[ピブ千代日記] pravda@mac.com ←(感想などこちらによろしく。)


ここはとあるヴァーチャル酒場「スナック・ネカママ」。主は「ここはロック喫茶なのよ!」とゆずらないネカママとよばれる人物。性別不明。あるBBSで生まれた「おすぎとピーコ」「新宿オカマ日記」的キャラクター。そしてそこを手伝っているのが、「日本一のロック芸者(?)」をめざす、舞子のピブ千代(ぴぶちよ)。芸の修行のあいまに、ここを手伝いながら「本物のロック」を極めようとがんばっている。さて、今夜はどうなることやら...。

うちがピブ千代どす。


[0001]「ぬるいねむいはあきまへん!」の巻

ネカママ「あーっ、今日もひまねぇ。なんかすごいやつ来ないかしら。最近、おもしろいやつが来なくなったわねぇ」

ピブ千代「あらママはん、そんなこというてはりますけど、なんやかんやいうてお客はんやりこめて追い出してはるからやと思いますえ」

ネカママ「骨がないのよ!最近のロックファンは。だいたいあたしらの若い頃はねぇ...」

ピブ千代「またそれをいわはる。それは禁句やてこの前自分でゆうてはりましたやおへんか...」

ネカママ「あんた、そのゆーっくりしたしゃべりかた、いくらいってもなおんないわねぇ。あーいらいらする!こんなときはこれよ!」

(カチャ。デーンデデレレーデーンデデレレー)

ピブ千代「クラフトはんどすなぁ」

ネカママ「そーよ。クラフトワークの「ザ・モデル」のビッグ・ブラックの名カヴァーよ!いっぱいこの曲カヴァーしてるのがあるけど、これが1番。2番めがヒカシュー。」

ピブ千代「ということは、アルビニにいさんどすか?」

ネカママ「そーよ!にいさんかどうかかは知らないけど...。この人のギターはあんましひずましてないんだけど、むちゃくちゃハードで、世界一すごい迫力なのよ。」

ピブ千代「このひと、録音おたくやもんなぁ。たしか、メタル・ネックのギター弾いてはりますなぁ。」

ネカママ「...なんで知ってんのよ」

ピブ千代「うちがちいさいころ、おとうはんがシェラックのライブに連れて行ってくれはったんどすわ。あれは確かゼニゲバというバンドといっしょやったんと違いますやろか」

ネカママ「そーよ!あたしも店閉めていったわよ」

ピブ千代「せやけど...」

ネカママ「ストーップ!いやな予感がするからそれ以上いっちゃだめ!とにかくニルヴァーナとかプロデュースしてもうけといて、ゼニゲバとか、ああいうインディーバンドをバックアップする素晴らしいお方なのよ!」

ピブ千代「ママはんの気持ちもようわかりますけど、うちもいいとうてゆうてるんやおへんけど、シェラックはあきまへん。ジャケットのコンセプトやら歌詞やらけっこうこってはるんどすけど、曲があかんと思わはりませんか?むかーしの、ほんまに下手だけが特徴のジャンクバンドへの郷愁か、とまで思てしまいますわ。メジャーに対するアンチなもんとして、当時のジャンキーがやってたあのがむしゃらなもんやなく、賢いおひとが考えたすえにやるああいうジャンクは、気持ちがぬるうてあきまへん。そない思わはりまへんか。ママはん」

ネカママ「うぐっ、いちばんいって欲しくないことを...。だからあたしはビッグ・ブラックを聴いてるんじゃない!シェラックはあたしも」

ピブ千代「けーたいのうらに貼ってるシールはなんどす?うち、知ってますえ。最近でたシェラックのCDのんどっしゃろ」

ネカママ「うぎゃー、きょうはもう閉店よ、へいてん!」

「...ええか、ピブ千代。ぬるいのんや、ただねむたいだけのもんは、ロックの敵や。ぜったいに手本にしたらあかんぞ...。」幼くして死別した父の教えを忘れず貫き通すピブ千代は、ネカママの自我を崩壊させてしまったのだった...。(つづく)


×ミスター・スロー・ハンド、あの「e.c.」さんのファンは読んではいけません。読んでも怒ったらいけません。

[0002]「うすめてひろめてもうたいへん!」の巻

ネカママ「あー、今日もひまねぇ、なんか面白いやつこないしら」

ピブ千代「またゆうてはる、うふふふ。人の悪口ばっかりゆうてはるからどす」

ネカママ「だってねぇ、言いたくもなるわよたまには」

ピブ千代「ママはんはそれが多すぎるんどすわ」

ネカママ「そんなことないでしょーよ!あたしが許せないのはねぇ、あれと、これと、そっちと、あっちと...」

ピブ千代「数えてるまに朝になってしまいますえ。テレビでもつけよっと」

(ぱちり。スカパーの夜にやってる、むかしの名曲を年代順にそのアルバム・ジャケットを映しながらながらかける番組がながれている。)

