暗号マニアへの挑戦状:
オウム「テロ部隊」からの謎の暗号メッセージを君は解読できるか!?
「宝島社がオウムに襲われたって新聞に出てましたけど、ホントですか!?」
昨年十一月二十九日の夕方、いきなり編集部に、こんな電話がガンガンかかってきた。何事かと思ってあわてて調べてみると、原因は東スポ(笑)。その日発売の一面に、「林泰男グループか 宝島30出版社にテロ突入決行状」とデカデカと出ているではないか。それも例によって微妙な位置で二つ折りになっているので駅売りのスタンドでは「テロ突入」までしか読めず、その横にはご丁寧に、小社の正面入口の写真まで出ている。
一瞬、皇室バッシングの元凶とみなされて右翼から銃弾を撃ち込まれた時の苦い記憶が頭をよぎる。冗談じゃないよ、まったく。
「戦争に突入する」
事の発端は、その前日に「元AUM信者」と記された匿名の人物から一通の封書が送られてきたことだった(消印は「神田郵便局11月27日午後12時−18時」)。開けてみると、中に入っていたのは、「M.V.Project
HONDA Sigekuni」なる署名のある、左のような英文の手紙。最初にざっと目を通して見た時には、キリストがどうのこうの書いてあるだけで、何のことかさっばりわからなかった。
そのうち、英文の中に太字でローマ字が挿入されていることに気づいたので、試しにそれだけ読んでみると、
“wareware ha jyuuitigatu sanjyuuniti ni sensou ni totunyuu suru tokyo
eki keikai seyo habouhou yarunara yattemiro”
「われわれは十一月三十日に戦争に突入する。東京駅警戒せよ。破防法やるならやってみろ」
という文章になった。本当だとすれば、まさしくテロの予告状。半信半疑ながら、確認のため何カ所かにこの手紙をFAXしたところ、どこからどう流れたのか、東スポの一面を大々的に飾ることになった、というわけだ。
この報道を受けて、翌三十日のワイドショーでもこの「テロ予告状」が取り上げられ、すっかり有名になってしまった。聞くところによれば、東京駅では通常よりも警備が強化されたというが、幸いなことに、その日は何事もなく無事に終わった。
ところで、なんでこんな愉快犯めいた人物からのヘンな手紙をわざわざもういちど取り上げるかというと、この暗号がなかなか凝った構造になっているからだ。
まず、署名の部分の「M.V.Project」とは、「マハーヤーナ・ヴァジラヤーナ・プロジェクト」つまりオウムの「救済討画」の意味だろうと考えられた。「HONDA
Sigekuni」という名前は、現在知られている出家信者のリストの中にはない。当然、偽名ということも考えられ、その場合真っ先に思い浮かぶのが、三島由紀夫『豊穰の海』四部作の主人公・本多繁邦である。
また、英文の部分は明らかに、新約聖書「マタイ伝」の中の、最後の晩餐からキリスト逮捕にいたるまでを抜粋したものだが、ここにも三カ所、意図的に日本語が挿入されている。
まず、有名な最後の晩餐の場面である。「一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、賛美の祈りを唱えて、それを裂き、弟子たちに与えながら言われた。『取って食べなさい。これはわたしの体である。』また、杯を取り、感謝の祈りを唱え、彼らに渡して言われた。『皆、この杯を飲みなさい。これは、罪が赦されるように、多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である。言っておくが、わたしの父の国であなたがたが共に新たに飲むその日まで、今後ぶどうの実から作ったものを飲むことは決してあるまい』。一同は賛美の歌をうたってから、冨士山へ出かけた」(原文はオリーブ山)
ここでは言うまでもなく、麻原をイエスになぞらえていることが示されている。また、「多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である」というセンテンスの中にローマ字“wareware”が挿入されていることから、ここでいう「われわれ」とは、麻原と「血のイニシエーション」によってつながった者たちを指していることがわかる。
同様に、「あなたがたはまだ眠っている。休んでいる。時が近づいた」というイエスの言葉の中にローマ字“sensou”が、「そのとき、イエスと一緒にいた者の一人が、手を伸ばして剣を抜き、大祭司の手下に打ちかかって、片方の耳を切り落とした」という描写の中に“totunyuu”が挿入されているように、ローマ字もまた、意図的かつ戦略的に配置されている。
