LATINAS / Womens Of Latin America ←back to list


今回ご紹介するCDは、南米の女性アーチストの曲を集めたコンピレーションです。伝統的アフロ・ラテン・カルチャーをルーツに持つ正統派からマルチ・カルチャルな新世代のアーチストまで、優しい子守歌からハッピーな祝祭の歌まで、国境/世代を越えたベスト・コレクションが収められています。今までにもプテュマヨからは「Women of the World Celtic」シリーズ、「Women's Work」「Women of the World International」など、女性アーチストだけを集めたコンピレーションがリリースされています。南米というと特に最近ではブラジル音楽が人気で「ボサ・ノヴァ」や「サンバ」などクラブから一般の人にまで幅広く聴かれるようになりました。ブラジルの音楽もそうですが、他にも南米には非常に独特な、そして奥深い音楽的構造をもつスタイルの音楽がたくさんあります。そしてこのコンピレーションを聴いて再認識したのですが南米の女性歌手にはなんと魅力的な力強い声を持った人たちが多いのでしょう!なんだかとても地に足が付いたというか、しっかりとした印象の歌声が聴けます。男性や社会に擁護される側の立場ではなく、女性が皆をリードしているようなイメージが浮かびました。皆さんはどうお感じになるでしょうか?

1 Susana Baca ' Zamba Malato' (スサーナ・バカ「ザンバ・マラトゥ」)/ペルー

先鋭的なロックからワールド・ミュージックまでをリリースし続けている元トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーン氏のレーベル「ルアカ・ボップ」からもアルバムをリリースしている、ペルーの代表的歌手といえる人です。ペルー北西部沿岸のワーキング・クラス出身でアフリカ/ペルーの音楽文化に囲まれて育ち、幼い頃から歌を歌っていくつかの賞も受賞していました。ペルーの伝説的な歌手Chabuca Grandaに見いだされ、彼女の庇護のしたで伝統的なアフロ・ペルー文化を習います。運命的なデヴィッド・バーン氏との出会い(この地方の音楽を収集していたバーン氏がホーム・ビデオで撮られた庭で歌う彼女の映像を見たことがきっかけだったとか)があり、ルアカ・ボップから「The Soul of Black Peru」というアルバムをリリース。世界中にその名を知らしめたのでした。その後ももう一枚同レーベルからアルバムをリリースしています。アフリカの言葉も入っているこの曲は彼女の解釈によるアフロ・ペルーの伝統的な曲です。何とも魅力的なかわいらしい(といったら失礼でしょうか?)歌声ですね。

2 Toto La Momposina ' Los Sabores del Porro' (トトー・ラ・モンポシーナ「ロス・サヴォーレズ・デルプーロ(The Flavors of Porro )」)/コロンビア

カリブ海の島にあるコロンビアの音楽は、プランテーションのために連れてこられたアフリカの奴隷の人たちが持ち込んだリズムとメロディーの影響を大きく受けながら発展してきました。トトー・ラさんはそれにコロンビアの土着の音楽と、ヨーロッパの音楽を組み入れて自分の音楽を作り出しています。毎日の生活環境の中にいつも音楽があるお国柄で、彼女は子供のときから家の中庭に座って通りすがりの歌手たちの歌を聴いていました。「カンタドーラ」という家々をたずね食べ物を売り回る女性たちの姿を見て、このような民承文化にも興味を持ちます。彼女は主に特定の地域での女性による伝統的な歌や踊りをとりあげることによって、こういったローカルな音楽を守り、伝承をする役割を担っているのです。この曲は土着のメロディーにアフリカン・パーカッション/ドイツのブラス・バンド・サウンドなどがブレンドされたキャッチーなもので、この土地のもつ「アフロ・コロンビア」の文化遺産の豊かさがよくわかります。

