観察レポート・(ミクロの世界の観察)
「繊維の観察(布帛の観察)」
2007.12.9公開
ここまでの繊維の顕微鏡観察は糸一本を取り出して行いました。 しかし、衣料繊維は単独で使われることはまずなく、大抵は「布」になっているものです。 せっかくだから布の断面も見てみたいものですね。 ちょうどここにところどころ切り取られたシャツがあります。 クリーニングに使うウエスは着なくなったシャツを流用しているのですが、これを見てみましょうか。

【写真1-1.布帛(綿・ポリエステル交織)】
綿60%+ポリエステル40%、中国製(ユニクロで購入)
今回はエポキシ接着剤で固めてみました。 本当言うとはるさめサラダちゃんが壊したヘッドホンを修理するのに接着剤が余っちゃったんですね。 エポキシ接着剤って混ぜてしまったら取っておくわけにはいかない物ですから。 布帛の両面にエポキシ接着剤を付け、つまようじで念入りに擦り込みましたが...やり過ぎて糸が空いてしまいました。 まぁ、いいか。
完全に硬化したら実体顕微鏡下で薄く切り出します。 いつものごとく「数撃ちゃ当たる」でなるべくたくさんの切片を作ります。 次にカバーグラスに切片を載せるのですが、ここは「少数精鋭」でいきましょう。 これまでの経験ですが、ここも「数撃ちゃ当たる」で厚めの物も混ぜるとスライドガラスとカバーグラスの間隔が空きすぎて失敗します。 ピンセットの先で押し付けて切片をカバーグラスに固定し、グリセリンをたらしてからスライドガラスに載せれば半永久プレパラートの完成です。
普段ならこのまま観察&写真撮影&レポート、と行く所ですが...。 覗いてみたら予想外に良く見えた事、また最近バルサムの使い方・ノウハウを学んだことから永久プレパラートにすることにしました。 バルサムは水分を嫌うので(多分グリセリンも嫌うでしょう)アルコールで良く洗い、乾燥します。 次に小皿の上にスライドガラス、切片付きのカバーグラスを載せ、おのおのにバルサムを適量(1滴では少なかった)を載せ、120℃のオーブンで5分間加熱しました。 小皿の上に置いたのはオーブンから出しても小皿の保温効果のためにすぐには固まらず、作業性が良い為です。 あとはカバーグラスを載せ、押し付けて空気を除き、小皿の上でゆっくりと放冷すれば完成です。 空気抜きなどエポキシ接着剤によるマウント(岩石標本レポート参照)よりもはるかに楽ですね。

【写真1-2.綿布断面】
対物5倍×接眼7倍
写真1-2のごとく、縦糸(1)と緯糸(2)が垂直に配置されているのが良くわかります。 ちなみにあたりに散らばっている俵みたいな物(3)は縦糸切片がばらけて横倒しになったものです。 博士の腕前ではこの程度の厚みにしか切れない、という事ですな。 それでも教科書に載っていそうな典型的な布帛断面が観察できて満足。 甥っ子なども「うわーすげー」などと驚いていましたが何処を見ているのか分かっているのかな?
さて、意外な事にこの綿・ポリエステル交織布、ポリエステルは異型糸ですね。 「異型糸」とは? 繊維工業の世界では丸断面でないものをひっくるめて異型断面と呼んでいます。 ポリエステルにおける異型断面糸はデュポン社が絹の断面を真似て三角断面にしたのが始まりです。 ちなみにデュポン社は正三角形で特許出願したものだからライバル会社から大量の不等辺三角形断面糸が出てきたそうです。 三角断面は光沢アップが目的ですが、これは十字というか、足の一本足りないヒトデみたいな形ですね。 ちなみに緯糸は綿糸です。

【写真1-3.綿布断面(拡大)】
左:対物10倍×接眼7倍 右:対物40倍×接眼7倍
さらに拡大してみましょう。 写真1-3左は対物10倍で拡大したつもりですが、デジカメ写真のトリミングの関係で写真1-2とあまり変わりませんね。 ただし、同じ様な(画面上の)拡大率でも開口数が0.10→0.25へとアップした分、より細かく見えています。 ちなみに眼視で見たイメージはこれよりもふた周り小さいくらいです。 視野が8角形になっているのは視野絞りで絞っている為です。
写真1-3右は対物40倍に加えてデジカメ写真処理で眼視よりもさらに拡大しました。 よく見ると繊維断面に黒い粒がたくさん混ぜ込んであるのが分かります。 これは何か? おそらくつや消しの為の酸化チタンでしょう。 他に衣料用繊維に混ぜる可能性のある物としては色をつける為の顔料や静電気防止の為のカーボンブラックなどが考えられますがそれらはいずれも色がつくので白い繊維(縦糸の中には白もある)に入っていることはありません。 ちなみに酸化チタン自体は白色です。 ですが光を通さないので透過照明では黒く見えるようです。

【写真1-5.綿布断面(グリセリンマウント)】
蛇足かもしれませんが、同じ切片をグリセリンマウントしたプレパラートの写真1-5も紹介しましょう。 バルサムマウントでは見られない、包埋剤のエポキシ接着剤断面が影になって見えますね。 写真では分かりづらいのですが接着剤上の切断ムラというか、切片のでこぼこが影になって見苦しくもあります。 グリセリンの屈折率の違いが大きいので透明なはずのエポキシ接着剤が見えてしまうんですね。 バルサムとエポキシ接着剤の屈折率は似た様な物らしく、サンプル以外はほぼ透明です。 こんなに差が出る物とは思いませんでした。
