時計を買った。


思えば、自分の時計を買うなんて十五年来のことになります。
ふらっと入ったリサイクルショップに有った、セイコーの機械式防水時計を衝動買いしました。

この時計は新品未使用で、100m防水の準ダイバースウオッチです。
本当の潜水用ではありませんが、ねじ込み式のリューズだし、なによりセイコーのムーブメント(キャリバー7S26)ですから、信頼性は問題無いでしょう。同じようなタイプで、シチズンのダイバーを持っているのですが、そちらはクォーツで、電池の交換に耐圧試験などが必要な為、結構な維持費がかかります。そんなわけで電池切れのまま放ってあるのですが、他の機械式の時計は微妙な時計なので、実用的でタフな機械式が欲しいとは思っていました。この時計、なんと6,800円でした。回転式のベゼルは逆回転防止ではないし、ベルトもエクステンションではないのですが、潜水用ではなく、日常の酷使に耐えられる時計として買ったので機能的に十分だし、ダイバーウォッチに範を取ったデザインは視認性良好で、日常的には逆回転防止でない方が回転ベゼルも使いやすく、作りも質実剛健で気に入りました。

この機会に、少し時計の事を書きましょう。
時計をするようになったのは、小学生の時、父親のお下がりを貰ってからです。
セイコー5スポーツの自動巻で、酸素バーナーの火花で風防があばたになったものでした。それでも学校にいく時以外はほとんどしていたし、それ以来時計をすると言う事が習慣化しました。当時は時計と言うのは機械式しか無くて、しかも高価なものでしたから、あまり時計を持っている友達は多くなかったように思います。だから、たとえお下がりで、外見が痛んでいるものでも少し鼻が高かったのかもしれません。
その後、カシオから低価格のデジタルクオーツが売られるようになり、高校生の頃、初めて自分で時計を買いました。ストップウォッチ機能がついていたり、かなり気に入っていたのですが、当然の事ながら電池に寿命が有るし、その華奢な作りのせいか、ベルトはちぎれてしまうし、本体も壊れてしまったんだと思います。既に手元にありません。

あれは22歳くらいだったか、叔父が時計を一つくれました。
シチズンのSEVEN STAR RALLYCUSTOMというモデルで、貰った時には結構くたびれていたのですが、大事に使っていました。しかし無知と言うのは恐ろしいもので、100m防水と言うのを信じて、ベゼルに隠れた部分の風防が欠損している事を知らずにその時計をしたまま海に入ってしまい、文字盤に水が入ってしまったのです。おまけに計算尺を回転させる為の上部のリューズが錆で固着してしまい、途方に暮れてしまいました。

色々調べてみると、ほとんど数が出ていない時計で、実際に今まで雑誌の記事にしろ現物にしろ、二つと同じものを見たことがありません。(さすがに現在はWEBに情報が有りますね) これはある下町の時計屋さんで風防をワンオフで作成してもらい、リューズも流用品で作り直してもらってオーバーホールしてもらいました。おかげで今でもきちんと動くし、とても大切にしています。
これがきっかけで機械式時計に興味を持った私は、何冊か本を買い、中古の機械式時計を求めて、骨董屋とか質屋のショーウインドーをのぞいて歩くようになりました。最初は国産の機械式クロノグラフを探していたのですが、ある時、下町の裏通りにある、リサイクルショップのショーウインドーに並べられた時計の一つと出逢いました。

いくつか並んだROLEXの内の一つ。
金色でもないし、古ぼけていてブレスレットもオリジナルなのはバックルだけ。他にコンビのも新しいのも有って、それほど値段に違いは無いのに、なぜかその時計に魅入られてしまいました。
それを見た店主が声をかけて来て、「その剣先の針がいいでしょう?」と、私がどれを欲しがっているのか、すぐに見抜いたようです。
ROLEXといえば、代表的な高級ブランドの一つですが、元々は堅牢な実用時計として名をなしたメーカーで、時計としての信頼性こそがROLEXだったのです。
ステンレスのエンジンターンドベゼル、尖った針、ミネラルガラス。調べてみると60年代、おそらく私が生まれた頃に生産された時計です。まだ、ROLEXが宝飾品のようなモノになる前の、実用時計の頂点に有った頃の製品。
商売柄、周り中が金無垢のROLEXをしていましたが、まったく興味が無く、私にはステンレスの古ぼけた時計がとても魅力的に映ったのです。
ガラス越しに逡巡している私に、店主は、毎月少しずつお金を持って来てくれれば、売約にするよと申し出てくれました。
その時計についていた値札は、オイスターパーペチュアル・デイトジャストのクロノメーターとしては破格で、10万円を切る金額がついていたのですが、当時はそれを現金で支払うことが出来なかったのです。
考えた末、私はその時計を買う事にして、一万円の手付けを支払って、取っておいてもらう事にしました。もっとも一月もしないうちに残りのお金をかき集めて、時計を引き取ったのですけども。
と言うわけで、買ってからオリジナルのブレスレットに交換して、以来15年以上に渡って、何のトラブルも無く、ほとんど私の左腕に付けたまま使って来ました。それ以来、他の時計に興味を失っていたのです。
ROLEXについては、色々とヒストリーも有るし、その辺の事については詳しい人はやたらと詳しいだろうし、興味が無い人は全然無いでしょうから割愛します。
今時は、クオーツの時計がいくらでも安く手に入るし、正確できれいなんでしょうけど、機械式の時計と言うのは、人間が組み立てなければならず、高級なブランド品はともかく、実用品としてはコスト的に見合わなくなってしまい、今ではほとんど安い実用機械式時計は無くなってしまいました。そんな不合理な機械式時計だけど、きっとこの先もゼンマイ仕掛けの時計をし続けると思います。

投稿日時: 日 - 11月 27, 2005 at 11:38 午後          

Comments



©