3 Lhasa ' De Cara a la Pared'(ラーサ「ディ・カラ・ア・ラ・パレド(Face To The Wall)」)/メキシコ

メキシコ生まれのLhasa de Sela'sはスペイン文学の教授で小説家でもある父と、女優で今は写真家をしている母をもち、2歳の時から7年間、家族と共にアメリカとメキシコをバスで渡り歩く生活をしていました。その時母親が聴いていたクラッシック/アラビア音楽/ラテン音楽/アメリカ音楽/日本のポップス、そして父親が好きだった50年代のメキシコのバラードなどに触れ、そのオープンでクリエイティブな環境にいたことで彼女の資質ははぐくまれました。サーカス芸人になった姉妹と共に定住したカナダのモントリオールで彼女の「スモーキー・ヴォイス」に魅せられたギタリストのYves Desrosiersとともにバンドを結成。「キャバレー/ジャズ/アフロー・ペルー/ジプシー」などの音楽を掛け合わせた独特の音楽を作りはじめます。リリースしたアルバム「La Llorona」はアンダーグラウンドで絶賛され、サラ・マクラクラン/インディゴ・ガールズ/ジョーン・オズボーンらと共に「リリス・フェア」というポピュラー界で有名な、女性ヴォーカリストたちによるイベントにも出演しました。この曲は「雨の日に思う悲惨な愛の追憶」というテーマの、美しくシンプルなラブ・ソングです。水しぶきをサンプリングしたサウンド・エフェクトが効果的に使われています。「女性の情念」を感じさせる、印象的な歌声ですね。

4 Celina Gonzales ' Guajira Linda' (セリーナ・ゴンザレス「グアヒーラ・リンダ」)/キューバ

セリーナ・ゴンザレスは'29年生まれのキューバ音楽界の「偉大な貴婦人」の一人で「Musica Campesina」というキューバの典型的なカントリー・ミュージックをリードしてきた歌手です。最近ブエナ・ビスタ・ソーシャル・クラブで注目を集めた「ソン」というスタイルの中心地をめざして若い頃移住した「Santiago de Cuba」で、まだまだポピュラーだった「guajira」や「guaracha」といった伝統的な田舎風のリズムを歌いはじめます。夫(Reutillo)とのデュエットでキューバの有名な曲をレコーディングし人気を得ますが、夫が'71年他界。ソロ・シンガーとなり、最近では息子のReutillo Jr.と活動しています。キューバのロレッタ・リン/ドリー・パートン/アレサ・フランクリン/エミルー・ハリスと称される彼女の歌は伝統的なキューバ音楽の、その豊かさ・多様性を体現しています。これはオリエント地方で起源を持ち20年代にハバナで人気が爆発した典型的な「グアヒーラ」スタイルの曲で、ミュート・トランペット、トレース(=複弦が3本あるキューバの弦楽器。ソンでよく使われる)の美しいフレーズがフィーチャーされています。ソンはこのスタイルの変化型でそこから発展してサルサが生まれたので、このスタイルはサルサの本当の起源に近いものだと言えそうです。サルサの女王セリア・クルースの歌唱で世界的にすごく有名な「キューバのもう一つの国歌」とも言われる曲「ガンタナメラ」もこのグアヒーラなんですね。哀感の漂いながらも力強い歌声は圧巻です(巻き舌唄法が強力です)。

5 Eva Ayll溶 ' Ra団es Negras' (エヴァ・アイヨン「ライーセズ・ネグラズ(Black Roots)」)/ペルー

本名 「Mara Ang四ica Ayll溶 Urbina 」。'56年ペルー生まれで、家族のために働きながらも幼い頃から芸術に親しんでいました。歌手になりたいという彼女のことを両親は反対していましたが、その時応援してくれたというおばあさんの名前「Eva」を自身に名付けています。'70年ボレロ(スローでロマンティックなラテン・バラード)を歌い始めますが、すぐに民族的ルーツであるアフロ・ペルー音楽を志し転向。とても有名な歌手となり、「ペルーの黄金の声」と呼ばれます。彼女はあまり皆に聴かれなかったアフロ・ペルー音楽をコンサート・ホールで演奏されるまでにポピュラーにしたのでした。アフロ・ペルー音楽で使われる木製の箱のパーカッション「Cajones」が使われているこの曲は「ブラック・ルーツ」という曲名通り、そのリズムについて歌われています。とても迫力のある歌/リズムに哀愁のメロディー。ペルーの音楽には「力強い哀愁」とでも言うべきものを強く感じます。