ピブ千代「あっ!あかん!ママはんこっち見たらあきまへん!すいっちすいっち!、りもこんどこ!りもこん!」

ネカママ「あ〜ら、あたしのだ・い・す・き・なエリック・プランクトンじゃないのさ!ぴぶちよーっ!よくも...。」

ピブ千代「きやあーすんまへんすんまへん、つけたらちょうどやってたんどす〜!かんにんえ〜!」

ネカママ「し・か・も!あたしのいちばんす・き・な「アイ・ショット・ザ・シェリフ」ぢゃないの...ききききぃーっ!」

ピブ千代「ひえーすんまへんすんまへん、いたいいたい、わたしをたたいてもテレビはきえまへんえ〜っ。やっぱり男はんは力がつよいーっ」

(そこに追い打ちをかけるかのようにこんなテロップが「〜エリック・クランプトンの大ヒット曲。レゲエのボブ・マーリーも、この曲をカヴァーして大ヒットした。」←この番組とテロップは、ほぼ実話。)

ネカママ「ぎゃひーん、うごごご、ちょえー」

ピブ千代「あかん、ママはん見たらあかんて!あーママはんがこわれていくー!」

(1時間後、半壊した店内。ネカママには鎮静剤が投与され、よだれをたらして目がうつろ。ピブ千代は汗をふきふき介抱している。)

ピブ千代「よっぽどやったんやわ。うちがあんなテレビつけたさかいに...。すんまへーん!ママはーん!はよ気いついてー!」

ネカママ「あぅあぅ、今日はあんたにまかすわ...。ちゃんとかたきとってよね...。」

ピブ千代「だれになんのかたきをとるんどすか?もー、ママはん!あーあかん、また失神しはった...。象にうつやつもろてこよかしら。あの曲て確かクランプトンがボブ・マーリーの曲を勝手にうとうて、さんざんおおもうけして、あとから一銭もお金はらわんかったという、あの曲やわ。よりによってこんなときにやってるやなんて...。ほんで、あのテロップどっしゃろ。もう、ママはんやのうても頭から血ぃが吹き出るとこや。ひどいひどい。ほんで「わしのおかげでおまえも有名になったし、うれしいか」みたいなこというてそうやん!あのひと。ああいう、本物を薄めて広める、という行為をただ繰り返している大物は気ぃつけんといかん。ママはん、うちいつか絶対かたきとりますよって、はよう元気になってーっ」

「...ええか、ピブ千代。有名やからゆうて、ふんぞり返るのもんはロックの敵や。本物をぬすんで薄めて広めるやつはいくら大物でもぜったいに手本にしたらあかんぞ...。」幼くして死別した父の教えを忘れず貫き通すピブ千代は、いつかネカママのかたきをとると誓ったのだった...。(つづく)


[0003]「あいがすべてやおまへんえ!」の巻

ネカママ「なんかさぁ、この店って書いてるやつが他人の悪口をあたしたちがしゃべってるように見せかけてるだけのとこみたいに思うんだけど...」

ピブ千代「はー、そうともいいますなぁ。けど、うちはお父はんにほんとのロックはレベル・ミュージックやと教わったさかい、悪口やとは思いまへん。これはエスタブリッシュメントにたいする宣言ですわ」

ネカママ「あんた、その歳で先が思いやられるわねぇ。こんなむなしいときはこれよ!」

(がちゃ、ちゃんちゃんちゃらーからららーらーら)

ピブ千代「あー、オン・ファイヤーどすか?」

ネカママ「そーよ!ギャラクシー500の世紀の名盤。あんたディーン・ウェアハムのソロとかルナにもおんなじイントロの曲があるのに、よくわかったわね。」

ピブ千代「そらーそーですわ、ママはん、それは似て異なることどすえ。だいいち、」

ネカママ「そう、ギャラクシー500はあの3人がいて起こった奇跡的な科学変化だったもんねぇ。あの人間関係の果ての果てに鳴り響くような切なさ200パーセントのからからに乾いたサッド・ソング。まさにあたしたちの世代のネオ・ブルースなのよ。愛してるとか、ふられてさみしいとか、仕事がつらいとかじゃなくて、別にとりたててなんにも起こらない今のあたしたちの人生で「あーこれからもこのままずーっとこういうことが繰り返されていくんだなー」っていう感覚。これだけがリアルなのよね。なんかが起こって楽しい、とか悲しいとか、好きとか嫌いとか歌ってるのがほとんどだけど、そのあとよそのあと。「そのあとのつまらない日常」だけがほんとのことなのよ。」

ピブ千代「はぁ、うちまだちいさいよってようわかりまへんけど。ママはん、忘れたらあきまへん。ギャラクシー・マジックを作ってたんはクレイマーはんと4人でどす。」

ネカママ「たしかに、そうよねー。ディーンがいちばんあのサウンドを受けついでいくかと思ったけど、けきょく解散後メジャーからでたディーンのルナの1stより、クレイマーのプロデュースででたデーモン&ナオミの1stのほうがギャラクシーだったもんねぇ。「モア・サッド・ヒッツ」、あれは名盤よ!」

