この文章は『季刊戦争責任研究』第29号の高嶋伸欣氏「歴史観×メディア=ウォッチング7 産経・読売両紙の堕落と厚顔」の指摘を参考に作成しています。
石原東京都知事の「三国人発言」は,2000年4月9日に陸上自衛隊練馬駐屯地の創設記念式典の際にとび出しました。翌10日以降各紙は「三国人発言」を問題視した報道を展開しましたが,その中で産経・読売の両紙は目立って石原擁護の論調をはり続けました。
中でも産経は知事が「不法入国した多くの三国人」と発言したのに,その前段部分を無視した通信社側の問題であるとして,「言葉のつまみ食い」,タメにする批判,との論調でした。
- 産経新聞2000年4月13日社説(PDF)
- 産経新聞2000年4月13日特集石原発言(GIF)
- 産経新聞2000年4月13日より石原発言全文(HTML)
- 産経新聞2000年4月13日より石原記者会見要旨(HTML)
ところが,4月19日に至って事態は急変します。この日,臨時都議会開催のキャスティングボートを握る民主党に対して,「三国人」という用語の差別性自体を認め,発言の不適切さに関し「遺憾の意を表明」した文書を石原知事が出すにいたります。この文書をもって民主党は,事実上の「発言撤回と謝罪にあたる」とし,臨時議会の開催を撤回,以後,この問題についてのマスコミの議論は収束に向かいました。
この「事態急変」にとんだ割を食らったのが,いままで強硬な石原支持の論をはってきた産経・読売であったことは言うまでもありません。ところが,この両紙の場合,卑劣というか往生際が悪いというか,この「石原謝罪文書報道」でとんだ小細工をやっていました。
翌20日の朝刊で「できるだけ後の版までこの記事を掲載しない」という工作です。
石原文書提出は19日に行われており,この件についての一報は共同・時事はウェブ上では19日午後9時過ぎには打っていました。20日朝刊には十分間に合う時間です。事実朝日などは20日朝刊の1面(東京版)でこれを取り上げました。
ところが,読売・産経とも20日朝刊の早い版ではまったくこれを報じず,産経に至っては大阪本社版の最終版にさえ掲載しませんでした(夕刊でもフォローしていない)。しかし,「縮刷版」を見るかぎり,両紙とも第一社会面でこれを伝えたことになっているのです。
- 朝日新聞東京版2000年4月20日朝刊1面〜第14版(PDF)
- 読売新聞東京版2000年4月20日朝刊37面〜第13版S(PDF)
- 読売新聞縮刷版2000年4月20日朝刊37面(第14版となっている)(PDF)
各紙とも縮刷版は「東京版の最終版」を使って制作します。一般に最終版はもっとも記事内容の確度が高いでしょうから,そのこと自体は正確な記録を残すという観点からは構わないでしょう。しかし,そのことを逆手にとって,なにか報ずるのに都合の悪いことが起こったとき,もっと早い版から報じられるのに掲載せず,したがって多くの読者に記事を送り届けることなく,こっそり最終版だけでチャッと報じる,それで縮刷版を作り,後日確認する読者に「報じたぞ」というアリバイを作る,ということになりますと,これは悪質な情報操作と言わなければなりません。誌面のスキャンで動かぬ証拠を示しておきます。
この「情報操作」ですっかり恥をかいてしまったのが,産経新聞で「紙面批評」を担当していた加藤雅人・関西大学教授です。同氏は「大阪本社最終版に基づいて」2000年4月分の批評を同月23日に掲載しましたが,かなり苦心惨憺して石原発言での産経の論調を評価しています。ところが,上の「工作」によって「大阪本社最終版」では石原謝罪文書の報が載らず,したがって加藤氏はこの事実を知らされないで批評を書く羽目になり,とんだピンボケ記事になってしまいました。なにしろ氏は産経の報道姿勢について「(石原氏の)発言全文を掲載した点は多いに評価できる」「この問題の、本質を読者が判断する基本的な材料は、石原氏の発言そのものだからだ」などと書いてしまったわけですから(^^)
産経新聞2000年4月23日「紙面批評・加藤雅人」(PDF)