97年5月に刊行された共同通信社『記者ハンドブック第8版』に、性差別表現についてのガイドライン(基準)が初めて以下のように示されました。
【共同通信社『記者ハンドブック第8版』1997年、p84より】
これまで、新聞社のハンドブック(記事を書く際のマニュアル本)では、書き方の基本(用語について)の中で「差別語、不快用語」という項目がありました。その中に、”心身の障害、病気””職業(職種)など””身分など””人種、民族、地域など”という項目が並び、それぞれ用例を示して気をつけるべき点を指摘していました。
今回刊行された第8版では、この中に”性差別”の項目が初めて追加されました。差別語の言い換えというマス・メディアの差別表現への対処法には「言葉狩り」という批判もあります。しかし、今回の性差別表現への対処では、言い換え例は、「女流」「女史」と最小限にとどめ、新聞表記における男女平等原則を示しているのです。
「女性の強調はしない」「男女の敬称を統一する」など「男女を対称に扱う」という原則が示されたのは、マス・メディアとジェンダーを考えると画期的なことです。
これは、私たち「メディアの中の性差別を考える会」が上野千鶴子との編『きっと変えられる性差別語ー私たちのガイドライン』*でもっとも強調した点でした。今後、社内マル秘ガイドラインはあっても、一般公開版には掲載しないという他の全国紙が共同通信社に続いて、男女平等表記のガイドラインを公開されることを期待します。また、共同通信においては、この原則が、氏名、肩書き、職業名の表記などにも適用されるよう日々の紙面での運用状況をウオッチしていこうと思います。
日米の新聞社の性差別に関するガイドラインに関する情報は、斉藤正美「ジェンダー的公正報道のガイドライン」『図書館とメディアの本 ず・ぼん』2号、新泉社、1995年を見てください。この号は特集「メディアと差別-ガイドラインを考える」です。関心のある方は、03-3815-1662(新泉社)あるいは、03-3478-1774(ず・ぼん編集部)までお問い合わせください。
日本のメディアの性差別の基準は?
●公開版ハンドブックでは性差別基準なし
日本の記者ハンドブックでは性差別の基準は一体、どのように示されているのだろうか。具体的に、「朝日新聞の用語の手引き」(93年)「毎日新聞用語集」(92年)「読売スタイルブック」(93年・読売のみ市販されていない)「記者ハンドブック」(共同通信社94年)「記事スタイルブック」(時事通信社91年)という3大全国紙と通信社2社の基準集を調べた。新聞常用漢字一覧表や送り仮名など、用字用語辞典としての機能が大半を占める点では大同小異である。わずかに、「記事のフォーム」(共同)、「記事の書き方」(時事)、「毎日憲章 毎日新聞社編集綱領」(毎日)などを組み込んで「記者ハンドブック」の形式を維持している。
差別問題に関しては、読売が「人権にかかわる報道の記述原則」という項を持つが、プライバシー、少年、精神病などの項目はあるものの、性差別については、項目すらなく、当然ながら原則も存在しない。共同は、「差別語、不快用語」の項で「基本的人権を守り、あらゆる社会的差別をなくすため努力することは、報道に携わる者の重要な責務」と書くが、差別用語の羅列のみで、性差別を含め、差別の基準を示していない。時事も、共同とほぼ同様の対応である。一般に公開されている基準集に差別表現の基準は明記されていない。
●内部基準集の性差別基準
そのため、一般に「差別用語リスト」「禁止用語リスト」とも称される、朝日の「取り決め集’94」、毎日の「避けたい言葉」(改訂・92年版)、読売の「差別表現・不快語・注意語要覧」(93年)など、内部の取り決めにあたってみた。毎日を除いて、性差別とは何か、という定義を示さないままに、「女工マ女子行員」「老婆マ、老女、老婦人」「未亡人マ故○○氏の妻」といった言い換えが示されている。語レベルのリストという点、及び、対象の性差別的表現が、3社とも20語未満(筆者のカウントによる)にすぎず、性差別的表現を体系的に把握しようとしていないのが、難点である。
毎日は、「女性の地位向上、社会参加と性差別解消を目指す運動は新聞社の使命とするところでもある。とくに男性との差異、女性であることを強調した表現は女性から厳しい指弾を受けている(下線は筆者)」と、性差別表現の定義をしていることから、他社のリストにはない「OL」や「女史」が例示され、「便宜的に使わない」、「やゆした形では使わない」などと差別になる条件が明示されている。ただし、性差別的表現に関して原則を体系化して、具体例を示すところまではいっていない。
また、付記しておくと、朝日の「取り決め集」は差別語リストというより記事の書き方や原稿のさばき方など基準集という性格の書である。同時に、朝日は全170ページに及ぶ「差別用語研究基礎資料ー自制語・禁止語から使用例・糾弾例まで」という用語幹事発行の資料集を91年に発行している。日本の性差別表現批判の動きや米国の言語改革運動も幅広い差別問題の一つとして詳しく紹介している。米国の性差別追放の原則をスチュワーデスをキャビン・アテンダントとするように「無性語」にする原則、及び、「対」(パラレル・トリートメント)の原則と、指摘しているが、日本語で原則を応用したらどうなるか、という検討をしてはいない。毎日とともに、内部での積極的審議、検討を期待したいところである。
●公開された議論へ
一般に、原則や基準なしに議論することは不可能である。メディアも「差別語リスト」の限界には気づいている。それを乗り越えるために、各社が民主的な方法での指標づくり(ガイドライン)に取り組むのに、機を失しないことを願う。
【斉藤正美「ジェンダー的公正報道のガイドライン」『ず・ぼん』2号、p57-58に小見出しをつけた】
<1997.5.8更新>