Italian Musical Odyssey←back to list
日本でもそうですが、今ではイタリアでもポピュラー音楽界では英米のロック/ポップスに影響されたものが主流になっていて、歌い方などイタリア独特のものが感じられるものもありますが、現代のものであまり「イタリアの音楽!」という感じのものはあまり紹介されることがなかったように思います。(最近ではIRMAレーベルに代表されるようなイタリアのクラブ系音楽=イタリアン・ボッサ・ムーブメント)が人気ですが、これもやはりイタリアの伝統音楽とはあまり関係ありませんね。)このCDに収録されている曲は、「やっぱりこんな人達もいたんだ!」とうなずいてしまうようなものばかりです。イタリアの各地域にある独特の伝統的な音楽文化を探求し現代のものと結びつけて伝統に根ざしたオリジナルなものを作り続けている、そんなアーチストのものを中心に選曲されています。全部が初のインターナショナル・リリースということなので、逆に考えると、こういったものが本国イタリア以外に紹介されることは今までなかったということですね。さすがプテュマヨ、という感じです。曲解説にそれぞれ詳しく書きましたが、色々な他民族文化影響も受けているこれらの曲は、とてもバラエティーに富んだ興味深いものばかりです。ごゆっくりお楽しみ下さい。
では1曲づつ聴いていきましょう。
1. Agricantus ' Sicily Spunta Lu Suli ' 「アグリカントス(スプンタ・ル・スリ)」
イタリア南部のシチリア島の伝統音楽を深く探求する目的を持った3人のミュージシャンたちによって1979年結成されたこのグループは、彼らの故郷であるシチリアの首都で古くからメインの港町だったPalermo(1860年にイタリアに属するまでにカルタゴ/ローマ/ノルマン/アラブ/ドイツ/フランス/アラゴン/スペインに統治され、ヨーロッパと北アフリカの間をとりもった歴史を持つ)の混合文化をうまく現代風にまとめあげています。「彼らはこの地方の伝統音楽のエキスパートだが、最先端の音楽とのミックスをしていることで、ただの伝統主義者とはかけ離れた存在である。」という解説通り、実にユニークなモダン・サウンドを展開しています。
2. La Ciapa Rusa Piemonte ' La Torinese (The Girl from Turin) ' 「ラ・チアパ・ルーザ(ラ・トリネーザ)」
イタリアの北東部、「かかとの部分」にあるPiedmontという地方で1977年結成されたこのグループは、惜しくも解散してしまいましたが、これまで発表したアルバムやヨーロッパ全域でのパフォーマンスはとても多くの人々に彼らの地域の音楽を知らしめました。町から町へ旅し、それぞれの土地の老人たちに伝統音楽を教えてもらって廻り、失われかけていたそれらの音楽を新しい形で再編成し、次の世代に伝える役割を果たしたのです。Organettiというアコーディオンや、Ghirondaというハーディー・ガーディーの一種、イタリア独特のバグ・パイプなどを使ったトラッド曲で、その歌や楽器の暖かく美しい和声にうっとりしてしまいます。
3. Lucilla Galeazzi Umbria ' Quante Stelle Nel Cielo Con La Luna (How Many Stars in the Sky with the Moon) ' 「ルチーラ・ガレアッティ(クァンテ・ステレ・ネル・チャイロ・コン・ラ・ルナ)」
中央イタリアの伝統音楽を長年研究している彼女は、素晴らしい歌声に恵まれた歌手でもあります。Umbriaという地方のTerniという町でうまれ、今はローマで様々な町を訪れながら出会ったイタリアの音楽文化を独自にブレンドした作品を作り出しています。「私の曲は完全に現代の生活から生まれるもの。でもフォーク・ミュージックの基本は、過去の音楽からの影響から成り立っているのです。」フォークにルーツを持つこの曲にも、クラッシックやオペラとの接点が感じられますね。
4. Riccardo Tesi ' Il Battagliero ' 「リカルド・テジー(イル・バタリエーロ)」
イタリアのフォーク・ミュージック・シーンで最も重要な人物として知られるMelodeonという楽器の名手。故郷Tuscanyの音楽だけにとどまらず、サルディーニャ/フランス/イギリス/バスク/アフリカ/インドまでの幅広い音楽を身につけ、ジャズやワールド・ミュージックのアーチストたちと共演もしています。この曲はBallo Liscioという昔の労働者階級の人々に人気のあったクラッシックに由来する音楽スタイルを、彼の妙技によって生き返らせたもの。大衆に広まって「低俗だ」と評価されていたこのスタイルをとても洗練されたアレンジで高めています。パリのミュゼットにも通じる軽やかなワルツのインスト曲。
5. Rua Port'Alba ' Adriana ' 「ルア・ポータルバ(アドリアーナ)」
1990年ナポリで結成された2人組で、長い間ローカルなフォーク・ミュージック・シーンで活躍していました。ナポリの伝統音楽に精通した2人は、「現代的な文脈でどれほど伝統音楽を生き返らせるか」を目指して、Campania/Calabria/南米/他のワールド・ミュージックなどを取り入れたフォーク・ミュージックに挑戦しています。この曲はナポリのホームレスの少女の苦境についての曲。ラテンの哀愁とイタリアのフォークが結びついた、ボレーロ風の歌。独特の哀感が漂っています。
