mo' vida ←back to list
もちろんラテン音楽はR&B、レゲエ、ハウス、テクノなどのスタイルと同じく世界中のいろいろなアーチストたちに大きな影響を与えていて、いろんな国ににラテンを取り入れた音楽を演奏しているアーチストたちがいます。このコンピレーションはそのようなアーチストの曲を集めたもので、各国のアーチストが独特のラテンを展開しています。さきほどの「ドドンパ」などのような、そのままのスタイルを完璧にコピーしたものではなく、そのアーチスト独自の解釈から生まれたようなものの中から選曲されているように思います。「ラテン・フレーヴァード・ファンク、ヒップ・ホップ、ソウル」と書いてある通り、ラテン〜ブラック・ミュージックの両方から影響を受けた色々な国のアーチストが収録されていて、それぞれに特徴のある曲を演奏していますね。では英文解説をかいつまんで訳しておきましょう。
『ディジー・ガレスピーとチャノ・ポゾが組んで、アフリカ〜キューバのリズムと「ビー・バップ(ジャズのスタイルの1つ)」をブレンドした時から、ラテン音楽はずっと音楽スタイルの融合のための触媒の役割を果たしてきた。40年代のラテン・ジャズ、60年代のブーガルー、70年代のラテン・ロックなど...。そして今またラテン音楽は世界中で重要視され、若い世代のミュージシャンたちがその影響下で音楽を作りはじめている。このアルバムの収録曲にはいくつも重なり合ったコンセプトのブレンドが見られる。「伝統のものと現代のもの」、「ラテン(南米)のものと大都市(=アーバン→アメリカのN.Y.などを指していると思います)のもの」、「英語のものとスペイン語(ラテン語)のもの」、「クラッシクのものとヒップな(流行の、かっこいい)もの」など。このアルバム・タイトル「mo' vida」はもともと「シェイクする」「揺るがす」というような意味を持つ「Que movida!」という言葉からきており、我々はそれを「'」で区切って、アフリカン/アメリカンのスラング「mo(=more)」とスペイン語の「vida(=life)」の2つの意味を持たせた。「New World Party('99年プテュマヨからリリースされているコンピレーション)」のようにこのアルバムでは世界中の新しいダンス・ミュージックをあつめた。ラテン音楽はいくら変化や発展があっても伝統的な要素は持ち続けている。サルサ的要素はいつもその核にあり、いくら『ファンク/ヒップ・ホップ/ソウル/R&B/ロック』などが加えられていても、やはり素晴らしいパーティのための音楽であるのだ。』
ますます注目が集まるラテン・グルーヴ。このアルバムにはなかなかふだん聴く機会のいなような珍しいものもたくさん入っていますので、ぜひじっくりお楽しみ下さい。
では、1曲づつ聴いていきましょう。
1 Sergent Garcia / Hoy Me Voy 「サージェント・ガルシア(オイ・メ・ヴォイ)」
パリのマルチカルチャルな地域で頭角を現した彼は、伝統的なアフローカリビアン音楽にも敬意を払いながら、「ソン」「レゲエ」「ラップ」「サルサ」のミクスチャー・ミュージックを作り出しています。スペインにルーツのあるフランスのシンガーとしてラテン・ミュージックのあたらしいムーヴメントのキー・パーソンとして注目されている彼は、バスタ・ライムス、KRSワンなどのラッパーや、ボブ・マーリー、アンソニー・B、シズラなどのレゲエ(ラガマフィン)・スター、そしてキューバのエネ・ヘ・ラ・バンダらのティンバ・グループなどの独創的なアーチストからインスパイアされていると言っています。「ミックスすることが僕の音楽の重要なところだ。バリアーを破り、いろんな文化を混ぜ合わせるんだ。」という彼はサルサとラガマフィンを掛け合わせた「サルサ・マフィン」という造語の通りの曲を作っています。歌詞は日常的に世界中で起こっている、移民の悲劇について歌っています。
2 Bomb溶 / Se Escaparon 「ボンボン(セ・エスカパーラン)」