ピブ千代「ディーンはんのギターやメロディーより、デーモンやナオミはんのベースやドラムのほうが、ギャラクシーの重要なもんやったということどすなぁ。」

ネカママ「そーなのよ!いいこというわね、あんた。おまんじゅうあげよ。ほれ。ギャラクシーのなにがすごいって、あのベースラインよ。突拍子もない、ふらふら高いところをさまよって勝手なメロディーを弾いてるのに、なくてはならないものとして強烈に存在している。でも曲の邪魔はしていない。こんなへんなベース・ラインでこんだけちゃんと機能するのは、天才的ひらめきでやってるか、ものすごーく研究しているかのどっかね。こういうベースって実は少ないのよ。ルナのベーシストと聴き比べたらよくわかるけど。天才と凡才の大きな差が。」

ピブ千代「うーぱくぱく、ふはひあふふひふほふ、んぐんぐ!」

ネカママ「なにがっついてんの!はいお茶!はひはひってなに?」

ピブ千代「ごっくん。ふー。おいしかった!ブライアン・ウィルソン先生のんに似てますなぁ。」

ネカママ「なるほど。ビーチ・ポーイズってよく聴くとすっごい変なのよ。ベースラインなんか特に信じられないようなフレーズよね。一瞬合ってんのこれ?って思うような。その系統を引き継いでいるのがナオミ・ヤンといえるかも。」

ピブ千代「せやけど...」

ネカママ「ストーップ!もうゆるして。お願い...」

ピブ千代「なんのお願いどすか? せやけど、ただルート音をだだだだ弾いてるだけのベースとちごて、ものすご粋どすなぁ。」

ネカママ「そう、そのかわりギターやドラムはとってもシンプルなわけよね。そうでなくてギターやキーボードが複雑なことをしてたら、ベースはなるべくシンプルなほうがいいんじゃないから。なんにせよ、クレイマーがいってた「僕にとって1番よかった仕事はギャラクシーのアルバムプロデュースだ」という言葉がしみるわ。あっ、そういえば」

(がちゃ。じゃんんじゃんじゃん)

ピブ千代「なんどす?」

ネカママ「つい最近でた、デーモン&ナオミの新作よ。「with the ghost」ってタイトルだと思ったら、そういう名前のバンドとのコラボレーション・アルバムみたい。」

ピブ千代「...しみますなぁ。ええアルバムどすなぁ。」

ネカママ「そーなのよ!デーモン&ナオミって1stの「More sad hits」がクレイマー・プロデュースでシミー・ディスク(今はサブ・ポップからでてる。SPCD 385)からリリースされたのがもう、ギャラクシーよりいいぐらいの名盤だったんだけど、そのあとセルフ・プロデュースになってからのがちょっと好きじゃなかったのよ。でも、でもこの4枚目、「ウィズ・ゴースト」はまた、いい感じ。このアルバムは、日本で知り合ったThe Ghostというバンドとコラボレートしたという久々のアルバムで、なんと!アレックス・チルトンの「ブルー・ムーン」のカヴァーも入ってるの!やっぱ、この人たち泣かすわぁ!珍しく品番か書いとくわよ。SUB POP[SPCD 501]。出たとこだから捜すのよ!みんな!ジャケットは白地に日本家屋の窓の写真byナオミさん。彼女は確かおばあさんが日本人なのよ。そーそー思い出すわー、十三のファンダンゴに見に行ったときのこと。クレイマー、デヴィッド・アレン、ゴングがくるって集まったこいいプログレファンの中にあたしらだけデーモン&ナオミのファンで、ほんで、デヴィッド・アレンが出演しないって当日発表になって、払い戻ししてる人もいたわねぇ。そこであったプログレ・ファンの知り合いに「デヴィッド・アレン来てないのに見るの?」とかきかれて「いやーあたしデーモン&ナオミ見にきたから。」って。デヴィッド・アレンなんかどーでも良かったの!あたしは。ヒュー・ホッパーさんは見たかったけど。ほんで、ナオミさんにサインもらったの!すごく背が高くてびっくりしたわ。そのとき別でやってた「マジック・アワー」ってバンドも頑張ってね!っていったらびっくりしてたわよ。サインと言えば、実はディーンにももらったのよね。あーなつかしい。」

ピブ千代「くーくー。むにゃむにゃ。ちゅげちゅげちゅ。」

ネカママ「ちょっとピブ千代!きいてんの?!へんな寝言いってんじゃないわよ!」

ピブ千代「はっ!うちなんかいうてました?ちゅげちゅげ?あーうちがいま好きな曲の歌詞どすわ。ほんでなんどす?」

ネカママ「ディーンにもサインもらったっていう自慢話をしようとしてるのよ!」

ピブ千代「ギャラクシーでは来日しておへんやろ?たしか。ルナのときどすか?」

ネカママ「そーよ!泣いたのよ!ルナの最初の来日のとき、最後にギャラクシーの名曲「タッグ・ボート」をやったのよ!そのあとで機材片づけてるとこにいって、「最後のタッグ・ボート聴いて泣きました」って言ったら、「こいつう、おおげさだなぁ」って感じであたしの肩をこう、ぽーんて叩いて笑ったのよ。ほんとよ!あたしの青春のおもひでなのよ!ちなみにギャラクシーは初めて来日が決まってすぐに解散しちゃったから来日してないのよねー。」

