|
降って湧いたような話
マニラにエルミタという地区がある。マルコス政権時代に世界最大の歓楽街という悪名を世界に轟かせた、犯罪多発地帯である。しかしそれはもう昔の話。アキノ政権発足以降、マニラ浄化作戦の最重点地域となり、今ではゴーストタウンのようになっている。しかしその割に犯罪発生率は下がらないのだが・・・。
まあとにかく私はここ4年ほど、この地区の海辺のバラックで食堂を営んでいる家族の写真を撮り続けているので、いつもこの地域を中心にしてぶらぶら歩いているのだ。
4年前、デル・ピラール通りとマビニ通りを結ぶスパニッシュ調の私道があった。その一角だけが東南アジア特有のフルーツのどこか甘い眠たげな香りとドブ板のような臭気とは無縁なよそゆきのすまし顔をした通りだった
そこにビリヤードテーブルが一台あった。怪しげな人物が徘徊していない健康的な雰囲気が気に入って、暇があればビール片手にここで球をころがして遊んでいた。
ビリヤードをやめてからもう2年の月日がながれていたので、フォームがきまらない。球のきれがない。配球のイメージがわかない。球が入らない。とないないずくしだったが、ビリヤード大国のフィリピンの片隅でキューを手にしているということだけで、ただただ単純に嬉しかった。
いつものようにひとり気ままに球を突いていると、大男のアメリカ人が声をかけてきた。適当にうなずきながら次の球へと狙いをさだめていると、
「俺とやらないか」。
という声がした。
|
4-1
|