北米と南米の間にあるホンジュラスという国で生まれた「ボンボン(本名: Ludwing Lavoriel)」は合衆国そして最終的にラテンの中心地マイアミへ移住しRoy Tavaresというプロデューサーと組んでラテン・アメリカのフォルクローレを新しいスタイルで演奏しアルバムを作っていました。彼の作る音楽にはレゲエ(ラガマフィン)、コロンビアのクンビアやヴァレナート(キューバのソンの原型)など彼の好きな音楽の要素がたくさん含まれています。この曲のタイトルは英語で「They Escaped」というという意味で、『ハイ・ヒールとミニ・スカートという姿で家から抜け出した女の子たちはナイト・クラブへ踊りに出かける。一方、子どもはもう寝たと思ったお父さんは同じナイト・クラブへ出かけ、かわいい女の子をダンスに誘う。すると、その女の子は自分の娘だった。』というお話になっています。キューバのソンの伝統的な楽器やパターンをベースにしながらも、エレキ・ベース/ドラム・セットが入り、ラテン・ロック/ブーガルー的なリズムになっています。
3 Ricardo Lemvo & Makina Loca / Nganga Kisi 「リカルド・レンヴォ&マキーナ・ロカ(ンガンガー・キシ)
アフリカ(コンゴ)の国際都市キンサシャに生まれ、幼い頃からラテン、ソウル、ファンクなどを聴いていた彼はロス・アンジェルスに移住し、このバンド「マキーナ・ロカ」を結成します。アフリカの「スークース」とラテンの「ルンバ、サルサ」、そしてヒップ・ホップやファンクがブレンドされた独特の音楽を作り、世界に注目されるアーチストの1人となりました。ファンキーなチョッパー・ベースにヒップ・ホップ・テイストの感じられるリズム。歌もラップっぽいですね。しかしラテン・パーカッションが入り、サルサ風ピアノ、ホーンもあいまって不思議な世界が展開されています。ギターもこういうファンク・チューンでしがちなカッティングではなく、カリンバ(親指ピアノ=ムビラとも言われる)風フレーズを弾いていて、アフリカっぽくなっています。曲名は「気取ったやつ」といった意味で、そういうタイプの男と女性の駆け引きを描いています。彼のアルバムは2枚プテュマヨ・レーベルからリリースされていて、この曲が収録された2ndアルバム「サオ・サルヴァドール」のライナーにも詳しい解説を書きましたのでぜひ聴いてみて下さい。
4 Patricia Melicio / Funky Latin Boogalu 「パトリシア・メリシオ(ファンキー・ラテン・ブーガルー)」
60年代、マンハッタンのスパニッシュ・ハーレムなどに住んでいたラテン・ミュージシャンたちが「マンボ」「ソン」「チャ・チャ・チャ」などのラテンと「ファンク」、「ソウル」を混ぜ合わせた「Boogaloo(Boogal怐j」と呼ばれる音楽をはじめました。ジョー・キューバ楽団やジョー・バターンらによって大流行し、ジョー・キューバはジェームズ・ブラウンや有名なソウル・レーベルのモータウンのアーチストたちとツアーをまわったりまでしましたが、そのムーヴメントは一時的流行に終わってしまいます(蛇足ながらこのへんの一時的に爆発的に流行したがすぐに忘れられてしまったところまで、さっき書いていた「ドドンパ」と似ています。「ドドンパ」はさしずめ「日本のブーガルー」といったところでしょうか...)。「ラテン界の鬼っ子」的存在のブーガルーですが、熱狂的なファンも多く、近年クラブDJたちの間でも再評価されてきています。ラテンのミクスチャー音楽の先がけとして、今やっとちゃんと評価されるようになったのです。
パトリシア・メリシオはニュー・ヨークのプエルト・リコ人地区で生まれでロス・アンジェルスで活躍する、ブーガルーの刺激的なスピリットを現代によみがえらせている新しい世代のアーチストです。よく聴くとおそらくこの曲はほとんどが打ち込みで作られていて、ブーガルーのもつ「いかがわしい、にせ者っぽいキッチュな感じ」がとても強く感じられます。こういう感覚がブーガルーの本質という感じがします。
5 Los Mocosos / Samos Los Mocosos「ロス・モコソス(ソモス・ロス・モコソス)」