ピブ千代「なぁ、ママはん、そろそろうちがきつーいこというて締めなあかんのん違います?」

ネカママ「今日はそうはいかないわ...。ディーン、ルナでガンズ&ローゼスのへなちょこカヴァーなんかしてちゃダメ!このデーモン&ナオミのアルバム聴いてむかしのあんたのやってたこと思い出しなさい!何だかんだいって、待ってるわ。あんたがすごい作品を発表する日を。」

ピブ千代「ママはん...。せやけど、なんかみんなつながってますなぁ。タッグ・ボートは[music]のとこで書いてあるようにジャズ・ブッチャーもライブでカヴァーしてはるし、このデーモン&ナオミはんらもこれまた[music]のとこにあるアレックス・チルトンはんのカヴァーどっしゃろ。」

ネカママ「そうそう。ほんとにいい音楽はつながっていくのよね...。あたしこのころ持ってたカバンにいろんな人たちのサインをもらってたんだけど、LUSHのミキちゃん(この人もおばあさんが日本人ねぇ)にサインもらったときにこのディーンのサイン見て「これってディーン・ウェアハムの?わぁーお!」っていわれたのよ。すごくファンだったみたい。そんなの知らなかったんだけど、自分の好きなアーチストがそれぞれのファンだってわかったときって、なんともいえない喜びがあるのよねぇ。ちょっとあんた!聴いてんの!」

ピブ千代「ママはん今日はまたとくべつに話がなごーて、うちもうつかれた。もうかんにん。」

ネカママ「はじめて勝ったわ...。ふふふ。」

ピブ千代「ママはんお昼間寝たはるから強いだけやん...。うちはおひるに学校いったりおどりのお稽古したりしてるんどす!ふぁーぁ。」

「...ええか、ピブ千代。愛だの恋だのいうてんのは子供向けのロックや。そのあとの感覚を表現するのがほんまにリアルなアーチストやで。」...眠気に負けたピブ千代だったが、幼くして死別した父のいうこの感覚がわかるのはまだまだ先のことなのだった..。


[0004]「じぶんではんだんしなはれや!」の巻

ピブ千代「おはよーござい...。あー!しゃちょーはんどこへ...。きゃー!...すごいいきおいで出ていかはったわ。いったいなんどす?」

ネカママ「2度と来るんじゃないわよ!ピブ千代、塩まいときなさい塩!」

ピブ千代「ふー。ママはんまたどすか?せっかくうちがんばってあの社長はんにあいそして気に入られてたのに...。どないしはったんどす?」

ネカママ「あんのやろう、よりによって...」

ピブ千代「あー、おかまやいうてからかわれたんどっしゃろ。」

ネカママ「トランス・ジェンダーっていって!そんなこといくら言われたっていいのよ。音楽と関係ないんだから。だけどねぇ、」

ピブ千代「あー、わかったー!スミスのファンやていうたら宗教の信者みたいにいわれたんどっしゃろ。H.O.T.とスマップを比べられたとか...。それかイタリアン・ボッサ好きやといわはった?あーそうや、ブルース聴かなあかんて説教されたとか。まさかエリック・ク」

ネカママ「...よくもまあ、そんだけ並べたわね。違うのよ。そういう立場の違いなら「あなたとは趣味が違うわね、」でお話しできるじゃない。もちろん向こうがほんとにむちゃくちゃ本気でそれを好きでそういってる場合だけだけど。あいつが言ったのはもっと大事な、生き方に関わることなのよ。」

ピブ千代「ママはんはいっつもおおげさどすなぁ。なんどすのん?」

ネカママ「自分の過去を否定する、という最悪のこと。たとえば、インディー時代からのファンが、そのアーチストがメジャーデビューしてものすごい有名になって世間でハヤると、急にその思い入れが冷めてしまったりね。でも、それはメジャーに行くことによって、なんらかの変化が必然的にアーチストとリスナー両方に起こって、そのために起きるよくある悲劇なのよ。」

ピブ千代「ふんふん。なんとのうわかります。うちの同級生の女の子らなんか、好きなジュニアがなんかのグループに入ったゆうて、それでテレビとかでだしたら、やめてーてゆうてますなぁ。今までそうなるようにがんばってー、てゆうてたのに。」

ネカママ「んー、いまの何の話かわかんない人は正常な大人だから気にしないで読み進めてね。ピブ千代が今たとえてくれてよくわかったけど、結局そういうことって、女の子がアイドルによく思う、「私だけのものでいて」っていう感情なのよ。「ほかの人を見ないでー」っていう。」

ピブ千代「...さっきの社長、ひょっとしてヤイコのファンどしたん?」

ネカママ「...悪口いう気にもならない「ニセモノの中のニセモノ」のことなんか好きなやつ、最初からこの店に入れないわよ!あたしが怒ったのはそういうファン心理とは別のことなの」」