6. Fratelli Mancuso ' Accussi Va La Barca Al Mari (And Thus Goes the Boat to Sea) ' 「フラテリー・マンキューソ(アクーシ・ヴァ・ラ・アル・マリー)」
シチリーのSuteraという山間の町出身のマンキューソ兄弟は25年前故郷を出て、仕事のためにロンドンに住んだりしていました。今はイタリア本島に住んでいるそうですが、当時故郷から離れている寂しさから祖国の伝統的な歌を歌い始めました。母親が幼い頃に教えた歌が今でも彼らの音楽の基本になっています。彼らが若かったときには賑やかだった故郷も今はさびれてしまっていますが、彼らはときどき帰郷し、その豊かな音楽財産を吸収しているそうです。巻き舌に特徴のあるカンツォーネの唱法で暖かいメロディーが歌われる美しいバラードです。
7. Clic ' Attinde ' 「カリーク(アチンデイ)」
サルディーニャはシチリー島と同じくイタリア本島から離れた島で、船乗りたちが立ち寄るスポットだったり、1800年代中頃にイタリアに属するまでは、シチリーと似てフェニキア/カルタゴ/ローマ/ビザンチン/アラブ/カタロニアなど多くの民族に統治されていたこともあって、独特の音楽文化が形成されています。サルディーニャの北西にあるAlgheroという町出身のこのバンドは、ここの伝統音楽文化を復興させようと長い間研究し、古い歌に新しい生活の要素を加えた新しい音楽を作り出しています。ほんわかした曲調になんとも味のある歌が良いですね。この「のどかなブッ飛び具合」はブラジルのトン・ゼーというアーチストを思い出させます。
8. Calicanto ' Bealaguna (Beautiful Lagoon) ' 「カリカント(ベアラグーナ)」
イタリア北部のヴェニスの近くの町Padua出身のグループ。1981年の結成時から彼らの故郷の音楽(ヨーロッパの東と西を結'位置にあり、バルカン/ビザンチン/トルコ/東・南アジアなどに近く、影響を受けたもの)の歴史を研究し続け、古い歌を新しい解釈で再構築してヴェニス周辺の音楽の豊かな歴史をよみがえらせています。中心メンバーのRoberto Tombesiは歴史研究者/建築家/民族音楽研究家など様々な顔を持っている人物。この曲はヴェニスにある「三日月型のラグーン」についての歌です。
9. Taken Piemonte ' Franziska ' 「ターケン(フランシスカ)」
北イタリアの若いグループで、ラテン/レゲエ/ダブなどに影響を受けたものと、彼らの地方に伝わる音楽にケルトの要素を混ぜ合わせたもの、「現代のものと伝統的なもの」の両方向を持ったとてもユニークな音楽を作り出しています。この曲もケルト的要素が多く「Piedmontという地方のVercelliという訛りの歌詞がなければ、ポーグスのアルバムに入っていてもおかしくない」と英文解説に書かれています。しかしアコーディオンはとてもイタリア風で、その辺が面白いところ。愛の苦しみを嘆く歌詞のメランコリックな歌です。
10. Novalia ' Canti e Briganti(Chants and Outlaws) ' 「ノヴァルヤ(カンティ・エ・ブリガンティ)」
中央イタリアのRietiという町で結成されたこのグループは、この地域の古い音楽を現代的な目で解釈し、演奏しています。「地方の方言はイタリアの魅力的なストーリーを映し出す大事なルーツであり、我々の歌もそれに触発されて生まれる。」と自らの音楽を解説しています。そこにロックやフォーク、アンビエントな要素が加わった独特な音世界が展開されていますね。(彼らの「Ebla」という曲がプテュマヨの「A Mediterranean Odyssey」というコンピレーションに収録されています。)
11. Nuova Compagnia di Canto Populare ' Senza Parl (Without Speaking) ' 「ノヴァ・コンパニア・ディ・カント・ポルラーレ(センサ・パルラ)」
NCCPと略されるこのグループ名は「The New Company of Popular Song」の意味で、30年前ナポリで結成され、それからずっとイタリアの伝統音楽を研究するために活動を続けています。メンバーチェンジを重ねながらも単なる演奏集団と言うよりは一つの「ムーブメント」として存在してきました。もともとナポリはギリシャの植民地だったので(ギリシャ語の「Neapolis=新しい町」という言葉からきている)ヘレニズム的な文化の影響がまだ色濃くあり、このセンチメンタルなバラード曲を聴いてもそれがよく分かります。ゆったりとしたリズムに、哀感漂うアコーディオンと女性ヴォーカルがとても心地よく響きます。
いかがでしたか?どこかなつかしい感じのする演奏やメロディーがとても印象的な、いい曲ばかりでしたね。普段はあまり接する機会のない、このような伝統音楽を大切にしているミュージシャンがイタリアにこれほどたくさんいるとは知りませんでした。いつも思うことですが、日本の音楽についてこのような「ミュージカル・オデッセイ」を作ろうと思ったら果たしてどんなものになるのでしょうか?プテュマヨのコンセプトは、こんなことまで考えさせてくれます。これからも目が離せませんね。
ではまた!
2000年9月