胎児胸水とシャント術

2008年8月24日 (日)

胎児胸水とは、胎児の胸のなかに水がたまる状態をいいます。

胸水が溜まった胸腔とシャント

上の写真は、胎児胸水と診断された胎児の超音波写真です。写真は胎児の心臓のあたりの断面図で、心臓、肺、背骨の他に、大きな黒い部分があることが分かります。この黒い部分が「胸水」です。

下の写真は、ほぼ正常な胎児の断面図です。上の写真と比較すると、黒い部分がほとんどないことが分かります。また、オレンジ色で縁取った肺が、胸のなか一杯に広がっていることが分かります。

通常の胸腔

胎児胸水で特に問題となるのは、胸水によって肺が圧迫され、肺が充分成長できないまま産まれてしまうことです。

胎児は産まれた瞬間から自分の肺を使って呼吸しなければなりません。つまり、産まれる段階で肺が完成している必要があるわけです。しかし、胎児胸水を患った胎児では、成長過程の肺が、自身の胸水によって圧迫されることでその成長を妨げられ、産まれる段階でも完成していないことがあります。この状態で産まれてしまうと自力で呼吸できず、生きていくことができません。しかも、このような場合、産まれた後で治療してもなかなか効果が得にくいようなのです。

最近、胎児胸水の効果的な治療法が見つかってきています。それが、胎児の胸腔と母体の羊水腔を「シャント」と呼ばれるストローのようなものでつなぎ、胎児の胸のなかに溜まった水をそのシャントを通して羊水側に排出する機構をつくる治療です。図で表すと、下の写真の緑色の直線になります。この緑の直線が「シャント」で、胸水を胎児の中から羊水へ、赤い矢印の方向に排出しています。

シャントの機能

こうした機構をつくると、定常的に胸腔内の水を外に排出することが可能になります。結果、胎児の肺や心臓への圧迫を防ぐことができ、肺や心臓が充分成長できます。つまり、胎児胸水で発生しやすい、肺低形成や心不全を予防することができます。

以下に、体験したシャント造設術による胎児胸水の治療と経過について、書き置きします。

はじめに

1/10

近所の産科の医師から「なんか胸に水が溜まっているようにみえる。何でもないと思うけど一応大きな病院で診てもらって。」と言われてから5ヶ月間、胎児胸水の治療を続けてきました。胸水は、超音波像では黒く写ります。そのため、産まれるまでの5ヶ月間、超音波写真を撮る度に、その黒い部分の大小で一喜一憂しました。医師、助産師、看護師の方々をはじめ、多くの方に支えていただいた結果、無事、元気な子が誕生しました。

この間、胎児胸水についていろいろな情報を集めました。しかし、図や写真を載せたものがあまり手に入らず、「どういう状態なのか」「どうなるものなのか」など客観的なイメージとして捉えられないために、不安に思うことが多くありました。そのため、本エントリでは、医学的な話ではなく、写真とその説明図をメインにすることにしました。


以下に超音波の写真と解説図を掲載しますが、これは私が「画像処理的」に引いた線で、医学的根拠に基づくものではありません。あくまで参考としていただければ幸いです。

胸水の発見

2/10

15週目

近所の医師から紹介を受けた病院に行き、より詳細な超音波写真を撮影。ここでも胸部にうっすらと胸水が写る。

15週目の胎児の超音波像 15週目の胎児の超音波像の解説

この頃はひたすら胎児胸水の情報を集める。「胎児水腫」「胸水」「シャント術」「治療」「経過」「乳び胸水」「遺伝子」「染色体」「異常」などをキーワードに、体験記や医学的な文献にひたすら目を通す。その中で、胎児胸水の治療にシャント術が有効なことを知る。

原因の究明 〜 治療の準備

3/10

17週目

さらに紹介された病院で診察を受ける。その結果、以下の診断を受ける。かなりのショックを受け、この頃の記憶はあまりない。

◎ 病名

  • 胎児胸水
  • 胎児水腫

◎ 考えられる原因

  1. 不明
  2. 胎児のウィルス疾患(トキソプラズマ、風疹、サイトメガロ、ヘルペス)
  3. 胎児の貧血(リンゴ病)
  4. 胎児の胸管の構築の異常
  5. 胎児の心疾患
  6. 胎児の染色体異常