ピブ千代「あーそうや、ママはん、むかしチャラのファンクラブ入ってたんがバレたんどすやろ。キーホルダーに会員証のプレート付けてはるからどすわ。」

ネカママ「そうそう、なかなかいいフリをくれるじゃないの。」

ピブ千代「...いぐれしあす???」

ネカママ「...あたしのママが家にフリオ様のポスター貼ってたときは気が遠くなったもんだわよ。...違う違う、いいフリなのよ、そのチャラの話が。いい?ここであたしがこういう質問にどう答えるかでその人の生き方がわかるのよ。あたしはチャラの音楽は大好きよ。相方だった浅田祐介さんのプロデュース作までは。彼と別れた後のシングル「Tiny Tiny Tiny」以降はなんとも思わないけど。結局あたしがすごく好きなのは、彼女が浅忠(あさちゅう、とファンは呼ぶらしい)と幸せになるまでの作品。最初のベスト盤に入ってるとこまで。この人は報われない恋愛でむちゃくちゃな精神状態になってるときの作品が素晴らしいのよね...こういう人っていっぱいいるわ。でもあたしは今もチャラが大好きよ。早くむかしのようにもっと心にしみる作品を作ってほしくて、ずっと待ってる。だからチャラクラの会員番号0724番の会員プレートをいまでも付けてるの。」

ピブ千代「はー、なるへそ。ということは、あのしゃちょーはん...」

ネカママ「そう!こう言ったのよ!「オレむかし、さだまさしとか好きだったなー。今は恥ずかしくて言えないけど」って!もう、こういうこと言うやつ大っキライ!こういうやつはねぇ、今ハヤってるものだけ聴いて、ちょっとたったらもう古いとか思って、ただただ音楽業界が都合良く押し付けたいものばっかり聴き続けるただの脳なし野郎だわよ!むかしの自分を恥ずかしく思うってことは、時間がたったら今の自分も恥ずかしいと思うようになる、ってことになんで気づかないのかしら。まったくもう。それでもなんの文句もないけど、そんなやつと話すほどあたしは暇じゃないのよ!ぐるるるるー。はっはっはっ。きゃんきゃん!」

ピブ千代「あー、牙がでてよだれが...狂犬病て絶滅したんやおへんどしたか?どうどう、どうどう、るーるるるるるるる。」

ネカママ「首撫でて、北キツネ呼んで、あたしゃいったいなんなのよ!」

ピブ千代「せやけどママはん、人間てむかしの自分を乗り越えて生きていくもんと違うんどすか?」

ネカママ「それはそうよ。でもね、むかしの自分を否定して、新しい考えにいくら移り変わっても、その時その時に真剣に考えながら生きていれば、むかしの自分の考えを「今とは違う」とは思っても「恥ずかしい」とは思わないんじゃないかしら。あたしはむかしの自分が好きだったもの、今でもぜんぶ大好きよ。いくら世間でハヤっていてもダメだと思うものはキライだし、いくらマイナーでも、いいものはいいのよ。逆に どんなにハヤってるものの中にもいいものもあるし、マイナーでカルトな人気があるものでも最低のものもある。なんか「増殖」のスネークマン・ショーみたいだけど。そういう風に、あたしはいつまでたっても、何年後に聴いても「いいなーやっぱり」って自分で思えるようないいものを、いっつも探して聴いてるつもり。そうやってれば「今になってみたら好きだというのが恥ずかしい」なんてバカなこと、未来にも思わないと思うんだけど。」

ピブ千代「くううーっ。なんか、うち初めてママはんのことがこうごうしゅう見えますわ...ぐすっ。その考えはとってもごりっぱどす。せやけど、」

ネカママ「...一回ぐらい、かっこよく終わらせてくれてもいいじゃないのよ...。なんですのん?」

ピブ千代「せやけど、それでお客はん追い出すんはあきまへん。人にはそれぞれいろんな考えがあるんどす。それを追い出して2度と来るな!やなんてごりっぱ以前の問題どす!ちゃんとあやまっとおいなはれや。」

ネカママ「クゥ〜ン。」

ピブ千代「さみしい鳴き声だしてもあきまへん!」

「...ええか、ピブ千代。誰がなんていうても自分の耳と頭だけを真剣に使うて好き嫌い・良い悪いを判断するんやぞ。それがでけへん奴はロックの敵や。人の意見に惑わされんように、自分の考えをしっかり持たなあかんのやで。」幼くして死別した父と同じ教えを説くネカママをちょっと見直したピブ千代であった。(つづく)


[0005]「ちょうおおがたしんじんはっけんよ!」の巻

ピブ千代「ママはんママはん!」

ネカママ「なによあんたそんなにあわてて。いつもはのろいのに珍しいわね。」

ピブ千代「すごい、なかなかええのんがあるんどす。先輩に貸してもうたんどすわ。これこれ。」

ネカママ「...じゃぁ、聴いてみましょうか...。」

(ファーンファーンファファッファッファファ)

ピブ千代「なんか、ええ感じどっしゃろ!」

ネカママ「んー、そうねぇ、なかなかいいわねぇ。」

ピブ千代「なんかイギリスのバンドで、えらい売れてるらしいですわ。踊りのお稽古の合間に先輩がこうてきたCDをかけてはったんどす。1曲目のハーモニカなんか、まるでジョニー・マーみたいやおへんか。うち久々にどーんときましたえ。ママはんもう聴いてはりましたん?さすが早耳どすなぁ。いっつも『もうイギリスのもんに興味ない』とか言うてはるくせに。このこの!にくいよー!この!」