6 Mariana Montalvo ' La Libelula' (マリアナ・モンタルヴォ「ラ・リベルーラ(The Dragonfly)」」/チリ

Susana Baka(ペルー)、Mercedes Sosa(アルゼンチン)と並んでラテン・アメリカを代表する偉大な歌声として有名なチリのシンガー・ソング・ライターで、祖国チリの豊かなフォークロア(民間伝承の芸能)にインスパイアされたその魅力的なメロディーと華麗なスペイン語の詩で紡がれる歌には、独特の美しさがあります。豊かな音楽的才能で、チリの伝統音楽を新たに解釈し、高い評価を得ている彼女はVictor Jara/Violeta Para ら伝説的シンガーにも影響を受け、伝統に根ざした力強い・洗練された音楽を作り続けています。'74年のクーデター以来フランスに亡命している彼女は、長年参加していたグループ「Los Machucambos」でヨーロッパ全域でも有名なアーチストです。この「LATINAS」と同時にプテュマヨから発売されたアルバム「Cantos de Alma(Songs of the Soul)」にも収録されているこの曲は「The Dragonfly(とんぼ)」というタイトル。エキゾチックなパーカッションを使ったアフロ・アンデスのダンス・ビートを元にブラス/アコーディオンがフィーチャーされ、多面的な彼女の音楽の一面を現しています。

7 Xiomara Fortuna ' Baisabi'(ジオマラ・フォートゥーナ「バイサービ」)/ドミニカ共和国

カリブ海の島々の中で「キューバ」「ジャマイカ」などと並んで重要な音楽文化をもつ「ドミニカ共和国」出身の、最もクリエイティブな現代のミュージシャンの1人で、彼女の音楽には多くのスタイル「ジャズ/レゲエ/ブラジリアン/ファンク」などがブレンドされています。この曲もレゲエとラテンの中間のような不思議な雰囲気をかもしだしていますね。もちろんリズムはドミニカ共和国の有名なスタイル「メレンゲ」が元になっています。バイサービという名前の女性についての歌で、長年グループのギタリストをつとめるJose Tiburcioの作曲。ジオマラ・フォートゥーナの曲は前回プテュマヨからリリースされたラテン・コンピレーション、「Mo Vida!」にも収録されていました。その時にも思ったのですが、ギタリストのJose Tiburcioのギターにはかなりイギリスの白人レゲエ・バンド「The Police」のアンディー・サマーズの影響が少なからずうかがえます。色々な音楽の要素が混じりながらも、ドミニカ共和国の伝統的なメロディーが中心にあるところはさすがです。

8 Rita Ribeiro ' Ha Mulheres' (ヒタ・ヒベイロ「コカダ」)/ブラジル

この方も「プテュマヨ・アーチスト」としてアルバムが前回リリースされました。同時にリリースされたシコ・セーザルのグループのメンバーとして、そして同胞のゼカ・バレイロとのコラボレーションなどで有名で、出身地であるブラジル北東部の伝統的な音楽と、英米のロック・ポップス/ジャズの影響をうまく混ぜ合わせた非常にポップな曲作りは、MPB界で注目を集めています。この曲はまず「Berimbau(ビリンバウ)」という伝統的な楽器の音で始まります。伝統的な楽器を使いながらも非常に洗練されたアレンジはファンキーで心地よくてかっこいいですね。偶然か、引用かわかりませんが、ジョージ・ベンソンの有名な曲「Breezin'」のコード進行が使われています。