今後、母体血液検査、超音波検査、胎児胸腔穿刺等で原因の探索を行うことに。

母体血液検査は、母親側の病気による可能性を検査するために実施する。超音波検査は、胸水の生成速度や肺への圧迫具合を定期的に観察するために実施する。胎児胸腔穿刺は、胸水の成分を確認するためと、胸水の生成速度の確認するために実施する。

この日は、母体血液検査を実施する。結果、異常は見られず、母体側に原因があるわけではなさそうなことが分かった。つまり、原因の(2)や(3)である可能性は低い。


23週4日目

胸腔穿刺を実施。

胎児を眠らせ、母体のおなかから胎児の胸に針を刺し、胎児の胸のなかの水を抜く。腹膜を貫通するときが非常に痛い。

胸腔穿刺は、「胸水の成分の確認」と「胸水の生成速度の確認」のために行う。胸水の成分がリンパ液で、生成速度が非常に遅いことが、一番よいパターン。つまり、「一度注射器で胸水を抜いたら、もう溜まってこない」状態である。

「胸水の成分の確認」では、胸水の成分が血液であると、そのこと自体がまず問題である。また、シャント術も実施できない。これは、シャントを造設した場合、たとえ肺への圧迫が抑えられたとしても、「シャントを造設すること=血液を定常的に外に排出すること=出血させること」になってしまい、命に危険が生じるためである。リンパ液ならば問題ない。

「胸水の生成速度の確認」では、注射器で胸水を抜いた後、再びすぐ溜まるようであると、定常的に体外に排出する機構を設けることが必要となってくる。つまり、シャント術が必要となってくる。この目安は、「一度全量排出した後、1週間で排出前と同量溜まること」とのこと。

結果は、「胸水の成分はリンパ液」で「1週間で排出前と同量溜まる」。シャント術の実施が現実味を帯びてくる。

シャント術(1回目)

4/10

25週5日目

1回目のシャント術を実施。

4 cmのシャント(写真左図)を下の写真のように造設。手術にかかった時間は1時間弱。手術中は精神安定剤と鎮痛剤の点滴をしているので、痛かったような気もするが、そうでもないような気もする。あまり覚えていない。術後は子宮が張るのを防ぐ点滴をするが、この薬の副作用である吐き気がつらい。

術後、胸水量の減少がみられる。

26週2日目

シャント造設から4日後、胸水の再貯留がみられる。

26週2日目の胎児の超音波像 26週2日目の胎児の超音波像の解説

4 cmのシャントが機能していない(詰まった?)可能性。明日、2 cmのシャント(写真右図)の造設を実施することに。シャントは短い方が詰まりにくいが、手術が格段に難しい。

シャント術(2回目)

5/10

26週3日目

2回目のシャント術を実施。

26週3日目の胎児の超音波像 26週3日目の胎児の超音波像の解説

下の写真の位置に、2 cmのシャントを造設。術後、胸水量の減少がみられる。肺も少し膨らんだ模様。

26週4日目

26週4日目の胎児の超音波像 26週4日目の胎児の超音波像の解説

2 cmと4 cmのシャントが写る。

26週5日目

26週5日目の胎児の超音波像 26週5日目の胎児の超音波像の解説

27週0日目

27週0日目の胎児の超音波像 27週0日目の胎児の超音波像の解説

27週2日目

27週2日目の胎児の超音波像 27週2日目の胎児の超音波像の解説

肺は順調に大きくなっている模様。かなりの胸水がまだ体内に残っているが、胎児、母体ともに安定しているため、一時退院。

シャントは機能しているようであるが、なかなか肺が大きくならない。この頃は、その理由をずっと考えていた。私は医者ではないので本当のところは分からないが、物理問題とすると、以下の考え方で説明がつくような気がする。

シャントには逆流を防ぐ弁が存在しないことから、常に「胎児の胸腔の圧力=羊水腔の圧力」となるように液体が移動する。また、シャント造設直後にある程度の胸水量の減少が見られたことから、おそらくシャントは、胎児の胸腔で生成される胸水を短時間で排出できる能力を持っている。

ここで、現在の胎児の肺の体積が、胸水から長期間圧迫を受けていたことによって胸腔の体積に満たないと仮定すると、シャントを造設しただけですぐに胸水が抜けきることは考えにくい。胸腔に足りない肺の体積分、胸水が存在し続けるはずである。