ネカママ「...ど根性ガエル?あんたもよくそういう突っ込み知ってるわねぇ。これぐらいは聴いてるわよあたしも。」

ピブ千代「どんなバンドなんどすか?うちようわかりまへんのや。」

ネカママ「はぁ。...そうねぇ。このバンド、むかし日本にいた三波伸介というえらーいプロデューサーが作ったあるグループの名前にあやかって、それを反対に読んだ名前でデビューしたのよ。その日本のグループの人は解散後いろいろとタレント活動をするんだけど。ざぶとん配ったり...。水泳大会で司会やったり...。」

ピブ千代「へぇー、このアルバム、タイトルみたら最初のやと思うんやけど、なかなかええ曲ばっかりでびっくりしましたわ。なんか聴いたことあるようなんも多いけど。」

ネカママ「そうねぇ、いろんなバンドのマネしてるように思うでしょうねぇ。たしかに。」

ピブ千代「R&Bとかの影響が大きいと思うんどすけど、イギリス人独特の『へたうま』な感じがほっこりしててなんともいえまへんなぁ。ちょいとリズムがズレかかって甘いとこがまたええ味で。コーラスもばっちりですやん。でも、ちょいとギターがチューニング狂ってますけどなぁ。でもこのむかしに録音したような音の質感はなかなか出すのんに苦労したんやおへんやろか。レニー・クラビッツより徹底してますやん。なんか60年代っぽくて。ジェリー・フィッシュにも似てますなぁ。」

ネカママ「...そうねぇ。レニクラもここまでやったら説得力あるのにねぇ。『1980年以降の機材はいい音がしない』とか偉そうに言って、全部むかしの機材使って、むちゃくちゃむかしの音にこだわってるくせに、結局CDでリリースするというあの大馬鹿野郎とはえらい違いよ。」

ピブ千代「なんか口ずさめるようなポップさがまたええのんどすわー。なんかオアシスにも似てますなぁ。」

ネカママ「...そうそう。オアシスがやってる曲もやってるわねぇ。イギリス人同士お互い気に入ってんじゃないの?どーでもいいけど。」

ピブ千代「でたー!ママはんの口癖でた!でもオアシスよりこの人らの方がヘタやけどよろしいなぁ。」

ネカママ「そうよねぇ、...あんた他にどういうとこが良いと思ったの?」

ピブ千代「まず曲どす。R&B、カントリーの影響をちゃんと自分らのもんにしてはりますなぁ。バロック音楽とかもちゃんと取り入れてるし。あと、バラードも泣けます。ちゃんと。あーこの8曲目、プラスチックスのやってた曲ですやん。へー、研究熱心やなぁ。日本でもあんましもう知ってる人おらんのに。」

ネカママ「あぁ、この曲ね。良いわよねぇ。」

ピブ千代「あとはねぇ、このドラムやわ。なんかこの後ノリのズレ具合が独特で。このひと黒人はんどすか?」

ネカママ「いえいえ、白人さんよ。でもこの人とストーンズのドラムの人だけは『白人だけど、こいつらのドラムだけはスウィングする』っていわれてるの。」

ピブ千代「あと、ベース・ラインも歌ってますなぁ。なかなかええ。個性的どすわ」

ネカママ「そうねぇ、この人も天才って感じねぇ。」

ピブ千代「なんか曲もええし、ずいぶんとイカしたバンドが出てきましたなぁ。ちょっとヘタやけどこれから上達するやろし、売れるんと違いますやろか。」

ネカママ「...そうねぇ、期待できるわねぇ。」

ピブ千代「なんやママはん、今日はえらい淡々としてはりますなぁ。なんかイヤなことでもあったんどすか?うち、相談のりますえ。あっこの15曲目、うちが踊りのお稽古でなろた、あの金沢明子はんの曲や!へーこれ、をカヴァーしてるんどすか。なかなかシブいどすなぁ。」

ネカママ「やだー、なんだかしんみりしちゃったわ。ぐっすん。こういう日がいつか来ると思ってたのよ。はい、これ。」

ピブ千代「なんどす、このお手紙。...あ!おとうはんからの手紙や!なんで今ごろママはんが?」

ネカママ「読んでみなされ。」

ピブ千代「ふむふむ。はっ!そうやったんどすか!...おっ、おとうはん...。びえーん!」

ネカママ「でもねぇ、あたしもあんたみたいに、なんの世間の評価とかも頭になしで、この音楽を聴きたかったわよ。物心ついたときからもうこいつら『神様』だったもの。ずいぶんとあたしも『自分の耳でちゃんと』聴けなかったような気がする。あんたのお父さんはあんたにそうしてもらいたかったのね...。『うちの娘には自分で聴くまで隠しておいてくれ』って頼まれてたから、苦労したわよ。ふだんはけっこう有線のこいつらの曲ばっかりかける専門チャンネルとか聴いてるんだけど、あんたが来たとき消してたのよ!わざわざ。あーやっとこういう時が来たのねぇ。」

ピブ千代「うぇーん!おーいおいおい。びぇー!」

ネカママ「あーあーはなみず出して...。これでふきなさい。はいハンカチ。あと、『涙忘れるカクテル』つくってあげよか?でもあんた、なんでプラスチックスが「Eight Days a Week」やってんのまで知ってて、今まで元のを知らないでいれたのよ。やっぱしどっかおかしいわねぇ。」

