医療改革でイノベーションを通じた経済発展を(東京大学教授、林良造)


3月9日の日経「経済教室」に興味深い論文があったので、メモ。筆者は元経済産業省産業政策局長。日本の医療制度について鋭いことを言っている(ように見える)。

抜粋:
  1. 医療分野は、国民のニーズが高まっているばかりではなく、高い潜在能力を生かした経済成長のエンジンとなることが期待されている。しかし現状ではそうなっていない。どのような改革が必要とされているのか。
  2. この分野は、医師をはじめ、素材産業、半導体産業、電子産業なの技術力の高い産業を擁する日本の得意とする生産様式に適した分野でもある。しかし多くの分野で日本は立ち後れている。抗ガン剤では患者が外国で治療を受けなければならなかったケースが記憶に新しいし、ペースメーカーは一世代前の機種しか提供可能となっていないし、最新の薬剤溶出型機器の承認も遅れている。
  3. 最先端の治療機器について、米国産業規模が約7兆円に達しているに対し、日本は約2兆円に留まる。
  4. 日本に於いて、開発初期段階において、エンジニアと医師との共同作業が極めて少ない。医師が自らのイニシアティブで行うものと厳しく制限されているため。未承認の機器を使う場合の法的責任の所在があいまいであることも原因。
  5. 審査基準の透明性の欠如などもあり承認が遅い。保険制度の運用面でも、改良品も点数は同じに扱われるのでインセンティブが低い。リコールの範囲の不安定さ、民事・刑事の法的責任や社会的責任の不安定さなどから、技術力を持つ企業が参入に慎重になっている。
  6. 一方、病院の経営管理が立ち後れ利益水準が低いため先進的な機器をタイミングよく導入できない。基本的には病床の利用が収益に直結するため、早く退院できる機器・手法を導入するインセンティブが低い。
  7. まず承認制度見直しが必須だ。日本の承認制度は、規制当局に大きな裁量権を付す一方、その結果について刑事責任すら追及するシステムとなっている。このため規制当局はリスクを回避するあまり承認が遅れる。
  8. また日本の制度は医薬を中心に設計されているため、医療機器を判断できる審査員の数が絶対的に少ないことも原因。
  9. 保険制度にも問題がある。利用可能となった医薬も自動的に保険適用されないため、市場による規律が働かない。
  10. 根源的な問題は、リスクと経済的代償のアンバランス。産科や小児科の医師不足だけでなく、開業医と勤務医の間で所得格差が拡大、勤務医の減少からその負担は一層増している。医療過誤として刑事責任を追及される例が出て、そういう環境で働こうという医師がさらに減少、執務環境が一層劣化している。「医療現場の崩壊」が進行しつつある。
  11. 医師をはじめ各種資格の間の「壁」が、米国などに比べ病院の医師以外の人員が極めて少ない状況を作り出し、勤務医の勤務条件を必要以上に悪化させている。
  12. 制度の全面的見直しが喫緊の課題。医療分野の問題は、これまで制度設計に携わってきた専門家の議論だけに任せるのではなく、全体像について経済財政諮問会議の中で集中討議を行うなど、より広い観点から検討されるべきである。

もっともなことを言っているように聞こえる。やがては病気になって死ぬ身だから、自分のこととしてこの分野ちょっと勉強してみようかな〜。制度改革は、当事者だけの議論では決して進まないという点については、全面的に賛成です。

Posted: Sat - March 10, 2007 at 05:14 PM           |


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