Ricardo Lemvo & Makina Loca / Sao Salvador
(リカルド・レンヴォ&マキーナ・ロカ 「サオ・サルヴァドール」)
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 「ワールド・ミュージック界の革命児、プテュマヨからの2ndアルバム遂にリリース!よりグレード・アップしたスークース/サルサの融合!」...とプテュマヨのホームページにありました。その言葉通り、Putumayo Artistとしてアルバムを2枚リリースするほどプテュマヨが入れ込んでいるこのリカルド・レンヴォ&マキーナ・ロカは、スークースやサルサだけにとどまらず、アフリカン/ラテン/ヒップ・ホップ/ファンク...など様々な音楽を独自に融合した「ハイパー・アフリカン・ポップ」とでもいえるような音楽を創造しています。といって、とくにむずかしい音楽になっている訳ではありません。ラテン・ベースの音楽なのですが、よく聴くと様々な音楽スタイルが自然にブレンドされているのです。この自然さを考えると、彼はおそらくコンセプトを立てて曲を作るのではないと思います。「このリズムにこのメロディーを、そして曲の途中でこのパターンをいれたらかっこいいだろう」といった意図的なミクスチャーではなく、彼が好きな多くの音楽が自然に混じって曲ができるのではないでしょうか。そのへんの意識の差は音楽にあらわれます。奇をてらっただけの、概念が先にあるようなミクスチャー音楽は、発表されたときは少しのあいだ人をびっくりさせたりはできますが、長い間深い感動を人に与えることはできないでしょう。彼の音楽を聴いて感じるのは、彼自身が本当に好きな音楽をちゃんと研究し、自分のものにしてから取り入れているな、ということです。これは幅広い音楽知識を持ち、それを自身の音楽として表現できるテクニックがあるアーチストにしかできないことだと思います。

 アフリカでも特に国際化が進んだ都市であるコンゴのキンサシャ。幼い頃キンシャサのビア・ガーデンのそばに住んでいた彼は、毎晩そこから流れてくるさまざまな音楽を耳にしていました。当時からコンゴでポピュラーだったコンゴやキューバのラテン音楽...色々な音楽が幼い頃から彼の中に蓄積されていったのです。そしてもちろんジャズやR&Bなどアメリカの音楽も聴いていました。Georges Collinetという「Afropop Worldwide」という団体の人が、このアルバムにリカルド・レンヴォについての文章を寄せています。Georgesさんは「Bonjour l'Afrique」という何百万という人が聴いていた人気ラジオ番組のホストをつとめていて、リカルド・レンヴォはその番組で、彼がかけていたサルサやジェームズ・ブラウン、ウィルソン・ピケット、オーティス・レディングなどたくさんのソウル・ミュージックなども聴いていたのそうで、こういう音楽的地盤がしっかりとあり、そしてキンシャサでポピュラーだったリンガラ・ポップスのような現地の音楽にも、もちろん親しんでいました。(リンガラ・ポップスとは→リンガラ語とはザイールの独立後統一された4大広域共通語のことで、このあたりを中心にこの言葉で歌われるポップスがリンガラ・ポップスと呼ばれる=ルンバ・ロック、スークース、ザイレアン・ルンバと言うこともある。フランコ、タブ・レイ、パパ・ウェンバらが有名。ここでは英文解説にスークースとあるのでそう表記します)。

 彼はロス・アンジェルスに移り、'90年グループ「マキーナ・ロカ」を結成します。自主制作で「Tata Masamba」という作品を作ったあと、'98年に「Putumayo Artists」レーベルから「Mambo Yo Yo」というアルバムをリリースし絶賛されました。このアルバムがリリースされたとき、彼らはラテン・アメリカのエド・サリヴァン・ショーのような番組「Sabado Gigante」や、ヴァネッサ・ウィリアムスとチャヤン(ラテン・ポップの歌手)の映画「ダンス・ウィズ・ミー」にも出演。世界中のテレビやラジオでも取り上げられ、プレスにも絶賛されました。フランスのリベラシオン紙は彼の音楽を「The Future of Salsa(サルサの未来)」と表現し、記事にしました。そしてヨーロッパ、アメリカ各地でツアーをし、チューチョ・ヴァルデス、ウィリー・コロン、イズラエル 'カチャーオ' ロペス、セリア・クルース、オスカール・デ・レオーン、そしてエルビス・クレスポなどさまざまな有名ラテン・アーチストと共演しました。N.Yのセントラル・パークやモントルー・ジャズ・フェスティバルにも出演しています。キューバの「ソン」とコンゴの「スークース」を主にブレンドした彼らの音楽は、同じルーツを持っていながら長い間ずっとその関係が見えなくなっていた2つの文化を、再結合させたのでした。そのことを象徴的に表したのが、N.Yのセントラル・パークでのオルケスタ・アラゴーンとの共演でした。この'39年から活動を続けているアフリカでもとても人気のあるキューバの伝説的グループにリカルド・レンヴォがゲスト・ヴォーカリストとして迎えられたステージは、まさにキューバとアフリカの幸せな再会を象徴していました。