サン・フランシスコの色々なラテン諸国の出身者が集まってできたラティーノ・ファミリー・グループで「テキーラのにおいが立ちこめ、ロー・ライダーズ(シャコタン=車高を低くした改造車)のエンジンがうなり、そのラウド・スピーカーがら耳障りなほどにに鳴り響く轟音」...「下町の不良たち」という感じでしょうか。ラテン・コミューンのこんな風景から、サルサはもちろん、HIP HOP、スカ、ジャズ、ロックなどがごちゃっと混じった感じのサウンドが生まれました。サンタナやマロのようなラテン・ロック・バンドに影響を受けた混血サウンドには、ラテン音楽のベイシックな楽器に加えてロック・スタイルのドラム・セット、スカのカッティング・ギター、そしてターン・テーブルも入り、スクラッチもバシバシ入っています。サンタナ風のギター・ソロもばっちり。「俺たちがロス・モコソスだ!」といった内容の歌詞は、英語とスペイン語が混在した「スパングリッシュ」と呼ばれる独特の言葉で歌われます(最近の若いラテン・アーチストの曲にはだいたいこのスパングリッシュのヴァージョンがあって、ラテン語圏と英語圏の両方にアピールするようになってきています)。このグループの曲は、プテュマヨから出ている「New World Party」というコンピレーションにも入っているので、こちらもぜひ聴いてみて下さい。
6 King Chang / Melting Pot 「キング・シャンゴ(メルティング・ポット)」
スペインのロック・シーンのリーダー的存在である彼らは「スカ」「ダンス・ホール(レゲエのダンスもの)」「ファンク」「ラテン」などを精力的にブレンドした音楽を作り出しています。彼らの1stアルバムはスペインの音楽シーンに大きな衝撃を与えました。その、サルサ・ベースのストリート・エネルギーに満ちあふれたものすごいサウンドはスカ・バンドの「 The Mighty Mighty Bosstones」、ラテン・スカ・ロック・バンドの「Desorden Publico」「Los Fabulosos Cadillacs」「 Mano Negra」などからヒントを得て生まれたということです。この曲は「チャ・チャ・チャ」と「スカ」のリズムがミックスされ、後半はだんだんファンク色が強くなり、バリバリのチョッパー・ベースもとびだします。3分半の短い間にたくさんのスタイルがめいっぱい盛り込まれた、すごい曲ですね。歌はフランス語、英語、スペイン語、イタリア語で歌われています。まさに「メルティング・ポット」ですね。このグループはあの元トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンのレーベル「ルアカ・ボップ」からアルバムをリリースしています。
7 Xiomara Fortuna / Juana La Loca「ジオマラ・フォートゥーナ(ワナー・ラ・ロカ)」
ジオマラ・フォートゥーナはカリブ海の島々の中で「キューバ」「ジャマイカ」などと並んで重要な音楽文化をもつ「ドミニカ共和国」出身の、最もクリエイティブな現代のミュージシャンの1人で、彼女の音楽にはこれまた多くのスタイルがブレンドされています。この曲はまずドミニカ共和国の古い宗教音楽「carabine」ではじまり、そのあとレゲエがベースとなったリズムに切り替わります。しかしただのレゲエ・ビートではなく、ずっと鳴っているパーカッションはドミニカ共和国の有名なリズム「メレンゲ」のパターンで、レゲエとラテンの中間のような不思議な雰囲気をかもしだしています。。コーラスはアフリカ風、ジオマラさんの歌い方はドミニカ共和国で人気の「バチャータ」歌手のものに似ています。歌詞は「ワナーという女性がスカートもはかず軍隊で偉くなるためにがんばっていたが、やがて気が狂って解雇させられる」というドミニカ共和国での歴史上の人物についての悲劇を題材にしています。
8 Menelik / Limbo Negro (Caliente Remix)「メナリーク(リンボー・ネグロ/カリエンテ・リミックス)」
