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Jan, 19, 2000

南瓜とマヨネーズ by 魚喃キリコ 宝島社

この魚喃キリコ(なななんきりこ)先生の作品は切なくて美しくてそしてリアルだ。魚喃先生はとても芸術的な漫画家だと私は思う。絵柄はシンプルな無駄のない線で描かれており、クールな美しさがある。けれど話しの内容はそのクールな感じの絵に対して、かなりしっかりとした芯のあるものに仕上がっている。

カッコつけることなど全然無く、私達の日常のなかにある、ある断片を切り取ってコラージュのように造り上げたリアリティーさがこの作品の特徴だ。この作品は「キューティーコミック」というティーンの女の子向けの雑誌に掲載されていたのだが、少女漫画雑誌にこんなリアリティ溢れる漫画を載せるなんて日本の少女漫画も時代とともに変わっていくなあ。と思った。(昔の少女漫画は現実には無いような理想の世界を描いたものが多かったからね。それはそれでいいのだが。)

この作品にでてくる人達はみんな私達のまわりにいそうな人たちばかりである。恋愛に対してつねに受け身の行動しかできない主人公”あたし”と、ミュージシャンになりたいと思っているが実際のところはぷー太郎のせいいち。そして痛いほどリアルなキャラクターが”あたし”がすごく好きだったというハギオである。なぜ痛いほどハギオはリアルなのか。それはハギオのときに残酷ともいえる無意識な冷たさにあると思う。

このようなキャラクターがでてくるこの作品はまるで私小説のようななまなましさと苦味がある。心に直接突き刺さってくるような切なさを読者は感じることだろう。この漫画のなかで交わされる会話は全体的に淡々としてるのだが、ときに主人公の感情の高まりで声高になるところがあり、それが冷たいものと熱いもののメリハリを作っていて読者の感情を揺さぶる。

例えば、ぷー太郎していたせいいちにいままでは「せいちゃん」と優しく接してた”あたし”だが、あるとき「あんたがやりたいその音楽のせいであたしまでふり回されてんじゃないッ」と、爆発する。あと、”あたし”があこがれているリカちゃんという女の子についてハギオが悪く言ったときに「なんでリカちゃんをキライになれるの?」「なんでリカちゃんがいいコだってわかんないの?」と攻め口調になる。日頃おとなしいくて受け身のタイプの主人公はたまに主張するときは正面から向かっていく。私もそうなのだが、それはおとなしい人の特徴であるような気がする。

私がこの作品を読むたびに泣きそうになってしまうところがある。ハギオと別れた後、再びせいちゃんと逢った主人公だが、せいちゃんが近所のネコとあそんでいるのを見て、こう思うシーンである。

その猫は
めったに人になつかない
ノラ猫だったけど
あたしはたまにさわったりしていて

だけど あたしには
口の下のそのブチのことは
気付けなかった

私は、この主人公がこのときどんなに嬉しい気持ちになったのか分かる。めったに人になつかないこの猫をふたりとも別々の時にさわっていたという事が”あたし”とせいちゃんの世界をつなぐもののような気がしたのであろう。そして口の下のブチまで気付いていたせいちゃんの感性を知って、『この人がいい。』と主人公は暖かい気持ちになったのだろう。

この話しは”あたし”とせいちゃんの生活からはじまり、ある日、昔すきだったというハギオに再会し、またせいちゃんのところに戻っているまでの過程を描いたものである。その過程のなかにはいろいろ大変な出来事があるのだが、その内容はここでは説明しないことにする。

魚喃先生の作品は1回読んで終わりというよりは、何回も読み返すごとにその味をもっと味わえるような詩的なものであるような気がする。「行間を読む」ということばが似合うようなレベルの高い芸術的作品である。でも、堅苦しいことや分かりにくいことは全然なく、しっとりと心にしみわたっていくような作品だ。

魚喃キリコ先生の作品で他には「blue」(マガジンハウス)という作品もある。「blue」は透明感と、美しい繊細な感性に満ち溢れている傑作である。私は個人的には「blue」のほうが好きである。「blue」は田舎の女子高生の友情を描いたものなのだが、ティーンの不安定さや、純真さを飾ることなく描いているくせにぜんぜんクサくなく、音のない美しいフィルムをカタカタと観ているようなうっとりとした気分になる。主人公の女の子が友だちの女の子に「あめ、たべる?」と海辺で飴を渡すシーンがあるのだがそのコマの流れはまるで時間がとまってしまったかのように美しい。ただ飴を渡すシーンをこんなに繊細に美しく描ける魚喃先生はなんて素敵な感性の持ち主なんだろう、とため息をついてしまう。

こんな感性の高い漫画家が存在する日本を私は誇りに思っている。ちなみに魚喃先生がデビューした漫画雑誌はガロである。古屋兎丸先生もガロでデビューしたし、ガロはえらい!

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