 前出のGeorgesさんの「まるで万華鏡のようなスタイルだ。彼はこのレコードで、まるでカラフルなパレットのような豊かな音楽的イマジネーションを使い、夢を実現させた。この作品で彼は私たちをラテン音楽のアフリカン・ルーツに連れていってくれる。」という言葉通りの彩り豊かな音楽を、ゆっくりとお楽しみ下さい。

では1曲づつ聴いていきましょう。

1. Le Rendez-vous

キューバの伝統的音楽、「ソン」が基本になっているこの曲には、コンゴの伝説的なギタリストBopol Mansiaminaのスークース・ギターがフィーチャーされています。彼はコンガの音楽シーンでとても重要な存在で、スークースでとても有名なTabu Ley Rochereauのバンドに参加、現在もフランスのスークース・バンドThe Four Starsでギターを弾いている人です。スークース・ギターの特徴であるきれいなアルペジオがソンの曲調に効果的に使われています。(ソンとは→もともとは英語の「サウンド」を意味する言葉。キューバで生まれたマンボ、ルンバやサルサの基本となっている、アフロ=キューバン音楽とスペインの音楽から影響を受けたスタイル。30〜40年代に流行。tres/トレース=複弦が3本ある弦楽器やマラカスがよく使われるのが特徴。最近ブエナ・ビスタ・ソーシャル・クラブで再評価されました。)

2. Boom Boom Tarar

この曲名の「ブーン・ブーン」はドラムの音、「タラー」はギターの音を表しています。「ドミニカ共和国のメレンゲを少し混ぜた、プエルト・リコのボンバというリズムに見せかけたスークース風」とややこしい解説がされていますが、本当にその通り。そのどれもの要素がうまくミックスされています。ベース・ラインやギター、そしてドラムのフィルインはスークースで、パーカッションや歌はボンバ/メレンゲのパターンで...「しかしそんな複合に隠された動機や意味づけはなく、ただただダンスに誘っているだけ。」とあります。まったくその通り...。やはり意図的なものではないのです。

3. Ave Mara (Por Dios)

この曲はコンガの古いルンバとドミニカ共和国のバチャータというスタイルの混合リズム。ちょっと早めの軽快なリズムですね。スークースの元祖のような美しいコンゴのギター・ラインとドミニカ共和国の力強いサックスが曲を盛り上げます。途中、ギターとホーンが抜けるブレイクのところから最後まで、すこしテンポが速くなって盛り上がります。打ち込みのものではあまり味わえない加速感ですね。昔、アフリカの人が西洋のポップスを聴いて「最初から最後までテンポが変わらないので面白くない」と答えたという話を思い出しました。僕たちもそうですが、なぜかメトロノームに合わせてテンポをキープするのが音楽の基礎的な条件のように教育されています。でも皆で演奏していて、だんだん盛り上がって早くなっていく、というほうが自然なことではないでしょうか?

4. So Salvador

このアルバムのタイトル・トラックで、いにしえのコンゴ王国の歴史が題材です。15世紀にポルトガルと国交を始め繁栄していたコンゴ王国の首都は「So Salvador」と呼ばれ、今のアンゴラがある場所に位置していました。市民の争いが絶え間なくおこり、ついにある戦争で王国は焼け落ちて破滅してしまいます。この曲はその時代の英雄だったBeatriz Kimpa Vitaという女性に対してあらわす敬意が主題になっています。コンゴのジャン・ヌ・ダルクといわれるこの女性は、神と交信できるという伝説的な人でした。彼女の賢明さと能力は民衆を一致団結させることができたのでカトリック教会はそれに腹を立て、彼女を杭にしばりつけて火あぶりにしてしまいます。こういう運命にあったこの王国によせる愛情をレンヴォはスローなルンバで演奏し、ポルトガル語で歌っています。曲の主題によって、歌う言葉を変えるというのも何カ国語も話せるという彼のような人にしかできない技ですね。アコースティック・ギターとアコーディオンが何とも美しい、タイトル曲にふさわしい名曲です。

5. Si Tu No Sabes (No Te Metas)

この曲もメレンゲとスークースの要素の多い合体スタイルで、メレンゲ独特のリズム・パターンとサルサ風ピアノがかっこいいですね。そして途中でスークース・ギター、ドラムが顔をだします。まさに「アフロ/カリビアン」スタイルと言えるでしょう。この曲ではスペイン語と「Lucum」という言葉で歌われています。Lucumとは西アフリカの宗教「ヨルバ」の言葉です。「ドラムが僕の信じる宗教」といった歌詞のリズム賛歌。「音楽(リズム)の楽しさに国境はない。」というメッセージ・ソング。彼は身を持ってそれを実践しています。ギターのBopol Mansiaminaとの共作。

