私たちのメディア・ウオッチ-富山から

 新聞やテレビの「従軍慰安婦」問題や援助交際する「少女」のニュースは、あたかも「女性の問題」であるかのように報道される。本来、「問題」男性の責任こそニュースのはずだが。メディアのニュースの多くは、男性の視点で作られているのではないだろうか。

 「メディアの中の性差別を考える会」は、1989年、富山に住む女性たちが中心になって発足した新聞を中心とするメディア・ウオッチの市民グループである。「客観報道」をモットーとする新聞が、同じ出来事についてまったくかけ離れた調子で報道していることに気づいたのが発端である。それは、富山市の市長と女性職員の懇談会の記事であった。A新聞はお茶くみや登用など職場の性差別の改善を求める女性職員の発言を多く紹介し、見出しも「『役職へ登用少ない』市長と懇談会で不満」と女性職員の声を代弁していた。一方、B新聞は「女子には男性にはないキメ細やかさがある」と「女子職員に奮起を促した」という市長のコメントに紙面の多くをさいていた。「日頃控えめな女性職員も男性顔負けの発言ぶり」というからかい調子のコラムもいっしょに。

 2つの新聞は一見、同じ出来事を客観的に報道しているようだったが、それは腹話術のようなもの。本来の声は、ジェンダーに敏感になると、透けて見えてきた。新聞の視点や価値観は、見出しや本文に「誰の声」を引用するか、どのような写真を使うかなどからおおよそ判断できるものだ。それによると、A新聞は性差別の改善、B新聞は性差別を容認する視点にたっていた。「男性顔負けの発言ぶり」といった性差別的な表現はそうした新聞の視点に連動していることも次第にわかっていった。

 私たちは、こうした問題意識から新聞や広報紙の記事を持ち寄り、女性の表現や描き方のステレオタイプの分類を行った。その過程で全国や海外の新聞社、ジャーナリストに女性のメディア表現の現状と改善策についてアンケート調査をした。それらの過程と結果は、『メディアに描かれる女性像ー新聞をめぐって[増補反響編付]』(桂書房)で詳細に報告しているのでご覧いただきたい。

 その議論の過程で、自分たちの意識や文化の見直しと記者との意見交換の場づくりを行った。ジャーナリストたちとの意見交換の場で「性差別はわかった。じゃあどうしたらいいのか」と問われたので、今度は海外のメディア機関のガイドラインを収集、女性の描かれ方についてどのような基準があるかを調べることにした。その結果、アメリカを中心にフェミニズム運動は、知の生産にかかわるすべての領域の「女性表象」に見直しをかけ、メディアや行政などが率先して「望ましいジェンダー関係」に関する基準づくりをしていることがわかった。さらに、表現の男性中心主義を改善するための原則は、「性別による不必要な区別をやめること」だということも知った。

 そして昨年、上野千鶴子さんが加わって『きっと変えられる性差別語ー私たちのガイドライン』(三省堂)というオールターナティブ・メディアを発刊した。海外の基準を具体的な日本語表現に置き換える対案づくりを行ったものだ。日本の新聞17紙を調査し、紙面に男性中心主義が表れている表現を「従軍慰安婦」「美人」「いたずら」「処女作」から「保父」「看護士」(男性が参入すると新語が作られる)まで100例ほどあげた。それは日本の女性をとりまく文化や社会を浮き彫りにするようなものだった。それに対案を示すことによって、男性中心主義でない社会の像を示したいと考えた。まだ見ぬ社会をイメージするのは、相当難しい。ピッタリな表現をつくり出すには、まだまだ時間と多くの人の参加が必要だろう。幅広く読んでもらいたい本だが、報道関係からの反響はこれからだ。

 ところで、私たちのように地方に住むものにとっては、地域文化について大きな発進力を持つ「行政」も重要なメディアである。北京会議に200人の大団体を派遣した富山県は、昨年12月、女性プラン改定のフォーラムを開いた。その配布資料を見て驚いた。「エンパワーメント」をキーワードとして「女性が自立・自助することを通じて判断力や行動力を培い、蓄えること」という啓蒙的なトーンで紹介していた。以来、富山では女性関連イベントなどで上からの「エンパワーメント」が叫ばれていると聞く。 草の根の女性たちが自発的にグローバル・フェミニズムによって連帯するというエンパワーメントの発想もこれじゃあ、トップダウンの啓発になりかねない。最近見た女性団体のニューズレターには、「今 あなた<男>もわたし<女>も行動は力、ともにエンパワーメント」とあった。男女協力は必要だが、なんだか引っかかる。ほかの地域、自治体ではどうなんだろうか。いつのまにか、日本中でトップダウンの「エンパワーメント」や男女の「エンパワーメント」が横行していたりすると大変だ。

 「メディア・ウオッチ」も「エンパワーメント」の具体的行動の一つである。テレビや新聞、雑誌、自治体などのメディア表現を男性中心主義がないか、ウオッチする必要がある。地球とジェンダーに敏感な視点を持ってどんどん意見を言い、対案を考えていきたいものだ。

 【『女たちの21世紀』No.10 特集メディアと女性、アジア女性資料センター発行、1997年3月刊より】


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