そう考えると、胸水が抜けきるには、肺の成長を待つしかないことになる。肺の成長にはある程度の時間が必要と考えると、今は胸水量にあまり変化がないように見えるのも説明がつく。

仮定に仮定を重ねているが、そう考えることで自分を落ち着かせる。

なかなか胸水が抜けないので、追加で胸腔穿刺(胸水を注射で排出)をすることも検討された。しかし、母体に負担が大きいことと、上記の考察から考えて、今この状態で胸腔穿刺すると今度は羊水が胎児の胸腔に流れ込んでしまう可能性(結果、胸腔穿刺時に羊水に入り込んだ細菌が胎児の体内に入り込んで感染する可能性)が考えられたこともあって、もう少し様子を見ることにする。

胸水の減少 〜 出産の準備

6/10

28週0日目

胸水量の減少がみられる。

28週0日目の胎児の超音波像 28週0日目の胎児の超音波像の解説

29週0日目

29週0日目の胎児の超音波像 29週0日目の胎児の超音波像の解説

29週4日目

胸水量の大幅な減少がみられる。

29週4日目の胎児の超音波像 29週4日目の胎児の超音波像の解説

30週4日目

30週4日目の胎児の超音波像 30週4日目の胎児の超音波像の解説

32週4日目

肺が順調に大きくなる。

32週4日目の胎児の超音波像 32週4日目の胎児の超音波像の解説

この頃、分娩時期や方法など、小児科の医師と相談。シャント造設されていても自然分娩は可能であるが、出生直後に何らかの治療が必要となったときのことを考えると、帝王切開か、出生時刻をコントロールできる陣痛促進剤を使って、病院に医師が多くいる時間帯に産む方が安全とのこと。

35週0日目

順調。

35週0日目の胎児の超音波像 35週0日目の胎児の超音波像の解説

場所によっては胸水がみられる(写真の矢印の2個所)が、胸水量および肺の面積から、肺は十分育っているであろうとのこと。

出産 〜 シャント除去

7/10

36週5日目

早朝、自然に破水。病院に直行し、そのまま自然分娩による出産。

自発呼吸あり。よく泣き、動く。出産直後、シャントをピンセットで抜く。多少引っ掛かるものの、スムーズに抜ける。

シャントとシャント術跡

シャント シャント術跡

このとき初めてシャント実物を見る。細いチューブの両端の少し内側に、それぞれに3本の切れ込みが縦に入れられ、両端から押しつぶした構造をもつ。この様な構造であると、シャント先端が臓器や胸腔壁などにつき刺さったとしても、シャントの機能(排水する機能)自体への影響は少ない。

生後の治療

8/10

生後6日目

レントゲン像。

生後6日目の胸部のレントゲン像 生後6日目の胸部のレントゲン像の解説

およそ、ろっ骨1本間隔分、胸水の溜まっていた側である右肺が小さいことが分かる。また、右肺の先端のカーブがゆるいことも分かる。通常の肺は、左肺のように先端がとがった形をしている。このカーブがゆるいあたりにまだ胸水が溜まっているかもしれないが、外科的に排出しなければならない量でもないとのこと。

胸水の原因が「乳び胸水」であると、母乳を飲むことで胸水が増える可能性がある。そのため、母乳を飲ませながら、肺の様子を観察することに。

また、若干のろっ骨の変形がみられる(緑の矢印の先)。おそらくシャントがその場所に造設されていたためとのこと。通常の生活では特に問題ないので治療しない。

生後9日目

少し右肺の先端のカーブがきつくなったような。

生後9日目の胸部のレントゲン像 生後9日目の胸部のレントゲン像の解説

生後13日目

生後13日目の胸部のレントゲン像 生後13日目の胸部のレントゲン像の解説

母乳を飲んでも胸水の増加が見られないことから、おそらく胸水の生成は止まっているだろうとのこと。体重も順調に増加し、元気で安定していることから、生後14日で退院。

シャント術跡の治癒過程

9/10

傷の治りは非常に早く、シャント除去後、穴はすぐにふさがる。

生後0日目のシャント術跡…0日目 生後3日目のシャント術跡…3日目

生後4日目のシャント術跡…4日目 生後13日目のシャント術跡…13日目

おわりに

10/10

生後1ヶ月間で1.5 kg増。

赤ちゃんの手

胸水の原因は「不明」のままでしたが、すくすくと育っています。

【追記】

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