6. Nganga Kisi

ファンキーなチョッパー・ベースにヒップ・ホップ・テイストの感じられるリズム。歌もラップっぽいですね。しかしラテン・パーカッションが入り、サルサ風ピアノ、ホーンもあいまって不思議な世界が展開されています。ギターもこういうファンク・チューンでしがちなカッティングではなく、カリンバ(親指ピアノ=ムビラとも言われる)風フレーズを弾いていて、アフリカっぽくなっています。曲名は「気取ったやつ」といった意味で、そういうタイプの男と女性の駆け引きを描いています。

7. Dans La Fort

Zap Mama(ザップ・ママ)という女性アカペラ・グループのような、ヴォーカル・スタイルに挑戦しています。「君は森に入った最初の人ではない」といった意味の言葉で、「人は1人では何も作り出せない=まるで新しいものなど世界には存在しない」というメッセージになっています。1人で多重録音されたコーラスと、ギターだけて演奏されています。このギター・スタイルはさっきの曲と同じくカリンバのフレーズをギターに置き変えたもので、スークースのギター・スタイルは実はこの置き変えから生まれたものです。おなじパターンのフレーズをずーっとくりかえすこのスタイルは、聴いているうちにトランスするような感覚がありとても心地よいですね。シンプルながらも強い印象を残す曲。

8. Capullito De Alel

若い頃あのナット・キング・コールが歌っているのを初めて聴いたという、ラファエル・エルナンデスという人が作曲したラテン・アメリカの有名な曲のカヴァー。この曲はなんのひねりもなくスタンダードなラテン・スタイルで、それを完璧に演奏しています。しかしそれが逆にすごく感動的ですね。さっきの7曲目のメッセージを考えると、続いてこういう曲が並んでいる意味がよくわかります。「いろいろミックスしてやってるけど先人たちのことはちゃんとリスペクトしてますよ」という意思表明なのではないでしょうか。まさに名曲と言うべきラテン・クラッシックです。

9. Te Traigo Un Son

最後に収録されたこの曲も、キューバの作曲家Enildo Padrnの曲のカヴァー。これがいわゆるキューバの「ソン」の典型的なもので、「ブエナ・ビスタ・ソーシャル・クラブ」で演奏されていたのがこのスタイルです。これがのちのちアメリカへ伝わり、「サルサ」と呼ばれるものに発展していったのでした。この曲もスタンダードなアレンジで演奏されています、最後にこのような自分の大好きなキューバン・ラテンでしめるところで彼の自分が影響を受けてきた音楽にたいする愛情の強さを感じとることができます。

いかがでしたか?曲解説では触れることができなかったのですが、レンヴォさんを支えるバンド、「マキーナ・ロカ」もとても素晴らしいバンドだと思います。様々なスタイルを使い分けるその知識とテクニックは並ではありません。最後の2曲だけを聴いても、「うまいラテン・バンドだなぁ。」と感心していると思いますが、それに加えてこれだけの要素を含んだ音楽を演奏しているのですから...。そして、彼の歌詞についてもそうです。ただのラブ・ソング、のようなものはありません。過去と未来をよく見据え、何らかのメッセージが織り込まれています。一聴すると、かっこいいラテンだなというような印象かも知れませんが、よく聴くと深いメッセージやいろいろな新旧の音楽の要素が含まれているこのアルバム、ブックレットの歌詞を読みながらゆっくりと味わってみて下さい。

最後に英文解説の締めの文章を訳しておきましょう。

「リカルド・レンヴォ&マキーナ・ロカの音楽の中には、伝統と革新の2つが同じ地平で共存し合っている。片足はクラッシックなスタイルにしっかりと置き、もう片方は大胆に未来のグローバル・カルチャーの方に向かっている。レンヴォの歌はニュー・ミレニアムのための本物の『希望の声』だ。もしこのアルバム'So Salvador'が未来に起こるであろうことの前兆だとしたら、我々は今とても素晴らしい未来に向かって時を過ごしているように思う。」 Jacob Edgar

 曲解説に出てきた色々な音楽スタイルについては、プテュマヨからリリースされているそれぞれのCD解説に詳しく説明してあるので、興味のある方はぜひ聴いて、読んでみてください。

・「Puerto Rican 'bomba'(プエルト・リコのボンバ)」→「Puerto Rico」(次回リリース)

・「Dominican 'merengue'、'bachata'(ドミニカ共和国のメレンゲ、バチャータ)」→「Republica Dominica」

(そのほか、アフリカ/キューバの音楽を集めたCDもたくさんでています。)

それでは、また!

       2000年5月


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