6 砂漠に潜む高級ホテル


 チュニジアは、年間400万人の観光客を受け入れるので、ホテルは充実している。首都チュニスの街を車で走ると、逆三角形やタワー型など、建物のデザインを競い合う5つ星のホテルが乱立している。地方でも星の数に関係なく宿泊したホテルはどれも設備がよかった。チュニジア旅行を決定したあと、知人の許に送られてきたホテル協会の機関誌にも、世界のホテルのなかでも一度は滞在したいホテルベスト10の1つにチュニジアのホテルが含まれていた。現地に行って、そのホテルに泊まれる幸運に恵まれた。
 ホテルの名前は、「タメルザ・パレス」。

●神さえ創れなかった峡谷

 チュニジアは、国全体がディズニーランドの世界。冒険あり、浪漫あり、SFありという要素をもっている。国土の南西部はサハラ砂漠が始まり、その砂漠に至る境目辺りは、緑をすべてはぎとられた山岳砂漠が東西にモロッコまで連なる。その一郭にチュニジアのグランドキャニオンと呼ばれるタメルザ峡谷がある。ここは、アルジェリアとの国境に近い山岳オアシスで、水源の周囲だけにナツメヤシがたわわに茂る。このヤシの乾燥果実タッツは、美味しく、美容と健康にいいということで、日本でも一部の人の間で人気を得ている。砂漠のオミヤゲには最適。
 タメルザ峡谷には、数カ所から滝が流れ落ち、小川が発生しているが、その規模は日本庭園の盆栽程度。それでも澄みきった清流には小魚が群れている。
 峡谷とその周囲の砂漠の美しさは、それを表すことばがこの世には存在しない。あまりにも神秘的、いや人間を造ったことを誇るエデンの神でさえ創造できえなかった景観。映像なら伝えられる、ということでここを活写したカメラマンがアカデミー賞を受賞した。その映像をおさめたのが映画『イングリッシュ・ペイシェント』。とにかく映画か現地で体験して欲しい。ただし、冒険に慣れている運転手つきの4WDをチャーターしないと、そこには行けない。
 タメルザ・パレスは峡谷の頂辺りにある。

●意表をつく演出

 ワ—ッ、突然、悲鳴とも感嘆ともつかない声が、一斉にツアーバスの乗客たちから発せられた。大型バスはジェットコースターの船のように上下、左右に傾きながら、山岳砂漠の道をひた走る。道の片側は切り立つ崖。崖の底は水が何十年も流れたことがないワジ(涸川)。
 道の頂上でバスが停止する。
 泥を固めたベルベル人の平屋の防塁のような粗末な建物が1軒、乾燥した大地から生えている。その門をくぐる。と、そこはパリのオペラ座だった。
 正面の二階吹き抜け総ガラスには、夕日に染まり始めた砂漠とオアシス、ワジとその対岸に永遠に沈黙する遺跡の村がセットされている。その大舞台が迎えるなかを階段を降りていくと、優雅なロビーとフロントがあった。この意表をつく演出で、私達はホテル「タメルザ・パレス」の虜になっていった。

 好奇心旺盛な私達は、荷造りを解かずに部屋を飛び出して、ホテルの裏階段をさらにワジまで下り、乾燥した砂の河を横切って、ホテルの対岸の遺跡に侵入。そこは、数百年に一度の大雨で水没して棄てられた500 年の歴史を刻んだベルベル人の旧村である。タメルザ峡谷は、三つのオアシスの村から構成。ここはその一つであった。30年前3週間雨が降り続き大洪水がおき、水没。村人たちは村を捨て、他に移住していった。

●百目蝋燭が夜を迎える

  暮れなずむ廃村の通りから、対岸を眺める。峡谷の崖に神秘的なホテルが張りつくようにして聳える。一瞬蜃気楼をみているのかと目を疑いたくなる。そのテラス庭園の中央の花形のプールが、日没の光でエメラルド色に輝きはじめる。その輝きを追うようにして一人が悠然と泳いでいた(写真)。
 夕日が山岳砂漠に沈み始めると、ホテルの明かりを大勢の人が点けていく。灯火は全て百目蝋燭。この灯が年齢を隠して女性を一層美しく際立たせ、食事を豪華に見せる演出であることは、中世以来の西洋伝統のマナー。天と地が星屑に覆われ、空中浮遊の心地で世界のワインを宴しんだ。
 タメルザ・パレスは、1992年にオープンした4つ星のホテル。その設備のセンスとサービスのよさ、ホテルからの抜群の眺め、そして冒険旅行の基地としていまや超人気のホテルになっている。客室が少ない( 星4つの理由はこれ)ので、予約を早めに。せめてランチだけでもと訪れるツーリストが多い。興味を持たれたら、ホテルの連絡は下記に。
 Eメール/tamerza.palace@planet.tn




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