ピブ千代「だってうち、まだ英語の読み方わからんのやもん!べ、べ、べあ、この人らなんていうグループですのん?!」

「...ええか、わしはこのグループあんまり好きやない。けど「すごい」のんはわかる。わしがこのグループをおまえに教えへんかったんは、なんの先入観もなく自分で評価してほしかったからや。どんなに人が誉めてても、どんなに神様みたいに言われてても、あかんもんはあかん。ええもんはええんや。わしはこいつらのレコードやCDは一枚も持ってへん。こんなん、どこいったって死ぬほど聴けるんや。どこの家にもあるもんなんか、買わんでええ。でも、なかなかええバンドやぞ。一通りは聴いて、世の中にどんだけ影響を与えてるかは知ってた方がええ。今までええなぁと思ってた曲が、実はこいつらのサルマネやったということが多いさかいな。でも、こいつらはただの一つのバンドや。むちゃくちゃすごいが、ただむかしおったええバンドの一つやと思うとけよ。なんかを神格化してあがめたてるのはロックの敵や。それを忘れたらあかんぞ。」13歳にしてやっとこのグループにたどり着いたピブ千代。幼くして死別した父のねじ曲がった愛に泣き、「踊りのお稽古も大事だが、もっと広い世界を見ないとなぁ」と実感したのであった。(つづく)


[0006]「ふくしゅうせいさいあきまへん!」の巻

ピブ千代「ママはん、ママはん!たいへんなんどす!」

ネカママ「あんたはいっつもそうやって登場するわねぇ。お約束というか、予定調和というか...。」

ピブ千代「そんなんどうでもええんどす!うちのご近所でたいへんな喧嘩が!」

ネカママ「あーら、お互いの意見が違うとき、人間は形はどうあれ喧嘩するものなのよ。どこにでも、くさるほどあるでしょうそんなこと。そんなことでいちいち騒いでちゃぁ、身体がいくつあっても足りねぇぜ、ってなもんだわよ」

ピブ千代「久しぶりに来たのに...。うちの話きいてくれる気ぃあるんどすか?」

ネカママ「またすねる。いいわよ、なるべく簡単にね。あたしだっていそ」

ピブ千代「いーえ、うわさではぜんぜん忙しぃないそうやおへんか。せっかく来てくれはるおなじみはんに、次から次からイヤミをゆうて。この前もなんやいいがかりみたいなことゆうて、ハッピー・チャーマー全員から嫌われたとか聞きましたえ。」

ネカママ「いーのよ!あんなのは来なくても!だいたいうちの店にそういうのを隠して来よう、ってのが間違ってんのよ!入り口に張り紙しとこうかしら。『男気のない人おことわり』って...。で、なんなのよ!」

ピブ千代「そうそう、うちのご近所にあるお米屋さんの飼い犬が殺されたんどすわ!」

ネカママ「はーっ!何かと思えばそんなしょうもない...。動物でも人でもいつか死ぬのよ。首輪付けられてるような犬生だったら少々早く死んだほうが幸せなんじゃないの?」

ピブ千代「またそんな無茶苦茶いう...。せやけど何匹もどすえ!次々と。」

ネカママ「ほほう、なかなかやるわねえ。本気で怒ってたわけね。いいわねぇ、そういう情熱的なのって!」

ピブ千代「ええことおまへん!うちもようお菓子とかあげてかわいがってたんどすもん...。ぐす。」

ネカママ「その米屋、よっぽどうらまれてたのね?」

ピブ千代「ちょっと偉そうなご主人で、ようご近所ともめとったんどすけど、なんか嫌いなお家にはおいしいササニシキを売らへんとかいうて、町内会でももめてたらしいんどす。『わしの気にいらんやつには売らん!』とか寄り合いで怒鳴りはったりしてたそうやし。」

ネカママ「じゃぁ、それで怒った近所の誰かが犯人なのね。でもさぁ、ほかの米屋で買えばいいじゃん、そんなの。」

ピブ千代「えらいおいしい、そのご主人が田舎で作らしてる特別なササニシキがあったそうなんどすわ。人気の商品で、順番待ちやったとかで。ご主人に気に入られんと買えへんようになってたみたいどす。」

ネカママ「なるほどねぇ。でも恨まれていたことは知ってたんでしょ?自分でも。」

ピブ千代「最初に2匹犬を殺されたとき、その日の寄り合いで『わしは犯人を絶対許さん!必ず見つけだして報復する!だいたい目星はついとるんじゃ!』てゆわはったんどす。ほしたらそのあとすぐにまた1匹殺されたんどすわ。あーかわいそう!」

ネカママ「何それ!バカじゃないの?そのおやじ。犬を殺したのは完璧にそのおやじね。」

ピブ千代「殺したんは、頭のおかしい犯人どす!」

ネカママ「そうかしら。もちろんそんな無茶な方法で怒りをあらわす犯人がいちばんひどいけど、もとはといえば、それだけ恨みをかってたそのおやじのせいじゃないの?かわいそうなのは犬だけで、そのおやじも犯人と同じようなもんよ。」

