続 偏光顕微鏡の世界(その3)バルサム切れ接眼レンズのレストア
(オリンパス偏光顕微鏡POM型のレストア、観察、改造)
07.11.17公開
前回のポラライザーはさとう研では初物。 興味深い物でした。 今回の接眼レンズも初物です。 ん? オリンパスのWF10Xなんか既に何本も持っているじゃないかって? 初物というのは「そのもの」じゃ無くて「その状態」です。 いわゆる「バルサム切れ」です。
まずは図3-1を見てください。 サイズはいい加減ですが、オリンパス接眼レンズWF10Xのレンズ構成を示しています。 ちなみに図の上が眼で覗く方、下が鏡筒に差し込む方向(=対物側)です。 図ではレンズ1と2が分離して描いていますが、実際にはこの2つのレンズはバルサムと呼ばれる接着剤でぴったりと接着され、一見すると一つのレンズの様に見えます。 見た目だけでなく、実際に2つでひとつの「目レンズ」の働きを担っているのです。 レンズ3は単体で、やや距離を置いて「集束レンズ」として配置されています。 働きとしては2つ(群)のレンズ構成で、実際には3つ(枚)のレンズを使っているので「2群3枚」ですね。

【図3-1. レンズ構成】
問題はこの目レンズです。 写真3-2のレンズAが取り出した目レンズですが、写真上側の一部がバルサム切れを起こして失透していますが分かりますか? まぁ、このくらいならば気にせずに使う事が出来ます。 問題はレンズBとC。 失透どころか完全に分離してしまっています(レンズB=レンズ1(図3-2)、レンズC=レンズ2、レンズB+C=レンズ1+2=目レンズなのです)。

【写真3-2. バルサム切れを生じた接眼レンズ】
ここでいつもの助け舟、「星を見る道具の工房」を見てみましょう。 TOP > 誰か教えて > レンズの張り合わせ方法は?のページに詳しく解決法が用意されています。 ほんと、大したHPです。 この中でアルコール希釈したバルサムを使う方法を試してみましょう。 バルサムはビクセンの観察セットについてきた物を使います。
レンズ面に残ったバルサムをシンナーで拭き取り、バルサムのアルコール希釈液を垂らして接着。 木製の洗濯バサミで挟んで固定し、オーブンで120℃×20分間加熱します。 完成!と思いきや...なんと、既に半分くらいバルサム切れを起こしているじゃないですか! とはいえ接着されている部分は透明度も高く、且つ強度もあるので上手くやればちゃんとした物に仕上がることは確かです。
シンナーに漬けること10分ほど。 なんとか剥がれました。 失敗したのはアルコールで希釈しすぎた上に圧力をかけすぎて液がこぼれてバルサム自体が少なすぎたため?と考えました。 アルコールで希釈された状態ではレンズの隙間を過不足無く接着液が満たしていたのが、乾燥=アルコール揮発により体積が減少し、結果としてバルサム切れ状態になったと考えたのです。 そこで今度は濃いめ、且つ圧をかけずに接着液過剰でいきます。 しかし... またしても失敗。 しかも今度は量を多くしたためかなかなか剥がれません。 シンナーに漬けたまま今日はお休み。 翌朝、ぱかっと剥がれていました。 失敗しても何とかなる...という事だけが心の支えです。
結局、アルコール希釈法は諦めて未希釈のバルサムを使う事にしました。 とはいえそのままでは粘度が高すぎて(殆ど流動性なし)のばす事も、ましてや微小な気泡を除く事も出来ません。 レンズを小皿に載せてオーブンで120℃に加熱。 その上からバルサムを載せると面白い様に溶けてオイル状に(写真3-2)。 これなら難なく接着&巻き込んだ気泡を圧力をかけて追い出す事が出来そうです。 バルサムを載せた状態でさらに5分ほど加熱して、いよいよ接着。 バルサムの量の加減が分からず、1回目は端が足らないので剥がしてもう一度やり直し。 2回目でもちょっと端が残ってしまいましたが、まぁいいでしょう。 ちなみに小皿(陶器製)に載せて加熱したのは、陶器の高い保温性のためにモタモタしていてもすぐに冷えずになんとかなるだろうと思ったからです。
失敗続きながらも学習した事もあります。 WF10Xの目レンズ(図3-1の1+2)の平凹レンズは全面が凹面になっておらず外側2割程度は平面が残されています。 つまり外側はレンズとしては用いられていません。 このまま覗いたら外側の平面部分が歪んでとんでもないことになりますがアイピース筐体の絞りと集束レンズ(図3-1の3)の屈折作用により光線はレンズ面となる中央部だけを通過し、歪みない像が得られるようです(理屈は間違っているかもしれないけど)。

【写真3-3. 未希釈バルサム加熱法に変更】
冷えて固まってから余分なバルサムをアルコールで拭き取り、アイピースの筐体に入れて完全に硬化するのを待ちます。 ...って本当に硬化するのかなぁ? 「星を見る...」のレポートでは加熱が重要、とあります。 バルサムに流動性を与える揮発性分を加熱で取り除かねばいつまで経ってもニチャニチャのままだと言うのです。 一応、バルサムを5分ほど加熱はしたけど十分なのかどうか?(脚注を参照) とりあえず様子を見ましょう。 筐体に入れてカニ目で締めてあるのである意味完全硬化しなくても良いのかも、などといい加減な事も考えていますが?
後はスリーブのメッキ面を磨き上げてレストア終了。 外観および見え味はもう片方のいじっていないレンズと変わりありません。 いやー、良かった良かった。 ビクセン観察セットに付属してきた「バルサム」。 これまで出番なしだったけど今回のレストアで使い方のノウハウが分かりました。 気泡に関してはぐちゃぐちゃ混ぜるエポキシ接着剤とは雲泥の差。 次作る岩石標本はバルサムを使おうかな?

【写真3-4. 今回大活躍のシンナーとバルサム】
