糸杉と墓地

 ポアトゥー・サントンジュ地方のロマネスク聖堂のうち、最も見たかったのがオールネィのサン・ピエール教会であった。オールネィはサントの北東50キロ、ポアチエとサントのちょうど中間にある。サンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路の一つであるウィア・トゥロネンシス(これはパリのサン・ジャック通りを起点とする「本道」である)途上の巡礼教会であり、今日でも鉄道、路線バスのないたいへん交通の不便な場所にある。聖堂はオールネィの村はずれに建ち、前述の旧巡礼街道の傍らで、隣には観光案内所とレストランがあるのみ。観光案内所には教会と聖地巡礼に関する展示がされていた。周囲はサントンジュの麦畑や葡萄畑(ここではコニャック用の葡萄を育てていて格付けも上の部類に入る)が広がっている。
 実際に訪れるまで、聖堂のイメージを形成に寄与してきたものはフォションの『ロマネスク』に掲載されていた図版(上・図158)であった。前景に14世紀の「枝の主日の十字架」が建ち、散在する墓碑に囲まれて建つ聖堂の写真は強い印象を与えた。実際に行ってみるとフォションの写真にはない糸杉が更に死者の安息の場としての教会の雰囲気を漂わせていた。