ピブ千代「そうどっしゃろか...。」

ネカママ「そうよ!そんなに何匹も犬飼ってて、最初に2匹殺されたんだったらそのほかの犬を完璧に防御してあげるのが飼い主のつとめじゃないのさ。それに、最初の犬殺しがあったあと、寄り合いで『報復する!』なんてバカなことよくいったわね!それが3匹目が死んだ原因に決まってるじゃないの!誰だって『あーあ、こいつまだわかっとらんのか。もっとやって思い知らせてやらんと』って思うわよ。」

ピブ千代「うーむ、なんかそんな気もしてきた...。なんかおかしいなぁ、でも。」

ネカママ「もし、本当に犬と平和に暮らしたいんだったら、まず他人に恨みを買わないようにすること。それが第一よ。で、もし意見の違いとかでそういう恨みを買うことがあったら、自分とか家族とかペットとか、命がけで守るのが家長の義務でしょう。それを、もひとつ恨みを上塗りするようなこといって、そのあとそれ以上の犠牲者を出して、バッカじゃないの?そいつ。」

ピブ千代「でも、そういう頭おかしい犯人になめられたら困るし、怒りをあらわさな、しめしがつかんかったんとちがいますやろか?」

ネカママ「そういうところが頭悪いってのよ。いい?自分のプライドと犬の命とどっちが大事なのよ!いくら格好悪くたって、最初に2匹殺されたときにウソでもいいから『誰か知らんが、わしを恨んでそうしとるんやったらスマン。あやまるし、これから悪いとこ改めるから、頼むからもうこれ以上は許してくれ。』っていうべきなのよ。そういう変な「プライド」や「立場」や「しめしをつける」ことで、どんだけの尊い命が亡くなっていることか!戦争なんてそこから始まるのよ。最初にやられたところが自分のプライドを捨てて『やり返さない』で我慢すれば、それ以上の犠牲者は相手にも自分の方にも出ないのよ。自分のカッコつけのためには、何を犠牲にしてもいいのよ、そういう偉そうなおやじは。」

ピブ千代「せやけどやり返さないといかん時もありますやろ?やられっぱなしで死んでいくのは負け犬やおへんか?」

ネカママ「戦うってことは、どちらかが『勝つ』まで自分も相手も傷つくってことだから、それをやめるためなら負け犬で結構。そのまま自分だけ殺されても、次に自分の家族が殺されても、いくらカッコ悪くても結構よ。本気で喧嘩をやめようと思ってのことだったら。『報復しようとする気持ち』が余計に犠牲を出すのよ。なんでそれがわかんないんでしょう。なんにせよまずは身内の安全を第一に考えないといけないんじゃない?これ以上の犠牲が出る可能性のある場合は、ウソついてでもいいからまずあやまって、相手の怒りを鎮めないと。いいカッコつけてる場合じゃないのよ。何を犠牲にしても、まだ生きてる犬を守らないと。あたしだったらこのさきどんな情けない、つらい状況になっても、みんなに笑われても、謝罪してそれ以上の争いをなるべく避けるわ。」

ピブ千代「ママはん...。」

ネカママ「極論するとねぇ、『殺すより殺されるほうが人として尊い』ってことなのよ。復讐が生むものは新たな憎悪だけ。やり返して勝った自分が偉いという満足感だけ。いくら自分の犬が殺されたからって、犯人を捕まえて見せしめをして、それがなんなのよ...。犬殺した犯人と同じことしたいんじゃないの。ちょっとピブ千代!聞いてんの?」

ピブ千代「今新聞見てたらこんなん書いてありますわ。『事件直後のアメリカのニュース番組の中での、黒人女性詩人マヤ・アンジェロウの言葉が印象的だ。「この状況で怒りを感じるのは仕方がない。しかし、復讐は何も生み出さない。復讐しても相手と同じ次元かそれ以下に落ちてしまう」』やて。これ、ママはんがゆうてはるんと同じどすねぁ。」

ネカママ「なかなかいい言葉じゃないのよ。それがいいたかったのよ、あたしも!あのマドンナさんも同じようなことをコンサートでおっしゃったみたいね。まぁ、当たり前の考えだと思うけど。」

ピブ千代「せやけど、この事件てなんどすのん?なんかものすごいことがあったみたいどすけども?」

ネカママ「これがオチだったのね...。あんたは知らなくていいから、踊りのお稽古にはげみなさい!」

ピブ千代「?????」

「...ええか、ピブ千代。攻撃されたらやり返すっちゅうのは、順序が違うだけで同じことをやっとんのやで。ほんまにそういうことがバカらしいと思たら、すぐそこで逃げてしまえ。それは恥ずかしいことやない。それと、なんで自分が攻撃されたかもよう考えなあかん。それがわからんかったら、また同じことをされるかも知れへんぞ。戦うこと、復讐することだけが良いことやないのや。その次元から離れるのがほんまの勇気やぞ。」幼くして死別した父の教えを知った素直なピブ千代は、とりあえず逃げ足だけは早くしておこうと、踊りのお稽古に励むのであった...(それでいいのか?)。(つづく)


Top Pageへ
pravda@mac.com ←(感想などこちらによろしく。)