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ビリヤード場の光と影
私はタイとフィリピンにしか行ったことがないので、こういう光景はアジア全般なのかもしれませんが、フィリピンで球を撞くときにいつも強く感じるのは光と湿度の存在です。
まず湿度ですが、まあこれは半野外のビリヤード場で撞くことが多いので、当然慣れるまでには時間がかかります。引くべき球がまったく動かないし、出るべき球も力なく止まってしまうことがほとんどですが、いろいろ工夫をしていると、こういう環境ではこう撞かなきゃ球は動かんよ。というショットがごくたまに偶然できることがあります。
そんなときって普段の自分のショットとは、きっと天と地ほどの差のある体の使い方をしているのでしょう。そのときの球の感触がすごく心に響きます。そしていつまでも手にじわ〜っと残っている気がします。そういう状態の時はその感覚が残っている間は、すごくいいイメージで球を撞くことができる気がします。きっともう一度あの感触を取り戻そうと無意識に追い求めているんだと思います。
日本のテーブル・コンディションからは問題外と烙印を押されるであろうこんな環境が、プレーヤーを強くするんだろうなと感じます。しっかりと撞点をとらえることができなければ、埃と湿気まみれのラシャと球でマスワリ連発なんて無理な話です(当然私のことではありませんよ。現地のプレーヤーの話です)。たぶんすべての日本人のプレーヤーはこの環境で勝負をしたら、相手うんぬんの前にテーブルに負けてしまうでしょう。
イロイロ・シティーでは川の上に建っているビリヤード場がお気に入りなのですが、ここの重いラシャで球を撞くと、ああ、今自分はイロイロにいるんだな。と実感がわき上がってきます。まあ、そんな気持ちになるだけで、実際はズタズタになっているのですが・・・。
そして最後に光です。私は昔、西船橋の長太郎会館と言う場所で店員をしていたのですが、ひとつだけ大きな不満がありました。それは窓がなかったんですね。正確にはあったのですけど、広告等がシール状に貼られていて、季節の移り変わりどころか昼か夜かもわからない店でした。その前の店が全面に窓ガラスがある店でしたので、特に息苦しさを感じたのだと思います。
まあ、プレーすることだけを考えれば余計な光はあるだけ邪魔なのですが、人間はわがままですから余計なものもほしいのです。そうなると雨よけのためだけに屋根があるところに置かれている、半野外のビリヤード場などは長太郎会館の対極にあると言っていいでしょう。
テーブルの脇に生えている木が風に揺れてゆらめく影が、ゆったりとビリヤードテーブルの上に伸びています。夕暮れ近くなると、太陽の光が斜めからテーブルに向かって照射して的球が見えないどころか、光の方向を凝視する目に痛みすら走ります。こんな店で世界選手権など開かれることは万に一つもないでしょう。でも気分がいいんです。
あいつとは夕暮れどきは勝負してはいけない。とか、あいつは日が暮れればたいしたことないぜ。とか、そんなこともありそうだな。なんて想像するだけで楽しくなってしまいます。
光がなければ球は撞けません。そしてそれなりの時間をかけて適切な光の当て方が研究されて今のかたちになっているのだと思うのだけれど、でも自然の光に多くの部分を委ねてみるのもすっきりしていていいものです。雲ひとつない晴天の日には刺すような強い光が。太陽の見えない曇った日にはやわらかい光が。そして稲妻光る嵐の日には一瞬の閃光ととめどない水滴がテーブルの上に容赦なく飛び込んでくるなんて、予測不能で楽しい球撞きができそうな気がしませんか?
フィリピンのビリヤード場もなかなか素敵ですよ。
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