近年フランスのヒップ・ホップ・シーンはアメリカ合衆国以外では最もクリエイティブで活気に満ちています。MCソラーが世界的に有名ですが、そのほかにもギャングスタものからオールド・スクールものまで様々なスタイルのたくさんのアーチストがいて、その中から彼らのフランス人としてのバックグラウンドに根付いた新しいスタイルを作り出すアーチストも生まれてきました。現在のフレンチ・ヒップ・ホップ・シーンではこの曲のように、ラテンの影響がとても強くなっているようです。このメナリークは、MCソラーの友人で、お互いにフランス語のスムーズな言葉の流れをうまく使って、言葉の通じない他の国の人にまでうまく受け入れられるようなラップを作りだしています。スペイン語のコーラスやキューバのリズム、サルサ風ピアノ、ホーンがうまくヒップ・ホップにブレンドされた曲で、メランコリックなギターのアルペジオもかっこいいですね。
9 Alliance Ethnik / No Limites 「アリアンス・エスニック (ノー・リミート)」
一連のヒット曲を持ち、それによってヨーロッパのヒップ・ホップ・アーチストの中でも最も有名な存在である彼らは、Banlieuesというパリの移民コミュニティーで結成されました。グループ名は「民族的な同盟」という意味で、その名の通り「アラブ/アフリカ/ラテン」にバックグラウンドをもつメンバーがいます。そしてそれぞれのメンバーが影響を受けた要素を持ちよって「デ・ラ・ソウルのように革新的なヒップ・ホップ・フォームのレンズを通して」曲を作っているということです。最新作の「ファット・カムバック」というアルバムでは本当にデ・ラ・ソウルがゲスト参加しています。このアルバムは50万枚を越える大ヒット・アルバムとなりました。この曲はドラム・パターンもシンプルで、パーカションはティンバルの音が少し鳴るだけなのですが、そのベース・ラインやコーラスでとてもラテン・テイストの強い曲に仕上がっています。
10 Orishas / Represent 「オリーシャズ(リプレゼント)」
アフロ/キューバンの「サンテリア」という宗教の聖人の名前がバンド名というキューバのグループ。クラッシックなキューバ音楽と現代のヒップ・ホップを「完璧にブレンド」しています。アフリカにルーツを持つフォーキーなキューバン・ソンと、アメリカの現代の文化であるなラップが融け合い、オリジナルな混合宗教を作り出しているのです。ギター/ギロ/コンガなどのイントロからコーラスや歌も全く「ソン」のスタイルではじまりますが、急にヒップ・ホップのビートがかぶさり、なんの違和感もなくラップが入ります。「僕たちのルーツにあるルンバ、ソン、グゥアガンコ、全部ミックスしてるんだ、だから踊れるはずだよ。僕たちの祖先の魂をキューバ以外の人たちに伝えたい。」という歌詞をラップしています。
いかがでしたか?カリブ海の島から生まれたラテン音楽がこれほど世界中に伝わり、それぞれの文化と結びついて新しい音楽が作り出されているとは驚きです。そして、ヒップ・ホップの文化にも深くラテンが結びついているようで興味深いですね。このCDには収録されていませんが、テクノ/ハウス系のアーチストたちも、ラテンを取り入れた作品を多くリリースするようになりました。例えばニューヨリカン・ソウルなどで有名なリトル・ルイ・ヴェガはプエルト・リコからの移民だったあのティト・プエンテの親戚で、自らのルーツを忘れずに幅広く活動する、ハウス界とサルサ界(マーク・アンソニー/インディアのプロデュースなど)を結ぶ重要なプロデューサーです。彼のような人の活躍や成功もラテン音楽をポピュラーにするきっかけになっています。「ブーガルーが一時的なブームだった」とさきほど書きましたが、やはりラテン語圏のアーチストは「そのままではラテン語圏だけのヒット」「北米寄りのこと(ロック/ソウルを取り入れたり、英語で歌ったり)をするとラテン語圏の人たちから嫌われる」という現実の狭間にいたのです。「ブーガルー」はとくにその現実に押しつぶされたようなムーブメントだったのだと思います。さて、今はどうでしょう?リッキーの英語アルバムの世界的大ヒット(大ヒットシングル曲の曲名とサビの部分をラテン語のままにしたところに彼の意地を感じます)は、その壁をぶちこわしてくれたでしょうか?これも「ただのブーム」なのでしょうか...?2000年以降、ここに収録されているようなアーチストたちがますます世界的に活躍していくであろうことを心から願っています。ではまた!
2000年6月