ニカ所目の改作は、裏切り者であるユダが登場する場面である。
「『立て、行こう、見よ、わたしを裏切る者が釆た』。イエスがまだ話しておられると、十二人の一人である上祐がやって来た」
この改作の意味するところは、解説するまでもなく明らかだろう。
三カ所目は、キリストの裁判の場面である。「大祭司は(キリストの)服を引き裂きながら言った。『神を冒とくした。これでもまだ証人が必要だろうか。諸君は今、冒とくの言葉を聞いた。どう思うか』。人々は、『彰晃を死刑にすべきだ」と答えた」
これは現在行なわれているオウム裁判を指しており、この後に、“habouhou yarunara yattemiro”を配置することで、自らの意思を明確に表現していると考えるべきだろう。
ところで、この暗号には冒頭に、“ROMAN-JIS 273*37 1234567890ABCDEF 16`9`4`1”なる意味不明の記号が添えられている。これも何らかの暗号になっていると思われるが、解読できなかったので、暗号マニアの皆さんの助力を乞う。これによって示されていると思われる裏メッセージがわかった人は編集部までご一方ください。
標的は核燃料
さて、そうこうしているうちに、今度は「12月4日渋谷局」の消印で、「環太平洋姫の予守り
Master's Voice Project Peter.E.Hoggers」なる人物から、二通目の暗号が送られてきた。「Master's
Voice Project」は「尊師の声プロジェクト」とでも訳すのだろうが、それ以外はどういう意味かよくわからない。
さて、「Master's Voice Project HONDA Sigekuni」の署名がある問題の英文は、冒頭に“JIS-code
only”とあり、あとは二枚の英文の中にランダムに数字とAからFまでのアルファベットが挿入されている、というものであった。そこで、“JIS-code
only”とある以上、この数字とアルファベットはJISコードによる文宇変換(四つの記号で文字を表わす)に対応するのではないか、と当たりをつけ、四文字ずつ区切ってみると、最初の三ブロックは「3B30/3D3D/467C」となり、このJISコードは「三十日」という文字に対応する。この調子ですべての文字を解読すると、次のような文章になった。
「三十日に核燃料を狙ったテロが計画されたが未遂に終わった。今度は東南アジアでシグナルが上がることになるだろう」
ちなみにこの「核燃料」とは、十一月三十日に茨城県東海村の動燃東海事業所から、最近ナトリウム漏れの事故を起こした福井県敦賀市の高速増殖原型炉「もんじゅ」に向けて搬送されたプルトニウム燃料のことを指すと思われるが、この核燃料輸送は新聞やテレビでも報道されており、ニュースを見た後で暗号を作ったということも充分に考えられる。また、「東南アジアで上がるシグナル」を同じく核燃科ジャックだと考えるならば、フランスで再処理されたプルトニウムの海上輸送を狙った計画だとも考えられるが、これはよくわからない。
ところで、編集部で調べたところ、ここで使われている英文はアメリカのポストモダン文芸批評家フレデリック・ジエイムソン(Fredoric R.Jameson)の著書“The
Ideologies of Theory - Essays 1971-1986(1988 University of Minesota/邦訳『のちに生まれる者へ』紀伊國屋書店1993)の中の第−部−章「メタ註釈(Metacommentary)」から、スーザン・ソンタグの論文「惨劇のイマジネーション」について言及した部分の抜粋であることがわかった。この「惨劇のイマジネーション」はソンタグがSFを論じたもので、空想科学映画のうちに地球全体の破壊や絶滅だけでなく、個人の精神状況についてのきわめて深い不安を読み取りつつ、そうした映画の基本的なパラダイムを再構築したものだという。なお、文章の冒頭に出てくる“EGAWA
Syouko”は原文では“Susan Sontag”となっている。
この二通目の奇妙な暗号についても、上記のことぐらいしか調べられなかった。これだけでもわかるように、暗号をつくっているのは、たとえ愉快犯であってもかなりのインテリであり、まだまだ隠されたメッセージが埋め込まれている可能性はある。
全国の暗号マニアの方々の協力を待ってる!
『宝島30』96年2月号160-165ページ
『暗号マニアへの挑戦状:オウム「テロ部隊」からの謎の暗号メッセージを君は解読できるか!?』より
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