9 Nazar Pereira ' Brasileria, Tout Simplement'(ナザレイ・ペレイラ「ブラジレイラ・トゥート・サンプラマン」)/ブラジル

ブラジル北部・ボリビア国境近くの辺鄙で小さな村に生まれ、7歳の時にParという州にあるBelemという町に移り住みました。そこはGuyana、アマゾン川の河口の近くで、カリブやアンデスの音楽に大きく影響を受けた地域であり、Lambada(ランバダ)が発展したところでもあります。そしてブラジルの中では珍しくサルサやメレンゲが普通にラジオで一般的にかかるところでした。Carimb翌ニいう輪になって踊るダンスなど、様々なユニークな民族的音楽のスタイルもあるという豊かな文化を持つ地域です。彼女はその後大人になってからパリに移り住み、70年代初めにブラジル北部の伝統的な音楽にインスパイアされた魅力的なMPBを歌ってヨーロッパで大きな成功を収めますが、故郷のブラジルではまだあまり知られていないアーチストだということです。「もし彼女がブラジルに留まっていれば、MPBムーブメントをリードする存在になっていたことは確かだろう」と英文解説にあります。この暖かいサンバを聴けば、ヨーロッパにいながらも彼女がブラジルの文化とのコネクションを失わずに持ち続けていたことがわかります。ポルトガル語とフランス語の2つの個性がこのアーチストのなかでうまく組み合わされて作品にされていて「リオからきたカリオカでも、サン・パウロから来たパウリスタでも、ミナスから来たミネイラでもないけど、私はサンバを歌う。私はブラジル人だから...。」という歌詞がシンプルなサンバにのせて歌われています。

10 Trio Los Chasquis ' Azucar de Caa'(トリオ・ロス・チャスキス「アスーカ・デ・カニャ(Cane Sugar)」)/ペルー

「Criollo=Creole(クレオール/フランス系黒人)」によるエクアドル/ペルーの音楽スタイルを演奏するグループです。Creole文化はアフリカとスペインの混合文化で、とてもたくさんの種類のスタイルがあることで知られています。Santiago "Cato" Caballero(ギター/コーラス)、Ricardo Eyzaguirre(セカンド・ギター/コーラス)Queta Rivero(リード・ヴォーカル)の3人編成からなるバンドで、Riveroさんのシルキー・ヴォイスはアフロ・アンデスの幅広いスタイルを歌いこなすのに適した素晴らしいものです。タイトルは「サトウキビ」のことでサトウキビを毎日刈る人々の情景が描かれています。聴いていると本当にそういう風景が目に浮かんでくるようですね。先ほどでてきたキューバの曲「ガンタナメラ」に似たメロディーの曲です。

11 Mercedes Sosa ' Un Son Para Portinari'(メルセデス・ソーサ「ウン・ソン・パラ・ポーテナリー」)/アルゼンチン

真打ち登場!といった感じで最後に納められているのは、アルゼンチンの大歌手でラテン・アメリカで最も愛されている歌手の一人、メルセデス・ソーサです。その豊かなContralto(コントラルト=アルト)の歌声は世界中の人々を魅了し、大きく評価されています。彼女は「Nueva Canci溶(New Song)/ヌエヴァ・カンソーン」という60年代に起こったラテン・アメリカの音楽的ムーヴメントをリードする存在でもあります。これはアメリカのプロテスト・ソングのリバイバル・ブームに似て、政治的なことまでに言及した現代的な歌詞と伝統的な音楽を混ぜて音楽シーンに新しい活力を与え、生まれ変わらせようとした運動でした。'35年アルゼンチン北西部の生まれ。その天性の歌の才能で早くから注目され、15歳の時にアマチュアのコンテストで優勝しています。彼女が歌う人権問題などの内容の歌詞はアルゼンチンの軍隊を怒らせてしまい'78年亡命させられますが、その後'82年に彼女を敬愛する市民たちに暖かく迎えられ帰郷しました。この曲は「Portinariのための歌」というタイトルで、キューバの最も有名な詩人「Nicolas Guillen」の作曲。ピカソに影響を受けたと言われるブラジルの偉大な画家、Portinari(自分の書いた絵の、絵の具に入っていた砒素で死んだとも言われる)についての曲です。非常にシンプルな演奏ながら、この力強い歌声は強烈な印象を残します。

いかがでしたか?とても暖かく力強い歌声を充分楽しんでいただけたと思います。ブラジルはもちろん、それ以外にも南米にはこんなにもすごい人たちがたくさんいるのだなぁと、あらためて思いました。最初にご紹介したようにプテュマヨ・レーベルからリリースされている女性アーチストのコンピレーションには他にもこういったコンセプトの素晴らしいCDがたくさありますので、そちらもぜひ聴いてみて下さいね。ではまた!

   2000年7月


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