくなり学校生活が困難になることがあります.
側頭葉てんかんの攻撃的性格は、日によって非常に激しい時と、嘘のように穏やかな時とがあるのが特徴です.
てんかん発作は脳の電気現象と考えることもできます.側頭葉の内側の海馬という器官が充電されてくると次第に攻撃性が増し、発作によって放電すると、本来の穏やかな性格に戻るという周期を反復します.
側頭葉てんかんは転倒発作ほど急速な大脳機能の低下をもたらしませんが、小児期の早期に始まったものほど言語障害などの大脳機能障害につながりやすいので、疑わしい時は早めに検査することが重要です.
側頭葉てんかんの焦点は海馬が中心になっていることが多く、腫瘍が原因となっている場合でも、海馬だけ切除してもてんかん発作が止まらない場合が少なくありません.
これは、海馬からもてんかん波が出ているためで、海馬も含めて切除する必要があります.
すなわち、側頭葉切除術と同様な手術が必要となる場合が大部分のケースで必要と考えた方がよいでしょう.
海馬は記憶を取り込む機能(記銘力)に重要な役割を果たしています.
特に左側の海馬が重要で、左の海馬に萎縮がない時に切除してしまうと、記銘力障害が後遺症として出現することがあります.
これは、左側の脳が言語優位半球と呼ばれ、言語機能と密接に関係しているためです.
海馬を切除したら後遺症の危険性がある場合は、海馬にMSTを加える海馬多切術がきわめて有効です.
以上述べてきましたように、小児のてんかんにもいろんなタイプがありますが、転倒発作や強い全身けいれんを反復するタイプは、発作がコントロールされないまま放置すると、大脳機能に障害をもたらす可能性が高いことをしっかり認識しておくことが大切です.
薬の副作用を心配される方はたくさんいらっしゃいますが、てんかん波が小児の脳にきわめて有害であることに関しては、驚くほど多くの人が無関心です.
薬が良く効いて発作が止まると、大脳機能が著明に改善することが少なくありません.
重要な点は、薬物療法でも外科的治療でも構いません、とにかく重篤な全般発作を止めることです.
薬物療法で発作が止めきれない時は、外科的治療の助けを借りて、より薬が効きやすい状態を作ると考えて下さい.
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