SAITO Yoshihisa’s Archives SSH180208
 
 
 
不毛な「ナショナリズム・ゲーム」に終止符を
 
 
───清水美和著『中国が「反日」を捨てる日』を読む
 
 
 
 
 
 いま中国情勢にもっとも詳しい記者は、と聞かれたら、私は迷わずに清水美和さんをあげます。その清水さんが丹念に事実を追いながら、冷え切った日中関係打開のカギを模索しています。
 
 胡錦涛政権が正式に発足した2003年春、中国では対日関係改善をよびかける「新思考外交」が台頭していました。けれども新政策は一年もたたずに挫折、いまや日中関係は「氷河期」とも評されます。中国で何かが起きていると考えるのは自然ですが、疑問に答えてくれる報道は滅多にありません。
 
 著書は壮絶な権力闘争が展開されていることを明らかにしています。「反日の権化」ともいうべき江沢民前主席を中心に、対日強硬派が小泉首相の靖国参拝を政争の具に利用し、現政権を揺さぶり続けているのです。
 
 もっとも強烈なのは昨春の攻防です。反日デモが四川省から広東省、北京にまで波及、日本大使館も襲われました。中国の国際イメージが失墜し、胡錦涛政権が追い込まれるに及んで、大規模な情勢報告会が開かれ、違法デモの抑制が国家的方針となりました。ところが、その折も折、江沢民は反日・愛国運動「五・四運動」の記念日に「反日」のシンボルである「南京大虐殺記念館」を鳴り物入りで訪問し、新政権への不満をあからさまに表明、巻き返しを図ります。
 
 中国にとって昨年(2007年)は「抗日戦争・反ファシズム戦争勝利60周年」の節目で9月3日には記念大会が開かれました。胡錦涛は演説で対日関係改善を促しましたが、人民大会堂は静まり返り、かたわらの江沢民も無反応でした。
 
 日本の存在なくして国が成り立たない中国にとって「反日」が国益にかなうはずはありませんが、対日譲歩は「売国奴」の批判を招き、地位を危うくします。胡錦涛までが小泉参拝を批判せざるを得なくなったのはそのためです。一方、危険水域をはるかに越えた社会矛盾は政権の土台を揺り動かさずにはおきません。外交も内政も失敗すれば、またしても強硬派が元気づきます。胡錦涛政権は窮地におかれています。
 
 日本の主導で不毛な「ナショナリズム・ゲーム」を終わらせるべきだと清水さんは訴えます。まさにその通りですが、日中の民族主義が激突した20世紀の悲劇の再来をもっとも望まないのは靖国の祭神かもしれません。松井石根や広田弘毅など、今日、A級戦犯の汚名を着せられている彼らは中国革命の父・孫文を敬愛し、民族主義を排して日中の提携を追求したのでした。
 
 
追伸 この記事は平成18年2月8日付産経新聞の読書欄「旬を読む」に掲載された拙文に若干の修正を加えたものです。
 
 
 
 
 
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