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「男子御誕生」で峻烈さ増す「女系」認否の綱引き
───政府はあくまで容認姿勢。伝統維持派に安倍新政権の追い風
秋篠宮妃紀子殿下は9月6日午前、男子を出産されました。皇太子殿下、秋篠宮殿下に次ぐ皇位継承権第3位の男子皇孫の御誕生です。「皇太子の次の世代の皇位継承資格者がいない」という「皇統の危機」がひとまず解消されたことから、「危機」を打開するため、「男系男子」に限っている皇位継承制度を改め、女性・女系天皇を容認する皇室典範改正案の国会提出は見送られました。
次期自民党総裁の安倍晋三内閣官房長官(当時)は「(典範改正は)冷静に慎重にしっかりと落ち着いた議論を進めなければならない」と慎重姿勢を強調しました。政界には「改正を急ぐべきではない」との意見が広がり、皇室典範改正は封印されたと伝えられています。けれども、議論が沈静化することはありません。
私的諮問機関の「皇室典範に関する有識者会議」(吉川弘之座長)を発足させ、改正案に火をつけた張本人とされる小泉首相(当時)は、男子皇孫誕生という新展開に、「改正を急ぐ必要はない。しばらくは静かにする方がいい」と述べる一方で、「将来については女系天皇を認めないと皇位継承が難しくなる」と女系継承容認をあらためて表明しました。
□4大新聞が女帝容認の社説
マスコミも同様です。翌日、一般全国紙はそろって奉祝の社説をかかげましたが、産経が「議論を白紙に戻して」「拙速は避け」「慎重に」と訴えたほかは、朝日、読売、毎日、日経の4紙とも、「皇太子の次の世代に男子が1人だけでは、将来にわたり皇室を維持して行くには依然として不安」(朝日)、「いまの制度では、愛子さまや眞子さまは結婚されると皇族の身分を離れる。皇室の方々が将来的に少なくなっていく」(読売)と女帝容認を促しています。
天皇史に前例のない女系継承を認めようという論調が際立っているのは無理もありません。政府は過去10年にもわたって、女性・女系容認への既成事実を積み上げてきたからです。
これまでの動きを振り返ってみると、皇室典範有識者会議が発足したのは昨年(平成17年)1月ですが、すでに平成8年、鎌倉節宮内庁長官(当時)の指示で基礎資料の整理・作成が開始されたことが知られています。
翌9〜12年には内閣官房の協力により、工藤敦夫・元内閣法制局長官を中心に研究会、懇話会が設けられ、第1期は皇室制度、第2期は皇室法について研究に取り組み、12〜15年には資料の整理が行われ、長官、次長に随時報告されました。
15〜16年には内閣官房、内閣法制局、宮内庁が共同して非公式の検討を行い、内閣官房と宮内庁の連携で公式検討への準備作業が進められたといわれます。
こうした積み重ねのうえに、17年1月から有識者会議による公式検討が始まり、同年11月に「皇位継承資格を女子や女系の皇族に拡大することが必要である」と結論する報告書がまとめられたことは間違いないでしょう。
非公式の検討会では、①嫡出の男子皇族に限定する現行の皇位継承制度自体に無理があり、将来、皇位継承資格者がいなくなる懸念が大きい、②皇位継承は国の基本に関わる重要事項であり、皇位継承の不安が現実となる前に幅広い観点から慎重かつ十分な検討が必要である、③皇位継承資格者の「帝王学」教育の時期にもかんがみて早期検討が必要である、と考えられました。
そのうえで、①憲法が定める「世襲」による象徴天皇制度を前提とすること、②憲法改正を必要とせず、皇室典範の改正によること、③皇位継承制度に関する「国民意識」と「歴史・伝統」を尊重すること、を制度改正の基本的考え方とし、「皇位継承資格を女性にも拡大する」「男女にかかわらず直系を傍系に優先させる」を制度改正の二本柱としたようです。
こうした基本認識は踏襲され、有識者会議では、現行憲法の象徴天皇制度を前提とし、「将来にわたって安定的な皇位の継承を可能にするための制度を早急に構築すること」が重要課題とされました。基本的な視点は、国民の理解と支持が得られること、伝統を踏まえたものであること、制度として安定したものであること、とされています。
けれども、ここでの「伝統」とはあくまで戦後60年の象徴天皇制度の伝統です。報告書は「古来続いてきた皇位の男系敬称を安定的に維持することはきわめて困難」と断定し、その結果、女性・女系天皇容認に踏み切ったのです。
□超党派議員連盟で巻き返し
皇孫御誕生という新局面下でさえ、一部とはいえ女系容認の気運は加速化の兆しが見えます。
たとえば政権与党・公明党の神崎代表(当時)はこう語っています。「(改正は)次の政権が判断する。時間をかけて国民の合意を形成することになるだろう。男系維持なら側室を置くか、宮家を増やすか。側室は国民が同意しないだろうから、せめて宮家を増やすことはした方がいい。眞子さまが結婚して臣籍降下するまでに結論を出した方がいいだろう……」
現行制度では内親王は結婚によって皇族身分を離れられます。女系継承容認の立場からすれば、秋篠宮家の長女・眞子内親王のご結婚までに皇室典範を改正し、内親王にも皇位継承の途を開いておくことが求められます。
残された時間は、この10月で15歳になられる眞子さまが結婚適齢期をお迎えになる10〜20年。このあいだに、「近代以降のわが国にとっては初めての経験」(有識者会議報告書)となるどころか、皇統史に前例のない女系継承について、「国民の理解と支持」が得られるのかどうか。しかも現行典範によれば、15歳以上の内親王は自由意思によって皇族の身分を離れることができますから、改正作業は急がざるを得ません。
これに対抗して、二千数百年の天皇史を基礎にして男系男子継承の維持を訴える伝統重視派の巻き返しの動きも急を告げています。
保守は言論人の集まりである皇室典範問題研究会(小堀桂一郎代表)は、昭和22年に占領政策で皇籍離脱を余儀なくされた旧宮家の皇籍復帰によって、男系男子継承の「不磨の鉄則」を回復させることを提唱しました。
これに呼応する超党派の保守系議員で組織される日本会議国会議員懇談会(下村博文事務局長)は、男系維持を目的として、新たに超党派の議員連盟を設立し、同様に旧宮家の皇族復帰をはかる特別立法を検討する考えを明らかにしています。
伝統重視派は女系継承回避のため、皇籍復帰した元皇族の男子子孫と、現皇族女子との婚姻を具体的に提言しています。
自民党内閣部会(木村勉部会長)が6月に行った「皇位継承のあり方に関する中間的な整理」では、結論は男系維持と女系容認の両論併記でした。安倍氏の側近の1人である下村衆院議員らの新たな動きに次期政権が呼応すれば、党内の改正ムードが一気に広がる可能性もあります。
秋篠宮妃の第三子御懐妊、男子御誕生で、いったん閉ざされかけた女性・女系天皇への途がふたたび開かれるのか、それとも逆に男系男子継承維持の特別立法へと突き進むのか。両陣営の一歩も退かない論争は峻烈さを増すばかりです。
註記 この記事は月刊「FACTA」2006年10月号に掲載された拙文を少し修正したものです。記事に登場する肩書きは当時のままとしてあります。(2006年11月)
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